2012年3月31日土曜日

外貨準備に占める金(ゴールド)の割合

金(ゴールド)に関するブログがやや多い気がしますが、今日は日本経済新聞2012年3月22日付夕刊に面白いデータがありましたので紹介します。データは、金の国際調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル調査のもので、世界各国の金の宝飾品としての需要を示したものです。
1位は予想通りインドです。同国の需要は567トンと2位の中国の511トンとほぼ同水準であり、3位の米国115トンを大幅に上回るという結果です。一部ではあると思いますが、インドの結婚式はど派手さで世界的に有名で、表現が良くないのですが、結婚する際に新婦側が新郎側へと金を貢ぐという風習があるようです。同時に、両国の共通点として、ここのところの経済的な発展に加え、金を投資対象と考えており、インフレに対するヘッジ手段として購入する傾向があるそうです。
残念ながら日本は21トンと世界シェアの1%にとどまっています。ここ数年では高騰した金価格を背景に、一般の方々が宝飾品を業者に売却するケースが増えており、時々ニュースの話題になるくらいです。もっとも、21トンの需要がある一方で、かなりの部分が海外へと流出しているのではないかと推測されます。日本人の行動は、いつも反対ですね。通貨が不安定化している上、やっとインフレの気配が出てきている今、金を売却しているのです。
この行動にはやや疑問が残りますが、結果として投資対象として最も安定したパフォーマンスを得たのが、利子をほとんど生まない銀行預金だったのですから無理ないことです。この円高下での売却ですのから、円安がもっとも進行した時に売却した方が利益が大きいはずです。日本人は円という自国の通貨に対する信頼が他国よりも強いのでしょう。つまり、金に対する行動は、他国に例をみないインフレを20年以上も経験したことがない経済体質に起因するものかもしれません。
 しかし、国家レベルでは、悠長に考えているわけにはいかないです。日本の外貨準備高は米ドル建ての資産がほとんどを占めています。中国に次ぐ世界第2位の外貨準備高を有しているにも関わらず、公的機関が保有する金の保有残高は、米国は別格として、ドイツ、フランス、イタリアなどの国よりも少ない。最近では中国に追い抜かれてしまいました。右図は、米国を除いた主要国の公的機関が保有している金保有残高(注)を示しています。スイスは、なるほどという印象ですが、日本の保有残高がイタリアよりも少ないということは知りませんでした。「有事の時のドル」という言葉が余り言われなくなりました。しかし、「有事の時の金」はまだまだ死語にはなっていない気がします。
(注)米国は261.5百万オンスであり、他国を圧倒しています。

2012年3月30日金曜日

リスク回避な家計と合成の誤謬

 金融商品には色々なものがあります。代表的なのが銀行預金です。銀行預金は余りにも身近すぎて、金融商品の一つであるという認識で保有している人が少ない気がします。しかし、銀行預金は立派な金融商品であり、そして家計の金融資産の6割近くを占めるのが銀行預金です。日本銀行調査統計局『資金循環統計』はそのことを端的に示しています。この他、比較的安定しており、将来に対する備えという性格が強い保険・年金準備金が3割弱で、現金・預金と年金・年金準備金を合わせて、家計の金融資産の85%もの割合がリスクの小さい金融商品へと投じられていることになります。債券、投資信託、債券の割合は合計で11%であり、わが国の家計は、リスク・アバーター(risk averter、危険回避者)であるといえます。ここでリスクが小さいと表現したのは、銀行預金でも、一昨年初めてペイオフが実施されたからです。1,000万円以上の預金保有者は、預金保険機構により保護の対象であり、少なからずリスクがあるのです。
 一方で、価格変動などのリスクがある商品として代表的なのが投資信託、株式などです。投資を少しでも考えたことのある人ならば、これらの商品がまず思い浮かび上がるでしょう。一方で、日本の場合、国債など債券を持っている人の割合は、少ないような気がします。私の周りにいないだけで、本当はかなりの方々が保有しているかもしれません。上のデータからは、株式が6%、投資信託3%に対して債券が2%となっており、リスク商品を保有している人は少なからず債券を保有している可能性があります。これは意外でした。しかし、現金・預金の一部、例えば5%に当たる40兆円の資金が株式などに投じられれば、株式が活況を呈すると思います。やはり、金融資産の保有者の大半が、比較的年齢が高い層に集中しており、リスクをとってまで運用をとる必要がないことから、このような状態になっていると考えられます。
 右図は、家計が保有する金融資産の項目別の前年比伸び率を示しています。現金・預金の伸び率は、ここ10年では高くて2011年の2.1%増で、マイナスであった年も2回ほどあります。名目所得に減少傾向がある中、家計は消費支出を抑えることで、ここ数年の現金・預金の伸びを維持してきたといえます。もっとも、リスク回避を望む家計として最適と思われる、この消費・貯蓄のバランスは、決して貯蓄を一意的に増加させるわけではありません。家計が過剰に貯蓄することで、消費性向が低下、それが所得の減少へと結びつき、最終的に貯蓄の減少(又は伸び率の低下)を招くという結果をもたらします。つまり「合成の誤謬」です。お金は使って初めて価値を持ちます。日本の家計は、少しは刹那的になって消費活動に邁進するのもいいのではないかと思っています。また、上図は、もう一つの重要なことを教えてくれます。家計の金融資産が大きく増加し、逆に大きく減少した年は、金融資産全体の伸びが大きく変動していることです。つまり、株式、投資信託などのリスクが比較的高い金融資産の価格が上昇すれば、家計が保有する金融資産は確実に増加することを意味しています。もう少しリスクテイクをしてもいいのではないでしょうか。
 米国では、リーマンショック以降、一時期失業率が10%を超えるまで経済は悪化しました。期近では失業率は8.3%にまで低下、NY連銀は2013年の上半期には失業率は6%台まで低下するレポートを発表しています。米国の人々は、我々日本人と比べて楽観的なところがあるような気がします。昨年、話題となった学生ローンに苦しむ若年層の雇用問題、低所得者の問題、医療問題など米国の家計を取り巻く環境は決して楽ではありません。しかし、株価は着実に上昇しており、市場関係者にやや楽観的な見方が広がっているようです。日本もこのような流れになれば、経済は確実に回復するのです。
 また、家計が頑張った結果、増加した預金も決して適切に運用されているわけではありません。預けられた預金を運用する銀行サイドも、貸出需要がない中で、国債市場でしか投資する対象がなく、1%前後で10年物国債の利回りが推移する空前の超低金利を状況を生み出しています。結果として、家計の第2の金融資産である保険・年金準備金の運用環境を悪化させています。ここにも「合成の誤謬」があるといえるでしょう。

2012年3月29日木曜日

一票の格差

私は、一票の格差についてやや無頓着なところがありました。2012年3月1日付日本経済新聞朝刊に、野田首相、自民党党首の谷垣総裁、公明党の山口代表との3者討論で、まず「一票の格差」是正を優先すべきと表明した旨の記事が掲載された。そこで、ここのとろこ「一票の格差」に注意し、ニュース番組を観ていました。私は、一票の格差は衆議院で3倍、参議院で5倍が目安であると認識していましたが、実は、2011年3月23日付けの最高裁判決で、一票の格差が2.3倍であった2009年(平成21年)の衆議院選挙は違憲であるとされていたことを初めてニュース番組で知りました。
 この判決により、格差が3倍であったものが、2倍へと変更を強いられることとなり、国会では「0増5減」案などが提案されるとともに、国会議員の給与削減なども活発に議論されているようです。しかし、私には根本的な疑問があります。何故2倍超や3倍以上が違憲であり、2倍ならば合憲なのかさっぱりわからないことです。現時点で、決して詳しく判決文を読んでいるわけではありませんが、これらの数字の差において合理的、かつ普遍的な説明ができているのかどうか、時間があれば判決文を読んで確認してみたいところです。私に言わせば、2倍としても、3倍としても、憲法14条で定められた「法の下の平等」に反しており、違憲ではないかということです。つまり、国勢調査の結果に合わせる形で、国民ひとりひとりの一票に価値に格差が生じないという状態、つまり一票の格差は1に極力近づけなれば、よっぱどな詭弁を使わない限りは、合理的な説明はできないと考えています。
そこで、一票の格差の実態について調べてみました。右表が、総務省のホームページに掲載されていた、平成22年(2010年)の国勢調査(速報)に基づく、一票の格差を都道府県別に表したものです。縦長の表で読みにくいのですが、せっかく調べたデータですので、そのまま掲載させていただきます。この調査は、衆議院小選挙区、比例代表区に加え、参議院についても詳細に調べています。データ量が膨大になることから、衆議院の小選挙区における議員一人当たりの人口数に絞って話を進めます。調査の結果、人口が最も少ないのが高知県で254,865人であるのに対して、最も多いのが東京都の526,470人であり、その格差は2.066倍となっています。衆議院選の小選挙区に限っても、違憲状態にあるということです。これにどういう方法かわかりませんが、比例代表区の議員数を含めたものが、大体2.3倍になっているのでしょう。
私は、この2倍という数字は、「法の下の平等」という視点では全くもって違憲であると考えています。しかし、それならば、今の制度のもと、単純に1倍にすればいいのかといえば、決してそうではありません。そんなことをすれば、地方と東京都の格差がどんどんと大きくなり、東京都の一人勝ちになってしまいます。安全保障、地域経済の活性化、国土の有効利用などを考慮すれば、東京都への一極集中は望ましくありません。つまり、現行の人口比に応じて議員数を配分する衆議院、参議院という制度そのものに違和感を感じているということです。米国連邦議会の上下院のように、一方は人口比に応じてストレートに議員数を配分し、もう一方は県など行政単位に2人という一定数は配分するという、議会制度に変更した方がいいのではないかと考えているのです。
ここで、米国の選挙制度について簡単に説明した文献がありましたので、その一部を引用します。引用元は、日経文庫の『アメリカを知る』(注)です。以下引用文。
『東部の大都会から西部や南部へという人口の移動は政治的にも一定の影響を及ぼします。米国では一票の格差をなくすために、人口を調べる国勢調査に合わせて大統領選での選挙人数や下院議員の数を頻繁に調整するからです。
たとえば、1980年の大統領選の際には、南部のテキサス州の選挙人数は26でしたが、2004、08年の大統領選では34人に増えました。一方、車の町デトロイトがあるミシガン州では選挙人数が21から17に減りました』
これですと、東部の大都会が衰退し、南部や西部が潤うこととなります。しかし、米国には、下院よりも権限の大きい上院があります。人口比に左右されない米国における上院の存在こそが、今のわが国に求められる議会制度ではないでしょうか。
(出所)実哲也『アメリカを知る』pp186-187、日本経済新聞社、2009年。

2012年3月28日水曜日

VIXとは何

VIX指数とは何であろうか。これは「ボラティリティー・インデックス」の略であり、別名「恐怖指数」とも言われている。元々は、米国株、特にS&P500を対象としたボラティリティーをもとに算出された指数が、先物指数やオプションなどに取り入れられる形で注目されるようになり、2011年では、この指数に連動する先物の取引は3,000億ドルに達し、5年間で50倍に拡大したようです(注1)。ここで、ボラティリティーとは、いったい何かということが疑問が残ります。私が知っている限りでは、ボラティリティーとは分散のことです。分散とは、平均値からの乖離を2乗したものを合計した結果をデータ数で割ったものです。データをx、その平均値をx_、データ数をnとすると、分散は以下の数式にて求めることができます。
しかし、株式の分散を求める場合はどうなるでしょうか。データそのものは、変化率であることから、((今日の株価)-(前日の株価))/(前日の株価)となり、平均値を求めるにあたってはやっかいなマイナスという値が発生します。ここからは勉強不足ですので間違っていたらごめんなさい。S2を分散とし、P(n)n時点の株価、対象期間をtとすると、株価の分散を算出するに当たっては、以下の式が想定されます。
ウェブを読んでいると、マイナスが出ると平均値がよくない結果になることから、対数などを使用しているようです。それでは、VIX指数とNYダウ平均の月間変動率(注2)を比較してみます。右図は、VIX指数と私が定義したダウ平均の月間平均率の推移を示したものです。見事に一致していることがわかります。日経新聞に掲載されているグラフはやや疑問が残ります。VIXはそもそも分散が大きいことを示しているという指数です。この分散の値が小さいからといって、日経平均が上昇するという根拠へと結びつけるのはいかがかという印象が受けました。今回の話題に関しては、私の勉強不足が否めません。株式のボラティリティーに関する正確な算出方法を、専門書から取得、それを踏まえた上で、今後詳細なデータを紹介できればと思っています。とりあえず、YahooFinance(米国のサイト)のホームページでTickerの欄に"^VIX"で入力すれば、簡単にVIX指数のデータを入手することができます。30ポイントを超えれば、市場が恐怖に怯え、結果として株価は下落するそうです。現在、VIX指数はその30ポイントを大きく下回り、15ポイント前後で推移しています。株価が上昇する経済にとってプラスですので、歓迎すべき状況でしょう。
(注1)2012年3月25日付日本経済新聞朝刊『市場の心理学』。
(注2)ここでは、株式の分散の計算の方法が分からなかったため、月間変動率=((当該月の高値)-(当該月の安値))/(当該月の終値)とする。

2012年3月27日火曜日

各国のイールドカーブ

日本、米国、欧州など先進諸国のイールドカーブは、大幅な金融緩和をしていることから、単純な動きをしています。つまり、短期金利がゼロを少しばかり上回る水準でほぼ固定されている中で、その時々のデフォルトリスクの程度やインフレ懸念の程度により長期金利が上げ下げを繰り返しているのです。南欧諸国のデフォルトリスクが高まれば、米国やドイツの国債が買われ、長期金利が低下する一方で、インフレ懸念が発生すれば長期金利が上昇するというパターンを繰り返しているのが、リーマンショック以降の日・米・欧のイールドカーブといえます。
 右図は、それを示したイメージ図です。を市場の期待心理が安定している時のイールドカーブとします。ここで、南欧諸国のデフォルトリスクが高まれば、米国やドイツなどの国債が買われ、両国のイールドカーブはの状態になります。一方、過度な金融緩和により商品相場が上昇し、市場にインフレ懸念が発生すれば、イールドカーブはの状態になります。短期金利がゼロ金利に極めて近い水準で固定されているのですから、イールドカーブは、(もしくは)又は(もしくは)と狭いレンジで変化しているといえます。事実、昨年の12月から今年の1月にかけて、欧州債務危機が深刻化した結果、米国の国債が買われ、米国のイールドカーブは、の状態になりました。その後、今年の3月に入ってからは、原油価格の上昇を背景にインフレ懸念が発生し、米国のイールドカープはの状態になりました。2014年まで米国は超低金利政策を維持します。しばらくは上記のようなイールドカーブが繰り返されることが予想されます。
 面白いのがオーストラリアのイールドカーブです。オーストラリアの政策金利は、先進国の先行指標であるといわれます。しかし、リーマンショック以降は、そのような状態になっていないようです。資源価格や豪ドルの上げ下げに応じて、短期金利が変動し、その影響を受け、長期金利が変動することで、同国ではより複雑な動きをするイールドカーブが形成しています。
 右図は、ここ半年くらいのオーストラリアのイールドカーブの変動をイメージしたものです。まず、同国のイールドカーブがもともとの状態にあったとします。ここで、景気失速懸念を背景に、政策金利が引き下げられたとします。その結果、長期金利が下がらない中で、短期金利だけが低下することになり、イールドカーブはややステープなの状態になります。ここで、長期金利が低下しない理由としては、同国の潜在成長率が他国と比べてそもそも高いこと、経常収支の赤字国で、もともとインフレ傾向にあり、実質金利は十分低いことなどの要因が挙げられます。もっとも、資源高を背景に、インフレが発生した場合、長期金利が上昇する一方で、長期金利高に起因する自国通貨高を回避するため、政策金利の引き下げが行われることになります。オーストラリアの政策金利はピークから2度引き下げられています。この結果、イールドカーブはよりスティープなの状態になっているのです。
 このイールドカーブが事実なのかデータで裏付ける必要があります。まず、短期金利です。豪ドル建てのMMFの利回りは、昨年末の4%強の水準から期近では3.8%程度まで低下しています。次に長期金利です。私はたまたま某証券会社が提供する欧州復興開発銀行の豪ドル建ての割引債のデータをメモっていました。残存期間は16年で、2011年12月7日時点の利回りは5.83%、額面100豪ドルに対して価格は39.47豪ドルでした。同じ債券が、2012年3月26日時点では利回りが6.21%に上昇し、価格は37.88豪ドルまで下落しています。この間、欧州復興開発銀行の格付けはトリプルAで変化なく、残存期間は短くなっているにもかかわらず利回りは逆に上昇しているのです。つまり、短期金利が低下する一方で、一時的かもしれませんが、逆に長期金利が上昇するという事態が発生しているのです。
 オーストラリアの金利の動きを追っていると勉強になります。インフレや自国通貨の変動に応じた機動的な政策金利の上げ下げは、かつては欧米諸国や日本にもあったことです。しかし、金融危機を背景に、ほとんどの先進諸国が金融部門で動脈硬化(注)を起こしています。危機が解決し、金融市場が正常に機能し始めれば、もとの姿へと戻るでしょう。やはり、日本の金利水準は特殊ですね。20年以上も事実上ゼロ金利政策が維持されている国などほかにないです。
(注)金融は経済の血管とも血液とも例えられます。そうした例えから動脈硬化という言葉を使用しました。

2012年3月26日月曜日

日本の森林資源

私は、登山やちょっとした山の中をトレッキングする趣味があります。毎年、鳥取県にある大山(だいせん)には4〜5回程度、特に11月、12月頃、すこしばかり雪が積もった時期を選んで登山をしています。また、岡山県の県北にある岡山県立森林公園は、多い年では10回程度行き、10km以上もある公園の外周を一周し、いい汗をかいています。山中を歩いて、四季折々の季節感を満喫できる上、生活の拠点から車で少し行ったところに豊かな自然があるのだなぁ、とつくづくと感じる次第です。落ち葉を踏みしめると、擦れ合う心地よい音が、周囲に鳴り響き、幸せを感じる一瞬です。
そこで、今日は、日本の自然、特に森林資源について書かせていただきます。私が日本の森林資源を考えるに当たってすぐ頭に浮かぶデータは、国土の面積が37万k㎡で、そのうち60%以上もの割合が森林に覆われていることです。他国と比べて、豊かであるという印象を持っています。
しかし、日本だけで感じることを述べるのではだめですので、各国との比較でどうなのかを表してみます。データから日本の国土の6割以上が森林によって占められていることが確かめられました。右表は、私が独断で選んだ主要国での森林資源を示しています。6割を超えているのは、ブラジル、韓国、コンゴ民主共和国などがあります。もっとも、これをもって日本の国土は、森林資産に恵まれていると語っていいのでしょうか。ここで、一人当たりの森林面積を算出してみました。単位が大きくてやや理解しにくい数値ですが、わが国の一人当たりの森林面積は、0.19haと決して大きくないことが表からも読み取ることができます。イギリス、ドイツなどの先進国と比べて見劣りはないものの、広大な国土を有しているロシア、アメリカ、カナダから比べてかなり低い水準にとどまっていることがわかります。
この表で意外だと思ったのは、最も乾燥した大陸と称されるオーストラリアの森林面積が広く、国土に占める割合が2割弱と結構高いということです。オーストラリアは、鉱物資源などに恵まれ、牧草地が広がっているというイメージでしたが、森林資源にも恵まれていることが分かりました。
わが国の森林資源は人口比で考えた場合、決して豊かではないということがわかりました。しかし、国土が狭いことが幸いしており、他国とは比べて、森林資源の利用に際しては、輸送コスト及び輸送に伴う膨大なエネルギー消費は小さいものと考えられます。もっとも、急峻な地形に隙間なく植えられている杉や檜などの針葉樹林を適切に管理するには、人材不足は否めない状態になっているのがわが国の現状です。
ここで提案があります。それは、針葉樹林から広葉樹林への転換です。利便性が高く、管理可能な地域には引き続き針葉樹林を維持する一方で、人材確保が困難な地域には、広葉樹林へと植え替えていくということです。広葉樹林への植え替えには、様々なメリットがあります。例えば、治水能力が針葉樹林より高いこと、漁場を豊かにすることなどがあります。この植え替え作業に、恩恵を受けるであろう都市生活者から税金を徴収、国や地方自治体を通じて作業従事者に資金援助するということも可能ではないでしょうか。
昨年、紀伊半島を襲った集中豪雨には驚きました。林業がまだ衰退していないと思われる同地域でも、近年の気候変動には耐えられなくなってきています。人口比では決して豊かとはいえない貴重な資源を有効に活用する手段の一つとして、針葉樹林の広葉樹林への植え替えがあると私は思っています。

2012年3月25日日曜日

オーストラリア経済の近況

オーストラリアといって、今すぐに思い出すのが映画「オーストラリア」です。この映画は、いつまでも魅力的なニコール・キッドマンとヒュー・ジャックマンというオーストラリアをルーツとする俳優が主演を演じる大河ドラマです。この中で、オーストラリア本土を爆撃したというシーンがあり、第二次世界大戦中に日本が行った行為が同国に与えた影響がいかに大きかったかを知らしめるものでした。戦後、わが国が、奇跡の復活を遂げるとともに、平和国家を築き上げ、世界の中でも一切の戦争行為をしていない数少ないの国の一つであることに誇りを持っています。そして、経済的な相互依存の関係が一層強化され、オーストラリアとの友好関係がより深いものとなることを切に希望します。
 ここからは、経済に話を戻します。オーストラリアの経済といえば、鉄鉱石、石炭、ウランなど鉱物資源に恵まれるとともに、広い国土を利用した牧畜、農業など産業が活発であり、資源国であるという印象が強い。もっとも、資源国であることで輸出が輸入を超過、貿易黒字の国ではないかと最近まで思っていました。しかし、実際は異なり、工業製品をもっぱら輸入に頼っていることから慢性的に経常収支は赤字となっています。一方で、財政は黒字であるという認識でしたが、2009年以降赤字を続けています。
 オーストラリア政府は、膨大な財政赤字に対して懸念を抱き、財政赤字解消に向けた税制改革案を浮上しているようです。2012年3月20日付日本経済新聞朝刊にオーストラリア政府による税制改革に関する記事(注)が掲載されていました。大まかな内容は、今回実施する税制改革は、外国企業を標的にしたものとされ、駐在員への住宅費や食費の補助金を非課税の対象から外すとするもので、影響を受ける駐在員は7万7千人にも上るとされています。豪ドルが、金利高に引っ張られた形で高止まり傾向がある中で、これは外国企業の負担増を意味しており、技能労働者の不足がさらに深刻化する懸念が出ているそうです。
 上図は、2001年の同国の財政・経常収支の推移を示したものです。図から経常収支の赤字はやや縮小傾向にありますが、財政赤字は深刻化していることがわかります。もっとも、名目GDPに対する財政赤字の比率は4%程度と日本、米国、欧州各国と比べて低い水準にとどまっています。しかし、経常収支が恒常的に赤字であることとから、常に海外からの赤字ファイナンスを必要としています。結果として、同国にはインフレ傾向があり、11年の消費者物価指数は3.4%と高止まりしていることからも、期近の原油高などを背景に難しい政策運営が求められます。
因に、同国は政策金利はここのところ2度引き下げられています。右図はそれを示したものです。これを反映して、豪ドル建てのMMFの利回りも4%台前半から3%台後半へと低下しています。同国準備銀行は、通貨高による輸出企業の減収を回避しつつ、資源高による国内インフレ率の上昇という、2つの相容れない問題に対処する必要があり、他の先進国にない機動的な政策金利の上げ下げをしている姿があります。同国の政策金利は、世界経済の先行指数とも言われます。昨今の原油、穀物など資源高を背景に、2009年の3%までの引き下げはないと思っています。
(注)記事の題目は、『豪税制改革、外資が標的』。

2012年3月24日土曜日

キャノンか、ニコンか

私の趣味の一つに写真撮影があります。その時、常に考えるのが、キャノンか、ニコンかという選択肢です。しかし、ここへきて、レンズ交換型デジタルカメラのシェアに大きな変動があり、キャノン、ニコンがともにシェアを落とす一方で、ソニーなどがシェアをアップさせています。この背景には、レンズ交換型デジタルカメラの中でも、軽量かつ安価なミラーレスのタイプが人気を博し、そのカテゴリーへの進出が遅れたキャノン、ニコンがともにシェアを落とすという構図がみえてきます。
 右図は、2012年1月20日付日本経済新聞朝刊に掲載されたレンズ交換型デジタルカメラのシェアを示したものです。前年と比べて、キャノンが2.3%、ニコンが5.5%もシェアが低下、それに対してソニーが1.8%、その他が6.0%もシェアがアップしています。これは、上述した通り、ソニー、オリンパス、パナソニックがそれぞれミラーレスのカメラを先行発売した結果でする。これに追随する形で2011年10月にようやくニコンがNikon1J1、Nikon1V1というミラーレスの2つの製品を投入、シェア奪還に向けて動いてきました。一方、ミラーレスカメラに対するキャノンの動きは遅く、レンズ交換をしないタイプのコンパクトデジタルカメラとミラーレスのカメラの中間みたいな存在である、コンデジではなり得ない大きさの1.5型の画素サイズを搭載したコンパクトカメラの発売を予定しています。
キャノンは、ミラーレスで先行する4社とは違う方向性を見いだそうとしているのではないでしょうか。ミラーレスを発売している企業は、ある意味、自らが持っている既存のカメラ市場を浸食するかもしれない製品を提供しています。一方、キャノンは既に高いシェアを持っている主力のカメラのシェアとバッティングしないカテゴリーで勝負しようとしています。デジルタカメラ市場は、最終消費材の中で唯一高い世界シェアを維持している分野です。日本でのシェア=世界シェアとなっている競争力の高い企業ばかりが存在しているのが特徴です。
 ここからは、キャノン、ニコンに着目して話を進めます。両社はともにカメラメーカーという印象が強いというのが一般的な見方です。しかし、両社ともにカメラばかりを生産しているわけではありません。カメラ事業からすでに脱皮し、それぞれが別の方向へと向かっているの実情です。2012年新春号『日経会社情報』によれば、キャノンのセグメント別の売上高はオフィス53%、コンシューマー37%、産業機械9%であるのに対して、ニコンは精密機器24%、映像67%、インストルメンツ6%となっています。インストルメンツとは、半導体製造装置のことで、これはレンズの生産技術を生かしたもので、この分野でも、わが国は競争力を維持していると思われます。つまり、両社はカメラーメーカーではないのです。そして両社が違う方向性で事業展開しているのが特徴であるといえます。しかし、両社を比べた時、もっとも違うと感じるのは、その事業規模です。カメラのシェアが均衡している両社ですが、連結決算での売上高、営業利益、純利益の間で3〜5倍以上も大きな開きがあります。これは、キャノンが良くて、ニコンが悪いという意味ではありません。両社は、同じ土俵から成長した企業ですが、ともに大きくなるにつれて事業展開を拡大し、依然として競争力を維持している数少なくなってきている日本企業の代表格であるといえるでしょう。そして、国際的にも評価が高い結果、外国人株式の保有比率は、キャノンが40.2%、ニコンが29.6%といずれも高い点で共通しています。
しかし、リーマンショック以降、代表的な日本企業の多くが赤字決算を出す中で、キャノンという会社の凄さというものを痛感しています。トヨタ自動車を筆頭に、パナソニック、ソニーなどの内外に知られる企業が軒並み赤字決算が出ている中、利益を出し続けているのがキャノンです。確かに、ここへきてのユーロ高はキャノンにとってかなりのマイナスであったことは間違いありません。しかし、2011年12月の決算でも2,486億円もの純利益を出しています。ニコンも凄い会社だと思うのですが、2010年3月期決算で126億円の赤字を出しています。キャノンの持っている特許の価値(特許数ではなく特許そのものが持っている市場価値)は、IBMに次ぐ世界2位だそうです。円相場がやや軟化している中、2012年は、キャノンの底力が発揮されるのではないかと期待しているところです。

2012年3月23日金曜日

流動性ジレンマと金(ゴールド)

国際経済を考えるに当たって、常に問題となるのが「流動性ジレンマ」です。第2次世界大戦後、世界経済が復興を遂げるには流動性の確保が必要となったはずです。しかし、英国経済の疲弊に伴って、英ポンドの信認も低下、国際通貨としての地位は、米ドルへと移行せざるを得なかったのでしょう。その中で、著名な経済学者であるケインズが、IMF(国際通貨基金)の設立に向けて米国主導のものではなく、金などの30種類の基礎材をもとに算出される国際通貨、バンコールを発行する国際金融システムづくりに奔走したのは有名な話です。
当時、米国経済は、不足していた製品を供給できる工業国であったものの、物資を必要としたヨーロッパの国々から輸出代金を受け取ろうにも、ヨーロッパにある主要国は流動性不足の状態であったことが推測されます。結果として、輸出ができない状態となりますが、そこに米国により大規模な援助(流動性の供給)、復興援助計画マーシャル・プランが実施され、欧州経済の復興の礎となったといえます。「流動性のジレンマ」とは、国際経済の中で基軸通貨となる国が、国際的にも競争力を有していると、貿易黒字となり流動性供給が不十分となる。逆に、基軸通貨の国の経済力の低下に伴って競争力低下し始めると、貿易赤字を通じて国際経済への流動性供給は十分に供給される反面、基軸通貨国の信認の低下へと結びつき、結果として流動性は不安定化することを示しています。
米国は、金1オンス=35米ドルに固定し、米ドルに対して各国は固定相場を維持する体制を作り上げました。これをブレトン・ウッズ協定に基づく戦後体制で、この固定相場のもと、日本やドイツが奇跡の復興を遂げました。しかし、米国の国際競争力が低下し、同国からの金の流出が止まらなくなり、1971年のニクソン・ショックにより金・ドルの交換が停止されました。その後は、変動相場制へと移行、米ドルが大幅に減価していく時代が到来しました。現在は、1ドル=80円強の水準ですが、ニクソンショック前は1ドル=360円だったのですから、下落率は実に80%近くになります。そして、リーマンショック以降は、巨額の財政赤字を抱えた米国経済はさらに信認を低下させる一方、ユーロの創設、中国の台頭などにより新たな国際通貨のづくりが求められるというのが、昨今の通貨問題です。一時、ユーロを外貨準備高に加えるなどの動きがあったものの、ユーロ債務危機を端を発し、ユーロの信認は低下、ユーロの大幅な減価へとつながっています。こうした中で、中国人民元のプレゼンスは増しているものの、中国経済は常に輸出超過であり、国際経済に安定して流動性を供給するには、力不足であるだけでなく、管理され、得体の知れない通貨に世界経済が過度に依存することは危険です。つまり、現在、国際経済は、安定した通貨が不在の状態にあるといえ、それを背景には流動性の問題が声高く叫ばれているのです。
このような状況下で、クローズアップされているのが、金(ゴールド)です。最近では、金本位制への復活を提唱する意見もあり、安定した通貨となりうるのではないかいう点で、金が脚光を浴びています。しかし、私は、金は国際通貨にはなり得ないと考えています。ドルが減価したからといっても米国は、いまだに他国の追随を許さない経済規模を有しています。日本の3倍近くの経済規模です。人口も引き続き増加しており、数年中には中国よりも人口構成で若くなるのではないかと予想されています。人口が停滞し、活気を失っている日本やヨーロッパなどと違い、米国経済は依然として躍進を続けているのです。そして、米ドルの減価が著しいものの、国際経済には米ドルという豊富な流動性に満たされており、昨今の新興国の経済発展をもたらしました一因でもあります。
米ドルに米国経済という問題が常につきまとっているように、金にも特有の問題があります。一つは、金の産出量、埋蔵量の偏りです。現在、1オンス1,600〜1,700ドル程度で推移していますが、国際通貨として信認されたのならば、各国はこぞって金の保有を進めます。結果として、ドルの暴落、そして金の暴騰をもたらすこととなります。この時、富める国も、貧しき国も同様に金を保有しているのならば問題はないです。また、日本国内でもそうです。金を持っている世帯などごく一部です。そして、金の暴騰は、既に大量の金を保有している国や金を持っている世帯など一部の国、人々に富をもたらす一方で、持たざる国や人々は自分の持っている少額の資産がみるみるうちに減価していくことを意味しているのです。公平性の観点かから金の国際通貨への採用は望ましくないと思います。
もう一つの問題は、ドルと金を比べた場合、金の方が価格変動リスクが大きいということです。1ドル=360円で80%の減価したのに対して、1オンス=35ドルであったものが、現在では1,600ドルにまで高騰、40倍を超える水準にまでなっています。右図は、2004年からの金価格と円ドル相場の推移を示しています。ここ10年くらいをみても、2007年6月の1米ドル=123円のピークに30%強の減価にとどまってるのに対して、金は2004年5月の1オンス=384ドルの底から4倍以上にもなっています。米ドルが金と同様の変動幅で動いた場合、つまり4倍の逆数である75%の減価となった場合、1米ドル=30円の水準にまでなっています。無機質な金と違って、実際の米ドルがここまで変動しないのは、米国には生活をしている人々がおり、彼らが生活を営むにあたって米ドルは不可欠な存在だからです。確かに通貨の機能のうち、価値保蔵の機能はやや毀損していますが、価値尺度、交換手段という機能は正常に立派に作動しているのです。そもそも「お金」とは、物を購入する手段として発展したのであって、価値保蔵の機能は補完的なものです。ドルの減価は、ドルを十分持っていて、保有している外貨の価値が毀損しているからこそ発生している、持っているものからみた視点だと考えています。世界の富に偏在があるのならば、それに課税する米ドルの減価はむしろ歓迎すべきことかもしれません。

2012年3月22日木曜日

数字より厳しい若者の雇用環境

 世界的に共通していますが若年層の失業率の高さが問題になっています319日のNHKのニュースで若年層の雇用問題が数字以上に厳しいとい実態が内閣府発表の推計により明らかになったことが報道されましたこの報道によればおととしの春に学校を卒業した人の大学生専門学校で52%が高校で68%就職できなかったり、早期に仕事をやめたりしたことが判明しました若者の雇用環境が深刻な状況に陥っていることが分かり、これを受けて、政府も早々に雇用対策を打ち出しています。対策の大まかな内容は、大学を中退した人も含め、就職できなかった人の就職支援の強化、大企業への就職志向の高い学生と採用意欲の高い中小企業のミスマッチの解消、非正規雇用の若年層が正規社員へと移れるための支援強化などです。
 内閣府の発表を待たずにして、世間一般にも若年層の雇用状況の厳しさは知られており、実態を追認したに過ぎないと思います。右図は、総務省統計局発表の年齢階級別の完全失業率を示したものです。総数の完全失業率は4.6%と、前年同月と比べて0.3ポイント改善しています。わが国の経済にも回復傾向がみえており、それを反映した結果だといえます。象徴的なのは、15〜24歳の完全失業率です。同年齢階級の失業率は9.5%と、ほかの年齢階級と比べて突出して高いことがまず目に入ります。加えて、55〜64歳の年齢階級と同様に前年同月と比べて悪化しているものの、55〜64歳が0.1ポイントの上昇にとどまっているのに対して、15〜24歳では0.9ポイントの上昇と悪化の度合いが全く違うことが分かります。
 日本の雇用統計は、事実の断片を表しているに過ぎないという指摘もあり、米国の雇用統計の方がよりシビアに失業者数をカウントしているという見解もあります。特に、長期雇用、終身雇用を基本とし、既得権のある正規労働者を保護、その枠からいったん外れると、厳しいのがわが国の雇用システムです。雇用の流動化の必要性が叫ばれているものの、全てのつけが非正規雇用者や新卒者に回されているのが事実でしょう。
 一方、中高年層に対しては手厚い雇用支援が行われています。具体的には、①65歳までの定年の引き上げ、場合によっては70歳までの雇用を続けた企業への奨励金や助成金の提供、②中高年層の再就職の支援や募集・採用時の年齢制限の廃止、②シルバー人材センター事業を推進し、高齢者の多様な就職・社会参加の促進などを唱っています。しかし、このような対策で恩恵を受けるのは、55〜64歳以上の人々であって、未来の日本を担う若者が恩恵を受けることはまずないでしょう。高齢者の雇用が促進された結果、逆に若者の就職が阻害された可能性も十分にあります。年金に関しても、高齢者に優しく、若者に厳しくです。差別用語かもしれませんが、問題の本質は「老害」です。この社会状況が容認され続けているからこそ、バブル崩壊以降の閉塞感から抜け出すことができない日本があるのです。

2012年3月21日水曜日

日本の株価の今後の見通し

日経平均株価がついに1万円という当面の目標を突破しました。ここへきてのユーロ相場の持ち直しにより、欧州に対する売上比率の高い企業の株価の回復が顕著になっており、2012年3月19日付日本経済新聞夕刊にもその旨記載がありました。
 同紙にリストアップされた企業には、マキタ(1月16日からの上昇率43%)、ソニー(同40%)、コニカミノルタ(38%)、リコー(同35%)、京セラ(同25%)、キャノン(同20%)など日本を代表する企業であり、今後の業績回復が期待されています。翌日の2012年3月20日付日本経済新聞朝刊にも、証券会社の株価予想が、相次いで引き上げらていることが記述されていました。同紙による証券各社予想の日経平均株価の引き上げは、SMBC日興、USBが11,000円→12,000円、大和証券キャピタル・マーケッツが10,750円→11,500円、BNPパリバが10,000円→11,000円としています。来期の主要企業の営業利益が35%増から43%増と好業績となることが、この背景にあります。来期は是非期待したいところです。1月のニューヨークダウも3日の始値12,221.19ドルから31日の終値12632.91ドルとなり、結果として1ヵ月間で400ドル超の上昇、その後も上昇を続けています。
ところで、株価指数にはそれぞれに特徴があり、指数によっては株式相場全体を反映していないケースがあります。特徴的なのが、日経平均株価とTOPIXです。いわゆる日経平均株価は、東証一部に上場しており、取引が活発で流動性の高い225銘柄を選定し、特定の算出に基づき平均値を出したものです。日経平均株価に連動したETFも上場されていたり、株価の底上げを目的とした日本銀行の購入の対象にもなっていることから、市場全体から比較してやや高めに推移する傾向があります。一方、TOPIX(東証株価指数)は、時価総額の合計を集計したもの指数化したもので、日経平均株価よりも株式市場全体の水準を捉えた指数であるといえます。両者の動きはともに重要な要素を含んでいることから、「日経平均株価÷TOPIX」というNT倍率といった見方もあるようです。
 また、米国の代表的な株価指数であるNYダウ、NASDAQ、S&P500には特徴があります。特に、NYダウには、シスコシステム、インテル、マイクロソフトなどのNASDAQにのみ上昇している銘柄が含まれていることです。もっとも、最近話題になっているIT4強であるアップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの有力企業が含まれていません。上図は、日経平均株価、TOPIX、NYダウ、NASDAQ、S&P500を推移を示しています。2005年1月を100として指数化したものです。驚きは、上記5つの指数が全て、リーマンショック後にほぼ同程度まで下落したことです。もっとも、その後の回復力は全く違うものとなっています。IT4強が含まれているNASDAQは、同期間で1.5倍にもなっていることが分かります。

2012年3月20日火曜日

気になる米金融機関の業況

ストレステストというば、最近では原子力発電所の再稼働に向けたストレステストの結果が気になるところです。国民の信頼が得られていない状況で、原子力安全委員や電力会社が関わっているストレステストの結果に意味があるかどうか甚だ疑問です。もっとも、ストレステストで、よく知られるのが金融機関に対するものです。金融機関に対するストレステストとは、市場変動に伴って、自己資本比率がどの程度毀損するかをシミュレーションするもので、かなり前から実施されており、金融機関の安全性を確認する上での定着した手法です。
 金融機関に対するストレスとは、具体的には「経済成長率がマイナス5%」「通貨相場が10%上昇」「国債価格が30%下落」など検査対象の金融機関にとって不利な仮定を設定し、自己資本比率などがどの程度低下するかを測るものです。今般、FRBが主要米金融機関に対するストレステストの結果を発表しました。日本と同様、米国の金融機関も統廃合が進み、10年前に存在していた金融機関が、その名をとどめたまま生き残っているケースは少ないようです。しかし、シティー、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックスなどなじみ深い銀行名も残っています。上図は、主要な米金融機関に対して行ったストレステストの結果を示したものです。レポートによれば、Tier1比率を対象としていますが、Tier-1比率とは何かという疑問があります。三菱フィナンシャルUFJのホームページに、Tier-1比率の用語解説がありましたので、そのまま引用します。
『(Tier1比率とは)自己資本比率規制における自己資本は、資本金、剰余金等により構成される基本的項目(Tier1)、及び、含み益、劣後負債等により構成される補完的項目(Tier2)から、控除項目を差し引いたものを指します。Tier1比率とは、この基本的項目(Tier1)を分子として自己資本比率を計算したものであり、補完的項目(Tier2)等を含む自己資本比率に比べ、財務内容の健全性をより表した指標と言えます。
 ストレステストの結果で注目できるのは、以下の3つの金融機関です。
  • American Express Company
  • The Bank of New York Mellon Corporation
  • State Street Corporation
 上記は、いずれも特徴のある業務に特化した金融機関であるといえます。アメリカン・エクスプレスは言わずも知れたカード会社です。Mellon Bankはかつてスーパーリージョンなる銀行として名をはせた銀行であり、買収に次ぐ、買収を重ねて金融センターの大手金融機関へとのし上がったという経緯があります。そして、ステート・ストリートは、世界最大のカストディ業務(注)、つまり有価証券の管理業務に特化、安定した手数料収入を得ている金融機関です。上記3つの金融機関は、2013年第4四半期でやや低下しているものの、ストレステストの結果で、いずれも10%以上の自己資本比率を維持しています。2012年3月16日付け『CDSの恐怖』のブログの中で綴ったように、米国の金融機関による保証債務の問題がクローズアップされています。米国の金融機関は、依然として厳しい状況にあり、破綻など最悪のケースが発生すれば、カウンターパーティーリスク(取引相手のデフォルトリスク)を通じて日本の金融機関の業績に影響を与えるとされています。金融の自由化、国際化は色々な資本移動を自由にした結果、効率化をうんだというプラスの面があります。一方で、他国の金融危機が自国へと直結することで、世界経済が同時に不安定化するというデメリットをリーマンショックで痛感したばかりです。金融自由化ではなく、今後は金融機関への規制強化が求められるでしょう。
(注)日本の金融機関では、信託銀行が有価証券の管理業務を行っている。ステート・ストリートは、業務の特化を進めており、貸出なども広く行っている日本信託銀行よりも業務分野は狭いかもしれない。

2012年3月19日月曜日

FTAによる自動車産業のメリット

最近、FTA(自由貿易協定)、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)など2国間、地域間の自由貿易協定が活発に締結されているようです。わが国は、米国、EUなどとの協定締結が、製造業の最大のライバル国である韓国の後塵に拝しており、対応が遅い日本政府に対してが製造業が中心になって批判されているところです。いち早く米国やEUとFTAを締結した韓国でも、農業分野の切り捨てにつながるとして批判が同国内でされており、自由貿易協定の締結には難しい問題が山積していることよくわかります。しかし、私も、日本の農業分野は重要な存在であると考えており、40%程度まで低下している食糧自給率の惨状を考慮すれば、米国やEUとの交渉において農業分野での相手国に一定の譲歩を得る必要があります。
 協定が行き詰まりというよりは、FTAやTPPの話題があがってきていない中、2012年3月18日付日本経済新聞朝刊に、FTAに関する記事(注)が掲載されていました。以下記事の引用。
 『日本の主要製造業が自由貿易協定(FTA)を活用し、海外生産を拡大する。東芝はインドの火力発電用タービン工場の能力を2015年度までに倍増し、東南アジアなどに輸出する。トヨタ自動車は米国工場から韓国への輸出を始めた。こうした海外工場の第三国向け輸出は10年度で1,888億ドル(約15兆7千億円)と10年前の3倍強になった。関税など貿易の障壁を相互に撤廃するFTAの広がりに対応し、最適地からの輸出に切り替えて国際競争力を高める』
この流れには、国内の空洞化を進めるという批判があるかもしれません。しかし、ここ20年以上もの間、継続的な円高に苦しめられ、グローバルな展開が進めざるを得なかったのは日本の製造業は、ここへきて、その恩恵を享受することができるようになったことを意味しています。まさに、日本の製造業の努力の賜物だという印象を受けます。
以下は、わが国の貿易黒字を稼ぎ続けてきてきれたトヨタ自動車に絞って話を進めます。先進国の中でも自動車の生産が活発な国は、貿易黒字となりやすいという印象があります。そうした中で、外貨を稼ぎ続けてくれたという意味で、同社の貢献は大きかったと思います。上記の記事によると、米韓FTA締結を受けて、米国工場で生産した「カムリ」「シエナ」を韓国への輸出を開始したそうです。これは、米国から韓国へと輸出する乗用車の関税は8%から4%へと順次引き下げられ、17年には完全に撤廃されることを受けての対応です。米国での生産設備増強を続けてきたトヨタ自動車は新たな成長へのステージへと踏み出したともいえます。決定や判断が遅い日本政府を、当てにしなくても競争力ある企業は自らの力でもって市場を開拓することができます。日本の製造業は、これからは政治力が低下している日本政府を当てにすることはできないかもしれません。これからは、米国の工場で生産している自動車であるということが強みとなって、輸出に際して相手国の政治的圧力を屈することなく輸出を拡大されることが自由にできるかもしれません。中国にしても、欧州にしても政治力では、わが国を圧倒しています。その両国と正面から交渉ができるのは、米国くらいしかないでしょう。その逆もしかりです。グローバル展開を進め、現地での生産拡大を続けてきたというメリットは思った以上に大きいといえます。
そして、トヨタ自動車にとって、成長し続けるにあたって、不可欠な要素は、成長著しい新興国における自動車需要を如何に取り込むかです。中国やインドなどでは、同社はやや遅れ気味であることは否定できません。インドではスズキが、中国では独フォルクスワーゲンや米GMなどが先行しているようです。しかし、まだまだ参入する余地はあり、同社による積極的な事業展開が期待されるところです。そして、この中で、大切となってくるのは、米国の政治力です。米国は幸い、賃金水準も十分に低くなっていること、先進国の中で唯一出生率が高いことなど、労働力不足が生産規模の拡大に制約を与えることはありません。米国からの一層の輸出拡大が安定した企業成長には必要だと感じました。
(注)記事の題目は『FTA活用、海外生産拡大、第三国への輸出拠点』。

2012年3月18日日曜日

国債利回りの上昇

円安が進み、輸出企業を中心に業績回復が見込まれることから、日経平均が当面の目標であった1万円を超えました。今後、一層、円安が進むことを専門家等が指摘しており、円安、株高という持ち望んだ相場状況が訪れることが期待されます。日本銀行が、大胆なさらなる金融緩和が功を奏したとも考えられますが、日本の国債利回りは1月4日の0.985%(10年物、日本相互証券)から3月15日の1.055%へとむしろ上昇しています。やはり、この円安は、海外の金利上昇に伴うものであって、長期金利はそもそも制御不能であることから、日本銀行の政策がプラスに寄与したという根拠は今のところないと考えてもいいでしょう。
右図は、今年に入ってからの日、米、英、独の国債利回りの推移を示したものです。同じ期間で、米国の30年物国債が3.03%→3.41%、英国の30年物国債が3.10%→3.43%とともに0.3%から0.4%ほど上昇しています。一方で、ドイツの10年物国債は、1.93%→1.96%と小幅の上昇にとどまっています。英国の事情はよく分かりませんが、特に米国ではエネルギー、食料品を中心に物価が上昇傾向にあり、インフレ懸念の発生に伴う国債利回りの上昇であるされます。この金利高が米ドルの水準を高めているだけで、今後、ドル高に伴う米国企業の利益水準の低下が危惧されるいることからも、ドル高が長引けば米国経済の失速の可能性が出てきます。
 ドイツのことは余り調べていませんので正確なことはいえません。しかし、ドイツの金利水準は年初からほとんど変動してないのは、年末にかけて欧州債務危機によりリスクプレミアムが発生、ドイツの国債の利回りもこの流れに引っ張られ形で既に上昇していたのではないかと推測しています。しかし、3月12日には1.76%にとどまっていたことから、ここ数日の国債の利回り急上昇はインフレなどが懸念された結果ではないかともとらえることができます。詳しい分析は、今後の国債利回りの推移を注視するしかありませんが、特に、ギリシャ国債が格付けが引き上げられたこともあり、リスクプレミアムによる上昇ではないと考えています。
 それにしても、グラフにしてみて再認識できるのですが、4カ国の中で、日本の国債利回りはかなり低い水準にとどまっているのがわかります。わが国の潜在成長率が低下していることを反映し、国債利回り低下しているという論者もいます。しかし、私には、金融機関がリスクを取らず、国債ばかり投資している姿が頭に浮かんできます。米国の場合、無節操な金融政策や財政政策をすれば、国債利回りは上昇します。一方、わが国では、そのような状況は起こらず、結果として財政規律を歪めているのです。
 いつ頃かという記憶はないのですが、スウェーデンのある金融機関が、スウェーデン政府の財政政策を批判、これ以上赤字を垂れ流すのならば、国債は購入しないという宣言をしたことがあります。これを危機であると認識し、同政府は財政再建に向けて努力をしたという話があります。日本の金融機関も毅然とした対応が必要です。国債の購入比率が高いことを盾に、政府に財政規律を求めることは可能だと思います。この状況を放置し、政府の危機意識が低下した結果として、今回の税制改革で、消費税率引き上げに失敗したのならば、日本銀行とともに日本の金融機関も断罪されるべき存在であることはいうまでもありません。

2012年3月17日土曜日

The new iPadに失望

昨日、発売されたThe new iPadを早速にタッチしていきました。発表通りに画面解像度が4倍となり、画面の美しさの点で、従来機種と比べて優れていると感じました。しかし、搭載されているCPUは、画像処理がクアッドコアになったものの、iPad2と同様にドュアルコアのA5チップであることが響き、かえって遅くなったという気がしました。
私は第1世代のiPadを主に電子書籍として利用しています。ここで問題となるのが、画面の視認性です。長時間、画面を見続けることから、視認性が低いと目に負担がかかり、頭痛の原因になります。第1世代の問題点は、画面サイズの割にCPUの速度が遅く、ページをめくって次のページが表示されるまで、一度、ぼやけたページが表示され後、次にシャープな画面となとなりますが、その時間がかなり長いという印象でした。その点、iPad2は画面解像度を維持したまま、CPUを単純にドュアルコア化しましたので、第1世代のiPadと比べてページの表示速度は速くなっています。使ってみて、ページが完全に表示されるまでの時間は明らかに短縮されています。
 ところが、今回発売された第3世代のiPadは、画面解像度が4倍になっているものの、画像の処理速度は4倍になっていないため、iBooksにてダウンロードしたPDFファイルのページをめくっていると、明らかにiPad2よりも遅くなっています。図表が多い場合、第1世代のiPadと同等であり、むしろiPad2よりも遅くなっています。そこで、アップルのサポートに連絡、第3世代のiPadの画面解像度を落とすことができるのかという質問をしました。アップルのサポートからは、現在のところできないという旨の回答を得ました。上の動画は第1世代のiPadで、iBooksでPDFのドキュメントを表示したものです。動画は初めてのアップですので、どのように表示されるかがわかりませんが、資源エネルギー庁の『エネルギーに関する年次報告』のPDFのドキュメントの一部です。
また、映画・海外ドラマのストーミングサービスであるHuluの解像度は、フルハイビジョンではありません。この点からも今回の解像度アップに意味があったのかという疑問が生じています。とりあえず、毎月末に発売されるアップル関連の雑誌のレビューを読んでから購入するかどうかを決めるつもりです。今は、今回のiPadの購入しないという方向へと傾いている気がします。視認性という電子書籍で一番大切な部分を無視した今回のiPadは、昨年、皆が失望したiPhone4Sと一緒で、まさしくiPad2Sと称してもいいのではないでしょうか。そして、アップルはジョブズが発案していた製品のアイデアを小出しにしているという印象が強くなっています。2〜3年までは大丈夫ですが、10年、20年のスパンでのアップル社は今の通りいくのか疑問が残る結果となりました。

2012年3月16日金曜日

CDSの恐怖

CDSとは、クレジット・デフォルト・スワップの略で、CDSの買い手は、手数料を支払う対価として、もし投資先がデフォルトした場合、その元金について、CDSの売り手から元本相当額の支払いを受けることができる。一方、CDSの売り手は、投資先がデフォルトした時、売り手に元金相当分の支払いをする義務を負うこととなるものの、その対価として手数料を得ることができる。CDSの買い手と売り手との間でやり取りされる手数料率は、市場で決定され、デフォルトリスクの拡大に伴って手数料率は上昇、逆にデフォルトリスクの減少に伴って手数料率は低下することとなる。このCDSの指標として参考になるのは、日本経済新聞の投資欄に掲載されているiTraxx Japan5年という指標があります。これによると、2012年3月12日の実勢価格は141.00ポイントで、前日と比べて2.00ポイントを上昇していることがわかります。昨年の10月19日時点での実勢価格が191.58ポイントであったことから、かなり低下していることがわかります。これは、2012年に入って、日本のデフォルトリスクがやや減少し、それに伴いCDSの実勢価格も低下していることを意味しています。
 このCDSに関して、『週刊ダイヤモンド』2012年3月17日号に『欧州債務問題、米国に飛び火すれば危機連鎖も』の題目の記事が掲載されていました。この記事によると、ギリシャ国債の民間保有分約2,000億ドルのうち、合意通り53.5%カットされ、1,070億ドルの減額となった場合、CDSの主な売り手である、米銀に影響を与える可能性が出てきていることを記述しています。また、債権の減額には、債権者の9割が同意することが条件となっているが、期近の記事では6割程度にとどまっており、ギリシャ政府が仮に合意への参加率を高めるため、多数決による強制的なカットを実施すれば、「集団行動条項」と呼ばれるものが新たな問題を引き起こす可能性をがある旨示唆しています。これが発動されると国際組織であるISDA(国際スワップデリバティブ協会)からギリシャ向けの債権はデフォルトとみなされることとなり、その時CDSが有効となる。そして、欧州の金融機関による欧州周辺国(ギリシャやポルトガルなど)への投融資が5,220億ドルに達しているものの、米銀を売り手とするCDSによりカバーされるいる実態が、BIS(国際決済銀行)などの資料により明らかになりました。ギリシャ国債が強制的に減額された場合、最大の損失を被るのが米銀であり、その額は何と5,000億ドル(約40兆円)にも及ぶそうです。ガイトナー米財務長官が大慌てで欧州に乗り込み、解決を迫った背景には、このCDSの問題あるそうです。
私は、この記事を帰宅する途上に読んでいました。読んだ後の感想は、「やばい」の一言です。今、米ドル建ての資産が私のポートフォリオに占める割合が、米国の経済規模に比して低いと考え、米ドル資産の買い増しを進めているところです。仮に、CDSが発動された場合、米国の株式市場はかなりの打撃を受けることは確実であり、やっと終わりかけていた超円高の流れが反転し、さらなる円高へと進む可能性がまだまだあることがわかりました。やはり過ぎたるは猶(おな)及ばざるが如しですね。今後、CDSの実勢価格などに注視していきたいと思っています。

2012年3月15日木曜日

懸念される米国の物価上昇

デフレが深刻化しているわが国でも、イランの核問題に端を発する原油価格の高騰、円安の進行に伴いガソリン価格が上昇し、レギュラーガソリンの小売価格は150円台に突入しました。先の政策提言で、日本銀行は目標とするインフレ率を1%としていますが、意外と簡単に目標に到達するかもしれません。ガソリン価格は当然のことながら、わが家の周辺では野菜の価格も上昇しています。いつも近所の八百屋さんで購入していたのですが、昨年までですと旬の野菜が100円程度の価格で入手できていました。しかし、今年は異変が起こっています。高いというよりも、陳列されている野菜自体が少なくなっており、購入することすらできなくなってしまいました。知人に東京在住の方がいます。その方は、帰省する度に、近所にある八百屋さんで野菜をごっそりと購入するそうです。私の先入観なのかもしれませんが、西日本の野菜が東日本へと出荷され、その影響を受けて周辺の八百屋で品不足となっているのではないかと考えてます。
 パソコン、テレビなど耐久消費財の価格は、価格性能比を考慮した場合、10年、20年前と比べて劇的に下がりました。テレビなどは、日立がテレビ事業からの撤退を余儀なくされるほど下落していますし、パナソニックが7,800億円もの赤字を記録したのも、テレビ事業への過大な設備投資だけではなく、家電製品など耐久消費財全般での価格下落の圧力が背景にあります。私は、帰宅途上に家電量販店があることもあって、毎日立ち寄っては価格のチェックするという日々を送っています。家電製品の価格ばかり気にして、本当に大切な足もとの価格上昇に対して少なからず無頓着になっている気がします。私にとって価格が上昇した製品は、タイの大洪水の影響を受けたハードディスクくらいです。
 しかし、油断は禁物です。生活防衛のための節約生活にとって驚異となる物価上昇は、確実に忍び寄ってきています。食料品、燃料価格、電気料金など昨年から引き続き上昇傾向にあり、家計をやり繰りしている専業主婦の方にとっては、実感での物価上昇は1%以上になっているかもしれません。原油価格、穀物の価格は、投機筋の影響もあり、国際価格はかなり高い水準になっています。しかし、わが国で、インフレの実感が乏しいのは、円高の進行によって打ち消されているだけです。今後、一本調子で円安が進行すれば、制御不能のインフレが、わが国を襲うことは否定できません。過度な円高へのマイナス心理は捨てるべきです。円高にも、それなりのメリットはあります。
一方、米国は、物価に関していえば通貨高という恩恵を受けにくい経済です。それは、商品の国際価格が、米国ドル建てで表示されており、それらの国際価格の上昇は米国内の物価上昇へと 直結するからです。Bureau of Labor Statisticsによれば、米国の2012年1月の消費者物価の上昇率は、1年前と比べて全品目ベースで2.9%上昇しています。特に食品4.4%、ガソリン9.7%などの上昇幅は顕著となっています。食品・エネルギーを除いた全品目ベースでは2.3%にとどまっていることから、食品やガソリン価格の上昇が、今後家計の消費支出にダメージを与える可能性が高まっています。消費の低迷は、明るい兆しがみえてきた米国経済にとってマイナス要因であり、物価上昇、特にガソリン価格の上昇が大統領選の争点になっていることからも、深刻な状況に伺えます。
 物価の上昇懸念は、日本と異なり、米国では長期金利に影響を与えます。ここのところ、米国の30年国債の利回りは急上昇していることから、市場がインフレに対して警戒感を抱いている可能性は否定できません。それが結果として、円安を誘因しているとも考えられます。3月16日には、2012年2月の消費者物価指数が発表されます。食品、ガソリンなどがどの程度上昇するかがポイントとなるでしょう。

2012年3月14日水曜日

特許の資産価値

先日、iPadが中国の一部地域で販売ができなくなりました。iPadの商標を持っているとされる中国企業からの商標の買い取りが適切ではなかったということで、中国の裁判所が販売の差し止めをアップル側に求めたという結果でした。商標のやり取りで中国企業とアップルのやり取りがどのようであったかは不明ですが、海賊版やコピーまがいの商法がはびこっている中国に言われたくはないというのが、私の本音です。日本の農産品のブランド名も既に商標登録されているケースが多々あるそうで、中国へと進出する際は、中国企業よる商標登録に注意しなければならないのが実情です。このブログはGoogleの提供するサービスですので、中国からのアクセスは不可能でしょうが、今さらiPadの商標についてクレームを付けるのはどうかとは思います。米政府と中国政府との政治解決が望まれるとろこです。もっとも、iPadが仮に生産停止に追い込まれたのならば、一番損をするのは、中国の労働者です。iPadは大手EMSであるフォックスコンの中国工場で製造されているからです。
今日のブログは、上記のような知的所有権である特許に関するものです。2012年3月6日付日本経済新聞朝刊に『特許、世界共通化に着手、日米欧など中国取り込む』という見出しの記事が掲載されていました。記事の大まかな内容は、日本、米国、欧州、中国、韓国の間で、特許の共通化に向けた協議に入るそうで、出願をする前に発明や論文作成した発明者の救済や審査中の特許技術の公開など40項目が対象となるというものです。さらに同記事では、世界の年間の特許出願数は200万件近くに及ぶこと、このうち外国への特許出願が4割を占めており、国によって制度が異なるため、様々な弊害があることを示唆しています。
ここで、面白いのは、世界経済のリーダーである米国では、特許出願よりも発明した時期の方が重視していたことです。突然特許が認められるにより米国に進出した日本企業が不意に巨額な賠償金を請求されるというケースがあり、日本企業の法務担当が苦労していることが、NHKの「クローズアップ現代」で紹介されていました。このことを「先発明主義」といい、2011年9月に米国も方針を転換し、「先願主義」へ移行、このことが契機となり、特許出願の共通化が急がれるという結果を招いているようです。
また、上記記事には、2011年の特許出願件数で、中国は米国を抜き、世界1位となったという記述がありました。しかし、ここで注意しなければならないのは、特許そのものの価値です。以前、日本経済新聞夕刊の記事で、特許の価値をデータ化したものが掲載されていました。その時トップであった企業は、米IBM社で、2位がキャノンであったと記憶しています。残念ながら、その時の記事は手元にありませんので、今日はPatent Resultのホームページからデータを引用します。さすがに、知的所有権に関することを書いていますので、データそのものが記述されている表ではなく、分かりにくいのですが、グラフにしました。このデータによると、キャノンは、第7位である一方、大赤字で苦しんでいるパナソニック、ソニーが1位、2位を占めるという結果となっています。特許の資産価値の査定には、色々な方法があると思われます。上記データも一定のスキームに従って作成したものでしょう。しかし、私の感覚としては、キャノンがパナソニック、ソニーに劣っている点は信じがたいことです。もっとも、パナソニック、ソニーが手掛けて事業分野がキャノンよりも広範囲であるという点を考慮すれば、上図の結果も納得がいきます。

2012年3月13日火曜日

Siriの日本語対応

私は、最近まで「初音ミク」の凄さというものを全く認識していませんでした。『週刊アスキー』を立ち読みしていて、ちょくちょく「初音ミク」が掲載、図柄をみてやや抵抗があるといった存在に過ぎませんでした。しかし、NHKのクローズアップ現代で「初音ミク」を冒頭に上げ、音声に関する技術の進化を説明するという特集を観てからは、考え方が全く変わりました。その番組を観て初めて「初音ミク」が、単なるアニメのキャラクターではなく、日本が先端を行く音声技術の代表的な存在であるということを知りました。
この音声技術が行く着くところは、リアルタイムでの翻訳システムです。旅行だけではなく、そもそも海外で放映されているニュース番組やドラマ、そして映画なども翻訳者を通じずにそのまま理解できるという時代が訪れることを予見させてくれます。しかし、この技術が一般的なレベルまで達するにはまだまだ時間を要するものと考えています。その中で、スタートしたのが、iPhone4Sで初めて実装されたSiriです。3月7日のiPadの発表に合わせて、iPhoneのOSがiOS5.1へのアップグレードされました。このアップグレードにより、Siriがついに日本語に対応になったのです。早々に試した結果が以下の写真です。
①中国電力の株価を尋ねた時のiPhoneの画面です。
②は明日の天気を尋ねた時の画面です。
③音楽の再生と停止、そしてSafariの検索画面を呼び出している時の画面です。
④検索対象を"Google"としたら、Yahooの検索画面が現れて、"Google"を検索した結果が表示されています。
iPhoneから発せられる音声が人間味がないものになっており、ここで上述した「初音ミク」で使用されている音声技術がSiriへと応用されれば、完成度は高まると思います。例えば、配偶者や好きなアーティストの声を録音し、それでもってSiriに回答させるというのもがあっていいのではないでしょうか。もっとも、Siriは発展途上の技術です。Siriを使用するには、ネット接続は必要となることから、発せられた声に合わせてSiriが音声のデータベースで検索している可能性があります。今後、利用者数が増えれば、Siriの精度も高まるでしょう。Webで検索した情報になりますが、Siriとは、人工知能の一種であり、単なる音声認識ソフトではないそうです。因に、iPhone4Sで対応しているのは、リマインダー、天気予報、株式情報、テキストメッセージ、Eメール、カレンダー、メモ、Webブラウザー、Wolfram Alpha、地図、音楽、時計などです。随時、試していくつもりです。
ところで、このブログを作成しているGoogleが提供する翻訳サービスもなかなかだと思って毎日使っているところです。私はブログをこてこての日本語で書いていますが、どのような日本語で書けば、Googleの翻訳ソフトで容易に、かつ適切に外国語に訳しているのかという日本語用例集が出版さればと考えています。母国語から外国語への翻訳は非常に労力がかかります。一方で、外国語から母国語への翻訳は少しばかりハードルは低いようです。つまり、私は英語の文章は比較的容易に理解できますが、自分の文章を適切かつスピーディーに英語に訳すことはできません。小説などには文学的な表現などが必要な反面、ニュース等はいかに誤解なく、正確に内容を伝えることができる求められます。Webでの日本語表現に関する国際的な規定等があれば、表現方法は劣後する可能性もありますが、ビジネスの効率をアップする上でプラスであると思います。
20年以上も前に購入したパソコンで、初めてウィンドウズ3.1をインストールしました。その時、添付されているマニュアルが全て英語であったことを今でも記憶しています。そして、その英語は非常に読みやすいもので、PCの用語を知っていれば、誰もが理解できる程度のものでした。その時、初めて知ったのですが、米国ではマニュアルの書き方について、誰もが理解できる規定があるそうです。詳しくは知りませんが、軍隊などで使用する武器の関係かもしれませんね。

2012年3月12日月曜日

国債の保有者別内訳

2012年2月23日の『ユーロ相場の本格的回復なるか』のブログで、ギリシャの追加支援策が合意されました旨記述しました。その中で、民間債権者が保有しているギリシャ国債が2,000億ユーロにものぼることが判明、合意により53.5%削減の削減が決定された場合、損失は1,070億円にも達することを記述しました。その後、2012年3月9日付日本経済新聞朝刊に、ギリシャ政府は、民間債権者のうち90%の同意を取り付けることを目標としており、最低でも75%以上の合意が得られれば、債務削減を実施する方針であるとする記事が掲載されていました(注)
 また、上記記事には、欧州メディア発表によると、既に6割超の投資家が同意していること、BNPパリバなど欧州の大手金融機関は、無秩序な市場混乱を回避するためには、削減に応じた方が望ましいと判断、3月8日までに削減に応じることを明らかにしたことが記述されていました。一方で、ヘッジファンドなどは態度を明らかにしていないようです。ギリシャ国債の問題は、国内問題にとどまらず、国際問題へと発展したことが、処理を困難にした理由です。上図は、民間が保有するギリシャ国債の債権者割合を示したものです。ギリシャの銀行やギリシャ国内の投資家が保有している国債は、全体の36%に過ぎず、欧州の銀行を始め、保険会社、ヘッジファンドなど海外の債権者割合が実に64%にも及ぶことが分かります。海外の投資家は、その国に属していないことから、国益にかなった行動をするとは思えません。ギリシャ問題が深刻化した原因は、ギリシャ国民とって大切な金融資産である国債を、高い投資リターンを追求するヘッジファンドなどが投機の対象とし、先物を利用したり、短期での売買を繰り返した結果だと考えています。債務削減に応じてないヘッジファンドの態度からも、そのことが伺えます。
 株式と異なり、債券は怖いということを友人に聞いたことがあります。債券は、一度不安定になれば、わが国の場合、取引の中心が市場取引ではなく相対取引であることから、正常な値が付かないどころか、売却すらもできないそうです。その点が株式と違うところです。最近では、東京電力の債券が問題になりましたが、バブル崩壊以降の一部上場の建設会社の債券が暴落、「馬券債券」とも称され、利回りが30%超になったことが話題になったこともあります。
ここで、わが国の国債のどの程度の割合を外国人が持っているのかが気になりましたので調べみました。財務省作成の2011年度版『債務管理リポート-国の債務管理と公的債務の現状-』によると、2011年12月末時点で4.8%(速報値)であり、ギリシャと比べてかなり低い水準にとどまっていることがわかります。
 しかし、私には2つの注目点があります。一つは銀行による国債保有です。銀行に次ぐ残高を保有する生命保険の場合、保険金の支払いサイクルと保険料収入のギャップが大きく、資金の長短のバランスを考慮する必要は低く、安定したリターンが得られることから、特に超長期国債を購入するようです。一方、銀行は、資金を預金という短期資金に依存しています。しかも、株式会社であり、時価会計を採用していることから国債の価格変動により決算内容が大きく変動する経営体質になっています。リーマンショック以降、わが国の国債利回りは低下の一途をたどっています。この中で、期近の決算では、国債から得られた収入により銀行の決算内容が好転しました。これは、逆に言えば、国債の利回りが少しでも上昇した場合、銀行の決算は悪化することを意味しており、相場状況に次第では、銀行は決して安定した投資家ではないということです。日本国債の引き下げも取りざたされている中、銀行がこのまま国債を安定的保有し続けるかは疑問が残ります。
 もう一つは、経常収支の赤字です。2012年1月の経常収支が赤字になったことです。経常収支の赤字は、国債の円滑な消化には、海外投資家によるファイナンスを必要であることを意味しています。海外の投資家の国債保有は、短期債に集中していることから、逃げ足は速いでしょう。銀行や海外投資家へと、これ以上依存度を高めることは、流動性の短期の国債をより多く発行する必要があるといえます。結果として国債のデュレーションは短くなります。借換債を含めた国債の年間の消化は、2012年度の予定では169.6兆円です。安定した投資家が少なくなっている状況で、この額を今後何年も持続することは不可能だと感じています。
(注)記事の題目は『「無秩序なデフォルト」回避へ、ギリシャ債務削減、75%の合意確保か』。

2012年3月11日日曜日

期待される炭素繊維の需要拡大

私は、日本の化学メーカーは、欧米の化学メーカーと比べて規模が小さいという印象を持っています。しかし、規模が小さいながらも、技術水準は高く、特定の分野でもって依然として競争力は維持しているようです。新型で1機目が就航したばかりのボーイング787(注)では、炭素繊維複合材料を多用され、それらのもとになる炭素繊維は、東レが供給していることは有名です。また、ユニクロで有名となったヒートテックなども同社が供給しているようです。東レという会社は凄いですね。

私を30年以上も前からテニスをしていた関係で、炭素繊維には馴染みがあります。当時、テニスラケットには、グラスファイバーを素材として製造、軽くて丈夫であるという2つの特性を持つことで、木製のラケットを市場から完全に駆逐していきました。その後、友人と釣りをする機会がありました。その時には、グラスファイバーがすでに時代遅れとなっており、カーボン製でないといだめだと、購入する際に注意されたことは今でも覚えています。このカーボンこそが先で述べた炭素繊維の本命であり、航空機などに使用される前に一般大衆にもスポーツ用品を通じて浸透していたという次第です。
もっとも、耐久性、安全性の面から航空機への導入は進んでいなかったのが実情でしょう。私の記憶では、初めて炭素繊維を主要部品に導入した航空機は、三菱重工がメインとなって開発されたF-2戦闘機です。一時期、F-2戦闘機の主翼の強度に問題があることが指摘されていましたが、今の化学メーカーは、その欠点を克服し、今回のボーイング787への納入につながったのです。とても日本企業らしいアプローチであったという思いと、現在開発中の中距離ジェット、MRJ(Mitsubishi Regional Jet)にも炭素繊維が多用されるのではないかと期待しています。炭素繊維の製造は、均質の糸を均等に混ぜ合わせるために高度の技術が求めら、日本企業の独壇場になっています。そして、この炭素繊維は、航空機、そして本命である自動車などへの使用が期待されているのです。
2012年3月9月の日本経済新聞朝刊に、『東レ、炭素繊維5割増産、先端素材、世界で最適供給』という題目の記事が掲載されていました。記事の大まかな内容は、東レが2015年までに450億円を投じて、日本、米国、韓国、フランスの工場で設備の新設をすること、需要が9割が海外であり、顧客のニーズに素早く対応する体制を整えるこということです。右図は、東レのホームページで発表された数値に基づき作成した、今後予想される同社の炭素繊維の生産能力の推移を示したものです。2015年時点で年産約3万トンですので、鉄が億トン単位での生産であるのに比べて絶対量には大きな乖離があります。引き続き産業の基盤となるのは鉄であり、それに代わる素材はないでしょう。しかし、航空機や高級自動車など付加価値の高い分野では、炭素繊維の独壇場になる可能性は高いと考えられます。炭素繊維の世界市場シェアで40%を占める東レの活躍が期待されますし、帝人、三菱レイヨンなど東レを追随するメーカーの生産量拡大による低価格の実現が待たれるところです。
(注)ボーイング777では10トンの炭素繊維を、787では35トンに増加したようです。

2012年3月10日土曜日

エルピーダメモリー倒産の衝撃

10日以上も前の話になりますが、先月の27日にDRAM製造メーカーであるエルピーダメモリーが会社更生法の適用を申請しました。負債総額は約4,480億円にも達し、製造業では過去最大となります。2009年に政府も公的資金300億円を同社へ注入し、再建を支援していたにもかかわらず、結果が出ませんでした。
 私は、パソコンを30年近く使っている関係もあり、常に主要部品であるメモリーには一定の関心がありました。初めて購入したパソコンは、NEC製のPC-8801で搭載メモリーは、私の記憶は定かではないのですが、確か1メガバイトであったと思います(利用できるメモリーは実際にはもっと少なかったのですが)。次に購入したのは、セイコーエプソンが発売したパソコンで、NECのPC-9801と互換のあり、インテル製486DXのCPUを搭載したものでした。同様に搭載メモリーは1メガバイトでした。この時期のパソコンは、マイクロソフトのMS-DOSをOSとして使用していた為、どしても1メガバイトの壁があり、それ以上のメモリーを搭載しても意味がなかったことから、1メガバイト以上のメモリーに対するニーズはありませんでした。その後、マイクロソフトのウィンドウズが発売され、1メガバイトの壁が取り払われ、搭載されるメモリーはうなぎ上りに増加、今、私が使用しているパソコンのメモリーはいずれも4ギガバイトのメモリーを搭載しています。
 一時は、日本のDRAM製造メーカーは、飛ぶ鳥を落とす勢いで、インテルをCPU製造に特化させたのも、日本企業にシェアを奪われた結果だという記憶があります。その時期は、特に東芝に勢いがあり、1985年に1MビットのDRAMを世界に先駆けてサンプル出荷を開始、半導体産業で、わが国の企業が目立った時代でした。世の中の人々が、半導体製造=日本企業という印象を持っていた最中、1994年にインテルが製造したCPU、Pentiumにバグがあることが発覚、半導体にDRAM以外の分野があることを世間に知らしめました。この頃の日本の半導体メーカーはまだまだ元気があました。しかし、その後、米国のマイクロン・テクノロジーが、最先端を追わず、少し遅れた技術を使ってDRAMを製造するというマーケッティングにより、徐々に日本のDRAMメーカーがシェアを奪われるという事態が発生しました。さらには、東芝の技術者を積極的に引き抜き、世界一のDRAM製造メーカーとなったサムスン電子が躍進、その後の日本のDRAMメーカーは凋落の一途をたどっています。結果は、27日のエルピーダメモリーの倒産です。下図は世界のDRAM市場の企業別のシェアを示したものです。1991年の時点では、東芝のシェアが1位であったことに驚かさせます。


 しかし、半導体にも色々な種類があります。例えばルネサスエレクトロニクスが製造するASIC(特定用途向け専用LSI)があります。東日本大震災後に同社の製造が停止、自動車メーカーが慌てるという事態が発生しました。また、東芝、インテル、サムスン電子が激突しているフラッシュメモリー(不揮発性の半導体メモリー)や、インテルがほぼ独占しているパソコン用のCPU、最近話題となっているスマートフォン用のCPUなどの分野があります。今後は、DRAMなど利益率の低い分野から随時撤退、半導体製造でも付加価値の高い分野へと特化が求められるでしょう。もっとも、それらの分野でも、韓国、台湾メーカーの追い上げは厳しく、日本企業が追いやられている気がします。
 円高が続く限り、産業の下流に位置する企業は苦戦を強いられています。その代表格がエルピーダメモリーでした。従って、日本企業が活躍できる分野は、さらに上流に位置する分野に限られてきています。幸いなことに、半導体製造装置では東京エレクトロンやニコン、さらに上流に位置する半導体ウェハーでは、信越化学工業、SUMCOなどの日本企業が活躍しています。付加価値の高い製品への特化は、半導体産業に限らず、あらゆる分野で共通した日本企業の課題です。

2012年3月9日金曜日

経常収支の赤字

3月8日、財務省から発表された2012年1月の国際収支速報によれば、モノ・サービス、配当・利子など海外との総合的な取引の結果を示す経常収支が、前年1月の5,472億円の黒字から4,373億円の赤字へと転落したことがわかりました。
 まず、1月の貿易動向は、輸出額が欧州債務危機、円高の影響に加え、中国の旧正月に合わせて輸出を絞ったことが影響し、前年同月比8.5%の減少の4兆3,536億円にとどまりました。一方で、輸入額は、原発停止に伴う液化天然ガス(LNG)などの燃料の輸入量が増えたことに加え、原油価格の上昇による輸入代金の増加が響き、同11.2%増の5兆7,353億円へ大きく増加しました。この結果、1月の貿易赤字としては、1996年以降の統計では最大の1兆4,747億円の赤字となりました。所得収支の1兆1,326億円の黒字ではカバーできなくなり、経常収支ベースで大幅な赤字となったようです。経常収支の赤字規模も、リーマンショック直後の2009年1月の1,327億円を大幅に上回る水準であり、昨年の貿易赤字が31年ぶりの赤字に陥るなど経常収支の赤字化が定着する懸念があります。
もっとも、わが国の所得収支の黒字幅はむしろ増加傾向にあり、楽観的な見方もできます。右図は1996年以降の1月の経常収支、貿易収支、所得収支の推移を示したものです。2008年1月の所得収支は、1兆4,484億円に達し、その後、リーマンショックの影響を受け、9,159億円まで減少するものの、その後は2年連続増加しているようです。これらは、あくまで1月のデータですので、通年のデータとは差があると思います。しかし、感覚的な話しにはなりますが、通年の経常収支の推移と大きな乖離はないようにみえます。
 この経常収支の赤字をみて、昨日の外国為替市場は円安へと向かっているようです。その結果、輸出関連銘柄を中心に株価も上昇しています。これにより過剰な円高が回避され、輸出が回復し、経常収支も黒字化することも考えられます。もっとも、財務省発表の2月上中旬の貿易収支は依然として686億円(前年同期は4,544億円の黒字)の赤字を記録したことから、通年での経常収支の赤字化は現時点では否定できないでしょう。
 特に、円安が進んだところで、欧州、米国中心とした海外需要そのものが萎縮している中で、本格的な輸出の回復が期待できないのも事実です。一方で、今の日本は、構造的なエネルギー問題を抱えており、引き続き大量の液化天然ガスを輸入する必要があります。天然ガスの国際価格が上昇している最中、円安が進行すれば、円建てでみた燃料代金はむしろ大幅に増加する可能性があり、通年で2年連続の貿易赤字に陥ることも十分に考えられます。これに加え、海外政府の発行する債券の利回りが低下しており、配当・利子収入などが減少、所得収支の黒字幅が縮小する可能性もあります。政府の赤字が拡大の一途を辿っており、それらのファイナンスには海外の貯蓄がどうしても必要であり、今後の国際収支は目が離せないとろこです。

2012年3月8日木曜日

共和党予備選の結果

2012年2月6日の米大統領選の共和党予備選・党員集会のやま場であるスーパーチューズデーの結果が判明しました。開票の結果、10州のうち6州を制した穏健派のロムニー氏が引き続き優位であるようにみえます。しかし、2月7日付けのNHK午後7時のニュースでは、人口構成で全米の縮図とされるオハイオ州での指名争いで2位をいくサントラム氏との差が1ポイントと僅差であったことから、共和党の候補者選びが長期化の様相を呈していると解説しています。
米共和党の場合、通常ならば候補者選びが長期化すればするほど、有権者の関心が高まり、大統領選で優位に働くそうです。しかし、今回の指名争いでは、史上最悪の中傷合戦が展開されており、候補者の印象が長期化するほど悪化すること、失業率が低下するなど米国の景気に明るい兆しがみえてきている中、オバマ大統領の支持率が持ち直していることから、共和党にとって今回の長期化はマイナスに作用するとしています。開票結果は、ロムニー氏が勝ち切れなかったというもので、オバマ大統領に対抗できる候補であるされる同氏が、保守派の間での支持率が低いこと、景気回復に対する具体的な提案がなされていないことなどが背景にあるとされています。最悪の場合、共和党の指名争いは、2012年8月に開かれる共和党大会にまで持ち越される可能性も出てきており、今後、同氏が米国をより良い方向へと導きことができる道筋を如何に具体的に提示し、保守派層での支持を如何に獲得するかがポイントとなります。
 因に、米国では保守派はロムニー氏嫌いといわれています。ここで、米国における保守派とは何かという疑問が生じます。米国の保守派に関して分かりやすく記述している記事(注)が、『週刊東洋経済』2012年3月10日号に掲載されていましたので一部を紹介します。同記事によれば、1950年代に「保守主義」という言葉が使われるようになったそうです。リベラリズムや理想主義が社会的混乱をもたらしたとし、ユダヤ・キリスト教倫理に基づく秩序の復興と階級社会の必要性を訴えたとされるのが「伝統主義者」です。もう一方に経済的自由こそが自由の基礎であると主張するリバタリアン(市場主義者)があって、両者をもって保守派の本流であるとしています。その後、両者の意見が対立するものの、「融合主義」という考えが主張される中で、思想的な対立が克服され、現在では保守派の「エバンジェリカル(福音主義者)」を取り込みという形で、政治力を発揮するようになっています。その政治運動の矛先にあったのが共和党であり、以降、共和党=保守派というイメージが強くなっています。保守派とはいっても米国では色々な主義主張があるようです。以下が大まかな分類です。

  • 倫理や社会秩序を重視する「社会的保守主義者」
  • 小さい政府や減税を主張する「財政的保守主義者」
  • 規律緩和と自由競争を旗印にする「リバタリアン」
  • 外交的タカ派の「ネオコン」
  • 孤立主義を主張する「ペイリオ・コンサーバティブ(超保守主義者)」
このうち「ティーパーティー運動」は共和党主流派に反発した「財政的保守主義者」の運動だそうです。私の印象からして、伝統的に米国の共和党選出の大統領は、日本にとってプラスとされています。しかし、私を含めて日本人にとって馴染みがないのは、むしろ米国の保守派の人々であり、彼から支持する政党こそが米国の共和党です。
(注)題目は『保守主義と共和党』。

2012年3月7日水曜日

「お金」と人類の発展

2012年2月26日に放映されたNHKスペシャル「ヒューマン」をみました。番組は「お金」と人類の発展を説明した意味深い内容であり、改めて「お金」とは何かという疑問が生じました。番組冒頭で、今から6,000年も前の紀元前4,000年頃に人類史上初の都市テル・ブラクがシリア北西部で形成、人口規模は1万人にも達したこと、そして、その原動力になったのが実は「お金」であったことを紹介しています。発掘現場の過程で、当時使用された「お金」が小麦であったことが判明、この小麦を介して活発に産品が交換され、ついには職業という概念が生まれたとしています。つまり、「お金」により分業が進み、それが飛躍的な生産性の向上(番組では小麦の生産量が3倍に増えたとしている)をもたらした結果、その後の急激な人口増加へとつながったそうです。
 もっとも、小麦の「お金」は時間がたてば劣化しますし、相手との信頼がなければなかなか取引が成立しないなどの欠点があり、広範囲の交易には適さなかったようです。その後、ギリシャのアテナイで裏面にフクロウの図柄が刻印された銀のコインが鋳造されました。それからは、異民族との間での取引でもコインが使用され始め、民族の壁を超えた経済発展へとつながりました。これは、フクロウの刻印がされているアテナイの銀のコインには、銀が16グラム含まれていることが広く認識された結果であり、産品の提供する者は安心してアテナイの銀のコインを対価に産品の交換に応じたからです。しかし、アテナイでの銀の産出量が減るとともに、アテナイの経済的な地位は低下、その後、ローマ時代へと移っていったのです。
 ローマ時代は、有限な資源である銀を有効に使用しました。ローマの銀コインは、当初、銀の含有量は98%であったものが、時代がたつにつれ、含有量が徐々に減少、最終的には含有率は2%にまで低下しました。含有率低下に伴い、含まれている銀そのものの価値ではなく、ローマ帝国が与える信用を後ろ盾にコインは流通しました。つまり、コインは、そのものに自体に価値はないものの、何らかの信用により価値が保証されたものへと発展したのです。これは、今でいう不換紙幣(ゴールドと交換可能なのは兌換紙幣)の原型みたいなものであるといえます。何の価値もない紙切れに人々は価値を見いだし、取引手段として積極的に利用している点では機能はほとんど同じです。
 番組では、面白い実験をしていました。人間は、「お金」を手にすると、脳にある腹側線条体の活動が活発化するそうです。これは快楽を感じる部位であり、「お金」を得るという行為は、無限の欲望へとつながるそうです。ここで、2人を対象とした実験をしています。一方に80ドル、一方に30ドルを与え、その後80ドルを与えた方にさらに50ドルを与え、格差を拡大させた時と、30ドルを与えた方に50ドルを与え、2人の金額を同一とした時の同部位の活動状況をチェックしています。結果は驚くもので、2つのケースともに腹側線条体の活動が活発化するものの、2つの目のケースのように2人に与える金額を平等にした方が、活動の度合いは5倍も大きいというものでした。つまり、人類は、経済の発展に不可欠であった「お金」に対する無限の欲望という機能を脳内に持つとともに、相手と公平でありたいという機能も同時に得たというのがの実験者の見解です。
 ここで、経済に話を戻します。一国の経済にとって必要な貨幣(ここでは経済用語である貨幣をあえて使用します)はいくらかという問題です。貨幣には、価値尺度、流通手段、そして価値貯蔵の3つの機能があります。このうち、古典派の経済学が重視した機能は、価値尺度と流通手段です。貨幣ストックM、貨幣の流通速度V、物価水準P、実物経済Yとすると、以下の式が成り立ちます(注)
これが有名な、古典派の貨幣数量説に基づく「貨幣の数量方程式」です。これは、マネーストックMの増減は、実物経済Yに与える影響することなく、流通速度Vが安定しているとすれば、もっぱら物価水準Pへと影響するという考えです。古典派は、これを「貨幣の中立命題」「貨幣のヴェール観」といっています。しかし、人類の長い歴史の中で、貨幣に対する欲望は、これとは異なるのではないでしょうか。脳内に持ち得た機能から察するに、人類は貨幣に対して価値尺度や流通手段といった貨幣の利便性ではなく、価値貯蔵の機能に執着していたという姿が浮かび上がってきます。
 それでは、ここで日本経済の具体的なデータを紹介します。右図は、名目GDP、日銀券発行残高、「マーシャルのk」の推移を表したものです。「マーシャルのk」とは、日銀券発行残高を名目GDPで除した値で、一定期間の取引をするに当たって、どの程度の貨幣を必要とするかを意味しています。貨幣が取引需要だけで保有されるのならば、物価が安定している限り、「マーシャルのk」は安定しているとされます。しかし、わが国では、名目GDPに比して保有する現金の残高は増加しています。クレジットカードや口座引き落としの普及を考えれば、貨幣の取引需要が減少するはずです。これは、わが国で「マーシャルのk」が上昇している背景には、価値貯蔵の目的で保有されている可能性があることを示唆しています。
 これも、人類の発展の過程かもしれませんが、わが国は、発展途上のような気がしてなりません。脳内の腹側線条体は相手のことを思うという機能ではなく、もっぱら貨幣の保有して自己満足に陥っているような気がします。自分しか信頼できず、貨幣をなかなか手放そうとしない、つまり消費をしようとしない、今の日本人の姿は、ひたすら貨幣への欲望を増幅されている数千年も前の権力者とオーバーラップします。
(注)中谷巌『入門マクロ経済学』、pp189-190、日本評論社、2007年。

2012年3月6日火曜日

iPad3発売なるか

やはり2012年もアップルがIT市場でのもっとも注目される企業であり続ける予感があります。米国時間と思われますが、新しいタブレット端末であるiPadの発表が3月7日に迫っているという情報が、ネットの中から溢れ出しています。まず注目すべきは、次の機種の名前が、iPad3になるのか、iPad HDになるのか、iPad2Sになるのかです。当然のことながら、私にとってiPad2Sは最悪の結果です。そして、搭載されるCPUがA5Xなのか、A6なのかも注目点です。A5チッブですと、デュアルコアで、A6チッブですとクアッドコアとなり、スペックに雲泥の差が出てきます。特に、描画速度アップは、iPadでビデオを観たりする時に目に負担をかけないことになりますので、A6チップの搭載が期待されるところです。また、電子書籍も描画速度次第では、より使いやすいものになると思われます。iPadを持っているのですが、ページ数が多い書籍を読む時は、ページのめくりが多く、描画速度が遅いため故に、やはり目の負担になっています。
 一方で、ほぼ確実視されているのが、画面解像度が倍になるということです。現行のiPadやiPad2が1024×768ピクセルであるのに対して、発売される機種名がiPad3もしくはiPad HDならば、今までの倍に相当する2,048×1,536ピクセルとなり、まさしくiPhoneやiPodで実現したRetinaディスプレーをiPadで体現することができるようにになることです。文字をみた時の印象は、iPhone3GSの480×320ピクセルからiPhone4の960×640ピクセルになって、まったく異質なものになっています。電子書籍の市場拡大が期待される中、ギザリングのない美しい文字表現は、きっと私の読書欲を高めると思います。
 前のブログでも書かせていただきましたが、iPadの利用率がここへきて上昇しています。上昇しているのは、現在、家での作業を全てペーパーレス化の方向へ進めており、その核にあるのがiPadとなっているからです。いまやiPadのiBooksには、経済財政白書、エネルギー白書、家計調査、日本銀行のバランスシート、ユーロ統計局発表資料など、このブログを作成する際に利用した文献が数多くインストールされています。以前では印刷をした上で、それを紙ベースでチェック、表計算ソフトを使ってグラフを作成することをしていました。今では、iPadを使用することで、印刷する作業を省略、エコであるとともに、コスト削減を実現しているのです。以下が、私のiPadのiBookの書棚を撮った写真です。
次に驚いているのが、Huluですね。我が家にはテレビは1台しかありません。しかし、iPadにHuluのアプリをダウンロードすれば、iPadで数え切れないほどの海外ドラマや映画を視聴することができます。毎週、コンテンツが増加、こんな映画やドラマが観られるのかと思うと日々わくわくします。私は、Huluが提供するコンテンツの中で初めて知った海外ドラマがあり、その中でも『ビッグバーン・セオリー』の第一シーズンを全て観ました。このDVDはアマゾンでも販売されておらず、Huluでの続編の提供が期待されるところです。以下のHuluの初期画面の写真です。
そして、極めつけは、ソフトバンクのセレクトショップで購入したデジタルTVチューナーです。iPadにデジタルTVというアプリをインストールし、このデジタルTVチューナーにWi-Fiで接続すると、iPadで地デジ、BS、CSが視聴できるという代物です。地デジのワンセグが視聴できるデバイスをiPadに接続することはなんとなく出来る気がします。しかし、できたとしても画質が悪いため、iPhoneとは異なり、iPadほどのサイズですとお世辞にも奇麗なものではないでしょう。このデジタルチューナーはハイビジョン品質の画質で地デジのみならず、BS、CSが視聴できるのが特徴です。従って、B-CASカードも挿入しますので、iPadが液晶テレビと同一なものになるのです。以下の写真は、デジタルTVを立ち上げ、BSを視聴しているところを撮影したものです。
iPadは、すでに米国では教育現場で浸透しています。利用方法は、まだまだ発展途上ではありますが、日本でも営業や医療現場でも使用されています。セキュリティーの問題はありますが、iPadをビジネスの現場へと使用する時期は確実に近づいています。7日の発表が楽しみです。iPad2Sではなく、iPad3もしくはiPad HDの発表であればと思っています。

2012年3月5日月曜日

自治体のクラウド導入

先日、テレビを視聴していると自治体のクラウドコンピューター(以下、クラウド)の導入について報道していたニュース番組がありました。私自身もクラウドを日々利用していますので、そのメリット、デメリットを熟知しているつもりです。クラウドには情報、特に個人情報の流出というリスクがあるものの、それを余すところのメリットがあると考えています。
自治体が導入する上でのメリットは以下の通りです。
  1. 個々のクライアント側のソフトウェアのバジョーンアップを行う必要がない。
  2. ソフトウェアの共同制作が自治体間で行える。
  3. サーバーを個々の自治体が持つ必要がない。
一方、デメリットは以下の通りです。
  1. 情報流出、特に個人情報の流出のリスクがある。
  2. 共通化により個々の自治体がオリジナリティーを発揮する機会が減る。
  3. サーバー管理、ソフトウェアの制作が同一の企業となりやすく、個別の企業の影響が大きくなる。又はバージョンアップが企業サイド主導になる。
以上のメリット、デメリットが考えられます。もっとも、東日本大震災を目にした今、自治体が個別で庁舎等にデータを保管し、管理するリスクの方が高まっています。加えて、財政面でも、クラウドを利用した場合、個々の自治体がソフトウェアを作成し、個々のサーバーで管理するよりも劇的にそのコストは削減できるのは確実であり、メリットは大きいでしょう。
私自身も、既にリスクを感じており、作成したドキュメントやデータをクラウドのストレージサービスで保存する割合を増やしているところです。巨大地震以前に、個人が直面するリスクとしては、火災・盗難・洪水などがあります。社会全体にとって、この損失はとっても小さいものなのかもしれませんが、大切である思い出の写真や文章を喪失することは個々人にとっては多大な打撃となります。昨年の夏、生活の本拠地を台風が襲い、避難警報が発令されたことを経験したばかりです。データ喪失のリスクは日々高まっていると感じています。
ここで、ブログを作成する際の私のフローチャートを紹介します。私の家では、Macとウィンドウズの2つのシステムが共存します。LAN上に存在するハードディスクでデータを共有することもできますが、クラウドに慣れるという意味で、マイクロソフト社で提供する無料のクラウドサービスSkyDriveを使ってデータの編集、共有を行っています。そして、最終原稿が出来上がった段階で、SkyDriveからデータをダウンロード、グーグルのBloggerにブログをアップします。直接、グーグルのBloggerを使用し、ドキュメントを作成するケースの方が多いのですが、図表作成は、どうしてもオフィスツールで作成する必要があります(注)。SkyDriveには主にエクセルやパワーポイントのデータがアップされている状態です。SkyDriveのデータは、スマートフォンを使用して、出先でもデータの参照ができますので便利です。もっとも、セキュリティーの面で難あり判断しており、個人情報は一切クラウドにはアップしていないのが実情でしょう。
(注)GoogleDocsは利用していますが、現在のところきめの細かい作業ができないからです。私が知っている限りは、スマートフォンではSkyDriveのドキュメントの編集ができないため、出先でのドキュメント作成はもっぱらGoogleDocsを使用しています。もっとも、マイクロソフト社が提供するウィンドウズフォンのアプリは編集可能かもしれませんが、私はウィンドウズフォンを持っていませんので現時点で確認できません。

2012年3月4日日曜日

続く所得の減少

久しぶりに家計調査をチェックしてみました。ここ数年、名目GDPの増加するケースが少なくなっています。2011年第3四半期で、実質GDPが509兆円であるのに対して、名目GDPは469兆円にとどまっており、その差(ギャップ)は40兆円にも達しています。名目GDPは、2007年の513兆円のピークとの比較で8.5%も減少しています。名目GDPが減少している中で、名目の所得額を伸ばすということは厳しく、家計調査にもそのことが現れています。
家計調査とは、総務省が行っている調査で全4,700万世帯から約9,000世帯を抽出し、収入・支出など家計の実態を把握するためのサンプル調査です。2002年からは家計の貯蓄や負債も調査対象となっています。右図は、家計の年間収入、貯蓄・負債現在額、純貯蓄の推移を表しています。平均値ですが、2002年に748万円あった年間収入が、2010年には697万円と減少していることがわかります。家計調査にはややくせが統計であるといわれていますが、家計調査からも所得の減少傾向をはっきり読み取ることができます。
 ここで、注目したいのが、純貯蓄がマイナスとなっている点です。これは、グラフのデータが平均値をとっていることに起因するものです。つまり、年間収入額等の世帯別の分布は、収入額等が少ない方の世帯の絶対数が多く、平均値が上へ振れることによるものです。図示すれば右図のようになります。この平均値の性格を踏まえた上で、貯蓄現在額と負債現在額から次のことが推測されます。つまり、年間収入が少ない世帯ほど、収入に比して貯蓄額が少なく、逆に収入に比した負債額が多くなっているということです。そして、これを裏付けるのが次の図です。
図は、年間収入五分位階級別貯蓄・負債現在額を示したものです。これは、年間収入の額に応じて下位から5つの階級に分け、5つの階級ごとの平均値を出したものです。このデータでは、それぞれ階級ごとに平均値が算出されていることから、純貯蓄もマイナスになっていないことがわかります。因みに、対象とするデータは上記のものと同じですが、取り扱いによってこれだけの違いが生じるのです。これは統計を扱うときは、常に統計ごとの「クセ」を知っておく必要があることを端的に示しています。
そういえば、「平均」といえば、最近、日本数学会が実施した「大学生数学基本調査」が話題になり、NHKでも報じられました。小学校6年生で習う「平均」の考え方を習う問題を4分の1もの大学生が間違えたそうです。同学会の理事長は、いわゆる「ゆとり教育」や学力試験を課さない推薦入試が増加したことが背景にあると指摘しています。英語教育ばかりに力が入り、論理的に物事を理解するツールをないがしろにした結果です。

2012年3月3日土曜日

把握しにくいブラジル経済

経済成長が著しかったブラジル経済がここのところ成長率が鈍化しているようです。具体的なブラジルの経済動向を知ることは、米国やヨーロッパとは比較ならないくらいデータ量が少なく、中国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった国と比較してもかなり難しい作業です。
 米国経済にやや明るい兆しがあり、今後の動向がやや楽観視されつつあります。それを受けてか、ダウ平均もリーマンショック以降の株価を更新したようです。こうした中で、ブラジルの経済もとっくに前に底入れしているものと、私は思い込んでいました。しかし、実際にデータを調べてみると、2011年の第3四半期に経済成長率は2.1%まで鈍化する一方で、消費者物価は7.3%にまで上昇しており、ブラジル政府は、難しい経済運営に迫られていることが判明しました。上図は2008年以降のブラジルの実質経済成長率と消費者物価指数の上昇率を示したものです。低成長となっている中での物価の上昇であり、スタグフレーションの様相を呈しています。期近での物価上昇率はやや低下し、2011年12月では6.5%となっていますが、厳しい状況は本質的には変わっていないと思われます。
ブラジル経済に関するデータが少ない中でも、私は、ブラジルの代表的な株価指数であるBOVESPAだけは、ブルームバーグのホームページにて日々の上げ下げをチェックしています。ここ1年間では2011年4月につけた70,000ポイントを高値に、その後、同年8月に50,000ポイントを下回るまで急落したこと、期近では65,000ポイントを上回るまで回復してきたことを知っています。もっとも、ここで問題になるのが、ブラジルのレアル相場です。一体どの当たりで推移しているのかが全くわからず、日々データをチェックする術を持ち合わせていないのが実情です。オーストラリアやニュージーランドといった国は、ブラジル経済と比較にならないほどの経済規模ですが、それぞれの通貨建てでのMMFは一般的な存在であり、誰もが両国の通貨の推移を簡単に知ることができます。
そこで、私がよく利用しているのが、HSBCの上場投信の基準価格です。データを追っているのは、ブラジルオープンという投資信託で、私の頭の中には、同投信の基準価額が2010年に12,000円当たりで推移、その後、8,000円当たりまで下落しているというイメージがあります。もっとも、期近ではやや回復傾向を示しており、それは株価指数であるBOVESPAの回復とレアル高という二つの要因があります。上図は、そのブラジルオープンの基準価格と純資産の推移を示しています。私は、BOVESPAの推移から、期近での基準価格の上昇は、レアル高というよりも、BOVESPAの上昇による要因が大きいものと考えています。仮に、リオのオリンピックを前に、ブラジル経済が不測の事態を迎えれば、株価が急落するとともに、レアル相場も下落する可能性も十分にあり、引き続き、BOVESPAとHSBCのブラジルオープンの基準価額を追っていくつもりです。