2012年6月30日土曜日

非正規労働者の把握へ、労働力調査の調査方法の変更

正規・非正規という雇用の二重構造が問題になっています。そこで、非正規の雇用者数を把握するため、総務省の労働力調査の調査方法が変更されるそうです。現行の調査では、雇用の契約期間でもって、1ヵ月未満(日雇い)、1ヵ月以上1年以下(臨時雇い)、それ以外(常雇)の3つのカテゴリーに分けられています。しかし、今までの調査方法では、常雇のうち、有期雇用者なのか、無期雇用者なのかの区別がつかないという問題点がありました。非正規雇用者数の正確な把握のため、2013年1月調査より「常雇」を、有期と無期に分類、より詳細なデータが得られることとなります。
非正規雇用の実態が一般に広く認識されていたならば、リーマン・ショック後の非正規雇用者の解雇(いわゆる派遣切りなど)が社会問題化する事態は避けられたと思います。調査方法は良い方向への変更ですので、歓迎するべきですが、やや遅かった気がします。小泉改革の元、2004年3月から始まった製造業への派遣が可能となりました。現時点で考えれば、結果として企業も沈没、労働者も沈没したのが実態です。
ここで、わが国に根付く長期雇用制度が守られていたのならば、国民の大多数が、将来への希望を失うことなく、安定した消費活動に邁進、国内需要がショック・アブソーバーの役割を果たしていたかもしれません。結果は結果ですので、受け止めることしかできないのが実際の雇用情勢だといえます。上表は、厚生労働省・都道府県労働局作成の『改正労働者派遣法の概要』の一部です。確かに、2004年3月1日から製造業への派遣労働が可能にになったようです。今日は、2012年6月10日付山陽新聞朝刊からの引用です。記事のタイトルは『非正規労働、詳細に調査、来年から総務省、雇用政策へ反映』です。以下引用文。
『パートや契約社員といった非正規労働者の就労実態を正確につかもうと、総務省が毎月実施している「労働力調査」の非正規に関する調査項目を来年1月から詳しくすることが9日、分かった。
非正規は労働者の3分の1に膨れ上がり、不安定雇用や低水準賃金が問題となっているが、実態の把握が不十分との指摘があった。政府として調査を重点化し、雇用政策への反映を狙う』
若者の雇用が社会問題化している中で、高齢者を対象とした雇用制度の拡充が行われました。2012年3月22日付『数字より厳しい若者の雇用環境』のブログの中で、政府がようやく若者の雇用対策について本格的な対策を打ち出した旨記述しました。対策が後手に回っている気がします。消費税、原発再稼働、財政赤字、そして雇用など様々な方面で、政府による早急な対策が求められています。東日本大震災が起こって、既に1年3ヵ月も経ちました。その間、政府により解決しなければならない問題が山積しています。内容はともかく、素早い行動こそが悪化を招かない共通した問題解決法であるということを政府関係者はもっと認識するべきです。

2012年6月29日金曜日

製造業をも支配するコンビニ3強の影響力

私は、コンビニエンスストア(以下コンビニ)の中では、ファミリーマートの利用頻度が圧倒的に多い。ファミマは、会社の通勤コースにあったり、近所にあるから利用しているのではなく、実はTUTAYAのTポイントを集めていることが本当の目的です。やや企業戦略にのせられている感は否めませんが、Tポイントが最終的にANAのマイレージに移行できるから貯めているのです。毎年、北海道に行き、写真撮影、トレッキング、そして登山ができるのは、実はTUTAYAのTポイントとファミマのおかげです。また、値段はやや高いものの、大型店舗に行くよりも、気軽に商品を手にすることができるコンビニは、家計の必需品を購入する役目のない私にとって、食品、飲料品、日用品の最大の購入先です。利便性がより一層高まれば、私のライフスタイルにはプラスとなります。
大型店舗の業績が伸び悩んでいる一方で、コンビニの売上高が着実に伸びています。右図は、経済産業省発表の大型小売店とコンビニの売上高の推移を示したものです。コンビニの売上高は、大型小売店の半分以下に留まっているものの、増加基調にあり、コンビニのシェアは、今後より一層高まることが予想されます。デフレ経済の進行とは事情は異なり、コンビニの伸張は、消費者が求めているのは価格だけではなく、やはり利便性の向上も成長には不可欠であることが伺える結果となっています。
こうした中で、食品メーカーなどにもプライベートブランドの製造が迫られるなど、コンビにの影響力が高まっています。この点に関して『週刊ダイヤモンド』2012年6月16日号に記述している記事がありましたので紹介します。記事の題目は『コンビニストアは三強へ、大手メーカーもPB生産応諾、差別化戦略では勝ち切れない』です。以下引用文。
『「昨年、流れが大きく変わった。従来抵抗してきた上位メーカーがいっせいにプライベートブランド(PB)生産に前向きになった」と大手食品メーカーの経営幹部が苦々しく語る。
「安くて、利益率が低いPBは本来やりたくないが、ウチがやらなければ、他社が生産する」「やれば、ウチのナショナルブランド(NB)商品の取り扱いで配慮があるはず」との思いから、大手メーカーもPB生産比率の比重を増やした。
上位メーカーを動かしたのは、コンビニエンスストア大手のPB強化策だ。(パート2で言及した)セブン-イレブンの他、ローソンやファミリーマートが2年ほど前からPB強化を加速した。ローソンは一昨年7月、既存のPB「バリューライン」に加えて新PB「ローソンセレクト」を投入。昨年11月には食パンや牛乳など、鮮度を問われる分野にも拡大した。消費者がスーパーで買っていた商品領域で、購買間隔の長いものから短いものへとPBの範囲を広げている』
上記記事は、コンビニといえども価格競争は無視できなくなっていることを示しています。さらなるシェアの拡大によりメーカーへの影響力は高まることが予想されます。
 私がファミリーマートを利用しているのは、ポイントのゲットが主な目的ですが、コンビニ大手は、一般の消費者をターゲットにした購買間隔の短いものへと商品をシフトしています。価格競争でも優位に立ちスーパーなどが特異とした分野でも着実に存在感を増しているのが、今のコンビニです。そして、スーパーが得意とし、購買間隔が短い典型的な商品とは、生鮮野菜です。この分野にいち早く進出したローソンが話題となりました。それを追撃するかのようにセブン-イレブンでも同分野を強化しています。上図はコンビニ大手の地域別のシェアを示しています。数年前までは、私が住む岡山県にはセブン-イレブンは全く存在していませんでした。しかし、同県西部に同社の流通拠点ができてから店舗網が一挙に拡大、中国地方でも王者セブン-イレブンが37%ものシェアを獲得しています。また、同社の企業戦略を示す徹底さを表しているのが、四国でのシェアです。同社は四国には進出していないのです。
 1社独占というのは消費者にとって望ましくないです。しかし、3社程度が激しい競争をしている状況が続けば、消費者が享受できる利益は大きくなります。

2012年6月28日木曜日

部品で稼ぐコマツの強さ

米アップル社にあって、日本のパナソニックにないものといえば、製品そのものからの利益だけではなく、販売した製品から派生するサービス提供からの利益があるということです。これは言わずも知れたiTunesという音楽配信サービスを指しています。製品を販売するという行為以外から得られる利益であり、むしろ製品販売自体から得られる利益よりも安定しています。やや空回りという点は否めませんが、ソニーも、ゲーム、音楽や映画などのコンテンツサービスを提供しており、アップルと似たビジネスモデルを展開できる可能性を秘めた国内でも数少ない企業の一つであるといえます。
メーカーは、製品の販売だけでは、販売で得られた収入だけで終わってしまい、連続したヒット製品がなかった場合は、業績は不安定化することとなります。これこそが、メーカーの厳しさです。今年は良かったかもしれませんが、同業他社がヒット製品の開発に成功するなどすれば、来年も同様の業績が得られるかどうかは保証されていません。こうしたメーカーの厳しい環境の中で、安定した収益源を持っているのが、建機メーカーのコマツです。コマツの事業展開は素晴らしく、いまや世界各地で同社が製造した建機や鉱山機械が活躍しています。
 そして、コマツの利益の源泉として注目されているのが、部品の売上高です。建機や鉱山機械などは過酷な環境で使用されています。その分、部品の摩耗は激しく、販売した後に提供される部品供給の価格が本体価格を大きく上回るケースが多く、これが安定した利益をもたらしているようです。もっとも、このために部品を供給するチャネルがしっかりしている必要があり、同社はそれ相応の努力はしてきたと思われます。今日は、2012年6月14日付日本経済新聞朝刊のコマツに関する記事を紹介します。記事の題目は『コマツ、部品で3割稼ぐ』です。以下引用文。
『コマツは2013年3月期に連結営業利益の3割程度を交換用部品で稼ぐ見通しだ。建設機械や鉱山機械の稼働台数の増加に伴い、需要拡大が続く。今期の部品売上高は前期比16%増の3680億円と、前期に続いて過去最高を見込む。景気などの影響を受ける機械本体に比べ安定しており、収益の景気変動への抵抗力を高めそうだ。
建機は年1000〜3000時間、鉱山機械は年5000時間程度も稼働するため、新車でも数年で部品の交換需要が発生する。フィルター、油圧機器など取り扱う品目も多様だ。
伸びが大きいのは鉱山機械向け。資源価格が上昇した2000年代半ばから本体の稼働台数が急増し、続々と部品の交換時期を迎えるためだ。
鉱山機械は稼働時間が長いうえ部品単価も高く、稼働期間中に本体と同程度か約2倍の部品売上高が見込める。今期の部品売上高のうち、鉱山機械向けは29%増の2035億円と全体の55%を占める』
コマツは、引き続き安定収入を得ることになり、今後業績が上向くことが期待されます。右図は、同社の鉱山機械部門の売上高と売上高全体に占める鉱山機械の占める割合を示したものです。このグラフで注目されるのは、鉱山機械向けの部品の売上高の推移です。部品の売上高は、景気変動に関係なく増加しており、2013年3月期決算では鉱山機械の売上高の3割を占めるまでに達すると予想しています。確かに、リーマン・ショック後、本体・サービスの売上高が大きく減少している中でも、部品の売上高は着実に増加しており、収益の柱となっていることが分かります。
 コマツのように安定した収益源を持っている企業にキャノンがあります。プリンター事業は、ペーパーレスの流れがあるため、将来的には不透明感はあります。しかし、リーマン・ショック後、多くのメーカーが赤字決算となる中で、利益を出し続けた同社は、トナーやインクなど消耗品に安定した需要があり、粗利益率が高い理由にもなっています。製品の販売だけではなく、それから派生するサービスから得られる利益の方が大きいという企業構造を持つことこそが、日本のメーカーに求められるビジネスモデルではないでしょうか。

2012年6月27日水曜日

加熱するタブレット市場、グーグル、マイクロソフト参入

私は、初代iPadを持っています。もっとも、購入当初はiPadの使用頻度は低く、外出時はiPhoneを、家ではWi-Fiに接続したiPod Touchを主に使用、iPadは埃をかぶるという状態が長く続いていました。iPadよりも、iPhone、iPod Touchの方が手軽にWebを検索することができ、一方で、複雑な処理はパソコンにまかせた方が楽であり、iPadの購入後、しばらくの間、タブレット端末は中途半端な存在としか認識していませんでした。
 しかし、その流れが変わったのが、Huluによる映画、ドラマのストリーミングサービスがiPadでも利用できるようになった時です。サービス開始後は、Huluの映像コンテンツをiPadで視聴することに完全にはまるというライフスタイルとなりました。実際は、それも長続きせず、ソニーのブラビアでもHuluのコンテンツが視聴できるようになってからは、iPadの利用頻度は再び低下、やはりドラマや映画はテレビで視聴する方が楽だということに気付きました。それでも、テレビが占拠されている時は、iPadでHuluのコンテンツを視聴することは今でも多々あります。
 そして、私のライフスタイルの中で、再びiPadの利用頻度が高まっています。実は、このブログを作成する際に利用している官公庁のデータは、当初はパソコンへとPDFファイルをダウンロード、1台のパソコンで画面を切り替えながらデータをチェックしていました。画面を切り替える作業は大変で、パソコン2台を立ち上げることもありました。ところが、PDFファイルとiPadの相性は実によく、iBooksにPDFファイルをダウンロードして、パソコンの横にiPadを置き、データをチェックすることが一番楽であることに気付き、それからはiPadは主にPDFファイルをみるための端末として活用しています。
 ここへきて、IT業界の巨人たちがついに動きました。先日のマイクロソフトの「サーフェス」に続き、グーグルもタブレット端末市場に自社ブランドで参入する観測が出ているようです。2012年6月27日付日本経済新聞夕刊にグーグルの自社タブレットに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『米グーグルも追随観測、自社タブレット、米メディア報道』です。以下引用文。
 『インターネット検索最大手の米グーグルが自社ブランドのタブレット(多機能携帯端末)を投入するとの観測が出ている。米ダウ・ジョーンズ通信が26日報じた。携帯機器用の基本ソフト「アンドロイド」などの最新版を発表するとみられる27日の開発者会議で、アップルへの対抗策として発表する可能性があるとしている』
 グーグルは危険な賭けに出たようです。これは、アンドロイドの端末を製造しているメーカーを圧迫すること示しており、利益につながらないフリーでのOS配布には限界が出てきているのかもしれません。右図は、タブレット端末のOS別のシェアを示しています。スマートフォンではアップルを圧倒しているものの、タブレット端末の市場では、まだまだアップルに一日の長があります。特に、グーグルの直接的な競争相手であるフェイスブックが、アップルのiOSの次期バージョンで連携可能となることで、グーグルは自らが端末を製造するまで追い込まれているのかもしれません。しかし、グーグルの開発力はなかなかであり、タブレット端末の選択肢が増えることは消費者にとって望ましい状況でしょう。
 前後しますが、アップルに出遅れていたマイクロソフトもで自らが手掛けたタブレット端末を年内に売り出します。マイクロソフトのタブレット端末「サーフェス」に関する記事が2012年6月24日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『マイクロソフト、端末自社開発、ソフトの巨人もジョブズ流』です。以下引用文。
 『米マイクロソフトが30年以上守ってきた事業モデルの転換を決めた。ソフト開発に専念する手法を改め、ハード(機器)も自らが手掛けたタブレット(多機能携帯端末)を年内に売り出す。世界のIT(情報技術)需要をけん引する主役として、個人ユーザーが台頭する構造変化がソフトの巨人の背中を押した。「手本」は宿敵アップルの事業モデルだ
右の写真は、年内に発売予定のマイクロソフトのタブレットです。この端末について調べていて驚いたのは、OSにARMに対応したfor Windows RTとインテルCoreに対応したfor Windows8 Proがあり、ついにインテルがタブレットへと進出することが判明したことです。店頭にiPad、「サーフェス」、そしてグーグル製のタブレットが並ぶのが、今から待ち遠しいところですね。

2012年6月26日火曜日

違いがある消費者物価指数、全国と東京都区部

私が経済学をよく勉強していた頃、つまりパソコンがやっと一般の人々の間で使用され始めた頃のことですが、消費者物価指数に関して、(特にパソコンなど)製品の著しい品質向上が織り込まれていないという問題がありました。その時、ヘドニック法という聞き慣れないアプローチでもって品質向上を消費者物価指数に反映させるというレポートを読んだことがあります。それから10年以上たった今、消費者物価指数がどのように変わったか全く把握していませんでした。今日、たまたま総務省統計局のホームページに掲載されているQ&Aを読んでいましたら、このヘドニック法が消費者物価指数に採用されていることを初めて知りました。このヘドニック法に関して回答している部分が総務省統計局のホームページにありましたので紹介します。以下引用文。
 『ヘドニック法とは品質調整に用いられる方法のひとつで、各製品の品質がこれを構成する複数の特性(性能)に分解でき、価格は性能によって決定されると考え、これらの諸特性(例えば、パソコンならHDD記憶容量、メモリ容量、バンドルソフトの有無など)と各製品の価格との関係を、重回帰分析という統計的手法で解析することにより、製品間の価格差のうち品質に起因する部分を計量的に把握しようとする手法です。 消費者物価指数では、品質向上が著しく製品サイクルが極めて短いバソコン及びデジタルカメラについて、品質調整済みの価格変動をヘドニック法により直接求める方法を採用しています。なお、より客観的で信頼度の高い重回帰分析を行うためは、多数の製品についての大量の価格、数量及び特性に関する情報が必要となるため、これらのヘドニック法の適用に当たってはPOS情報を用いています』
パソコンの性能向上及び市場規模はほぼ飽和状態となっており、今後はスマートフォンやタブレット端末が主役となるでしょう。消費者物価指数は、これらの価格をどのように捉えていくかが問題となるといえます。スマホの価格は、本体価格が通信量に含まれるなどして、実質無料などのキャンペーンもあり、加えて複雑な料金体系などもあって直感的に理解できないところが多々あります。パソコンなどで使用されたヘドニック法などのアプローチがそのまま適用できるかどうかはやや疑問が残ります。新たな手法の開発が求められるところです。
今日は、消費者物価指数に関して、2012年6月25日付日本経済新聞朝刊に面白い記事が掲載されていましたので紹介します。東京の一人勝ちというイメージが強かったので、全国ベースで物価が上げ基調にある中で、東京都区部だけが下落しているとは信じがたい事実です。記事の題目は『脱デフレ、東京出遅れ、全国と逆に物価下落が続く』です。以下引用文。
『全国の消費者物価の上昇基調とは対照的に、東京の物価の下落に歯止めがかからない。生鮮食品を除く全国の物価指数は4月まで3ヵ月連続で前年同月を上回ったが、東京都区部に限ると2009年5月から3年間もマイナスが続く。食料品や住宅関連、家電などで全国よりも下落の圧力が強い。東京は販売競争が激しく、価格を上げにくいことが背景にありそうだ』
この記事に特に興味を持ったのは、人口1万人当たりの売り場面積を比べている部分です。何と、東京は全国の7.8倍にも上るそうで、東京で行われている競争が激烈であることがよく理解できます。これは、観光客や外国人ビジネスマンなど外部からの需要がなければ維持できない水準であるといえます。
そこで、東京の物価下落に歯止めがかからない原因には、世界的なマネーの萎縮があるのではないかと考えました。アイスランド、アイルランド、イギリス、米国など金融セクターの比率が高い国々は、世界でも景気後退や財政悪化が著しいことに共通点があります。日本の金融の中心である東京こそ、リーマン・ショックのダメージが大きかったのでないでしょうか。詳しくデータを調べる必要がありますが、世界各地で銀行の経営が行き詰まっていることを考えれば、地方経済と比べて、金融セクターの比率が高い東京へのマイナスの影響は必然的に大きいといえます。
 右図は、2007年以降の消費者物価指数・総合の前年同月比の推移を、東京都区部と全国別に表したものです。08年に物価が大きく上昇しているのは、世界的な資源高に加え、円安が進行していたことに原因があります。その後、09年に底をうってからはマイナス幅が急速に縮小、全国では4ヵ月間連続のプラスとなっています。一方、東京都区部は逆にマイナス幅が拡大するという結果となっており、同地域の厳しさを反映しているといえます。東京都区部のデータが速報値であること、全国の2012年5月のデータが発表されていない点もありますが、今後の動向が気になるところです。

2012年6月25日月曜日

輸出拠点として見直される米国

米国が輸出拠点として見直されています。この点については、ブログでも何度か書きましたが、この背景には、ドル安により賃金水準が十分に低下、加えて政治的にも安定している上、人口が増加していることにより労働力が確保しやすいなどの要因があります。また、米国の政治的な力は、依然として絶大であり、この力を利用し、政治的に日本から輸出が国難な国にも輸出することが可能となり、日本企業が生産拠点を設ける動きはよく理解できます。
右図は、米ドルの対円、対ユーロ相場の推移を示したものです。米ドルの水準を直感的に把握しやすくするため、グラフは、ともに米ドルからみて外国通貨建てで表示しています(注)。つまり、グラフは下にいくほどドルは安いということ意味します。円相場については、2002年の1米ドル=135円前後から80円台前後まで一挙に下落しました。一方、米ドルの対ユーロ相場はどうでしょうか。ユーロ発足間もない2001年頃に1米ドル=1.20ユーロから0.8ユーロ近くまで低下しています。もっとも、米ドルの対ユーロ相場の安値は、2008年の1ドル=0.6ユーロ強という水準であるため、対ユーロでは米ドルはやや持ち直しているといえます。しかし、長期的なトレンドでは、米ドルは両通貨に対して大きく減価していると考えられます。
このドル安を背景に、米国の輸出や鉱工業生産の水準はどうなっているのでしょうか。右図は、米国の財・サービスの輸出と鉱工業生産指数(2007年=100)の推移を示しています。輸出は、リーマン・ショック後の2009年に大きく減少していますが、その後回復、2011年には2008年の水準を上回っています。そして、この輸出に見事に連動するように、鉱工業生産指数が変動しています。期近の2012年4月のデータでは97.4 ポイントまで回復しており、米国の製造業は2007年の生産水準にまでほぼ回復しているといえます。
 こうした中で、日本企業の中で輸出拠点としての米国を見直す動きがみられます。2012年6月24日付日本経済新聞朝刊に『ホンダ、米を輸出拠点』という記事が掲載されていましたので紹介します。以下引用文。
 『ホンダは米国からの輸出を拡大する。ドル安傾向が続いていることを背景に東南アジアへの輸出を始めたほか、中国、中東向けも増やす。2017年にも北米からの乗用車輸出を現在の約5倍の15万台程度に増やし日本並みにする。トヨタ自動車や三菱自動車も米国からの輸出を増やす計画で、工作機械大手の森精機製作所は韓国、台湾へ輸出を始める。各社は米国で生産能力を拡大しており、日本を軸とした供給体制を見直す動きが広がってきた』
このほか、ヤマザキマザック、三菱重工業、クラレ、キャノンなども米国からの輸出を増やす計画であり、輸出拠点としての米国が見直されています。この生産拡大で影響を受けるのは、日本国内で生産です。国際化により企業は生き残りますが、結果として日本国内は空洞化、製造業に従事する労働者は減少を続けることが予想されます。
(注)米ドルの対ユーロ相場は、通常他国通貨建てが馴染みがありますが、直感的に理解しやすいため、米ドルからみて自国通貨建てとしました。因に、外国通貨建てで示した米ドルの対ユーロ相場は、2012年6月22日現在で1ユーロ=1.25ドル前後です。

2012年6月24日日曜日

モリブデン確保に向け、三菱UFJが融資

ここへきて、大手金融機関の活躍が目立ってきています。先日も天然ガスの確保に向けてイスラム金融に従った融資を実行する旨ブログで書きました。また、アジア・太平洋諸国での貿易金融でも日本の金融機関のシェアが高まっています。欧米の金融機関が、債務危機など苦しみ、動きがとられないところで、市場から資金を調達せず、地道に預金を集めている日本の金融機関は存在感を増しています。日本国債を購入するチャネルは郵貯銀行に任せて、大手金融機関などは新たな市場開拓に向けたビジネス展開が求められるところです。
今日は、レアメタルの一つであるモリブデンの安定確保に向けた動きです。モリブデンという金属が、銅の副産物として産出されることを、以前、NHKの報道番組で観たことがあります。その番組では、日本の商社マンがモンゴルの採掘現場にまで赴き、銅鉱山の状況を把握、モリブデンがどの程度存在するかを自分の目で確認している姿に感動しました。日本の金融マンもここまでできれば、邦銀の世界でのプレゼンスはさらに高まると思います。とろこで、モリブデンとは何かという疑問があります。ここで、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構作成の『鉱物資源マテリアルフロー2010』からモリブデンに関する説明文を引用します。以下引用文。
『モリブデンの主な用途は、ステンレス鋼、特殊鋼の合金添加剤である。合金添加剤市場は、ステンレス鋼、特殊鋼の需要に連動して変化する。触媒として石油化学や環境機器等にも使用されている。高温強度、耐熱等の特性からモリブデン合金、特殊合金は、耐熱性、熱伝導性などの特徴を有し、液晶パネル用ターゲット材、パワーデバイス用放熱板など電子機器の増加に連動して成長している。二硫化モリブデンの特徴を生かしたエンジンオイル添加剤など、潤滑剤、無機薬品などは大きな変動がないと見られている』
やや分かりにく言葉が連続するため、理解できない点もありますが、要はモリブデンの用途は幅広いということです。右図は、モリブデン鉱石の生産量の推移を示しています。図からは、2007年から米国を抜いて、中国がトップになり、その差は広がっていることが読み取れます。中国は、2つの意味でモリブデンの生産量が増大していると考えられます。一つは、自動車の販売台数が世界トップとなり、ステンレス鋼の需要自体が増加しているためです。もう一つは、インフラ整備のため、産業の血管ともいわれる銅の需要が爆発的に増加、結果として副産物であるモリブデンが産出量も同様に増加しているためです。わが国は、中国に鋼材を輸出していることから、中国へと流入しているモリブデンの量はさらに増加することとなります。
そして、このモリブデン確保のため、日本の金融機関が動いている旨記述している記事が2012年6月1日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『三菱UFJ、チリ銅公社に250億円、レアメタル確保へ融資』です。以下引用文。
『三菱東京UFJ銀行はチリ銅公社に対し、日本企業へのレアメタル(希少金属)供給を条件に融資する。総額3.2億ドル(約250億円)の融資に先立ち、JFEスチールや新日本製鉄など9社がステンレス鋼などの製造に必要なレアメタル、モリブデンを銅公社から長期間輸入する契約を結ぶ。融資をテコに新興国との獲得競争が強まるレアメタルを安定的に確保しやすくする』
バブル崩壊後、日本経済の足を引っ張るばかりの金融機関が、資源高騰と安定確保に苦しんでいる日本のメーカーを助けることができることは喜ばしです。モリブデン以外にもレアメタルは多くあります。また、デジタル機器の生産に不可欠なレアアースの確保にも、同様に力を発揮すれば、製造業に日本にとどまるメリットを再認識させ、空洞化にストップをかけることができるかもしれません。

2012年6月23日土曜日

相次ぐ格下げ、続く欧米金融機関の危機

ギリシャ問題が根本的に解決したとはいえませんが、再選挙の結果が、欧州債務危機の拡大に一定の歯止めがかかることが期待されるものとなりました。ギリシャ国民は、緊縮財政を継続的に進め、ユーロから離脱しないと主張する新民主主義党(ND)を支持、スペインへと危機の連鎖を当面回避する上で、一つ目の課題をクリアしたといえるでしょう。今後は、財政緊縮派での連立政権が速やかに発足、内閣が正常に機能することが望まれるところです。これで株価が安定的に推移、今後上昇することが予想されたのですが、米格付け会社ムーディーズによる欧米金融機関15社の格下げの発表により再び混沌としてきました。発表を受けて2012年6月21日のニューヨークダウ平均(ダウ・ジョーンズ工業株30種平均)は前日比250ドル超の下落、引き続き欧米の金融危機は進行中であり、抜本的な解決には長い時間を要することを思い知らされました。
 2012年6月22日付日本経済新聞夕刊に、この格下げに関する記事が掲載されていましたので紹介します。ムーディーズの各付けではBa1からが投資不適格となります。ギリシャ、スペイン、そしてイタリアの銀行の相次ぎ格付けが引き下げられ、投資不適格となるなどして注目されていましたが、同記事によりバンク・オブ・アメリカ、シティグループも一歩手前まで来ていることを強く認識させられました。記事の題目は『米ムーディーズ、欧米金融15社格下げ』です。以下引用文。
『【ニューヨーク=西村博之】米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは21日、米モルガン・スタンレーやシティグループなど世界の15大手金融機関の格付けを一斉に引き下げた。欧州危機や世界景気の減速、規制強化の動きを踏まえた見直し。金融機関の資金調達コストが上昇する可能性があり、企業や個人向け融資などにも影響が及ぶ懸念がある。
 格下げ対象となったのは国際資本市場で活動する米欧やカナダの銀行と証券会社。ムーディーズは全社が「資本市場での活動に絡んだ重大な価格変動や損失リスクにさらされている」と指摘した。1段階格下げが4社、2段階が10社、3段階が1社あった
 この記事で日本に関連する部分は2つありました。1つは米モルガン・スタンレーに出資している三菱UFJフィナンシャル・グループです。リーマン・ショック直後は優先株で出資、連結の対象にはなっていなかったのですが、2011年4月頃に優先株を普通株に転換し、連結の対象となったようです。米モルガン・スタンレーには欧州の金融機関に対するCDSや保証債務があるはずです。普通株への転換により三菱UFJは、欧州債務のリスクを取り込むという結果となりました。もう1つは、野村證券の件です。3月の発表で野村證券の格付けがBaa3と投資適格の最下位にまで引き下げられており、後がないところまできています。ここのところ、インサイダー取引など不正に同社の社員がことごとく絡むなど、社内の士気が落ちていることがうかがえます。野村證券も破綻したリーマン・ブラザーズの欧州部門を買収したものの、収益に貢献しないという結果となっています。三菱UFJ、野村證券とも日本を代表する金融機関です。両社の早急な回復に期待したところです。
 ここで、米金融機関大手5社の株価の推移をみてみます。右図は、2008年1月末の株価を100として、データを指数化したものです。ムーディーズの今回の格付けの引き下げにより、右図で挙げた5社の格付けの水準と、リーマン・ショック後からの株価の回復度合いは完全に一致しています。特に、シティグループの株価は深刻であり、10分の1にまで下落していることが分かります。また、三菱UFJの連結対象となっているモルガン・スタンレーの株価も回復の気配はみられず、今後の動向が気になるところです。

2012年6月22日金曜日

消費税率10%でも不足、プライマリーバランスの赤字解消

消費税率の引き上げがなかなか決まりません。6月20日夜に民主、自民、公明3党で、修正合意した消費税関連法案を衆議院に共同提出するまでは良かったのですが、その後、小沢氏を中心としたグループが離党をほのめかすなどの民主党は分裂の様相を呈してきました。そして、民主党は、6月21日までの国会会期を9月8日まで79日間延長することを採択、参議院での審議を念頭に「一定の時間が必要」であると判断したようです(2012年6月21日付朝日新聞朝刊)。
 私は、抜本的な支出のカットできない状況で、国民の負担を一方的に増やす消費税率の引き上げには反対です。しかし、公務員の給与の年俸化や歳出の一律カットなどの削減策が順調に進んだのならば、消費税率の引き上げはやむを得ないと考えています。ところで、ここで問題となるのは、3党で合意された消費税率の引き上げで十分であるか、ということです。2012年6月12日付産経ニュースWeb版に、IMFは15%、軽減税率には否定しているという記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『IMF、日本の消費税15%を提言、軽減税率には否定的』です。以下引用文。
『国際通貨基金(IMF)は12日、日本経済に関する年1回の審査を終え、高齢化社会に対応する安定的な歳入を確保するためには、消費税率を少なくとも15%に引き上げることが望ましいとの声明を発表した。
 消費税増税に伴う低所得者の負担軽減策として、食料品などを対象に軽減税率を採用すれば「税収を効率的に増やすことは難しい」と指摘し、否定的な考えを示した。 また、消費税率を10%まで引き上げることを含む社会保障と税の一体改革の関連法案の成立が「財政再建の意志を示し、投資家の信頼を維持するために極めて重要」とも強調した』
確かに、IMFが指摘するように食品などに対する軽減税率は適用しない方がいいかもしれません。なぜなら、20年もの長期間、デフレ経済に苦しんできた日本国民にとって節約は慣れたことです。食品の消費税率が低ければ、一斉に外食を止め、自宅での料理へと切り替えることが目に見えています。
また、15%という消費税率には、内閣府発表の『経済財政の中長期試算』(2012年1月24日)にも、裏付けられるデータがありましたので紹介します。上図は、消費税率が2014年4月1日より8%へ、2015年10月1日より10%へと段階的に引き上げられた場合の名目GDPとプライマリーバランス(基礎的財政収支)の推移を示したものです。これには、成長シナリオと慎重シナリオがあって、前者は名目3%成長、実質2%を、後者は名目1%台半ば、実質1%強をそれぞれ想定して試算しています。過去の日本経済と昨今の世界経済の動向を考慮すれば、慎重シナリオを適応するのが無難であり、そうした場合、プライマーバランスの赤字は2023年でも解消せず、名目GDP比率で3%程度の赤字となることが予想されています。名目GDPが500兆円で、3%の赤字ですので、単純に考えて6%程度の消費税率の引き上げが求められるのです。つまり、プライマーバランスを黒字化するには、消費税率は10%ではなく、16%であるということです。私には、上記試算の慎重シナリオでもやや楽観的な感じがします。やや持ち直しているものの、名目GDPは前期比でマイナスになることが多く、継続的に名目GDPが1%半ばの水準で成長し続けるか疑問が残ります。円高は続いており、しかも消費抑制的な税制が強化されるのですから、デフレからの脱却は難しいのが実情です。もっとも、国会に消費税関連法案が提出されたことは大切な最初の一歩です。財政危機回避のためにも、だらだらと議論するのではなく、早急な対応、つまりあとは時間との勝負になってきました。

2012年6月21日木曜日

1000万台生産体制を目指すトヨタ自動車と国内生産の縮小

トヨタ自動車の期末の配当金が支払われました。1株当たり30円となり、これで2011年度決算の年間配当金は50円となりました。リーマン・ショック後に、同社の業績は急速に悪化、それに伴い減配が続いていたのですが、2010年度の年45円と比べて5円の増配であり、業績悪化にある程度の歯止めがついたと思われます。
もっとも、トヨタ自動車の2008年度の配当金は年140円もあったのですから、円高が定着する中で、利益水準はまだまだ回復していないのが実態です。右図はトヨタ自動車の配当金の推移を示したものです。このグラフを見るかぎりでは、今後、一層海外生産比率を高める必要があり、円高への抵抗力アップは同社の課題であるといえます。しかし、従来から国内生産300万台維持を明言しているように、安易に海外生産へと向かう他の企業と異なり、やはりトヨタ自動車の奮闘には勇気づけられるところがあり、同社の行く末が、日本の将来を決めるかもしれません。
 こうした中で、国内の余剰能力を50万台削減し、300万台は維持するものの、海外生産比率を高めるという生産計画が、トヨタ自動車から発表されました。海外での生産拡大はやむを得ない状況であり、体質強化には不可欠であると考えられます。2012年6月20日付日本経済新聞朝刊に同社の生産計画に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『トヨタ、余剰能力50万台減』です。以下引用文。
 『トヨタ自動車は2014年にも国内生産能力を現在より1割強(50万台)少ない310万台に減らす。余剰能力の削減と同時に需要変動に応じて柔軟に生産量を調整できる体制を築き、円高が続く環境でも国内300万台の生産規模を維持する。海外では生産能力を拡大し、15年に1000万台を目指す』
 同社の300万台生産体制へのこだわりは、裾野の広い自動車産業にあって、それを支える国内の生産技術と部品産業の維持が不可欠であるとの認識から出てきており、国内の製造業崩壊への危機意識が背景にあるとしています。上図は、トヨタ自動車の国内・海外の生産実績、海外生産比率の推移と2012年及び2015年の生産計画を示したものです。このグラフをみていると、2006年〜08年の3年間は国内の生産台数は400万台を上回っていたことがわかります。国内経済でデフレが進行し、車離れが進行する中で、輸出にドライブをかけていた時期があったということが読み取れます。残念ながら、円高が定着する中で、海外での生産比率は年々高まっており、2015年の生産計画では70%弱にまで達します。こうしてブログを書いている中でも、日産自動車が国内の車両生産能力を15%削減(年間約20万台)することが発表しました。同社では、削減した生産能力をタイからの輸入で補うとしており、国内空洞化が決定的になろうとしています。
 海外のライバル企業である独フォルクス・ワーゲン(VW)も1000万台を目指しており、日産はともかく、トヨタ自動車にとってはやむを得ない選択であると思います。VW以外にも復活を遂げた米ゼネラルモーターズ、韓国の現代自動車も侮れない存在であり、自動車メーカーは世界市場を舞台にして大手メーカー同士が正面から激突する大競争時代へと突入しました。

2012年6月20日水曜日

大飯原発再稼働と鉄鋼メーカーの発電力

福井県の西川知事と野田首相の間で大飯原発3、4号機の再稼働が合意されました。同原発の再稼働により、中国、中部、北陸での節電要請が解除、関西電力のエリアでも、削減要請が15%→5〜10%へと縮小、今後の原発行政のあり方についてはさておき、当面の電力の安定確保に向け、一歩進んだという印象を受けました。原発を含めた、今後のエネルギー行政については、震災後1年3ヵ月経った今も全く決まっておらず、後手に回っている行政の姿がばかりが目立ちます。しかし、2つの原発を稼働させただけで、3つの地域での節電要請が解除されることからも、原発の能力は大きく、魅力的な電源であったことから、東京電力での失敗は二度と取り戻すことができないことでしょう。
余り原発のことは知りませんが、原発の寿命を40年とした答申が出たようですが、やや疑問が残る結果です。古くなった原発は、システムを立ち上げた当事者が社内に残っていないことから、今回の原発事故につながった点は否定できません。設計図の劣化により、廃炉先進国といわれるドイツでも廃炉に向けた処理には苦戦しているようです。従って、人員のサイクル及び廃炉にかかる時間も考慮した場合、原発の寿命は20年、30年というところが限界ではないでしょうか。
ところで、2012年7月の電力会社別の電気料金が2012年6月17日付山陽新聞朝刊に掲載されていました。原発再稼働が決まったばかりでしたので、興味を持ってみてみました。右表が、一般家庭を対象とした会社別の電気料金で、6月からの引き上げ幅も記載されています。沖縄電力を除いていますが、北海道電力が最低の6,579円で、最も高いのが中国電力の7,321円となっており、742円もの開きがあります。中国電力の6月からの上げ幅も63円と東京電力の90円の次に大きく、節電要請はないものの、電気料金が家計を直撃する実態が明らかになりました。中国電力は、島根原発に関して不正行為があり、2010年度に関しては全く稼働しておらず、もともと原発の比率が低いということは知っていました。結果として、節電要請はないものの、関西電力のエリアへの融通電力を少しでも増やすためにも節電には協力していきたいと思っています。
ところで、原発が全く稼働していない現在、上記電気料金の差はどうして発生するのでしょうか。やや疑問が残ったので、2010年度のデータですが、電力各社別の電源別発電量を調べてみました。右図からいえば、むしろ、原発の比率が低い中国電力の方が電気料金が低くてもいいのではないかとは思います。もっとも、この料金の高さは、火力発電の中で、石油や原油等の比率が高く、LNGの割合が低いことに起因していることが推測されます。これについては詳しく調べる必要があります。しかし、2012年3月期の決算で黒字を出している電力会社は少なく、記憶では中国電力は黒字決算となっていたはずです。ならば、この引き上げ幅にはやや疑問が残るところです。電力会社は、地域の発展を左右します。今後の出方に注目しましょう。
もっとも、電力不足の中で、注目されているのが鉄鋼メーカーの発電能力です。これについて、『週刊東洋経済』2012年6月9日号に記載されていましたので紹介します。記事の題目は『電力不足が追い風、製鉄所発電の実力』です。以下引用文。
『今夏、電力不足が危ぶまれる中、鉄鋼メーカーの発電所に再び注目が集まっている。
6月下旬、新日本製鉄の君津製鉄所内の火力発電所で新たに6号機が稼働する。すでに稼働中の3基と合わせた発電総量は115万キロワットと原発1基分に上る。同発電所は東京電力と折半で設立した共同火力で、発電した半分ずつをそれぞれが使う。
製鉄所では操業過程で大量の副生ガスが発生する。これを有効利用するため発電所を建設、工場で必要となる電力の一部を賄っている。君津や住友金属の鹿島など国内の大規模製鉄所では地元電力会社と折半で共同火力を運営してきた。また、1995年の電気事業法改正後は、火力発電を利用した独立系発電事業(IPP)にも参入。各社がこぞってIPP用の発電所を設立し、電力会社に売電している』
右図は、鉄鋼メーカーの発電力を示したものです。2012年10月には新日鉄と住友金属が合併することから、設立された合併会社が他社を圧倒することとなります。住友金属工業は、震災後、鹿島にある発電所を稼働させ、茨城県全域を賄うほどの電力を供給、東京電力のエリアの電力不足をカバーしたという実績があります。しかし、副生ガスを使うという記述からして、鉄鋼の製造が順調な時に初めて効率的なエネルギー源となるという感があります。鉄鋼メーカーの業績は厳しく、中国の経済成長の鈍化などマイナス要因があります。ここは、鉄鋼メーカーに頑張っていただき、日本の電力事情改善に貢献してほしていと思っています。

2012年6月19日火曜日

通貨高に悩むスイスと日本

ギリシャの再選挙が財政緊縮派の勝利に終わり、円相場が再び円安方向へと転じることが期待されました。しかし、予想に反し、ユーロ相場は1ユーロ=99円59銭(日本時間2012年6月19日午後9時現在)と対円で100円割れの状態となっており、ややがっかりとした感があります。対ドルでも1ドル=78円88銭と円相場の上昇が止まらなくなっています。適正の円相場はどの程度かは分かりませんが、IMFが発表した日本経済に関する報告書では、円相場は中期的な観点からして「幾分過大評価」という認識を示したようです。こうした自国通貨の継続的な上昇に悩まされている国が、もう2つあります。身近な国では中国です。中国は、急速な人民元高が輸出産業に与えるマイナスの影響に配慮、対ドル相場の急激な上昇を回避するため、人民元に対して市場介入を行っています。
そして、もう一つの国は、危機を迎えているヨーロッパ諸国に囲まれる中、自国通貨の存続を選択したスイスです。スイスには、機械製造や時計などに代表される輸出産業があり、日本と同様、経済成長にとって自国通貨高はマイナスに作用すると考えられます。右図は、対円ユーロ、対円スイスフラン、スイスフラン/ユーロの相場を示したものです。2011年9月に、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は1ユーロ=1.20スイスフラン以上のスイスフラン高を阻止するため、無制限の自国通貨売り、ユーロ買いの介入を実施すると宣言しました。その後、スイスフランは、対ユーロでやや下落、1ユーロ=1.20スイスフランのボーダーラインを辛うじて維持しています。しかし、ここへ来て、再びスイスフラン相場に緊張感が出てきているようです。ロイターのWeb版にスイスフランに関する記事が掲載されていましたので紹介します。スイスも自国通貨高に悩まされており、総裁が辞任するなど、そこには同国の中央銀行が四苦八苦している姿が見えてきます。以下引用文。
 『[ベルン 14日 ロイター]スイス国立銀行(中央銀行)は14日、スイスフランの上限として昨年9月6日に設定した1ユーロ=1.20スイスフランの水準を維持することを決めた。外貨を「無制限に」買い入れる準備ができるているとしている。
 中銀は声明で「現在でも依然としてスイスフランは高水準にある。一段の上昇は国内の物価と経済に深刻な影響を与える可能性がある」と指摘。「中銀はこれを容認しない。必要ならば、いつでもさらなる行動に出る準備がある」とした。
 中銀は具体的な行動内容には触れていないが、ジョルダン総裁は最近、ギリシャがユーロを離脱すれば、資本規制などを検討すると明らかにしている』
断固たる態度で徹底的に行動するスイス国立銀行の姿勢は評価できるものの、この無制限の介入はスイス国内で過剰流動性を生み、不動産投機、ひいてはインフレをもたらすなどの弊害が考えられます。また、結果として通貨高を防止できず、さらなる自国通貨高になれば、中央銀行が評価損を抱え、政治問題化することも指摘されています。マイナス面はあるものの、スイスに習って、わが国でも同様に、日本銀行が断固たる決意でもって、円高を抑制する政策が求められるところです。しかし、スイスフランと円では置かれている状況が違います。それは、外貨準備による保有など円は既に国際的な通貨となっており、無用な介入は他国から批判されること、そもそもスイスフランとは市場規模が異なり、介入による影響が限定的であることなどがあります。また、スイスと同様に資本規制をちらつかせるなどは、日本にとってあり得ないことです。
 円高はしばらく続くと予想されます。つまり、避難先を失った投機的な資金は、日本やスイスなど金融システムが安定している国や経常収支の黒字国へと確実に流入します。その結果の通貨高ですので、ユーロ圏や米国の経常収支の黒字化は半永久的に無理としても、金融システムが正常化するまでは止まりません。スイス国立銀行の今後の政策が注目されるところです。

2012年6月18日月曜日

弱者連合の相次ぐ失敗、エルピーダ、ルネサス、そしてジャパンディスプレイ

ここのところ、電機メーカーを中心とした事業レベルでの分社化、そして経営統合が進められています。経営統合は、今後の日本の成長に担うべき半導体、液晶ディスプレイ産業等で進められていますが、ことごとく失敗するという結果となっています。2012年5月6日付『さらば、エルピーダメモリー』のブログで、エルピーダメモリーがマイクロン・テクノロジーにより買収されたことを書きました。同社はNEC、日立製作所、三菱電機が共同で設立したDRAM製造を専業とする半導体メーカーでした。政府から公的支援まで受けたものの、結果は散々たるものでした。
次は、やはり上記3社で設立されたルネサスエレクトロニクスの経営不振です。業績不振であえぐ同社は、1万規模の大幅な人員削減を含む経営再建策を7月までにまとめることが発表してました(注1)。リストラに伴う費用は大きく、同社は、1,000億円程度の増資を求めており、大株主であるNEC、日立製作所、三菱電機の3社、三菱UFJなど銀行団からの借り入れ等で調達をすることで合意したようです。右図は、半導体集積回路生産額の推移を前年同月比増減率で表したものです。2010年頃に一時的に回復しましたが、同年後半には失速、2012年3月でも前年同月比でマイナスとなっています。とろこで、この半導体集積回路とは何かという疑問が生じます。半導体集積回路とは、線形半導体集積回路、モス型半導体集積回路(メモリ、マイコン、ロジック、CCD)、バイポーラ型半導体集積回路のことを指します(注2)。2011年以降の生産額の減少は、世界的な需要の減少というよりも、円高により海外の半導体メーカーとの競争で追い込まれているという、日本の半導体メーカーの実態を表しています。
2012年5月23日付日本経済新聞朝刊にルネサスエレクトロニクスの経営再建に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『業績低迷のルネサス、経営再建策、7月末までに』です。以下引用文。
『ルネサスエレクトロニクスの業績が低迷している。車を制御するマイコンでは世界シェア3割と首位を堅持するが、薄型テレビなどに搭載するシステムLSI(大規模集積回路)の販売不振が響く。事業構造や生産体制を見直し、7月までに経営再建策を公表する予定。ただ、主要株主であるNECと日立製作所、三菱電機の3社が支援に応じるか不透明で、調整は難航する可能性もある』
ルネサス側は、システム統合の結果、支払日を変更する必要が生じたと説明していますが、半導体製造装置や部材メーカーに対して代金支払いの延期を求めており、資金繰りが厳しいのではないかという疑問を呈する要請だと感じています。エルピーダの後を追っているような印象を受ける記事です。そして、最近まで存在すら知らなかった、中小型液晶(注2)でトップシェアを握るジャパンディスプレイという会社があります。同社は、東芝、日立製作所、ソニーの傘下にあった3つの子会社を統合、4月1日に設立されたばかりです。子会社統合に関する記事が『週刊ダイヤモンド』2012年6月9日号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『"日の丸電機"失敗の歴史』です。以下引用文。
『今年4月1日、ある会社が注目の中、始動した。ソニー、東芝、日立製作所の傘下にあった3子会社の統合で誕生した、中小型ディスプレイの専業メーカー、ジャパンディスプレイ(JD)だ。
この統合の背景には、スマートフォンやタブレット向けの中小型ディスプレイ市場の成長を取り込む意図がある。3社が統合すれば世界シェアの2割を占めるトップとなり、さらに世界で一日の長があるといわれる技術力まで結集できる。
そこに官民ファンドの産業革新機構から、政府保証付けの2000億円もの公的な成長資金まで投入されて、"日の丸"中小型ディスプレイ専業メーカーが誕生したのだ』
確かに、ジャパンディスプレイは成長分野であるスマートフォン向けでもある程度シェアを握っていることが推測されます。もっとも、競争相手であるシャープは、台湾の鴻海グループとパネル生産で共同事業を展開することが発表されたばかりです。鴻海グループとえばEMS最大手のフォックスコンのことです。同社は、米アップル社と良好な関係を維持し、iPhoneやiPadの生産を一手に担っています。そして、シャープとの提携により、次世代のiPhone用の液晶ディスプレイには、シャープ製品(注4)が採用される可能性が高まっています。iPhoneの市場に参入できない場合、市場シェアの低下ばかりでなく、ジャパンディスプレイの利益が大幅に減少する可能性があります。何故なら、格安のアンドロイド系のスマートフォンのディスプレスが15〜16ドルであるのに対して、iPhone4Sは37ドルもするからです(注5)。合併の効果は大きいものの、そこへ転籍させられる社員の士気や仕事のやり方の違いによる摩擦などマイナス面もあると思います。エルピーダ、ルネサスの二の舞はどうしても避けたいところです。
(注1)ブログ作成後、1万4千人に増加。
(注2)経済産業省『鉱工業指数』参考。
(注3)中小型液晶パネルなのか、中小型液晶ディスプレーなのか特定できなかったため、中小型液晶と表示。
(注4)全量ではないものの、シャープ製のディスプレイが新型iPadに採用されています。
(注5)『週刊ダイヤモンド』2012年6月9日号より。

2012年6月17日日曜日

ギリシャ総選挙の結果と復調するか金価格

今日は、今後の世界経済を占う上で、最も注目されているギリシャ総選挙の投票日です。結果は、このブログを作成している時点では不明ですが、世論調査の結果からは、財政緊縮支持を訴える新民主主義党(ND)が、厳しい削減に反対する急進左派連合を僅差でードしているようです(2012年6月16日付読売新聞朝刊)。ギリシャでは、既に銀行預金の3分の1が引き出されており、犯罪の増加や自殺者の話題が注目されるなど、国民の間に不安感が蔓延しています。世界各国も、ギリシャのユーロ離脱という最悪の事態は回避したいという思惑で一致しています。しかし、ドイツなどを中心にユーロ諸国は、これ以上のギリシャに対する支援強化には消極的な姿勢をとっており、危機のまっただ中にあるスペインへの影響はどうしても回避したいという意味で、ギリシャのユーロ離脱を避けたいというのが本音でしょう。
 ここで、私の個人的な意見は、ギリシャに対してこれ以上の支援はするべきではなく、仮に財政緊縮に反対する急進左派連合が勝利したのならば、速やかに支援を打ち切り、ギリシャのユーロ離脱を容認するべきであると考えています。その結果、ギリシャ国債のデフォルトは必至であり、デフォルト後にギリシャ国内がどのような結果になるかを、世界へと知らしめることが大切だと思っています。意外と復活したギリシャ通貨、ドラクマが大暴落することによって、同国の輸出産業や観光産業が復活するかもしれません。とにかく、長引くことがマイナスなのです。仮に、ハイパーインフレーションと失業率が50%超などの悲惨な結果がギリシャを襲ったならば、それをみてスペイン国民が、積極的な財政赤字の削減に取り組むことの必要性を痛感すれば、財政緊縮策で同国と他のユーロ諸国は協調することができるでしょう。連鎖は、ギリシャで止めることが大切であり、だらだらとした対応は、ユーロの信頼回復には結びつかないといえます。
 上述の通り、ユーロ危機が泥沼の様相を呈している中で、有事の際の金(ゴールド)の価格が上昇しているのではないかと思っていました。しかし、現実は違います。金の価格は今年に入ってからも、2月にピークをつけた後、大幅に下落しています。もっとも、金価格は、工業用途中心のプラチナの価格を恒常的に上回っており、この背景には、世界的な景気後退に連動する形でプラチナが下がっている一方で、通貨の代替物である金が注目されているとも捉えることができます。ギリシャ総選挙の結果次第で、金の価格は大幅に変動することが予測され、急進左派連合が勝利した場合、投機的な金の買いが入るかもしれません。選挙結果と金価格に注目したいと思っています。
 ここで、金価格がプラチナ価格を上回っていることを記述している記事が2012年6月5日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『プラチナより金、価格逆転が定着』です。以下引用文。
 『貴金属市場で金の価格がより実用性の高いプラチナ(白金)を上回る逆転が定着する気配だ。プラチナは自動車の排ガス処理に使えるなど特殊な機能があり過去30年近く金価格を2割〜2倍上回るのが常だった。欧州経済の低迷で工業用の消費が多いプラチナが大幅に値下がりする半面、金は不安心理を背景に株などから資金を移す動きが続き、価格が下支えさられている』
資源量は、金の方が圧倒的に多く、工業用途が8割を占めるプラチナは、燃料電池の触媒としても期待されています。従って、プラチナの価格が、将来的には金価格を上回ると予想されます。従って、通貨不安がある中で、金の価格とプラチナの価格の差こそが、市場関係者の不安心理であると捉えることもできます。ところで、金の価格には特殊要因があります。それは、金の最大消費国がインドということです。このことを説明した記事が『週刊エコノミスト』2012年6月19日号ありましたので紹介します。記事の題目は『インド、金の輝きは魅力だが、経常赤字の要因に』です。以下引用文。
 『国内(インド)ではほとんど金の産出がないため、多くを輸入に頼っている。10年度の金の輸入は輸入額全体の9.6%を占め、貿易赤字、ひいてはインド政府が悩む経常収支赤字の要因となっている。
 インド政府は12年度予算案で金の輸入関税を引き上げ(11年度に2%に引き上げたものをさらに4%へ)と、物品税の金宝飾への課税対象拡大を打ち出した。これに対し、宝飾品業界は一斉に大反対。小売店は抗議のストライキに乗り出し、物品税引き上げは撤回されることとなった』
 インドは、中国に次ぐ人口規模を有し、次の巨大市場として期待されています。しかし、その実態は、脆弱であり、海外からの赤字のファイナンスがなければ、経済を維持することができないという実態があります。通貨危機に苛まれた、東南アジア諸国では経験したことです。ギリシャと同様に、経常収支が慢性的に赤字となっている国は、持続的な成長に制限がかかります。しかし、インドが救われるのは、通貨の下落によりある程度、影響が緩和されるということです。ギリシャには、それがなかったため、危機が深化したといえます。インド経済が立ち行かなくなれば、危機の度合いはギリシャの比ではありません。金の購入額が多いインドには、通貨ルピーに対する不信感があるともいえます。しかし、盤石であったはずのユーロが危機を迎えた背景には、ギリシャが失ったものをインドは手放していないということです。それは、自国の金融政策を自らで決定することのできる権利です。

2012年6月16日土曜日

米国、生産拠点としての復活なるか

高止まりする失業率が続く、米国経済は決して順調とはいえません。しかし、高い失業率を背景に、賃金水準が伸び悩む上、ここのとろこのドル安によって、制度の差を考慮した場合、米国の賃金は、中国との格差に差がほとんどないまでになっています。これを低い賃金を武器に、生産拠点としての米国が再び注目されようとしています。このことは、2012年2月10日付『米国の賃金は高いのか』のブログでも詳しく書きました。賃上げが続き、政治リスクも高い中国の状況を考えれば、米国へと生産拠点が回帰してもいいのではと感じています。
それでは、現実のデータはそれを裏付けているでしょうか。右図は、米国の輸出と輸入の伸び率の推移示しています。伸び率は対前年同月比増減で、リーマン・ショックで大幅に減少した反動で、2010年前半に、伸び率ベースでピークに達した後、輸出、輸入ともに増加率が徐々に縮小していることが読み取れます。この図をみる限りでは輸出が、米国経済を引っ張っているという印象を読み取ることはできません。ユーロの下落が激しく、かつ同地域での需要減退によって輸出にドライブがかからないのが現実です。しかし、ここへきて、シェールガスの開発が、米国内への工場新設へと結びついているようです。もっとも、この工場新設がすぐに米国の輸出にプラスに寄与するのではなく、数年かけて徐々にですが、輸出の増加に結びつくことが期待されています。
 2012年3月1日付日本経済新聞Web刊に『「シェールガス」革命は本物、(ダウ・ケミカル)大型投資決断』という記事が掲載されていましたので紹介します。やはり、国土が広いということはいいですね。資源にせよ、土地にせよ、現在はなくても、将来的には色々な可能性を秘めているという点でメリットがあります。以下引用文。
 『米製造業の復活を支える新型天然ガス「シェールガス」。その恩恵を最も受けている産業の1つが、ガスを燃料や原料として使う石油産業だ。昨年、米国内にエチレン生産設備などに約50億ドル(約4000億円)を投資する計画を発表した米石化大手ダウ・ケミカルのジム・フィタリング副社長に、投資の狙いやガス市場の見通しなどを聞いた。
 --米国で久々の大型投資を決めた理由は。
 「米国の競争力が高まっているためだ。ほんの数年前まで、我々が米国でこれだけの大型投資を再びすることになるとは、社内の誰も想像していなかったし、将来、米国から製品を輸出することになるとも思っていなかった。21世紀に入ってから最初の10年間はむしろ、業界全体が米国内の設備の合理化にまい進していたぐらいだ」。
 「だが、シェールガスの登場によって状況は変わった。(エチレンの原料になる天然ガス由来の)エタンのコストは中東ほどではないが、コスト競争力という意味で、いまや米国は中東の次に高い。ドル安や金利安も、大きな投資を決断をする上で背中を押した」』
米国で、エチレンの設備増強が進められている一方で、わが国では設備廃止の方向へと動いています。2012年6月10日付日本経済新聞朝刊に『エチレン設備廃止、三菱ケミカル、鹿島の1基』の題目の記事が掲載されていました。これはやむを得ないことです。日本国内では、汎用品分野では、国際競争力がなく、付加価値の高い製品へと生産をシフトしなければなりません。炭素繊維大手の東レですら、欧州や韓国の設備を増強するのが、わが国の厳しい投資環境です。米国では、製造業復権することで、雇用環境が安定し、景気回復へと結びつけばと思っています。そして、米国経済が再び世界経済にとっての機関車の役割となってくれればプラスでしょう。

2012年6月15日金曜日

減少する新規工場立地と変化する雇用

日本の空洞化を裏付けるデータが見つかりましたので紹介します。2012年6月9日付『円高による投資の海外比率の上昇と空洞化』のブログでも記述したように、大手企業の設備投資に占める海外比率は4割に達しています。特に、円高という厳しい状況下といっても、日本の中でも優良企業といわれているトヨタ自動車と東レの海外投資比率が50%を超えたというのには、ややショックを受けました。空洞化は着実に進んでいるということを強く認識したところです。
今日の図表は、経済産業省発表の『工場立地動向調査』です。これは産業別にも集計されているデータで、新規工場立地の敷地面積と立地件数を示したものです。驚いたのは、2007年に敷地面積、件数ともピークを迎えていることです。空洞化が叫ばれて久しいのですが、リーマン・ショック直前の円安の水準は、日本での工場立地にとって有利であったことは事実といえるでしょう。当時の円相場は、1ドル=120円前後だと思いますが、その水準にまで円相場が戻れば国内へと工場が回帰する可能性は十分にありますが、物価水準から考慮した円相場は1ドル=90円前後という意見もあり、一足飛びに1ドル=120円という円安はほぼあり得ないという気がします。
そして、工場立地の減少に伴って雇用情勢が変化していることが推測されます。ここでは産業別の常用雇用指数を追ってみることにします。常用雇用者とは、厚生労働省の定義で、「期間を決めず又は1か月を超える期間を決めて雇われている人」または「日々又は1か月以内の期間を定めて雇われている人のうち、直近2か月間にそれぞれ18日以上雇われた人」とされます。常用雇用という言葉を使っていますので、今まではパートやアルバイトの人々は含まれないと思っていましたが、上記定義に従えば、それらの人々も含まれることが分かります。赤色で示したのが、製造業の常用雇用指数で、2003年からの範囲では、2008年をピークに低下傾向にあります。新規工場立地と関係があり、2007年にピークを迎えた新規工場立地とやや1年だけ遅れていることが面白いといえます。
常用雇用指数だけで考えた場合、常用雇用が他の産業を圧倒して伸びているのが、医療・福祉の分野です。このまま円高が進めば、国内では製造業に従事する人々が減少、特に賃金水準が低いと言われている福祉関係に勤めている雇用者が大幅な増加が見込まれます。低い賃金水準と過酷な労働環境を敬遠して、慢性的な人手不足となっている福祉の現場への雇用増を促すため、国でも報酬の引き上げなどの施策を実施することが検討されているようです。このままの状態を続ければ、賃金水準の低い人々の割合が多くなり、国民全体の所得水準の低下がさらに進むことが懸念されるからです。
また、雇用を求めて日本に訪れたブラジル人の存在が社会問題となっています。中には、やむを得ず帰国する人、失業して孤立化する人などいるそうです。人手不足の件は外国人労働者により解決することはできます。リーマン・ショック後、わが国は製造業を中心に、正規雇用と非正規雇用という雇用の二重構造の存在が問題視されました。日本から離れていくブラジル人の件も、この問題と同根であり、ひどい事態であると感じています。人手不足の問題はいつでも解決できると思います。しかし、過度な円高を回避し、製造業の工場の国内立地を進めていく方法に関しては、政府・日銀もお手上げなのが現在のわが国の置かれた状況です。

2012年6月14日木曜日

貿易金融でシェア倍増、復活のみられる日本の金融グループ

やや問題とは認識しているものの、日本の3大金融グループが国債などへと資金を集中投資、利益を得ているという現状があります。10年物の国債の利回りは急落、一時0.8%台前半まで低下しました。日本の金融は、リスクを取ろうとしない姿が浮き彫りになっていると次第です。もっとも、欧州や米国の金融は、ここのところ収益環境は悪化、こちらの方はリスクを取り過ぎた結果であると思います。どちらにせよ過ぎ樽は及ばざるがごとしですね。スペイン問題が解決するまでは、予断を許さない状況にあり、安定した収益を上げている邦銀に対しても、カウンターパーティーリスクという形をとって影響を与える可能性は十分にあると考えています。
今日は、3大金融グループの2012年3月期決算は既に発表されてしばらく経っていますが、同グループの収益状況の比較をしてみます。上表は、ホームページ掲載の決算短信から作成した経常収益、経常利益、当期純利益を示したものです。以前は、みずほがトップであったというイメージがあったのですが、収益動向をあらためてみてみると、どうみても3位にまで順位を落としていることが分かります。2011年3月11日の東日本大震災の時に大規模なシステム障害を起こし、結果として金融庁から業務改善命令を受けたのはみずほでした。個人的には、みずほが決して嫌いではなく、むしろ定型的な財閥系の金融グループである三菱と住友が躍進する中で、比較的中立的な立場がとることができる同社の存在は貴重であり、復活に向けた努力を進めていただきたいと思っています。
 今日は、金融グループの収益、特に役務取引等収益を詳しく追ってみます。役務取引等収益とは、役務提供の対価として収受する収益のことを指し、代表的なものとして為替業務による売入手数料、預金貸出金業務、証券関連業務、保証業務等による受入手数料があります(注)。以前は、邦銀は貸出金などから得られる金利収入に過度に依存、手数料収入の拡充が叫ばれた時代がありました。上図で示しているように、最近では、経常収益に対して、20%を超える水準にまで上昇、さらなる比率アップが期待されるところです。もっとも、過度の手数料収入の依存、つまりCDSなど大量に売却した米銀は、欧州債務危機が拡大した場合、さらなる危機を迎えることとなります。手数料収入でも、色々な種類のものがあります。国内経済ばかりでなく、国際経済にとってプラスになるものが求められるとろこです。
こうした中で、邦銀が、成長著しいアジア・太平洋地域で貿易金融でシェアを伸ばしているようです。貿易金融が手数料収入なのか、金利収入なのかは定かではありませんが、何らかの手数料に属する部分もありますので取り上げてみました。2012年6月7日付日本経済新聞朝刊に『貿易金融、邦銀シェア倍増、アジア太平洋1〜5月、欧州銀の縮小で』という記事が掲載されていましたので引用します。以下引用文。
『アジア太平洋地域の貿易金融分野で邦銀の存在感が高まっている。輸出入に必要な短期資金の融資など貿易金融の取引額に占める邦銀のシェアは、2012年1〜5月に日本を除いたベースで約32%となり、前年同期比(13%)から2倍強に高まった。主な担い手だったユーロ圏の銀行が欧州危機の影響で大幅な縮小を余儀なくされる一方、邦銀はシェアを伸ばした。三菱UFJフィナンシャル・グループは取引額を前年同期の4倍増程度に急拡大し、初めて首位に立った』
 2012年5月2日付『イスラム金融と天然ガス』のブログの中でも、今後の邦銀の活躍が期待される旨記述しました。ここのところ、資源高の中、天然資源を世界各地から調達してきた商社ばかりが目立ってきました。しかし、欧米の金融機関が身動きがとれなくなってきた状況下、地道に預金獲得をしてきた邦銀は、市場から資金に過度に依存してきた欧州銀のような不安定な状況にはありません。信用第一の貿易金融にとって、わが国ばかりでなく、アジア諸国の輸出企業などにとって、邦銀の信頼度は高まっているといえます。世界経済、特に世界の貿易が萎縮しつつあるなかで、邦銀の今後の活躍が期待されるところですね。
(注)三井住友フィナンシャルグループ、ホームページに記載。

2012年6月13日水曜日

下げ続ける給与水準と東京電力の平均年収

日本とってデフレ経済からの脱却は、日銀が目標としているインフレ率年率1%ではなく、給与水準の名目ベースでの上昇であると、私は考えています。確かに、薄型テレビに代表される家電製品などは、海外からの輸入が増加した結果、それらの低価格を進み、実質的な購買力からみた賃金水準は上昇しているともいえます。また、激しい価格競争を展開している外食産業でも低価格化が進行、その恩恵は、私のみならず国民全体で受けている気がします。この点においても、実質的な購買力は増加、名目の賃金水準は低下しているものの、実質的には増加しているここととなります。
 しかし、低価格の裏側には、非正規労働の存在など厳しい現実があり、彼らの低い賃金なくして、家電製品や外食などの低価格化は進まなかったと思われます。正規・非正規という雇用の二重構造は解消するべき問題です。製造業にとって、いくら国際競争力の維持が不可欠でからといっても、歯止めのかからない名目賃金の低下は、結果として国内需要の減少という悪循環を生みます。下げ止まらない賃金は、デフレ経済から脱却できない日本の象徴的な存在であるともいえます。
上図は、厚生労働省発表の(月額)税込現金給与の推移を示しています。2003年からのデータですが、継続的に減少傾向を示していることが分かります。このデータには、所定内に加えて、所定外、特別給与を含むもので、これを単純に12倍すれば、大体の年収を割り出すことができます。これに基づき得られる、2011年の年収は、大体380万円程度となります。先日、NHKの特集で語られていた年収も近い水準でしたので、感覚的に合っている気がします。
ところで、現在、電気料金の引き上げ問題で、東京電力の動きが注目されています。福島第一原発事故後、大幅な年収のカットが実施され、2010年に同社の平均年収が700万円前後であったものが、2011年に571万円と引き下げられています。実質国有化された2012年からはさらに低下、525万円となっており、この数字は、千人以上の大企業の平均年収である543万円を下回っています。しかし、2013年から実施される同社の年俸制導入により46万円アップされ、逆に大企業の平均を上回ることが指摘されています。2012年6月1日付朝日新聞朝刊に東京電力の年収についての記述がありましたので紹介します。記事の題目は『東電、社員年収引き上げ』です。以下引用文。
『東京電力は、2013年度から社員1人あたりの年収を今年度より46万円増やして571万円にする。全社員を対象にした「年俸制」導入にともなうもので、1千人以上の大企業平均より28万円高くなる。家庭向け電気料金の値上げの算定にも年収アップは織り込んでおり、利用者から反発が出る可能性がある』
まさしく、独占企業の弊害ですね。もっとも、大企業の平均年収と比べるのではなく、一般家庭全般の電気料金を引き上げるのですから、中小企業も含めた平均年収と比べる必要があるのではないでしょうか。右図は、上記記事記載のグラフに、380万円という平均年収を付け加えたものです。やはり東京電力の年収の水準は高いことが分かります。
この人件費削減については、2012年6月7日付日本経済新聞夕刊にも記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「人件費、削減足りない」、東電公聴会、値上げに反発』です。以下引用文。
『東京電力の家庭向け電気料金の引き上げを巡り、経済産業省は7日、消費者らの意見を聞く公聴会を開いた。消費者からは「人件費などのコスト削減が足りない」などと値上げへの反発が相次いだ。値上げ申請に至る説明が足りないとして、東電や経産省への不信を訴える意見も出た』
年収ベースの問題だけではなく、東電などの大企業は企業年金などでも中小企業と比べて格差があります。退職金も含めると、開きはかなりの水準になるといえます。デフレへの連鎖をストップさせるという意味では、年収の引き上げはプラスなのかもしれませんが、コストの徹底した削減、そして電気料金の十分な説明なしの一方的な大幅な引き上げには問題があると感じています。

2012年6月12日火曜日

大口電力使用量と景気変動

原発再稼働の問題がなかなか進まなく、今年の夏が猛暑ならば、関西電力のエリアは厳しい節電を強いられそうです。私は、隣接するエリアに在住することから節電に協力、中国電力からの融通電力が少しでも多くなるよう努力するつもりでいます。
ところで、大口電力使用量という統計が、電気事業連合会から毎月発表されており、景気動向指数の一致系列にも採用されています。景気動向指数とは、景気の現状及び将来予測をする上で、重要な指数であり、ホームページにその目的が記載されていますので紹介します。以下引用文。
『景気動向指数は、生産、雇用など様々な経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指数の動きを統合することによって、景気の現状把握及び将来予測を資するために作成された指数である。
景気動向指数には、コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)がある。CIは構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポ(量感)を、DIは構成する指標のうち、改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測定することを主な目的とする。
従来、景気動向指数はDIを中心とした公表形態であったが、近年、景気変動の大きさや量感を把握することがより重要になっていることから、2008年4月値以降、CIを中心の公表形態に移行した。しかし、DIも景気の波及度を把握するための重要な指標であることから、参考指標として引き続き、作成・公表している。なお、景気転換点の判定にはヒステリカルDIを用いている』
以上が、内閣府掲載の景気動向指数の目的です。私が学生だったころは、もっぱらDIを中心に考えていました。この引用文を読んでいて、最近ではCIが重要視されていることを初めて知りましたが、景気転換点の判断には、引き続きヒストリカルDIが使用されているようです。因に、米国の景気の判断は、経済成長率が2期連続マイナスとなった時点で景気後退の判断がなされ、日本とは異なります。
そして、この節電の中で、景気動向指数の一致系列に該当する大口電力使用量の統計としての有効性が問われています。右図は、大口電力使用量の各年別の月別の前年同月比増減率を示したものです。2008年9月のリーマン・ショック以降、大口電力使用量は前年同月比で大きく減少を続け、2009年12月にやっとプラスへと転じています。その後、2010年に入ってからは増加を続けており、日本経済の立ち直りを反映したような結果となっています。直感的に景気の動向を捉えているという気がします。
しかし、東日本大震災を契機に、あらゆる状況判断、そして考え方の変化が求められています。2011年3月以降、大口電力使用量は前年同月比でマイナスを続けており、これは景気が失速しているという意味も確かにあります。もっとも、これは、原発の稼働が完全にストップし、日本全国で節電意識が浸透した結果が現れているといえます。2012年3月、4月は昨年の反動もあって大きく増加していますが、節電への取り組みは通年を続けて進められます。従って、企業の業績は底入れした感はありますが、引き続き電力使用量は、2010年のような大幅な増加はないと予想されます。

2012年6月11日月曜日

魅力ある輸出拠点、ベトナム

世界の工場である中国で労働コストの上昇が懸念されています。アップル製品の製造を一手に引き受けている鴻海グループ率いるフォックスコンの工場も中国内陸部のより労働コストの低い地域へと生産の比重を移しているようです。しかし、内陸部でも労働コストの上昇は継続していること、やはり政治的リスクが依然として高いことから、そろそろ東南アジアの別の国への生産のシフトを考えてもいいかもしれません。
 右図(注)は、アジア主要都市の労働コストを示しています。図によると中国、マレーシア、タイ、フィリピンなどが高く、中程にインドネシアがあり、下位にベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどの国があることが分かります。どこで線引きを行うかという点が問題になりますが、一意に労働コストが低いからといって、インフラ整備の面で劣るカンボジア、ラオス、ミャンマーでの投資拡大にはやや疑問が残ります。そして、本命は労働コスト、インフラ整備の面からいってバランスの取れているベトナムが本命ではないでしょうか。ここで、(刈込)の記事を一部を引用します。
『従来、カンボジアへの投資を積極的に進めていたのは、主に中国や韓国の企業だったが、ここ数年は、日本企業の進出が加速しており、投資件数と直接投資額は、07年以降の5年間で39件、2.9億ドルと、94年から06年までの累計14件、2.2億ドルを上回っている。
この背景には、これまで日本企業が生産拠点を置いていた中国やタイ、ベトナムでの人件費高騰がある。これらの国では、近年、工場労働者によるストライキが起こるなど、人材の確保が難しくなっている。そこで新たに生産拠点の開拓を迫られた日本企業が向かった先が、より労働コストの低いカンボジアだった』
この記事を読む限りカンボジア、ラオス、ミャンマーの3国は労働コストの面からいって魅力はあります。しかし、インドネシアよりも安く、インフラ等が比較的整備されており、人口規模も大きいベトナムが最有力ではないかと考えています。そうした中で、ベトナムでのインフラ整備で日本企業が活躍している内容の記事が2012年5月16日付日本経済新聞夕刊に掲載されていました。記事の題目は『ベトナム輸出拡大、「日の丸インフラ」、住商が都市鉄道受注、港湾や空港なども』です。以下引用文。
『【ハノイ=伊藤学】日本企業によるベトナムへのインフラ輸出が本格化してきた。住友商事はこのほどベトナム初となる都市鉄道建設を受注。工費は約630億円で、2016年末完成を見込む。同国では最大の港湾整備や空港ターミナル建設なども日本企業によって行われている。企業進出が増えるなか、インフラ建設は投資環境の整備にもつながり、日本勢は官民一体で「日の丸インフラ」を広げる構えだ』
このインフラ整備の背景には、日本企業の進出ラッシュがあると考えられます。インフラ整備の具体的事例には、大成建設によるノンバイ国際空港第2旅客ターミナル、IHI、三井住友建設によるニャッタン橋、伊藤忠、商船三井、日本郵船などによるラックフェン港があります。カンボジアの2.5億ドルとは全く規模が違います。ミャンマーやカンボジアではなく、日本企業の工場として重要な役割を果たすのはベトナムが本命でしょう。
(注)『週刊エコノミスト』2012年5月15日号掲載。刈込俊二『カンボジアへの日本企業の投資拡大。「ミャンマーリスク」も先細り懸念も』。

2012年6月10日日曜日

深化する欧州債務危機とTARGET2の機能不全

ユーロ圏における統一決済システムであるTARGET2に異変が起こっているようです。つまり、欧州債務危機後、各国中央銀行の決済残高で大幅な不均衡が発生しており、ドイツ中央銀行が保有しているTARGET2向けの債権は期近では6,000億ユーロを突破、増加の一途をたどっています。この背景には、ドイツの銀行が、ギリシャのみならず、南欧向けの貸出金を圧縮、つまり貸しはがしを行っている現実があると推測されます。そして、ロールオーバー(償還期限が来ても再貸し出しにと応じること)しないドイツの銀行に代わって、ECBが、ギリシャ等南欧諸国の銀行への流動性を供給、欧州の銀行の連鎖倒産を防止している姿が浮かび上がってきます。
 このTARGET2について詳述している記事が、『週刊エコノミスト』2012年6月12日号に掲載されていましたので紹介します。民間の銀行同士が直接取引に応じず、中央銀行を介してのみ、資金過剰の銀行から資金不足の銀行へと流動性の提供がなされないという状況は、金融危機を経験した日本の金融事情と近似しています。今、欧州諸国では、同様の事態に陥っているのです。記事の題目は『TARGET2が隠す南欧流動性危機』です。以下記事引用。
『TARGETとは、汎欧州自動即時決済システムのことである。加盟国の中央銀行のネットワークをユーロ圏で繋ぎ、域内送金などの単一通貨ユーロでの決済をクロスボーダーで行うためユーロ導入の1999年に起動した。
ユーロ導入当初は、個々の中央銀行のTARGET2に対する債権債務残高に差異はほとんどなく、残高も小さかった。しかし2008年にリーマン・ショックが起きると、特に09年以降ユーロ加盟国の間の乖離が激しくなっている。アイルランド中央銀行、ポルトガル中央銀行、スペイン中央銀行、およびギリシャ中央銀行のTARGET2に対する純債務が増大している一方、ドイツのブンデスバンク(中央銀行)の純債権が劇的に増大している。12年2月末では、ブンデスバンクのTARGET2純債権残高は5596億ユーロと、前4中央銀行の純債務残高の総計とほぼ同じ規模であり、危機の深化とともに不均衡は一層拡大した』
右図は、ドイツ中央銀行のホームページ掲載のデータから作成したグラフです。99年のユーロ発足時以降、しばらくの間は、プラスとマイナスを行ったり来たりしていました。しかし、07年当たりから増加傾向に入り、12年3月末には、ついに6,000億ユーロを突破、現在に至っています。スペインの銀行が危機に陥っていることから、今後は、この残高はさらに増加することが予想されます。決済システムとは、銀行間における日々の資金余剰・不足を瞬時に消し合い、円滑な資金の流れをつくり出すというの本来の目的です。しかし、これでは、決済システムを通じて、ECBによって貸し付けを行っているのと事実上同じことであり、決済システムの意義をなくしているといえます。結果、この状況を放置すれば、ECBへの信認低下、そしてユーロ債務危機の深化へと結びつきます。抜本的な対応が求められるところです。
今日は、決済システムにおける債権・債務残高が如何にして膨張しているのかをフローチャートで説明してみます。右図がそれです。危機前は、ドイツの銀行が直接、ギリシャの銀行へと貸出を行っていました。しかし、危機が深化するとともに、ドイツの銀行が貸出金のロールオーバーに応じない事態が発生しました。このままですと通常ならば、ギリシャの銀行は破綻し、ドイツの銀行も多額の不良債権を抱え込むこととなります。しかし、右図が示すように、資金の流れは変化しています。資金は、ドイツの預金者→ドイツの銀行→ドイツ中央銀行→TARGET2→ギリシャ中央銀行→ギリシャの銀行→ギリシャの債務者という経路を通っています。結果、資金は余剰主体から不足主体へと円滑に融通されているのです。もっとも、ギリシャが倒れれば、ドイツは無傷ではおれないという実態は明白です。ユーロの根幹に関わる決済システムに爆弾を抱え込むという結果となっているからです。これにスペインの金融危機が加わった現在、欧州の危機は、債務危機というレベルからユーロというシステムそのものの危機へとより深刻化しているといえるでしょう。

2012年6月9日土曜日

円高による投資の海外比率の上昇と空洞化

設備投資に関して、昨年あたりから危惧されていることがあります。それは、民間の設備投資である民間固定資本形成が、資本減耗である減価償却を下回っていることです。国民経済の成長の要素には、労働者数の増加、技術革新、そして資本ストックの蓄積があります。技術革新が進んでいるものの、技術者の高齢化という問題もあり、今までのようなペースで革新的な技術の開発はできないかもしれません。そして、15歳以上65歳未満の生産年齢人口も減少し、それに追い討ちをかけるように資本ストックが減少へと転じています。長期金利は将来の潜在成長率を反映しているともいわれています。期近では長期金利の利回りが0.82%まで低下していることは、わが国の成長率が、今後一層低下することを予見しているのかもしれません。
民間企業の資本減耗に関する適当なデータが見つかりませんでしたので、内閣府発表の『国民経済計算』ストック編、制度部門別勘定の民間非金融法人企業の期末貸借対照表を追ってみました。このデータのうち、非金融資産のうち生産資産(在庫を除く)が民間の資本ストックに近いと考え、グラフを作成したのが右図です。適当なデータが見つからなかったものの、イメージに近いグラフが作成できた気がします。この図から貸借対照表上の在庫を除く生産資産は、2008年をピークに減少していることがわかります。
 2012年6月3日付日本経済新聞朝刊に、この減少を裏付ける記事が掲載されていましたので引用します。円高が定着する中で、製造業を中心に設備投資の海外比率が高まっており、国内の資本ストックの減少の一因となっていることがわかります。記事のタイトルは『設備投資2ケタ増、円高、新興国シフト一段と』です。以下引用文。
 『日本経済新聞社がまとめた2012年度の設備投資動向調査によると、全産業の当初計画は11年度実績比16.8%増になる。増加は3年連続で、新興国投資が活発な製造業が20.9%増とけん引する。国内外の内訳がわかる6割の企業でみると、海外比率は4割弱に達する。円高が続くなか、各社は投資の海外シフトを一段と進めるが、世界経済の減速懸念が投資戦略に影響する可能性もある』
海外投資比率が50%を上回っているのはトヨタ自動車で、インドネシアやタイでの増産を維持することが目的のようです。また、東レも韓国に炭素繊維関係の新設備を設けることで50%超となっています。まさしく、国内空洞化の進行ですね。右表は、同日の別の記事に掲載されていた、2012年の設備投資ランキングです。NTTドコモ、東京電力、ソフトバンク、JR東日本の設備投資は国内向けがメインであるものの、それ以外の企業についてはどちらともいえないという結果です。タイトルだけですと、設備投資が2ケタ増と明るい話題にみえるのですが、よく読んでいると、日本経済にとって決して安心できない要素が含まれていることがわかります。確かに、企業にとって設備投資を続けることは、成長力を維持する上では不可欠なことです。しかし、このまま企業の海外進出が進んでいけば、国内空洞化は必至です。米国のように企業や企業経営者ばかりが儲かって、一般大衆は疲弊するという経済の将来像が見えてきます。一般の労働者が従事できるのは、所得水準の低いサービス産業ばかりになって、海外へと進出した企業の株式などを保有している資産のある者は配当金などを得て利益を手にするという、格差社会が本格的に到来するかもしれません。

2012年6月8日金曜日

企業の供給責任と三井化学の事故

昨年は、東日本大震災をきっかけに、日本全体のサプライチェーンが混乱、生産活動が停滞するという事態を経験しました。これにより、日本のみならず、世界の自動車メーカーの生産ストップしたことで話題となったのが、ASICなどを生産するルネサス・エレクトロニクスの操業停止でした。同社が市場で高いシェアを維持している部品が供給不足となったことで、生産復旧のため、自動車メーカー各社から人員の派遣などの支援がなされ、何とか生産復活へとこぎ着けたということがあった。唯一、一社が独占的に供給するのは、特許など関係で仕方がないとしても、その工場が事故などにより生産がストップし、世界の企業の生産活動に影響するという事態は回避する必要があります。
幸い、右図が示すように、わが国の乗用車生産は、2011年4月を底に回復しています。しかし、生産がストップしている間に、多くの人々が苦しみ、何らかの影響で中小の企業が倒産したり、職を失った人もいるのではないかと思っています。失われたものは多く、倒産した企業は復活しないでしょうし、失職状態から回復していない人々も多いでしょう。
自動車メーカーに関しては、かつてトヨタ自動車系列のアイシン精機の工場での事故により、特定の部品の不足が発生、トヨタ自動車の全体で生産がストップするという事態がありました。この時にも、他の部品メーカーや、日産などの他の自動車メーカーの系列下にある部品メーカーも協力したという記憶があります。一方で、トヨタ自動車のカンバン方式により極限にまで在庫部品を減らすというシステムそのもののに疑問が呈されたのも事実です。
今日の引用は、私はこの時点まで全く知らなかったのですが、『週刊ダイヤモンド』2012年6月2日号に掲載された三井化学岩国大竹工場での大惨事に関する記事です。事故は4月22日に発生、26名もの死傷者を出す大規模なもので、事故から1ヵ月以上たった時点でも全く操業にこぎつけることはできず、事故前の水準にまで生産が回復するのは8月くらいとの発表が未確認ですがあったようです。ここで問題となっているのが、同社の世界シェアが8割にも及ぶ半導体向けのメタパラクレゾールの生産ストップです。在庫が枯渇する「Xデー」に向けて、半導体メーカーの現場では混乱しています。以下引用文。
『同工場では約20品目の製品が生産されていたが、中でも供給難が懸念されているのが、「メタパラクレゾール」と呼ばれる基礎化学品である。メタパラクレゾールは、半導体製造工程に不可欠なレジスト材料(拡散工程で使用される感光性樹脂)の原料として用いられるほか、液晶パネルの製造工程向け、汎用向け(石けん、ビタミンE)と用途は広い。
事故発生の報に、半導体業界関係者に激震が走った。三井化学のメタパラクレゾール市場における世界シェアは2割程度なのだが、半導体用途に限れば世界シェア7〜8割を占める世界ナンバーワンの製品であるため、急な代替品調達し難しいからだ』
半導体産業で生産がストップした場合、自動車用の半導体ばかりでなく、パソコン、家電製品にまで影響は及びます。犠牲者には哀悼の意を表するとともに、同社の操業開始を切に祈っています。そういえば、半導体製造に関してエポキシ樹脂を製造する化学メーカーの事故が以前にも問題になりました。やはりシェアが高く、供給不足が懸念されたという記事を今でも憶えています。製造メーカーは、安定供給に対する責任を持つべきであり、いくらコストが削減できるからといって、ひとつの工場での集中的な生産はどうかという印象とともに、バックアップシステムはつくるべきであると考えています。
去年の夏は、タイ洪水によるハードディスク価格の高騰に悩まされました。今年こそは安心した消費活動のためにも、この問題が早急に解決されればと思っています。そして、異常気象、地震などのリスクに対応するため、企業は、常に、部品供給や材料の途絶に対するためのリスク管理をするべきです。この対象となるのは、部品の供給をする企業だけでなく、部品を使用する企業ともに求められるリスク管理であるといえます。

2012年6月7日木曜日

公共事業とゼネコン

公共事業が継続的に削減され、大手ゼネコンの業績は悪化の一途を辿っているというイメージがあります。しかし、私は建設会社関係の知識が乏しく、どのような会社があり、また、どの程度の売上高規模であるのか全く知りません。そこで、今日は大手ゼネコンの決算短信のデータを各社のホームページにて参照、表にしてまとめてみました。
右表が、主要ゼネコン20社の売上高、営業利益及び前年同期比を示したものです。鹿島、清水建設、大成建設、大林組が、ゼネコンのビック4ともいえる存在であることがわかりました。そして、2012年3月期決算についていえば、売上高が増加している会社が多いことが分かります。これは、東日本大震災の復興需要がプラスに寄与、20社中15社の売上高の増加につながった主因であることが考えられます。もっとも、営業利益については、まだら模様であり、減益となった会社が10社、営業損失を出した会社が3社もあり、むしろ業績の悪化が伺える結果となっています。
大手ゼネコンの業績悪化について記述している記事が『週刊ダイヤモンド』2012年5月12日号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『復興はバブルでも収益は低成長、苦戦するゼネコン業界の今後』です。以下引用文。
『「毎週のように関東に人集めに行かなければならない」
東北地方の建設会社社長はこうぼやくように、被災地の労働力は今、極めて逼迫している。大規模にリストラによって社員や職員が大幅に減っていたとろこに、いきなり復興需要が来たのだから対応できるはずもない。
岩手県、宮城県、福島県の東北3県中心に、鉄筋工などの職人はもちろんのこと、交通誘導のガードマンに至まで人手不足が蔓延しているのが現状だ。
当然、賃金も高騰し、建設会社の収益を圧迫する。被災地では、採算割れの懸念から、誰も工事に入札しない「不調工事」が激増。昨年12月には宮城県の土木工事で42%、福島県でも51%もの入札が不調に終わっているほどだ。
事態を重く見た国土交通省は今年2月、被災地3県を中心とした人件費や資材費高騰のための措置を取ることを決めた』
この資材と人件費の高騰により、ゼネコンの売上高が増加するものの、営業利益の増加につながっていないという構図が見えてきます。この上乗せされた要素価格の上昇が、新たな有効需要を生み、波及効果をもたらせば、それでいいのかもしれません。しかし、現在の日本経済を考慮すれば、震災のマイナスの影響はあったものの、復興需要の拡大により経済が上向いているという状況ではなさそうです。それでは、1999年からの公共事業の推移をみてみます。内閣府発表の『国民経済計算』の公的固定資本形成は、1999年より大幅に削減され、2011年には1999年の6割程度の水準にまで減少しています。もっとも、2009年にはリーマン・ショックによるマイナスを緩和するため、2011年には東日本大震災の復興のため、逆に増加しています。しかし、公的固定資本形成は趨勢的には減少しており、今後は、医療や年金などに費やされる予算が大幅に増加、新たな資本形成ではなく、既存のインフラの維持管理で、公共事業がらみの予算は全て費消される可能性は高いといえます。

2012年6月6日水曜日

シャープと鴻海グループのパネルの共同事業

アップルのiPhoneの新しい機種について、色々な記述が出ています。その中で、アップルが、IGZOパネルを採用するとか、ないとかという記事をよく目にします。IGZOパネルとは、In(インジジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)で構成する酸化物を薄型トランジスタ(TFT)に用いた液晶のことをいい、従来のアルファモスシリコンと比べて電子の移動が20〜50倍も速いことに特徴があります。同じ駆動電力ならば、高細密化、小型化が可能であり、可視光を透過する薄型となるため、バックライトを抑制することもできます。バックライトが少なくてすむことは、消費電力を抑制することを意味しており、iPhoneなどの携帯デバイスでの採用が期待されるところです(注)。アップル社に関して記述しているブログでも、シャープ製イン・セル型の液晶が採用されることが書かれていますが、それがIGZOパネルなのかははっきりしないところがあります。
こうした中で、シャープと鴻海グループの提携については、2012年5月25日付『設備投資を引っ張るスマートフォン』のブログの中で取り上げたばかりですが、同日の日本経済新聞朝刊に、シャープと鴻海グループが液晶パネルを中国で製造するという記事が掲載されていました。記事の題目は、『パネル復活へ日本勢動く、シャープ、鴻海グループに技術供与』です。以下記事引用。
『テレビ事業の不振であえぐ電機大手が、経営再建に向けた提携戦略を加速する。シャープは台湾の鴻海グループ精密工業と、中国でスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末向け液晶パネルの共同事業を始める。ソニーとパナソニックも有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネルの早期量産を狙い、提携交渉に入った。韓国サムスン電子に対抗できる勢力となるか』
右図が、日本経済新聞に掲載されたグラフをそのまま掲載したものです。中小型液晶パネルでは、シャープの市場シェアは15.8%もあり、まずまずのシェアを維持していることがわかります。ここで、知らない企業がトップシェアを握っているので驚いています。それは、ジャパンディスプレーです。同社は、産業革新機構が主導となって、ソニーモバイルディスプレー、東芝モバイルディスプレー、日立ディスプレイズの3社が統合し、設立された会社だそうです。これからの主戦場となるスマホ市場で日本企業が主導権を握れる分野がまだまだあることに初めて知りました。この分野における、今後の活躍が期待されるところです。
(注)参考、ITmedia。2012年4月13日プレスを参考。

2012年6月5日火曜日

外貨準備高のウェイトが下がるユーロ

2012年6月5日夜、G7(先進7カ国)による緊急電話会議が行われたようです。日本からは、安住財務大臣、白川日銀総裁が参加、株価の世界的な下落、急激な為替変動を懸念した動きであり、このブログ作成時には、その内容は明らかになっていませんが、世界経済の先行きに不透明感が増している中で、ヨーロッパに対して、金融機関の不良債権の抜本的な措置を早急に講じることが促されたようです。
連日、日本円の相場が話題となっていますが、この動きの背景には、中国による日本国債の保有残高を増やしていることなどが一つにの要因にあるようです。2012年6月4日付日本経済新聞夕刊に、中国の外貨準備に関する記事が掲載されていました。記事の題目は『日本国債、中国保有増、外貨準備、円に移す』です。以下記事引用。
『中国による日本国債の保有が急拡大している財務省・日銀が公表した国際収支統計によると、中国の日本国債の保有残高(短期国債を含む)は2011年末時点で約18兆円と、前年に比べて約71%増加し、過去最高となった。中国政府が米ドルで保有する外貨準備を、円を移す動きを強めている。
海外勢の日本国債の保有残高は11年末で約92兆円と、昨年に比べて27%増えた。特に中国の保有残高は09年から急増しており、10年には米国と英国を抜いて日本国債の最大保有国となった。過去2年間の伸び率は5.2倍にのぼる』

これは、中国は自国通貨高を抑制するため、常時、為替介入を行っており、大量の外貨を抱えており、これまでの米ドルに偏った外貨準備をユーロや円に振り替えた結果です。特に、昨今のユーロ債務危機に伴うユーロ安を嫌い、円へのシフトを高めているのではないかと考えられます。右図は、2003年から2010年までの海外勢の国債保有残高の推移を示したものです。2010年までのデータですので、この動きがわかりませんが、国際収支統計とは残高水準からいってやや異なることから、統計の差異の結果を反映しているかもしれません。
 中国のみならず、世界各国で外貨準備高として保有されているユーロの割合が低下しているようです。右図は、IMFのホームページから入手した通貨別の外貨準備高の推移を示しています。2010年、2011年に限れば、ユーロが割合を低下させている一方で、僅かですが日本円は逆に上昇しています。この主因は、円高、ユーロ安であることは否めませんが、各国の外貨準備に占める日本円の割合が高まっているということは、円の国際化を進める上でプラスだと感じます。ここで驚いたのは、米ドルの割合は高いのは当然として、英ポンドが円と同程度保有されていることです。大英帝国の名残なりか、それともロンドン・シティの国際的な地位を反映したのかはわかりませんが、英国のGDPの割合にしては大きい規模があります。
そして、2012年6月5日付日本経済新聞朝刊にユーロの外貨準備に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『新興国中銀、ユーロ売り、外貨準備運用に変化』です。以下引用文。
『新興国の中央銀行はこれまでユーロの主な買い手だった。2011年通年と12年の最初の4ヵ月間、ユーロが比較的堅調に推移していた主な理由の一つは外貨運用担当者による買い需要だと考えられている。
しかし世界経済が減速し商品価格が下落するなか、中央銀行の外貨準備高の伸びは5月を通じて鈍化した。シティグループによる中央銀行の分析によると、外貨準備高は今年4月末がピークで、それ以降は減少に転じている。新興国の中央銀行の多くはユーロを売って自国通貨を買い増している』
中国が自国通貨を買い増すことは考えられませんので、ブラジルやロシアなど資源国を中心とした新興国が自国通貨安を防衛する目的で動いたのではないかと考えられます。

2012年6月4日月曜日

不動産バブルとスペインの金融機関

人間は懲りないと思います。日本が経験した不動産バブルとその後の崩壊により、失われた20年を目にした人々は、その教訓を全く生かせることができなかったのでしょうか。米国で発生した住宅のバブルの爪痕は深く、雇用情勢が再び悪化するのではないかという懸念が出てきています。事実、失業率はやや悪化したようです。そして、ヨーロッパへと飛び火した債務危機は、結局のところ不動産への投機行為がもたらし結果でした。つまり、不動産バブル崩壊により、金融機関の不良債権が増大、事態は大手金融機関Bankia(バンキア )の国有化にまで深刻化しています。
スペインの不動産バブルの背景には、日本のマネーがあるとのこと以前報道番組で観たことがあります。日本で超低金利の資金を調達し、それをスペイン国内で貸し付けるという方法です。案外、米国を襲った住宅バブルの崩壊、ヨーロッパの不動産投機、そして中国での不動産の高騰などの裏には、20年間という長期間の金融緩和によって生じた日本のマネー、具体的には円キャリートレードで生じたあぶく銭があるのではないでしょうか。そして、世界各地で発生している不動産バブルの崩壊と、その過程で起きている円高という経済現象は、日本発のマネーが発生元へと戻る、つまり返済等などの行為によって生じている可能性もあります。日本発の信用創造で円安になるのではなく、逆に信用収縮によって円高となっていることも十分考えられるでしょう。
スペインのバンキアに関する記事が、2012年5月31日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。同記事には、バンキア以外の金融機関の健全性を急ぐ旨の記載もあり、本格的な不動産関連の貸し付けに対する調査に乗り出しているとのことです。この調査の結果は怖いですね。海外では指摘されてはいたのですが、少なめに評価されていた不良債権が、調査の結果、日本でも蓋を開けてもると100兆円もの不良債権があったというのが判明し、金融危機となりました。スペイン政府及び金融機関も、今後より大きい不良債権の発生に備える必要があるでしょう。以下記事引用。
『【パリ=竹内康雄】スペイン大手銀行バンキアの190億ユーロ(約1兆8,600億円)の支援要請を受けた同国政府は、6月にもとりまとめる方向で支援策の詰めの協議に入った。デキンドス経財相は30日、資金を政府が設立した銀行再編基金(FROB)を通じて手当てすると表明した。
具体的にはFROBが債券を発行して市場から資金を調達する案が有力。ただ政府には額が大きいうえ、スペイン国債利回りと連動するFROB債で想定通りの金額を得られるかどうか不安視する向きもある。このため国債をバンキアに直接譲渡して資本増強する案も検討課題となっているようだ』
右図は、2012年5月31日付NHKの報道で紹介されたものです。赤色で表示している部分である建設・不動産向け貸出が全体の22%に達していることを示しています。このうち、不良債権比率は、建設で17.7%、不動産で20.9%にも及ぶことを示唆しています。もっとも、資産査定が本格化すると、この不良債権比率は一気に上昇する可能性があります。私が最も気にしているのが、住宅に対する貸出が、問題となっていないことです。住宅に関しても同様の傾向を示すはずであり、失業率が高止まりしているスペインでは当然の結果だといえます。全体の36%も占める住宅への貸出の不良債権化が拡大すれば、金融危機はより深刻化するでしょう。
そして、上記本道番組では、スペイン経済の悪循環についても説明していました。スペイン政府がスペインの金融機関を救済した場合、同国の財政が痛み、結果、国債価格の下落を通じて、スペインの銀行へと打撃を与えるというものです。つまり、右図の①から⑦の経路をたどって、再び財政赤字の拡大というパターンへと入ることです。このパターンとなった場合、スペイン経済及び政府は負の連鎖へと陥り、最終的には国際機関やECBの救済しか方法がないという事態になりかねないということです。ユーロ加盟国中第4位の経済規模を誇るスペインの救済は、ギリシャの数倍の労力を要します。これはリーマン・ショックを上回るインパクトがあり、未然に防止しなければ、世界経済は本格的はリセッションへと入ることとなるでしょう。

2012年6月3日日曜日

為替変動とよくわからないFX

私は、FXの関して一切の取引はしていません。しかし、FX関連が提供するiPhoneアプリであるSimplex FXはよく利用しており、同アプリが提供するレートは、実際に外貨の購入(実需に伴うもの)を決定する際の判断材料にもしています。ギリシャに続く、スペインの危機により、週明け月曜日(6月4日)の相場が荒れそうなので今日は急遽、FX及び為替相場について書きます。
一時期、円相場が高騰するのを抑制する上で、FXなどの個人取引がリードしていることが注目され、日経新聞などにもその旨の記事が掲載されていました。しかし、私はFXの取引に関しては否定的な意見を持っています。2012年1月21日付『FXに一言』のブログでも否定的な見解を示しています。FXの取引では個人は外貨の買いが、売りを常時上回っており、そのことはデータでも裏付けることができ、確かに円高の進行を弱めている気がします。しかし、いったん為替相場が逆の円高方向へと進むと、FXで外貨の買いをしていた人の損失が極端に膨らみ、外貨の売りが、売りを呼び、為替相場の変動率(ボラティリティー)を増大させるのではないかと思っているからです。加えて、ある程度、円安が進むと、FXでの取引では反対決済をして利益確定をすることから、円の買いが必ず発生し、一定以上の円安には歯止めがかかってしまうことなどがマイナス面があります。
そして、何によりも大切なのは、FXの取引に傾注することは、金融取引というマネーゲームに時間や気が取れられることを意味し、貴重な勉強時間や労働時間が削がれるという意味でもマイナスだと考えています。確かにMT4(メタトトレーダー4)やミラートレーダーといった自動売買システムなどの方法もあるそうで、『週刊エコノミスト』2012年6月5日号掲載の『台頭するシステムトレード』という記事でシステムトレードについて紹介しています。同記事ではシステム取引の限界について記述しています。以下引用文。
『「自動売買といえどもほったらかしは禁物。思い通りの成果が上がっているか、常にチェックは必要だし、ひとつの売買プログラムが有効に機能するのは、長くて3ヵ月程度と考えたほうがいい」
つまり、3ヵ月に1回程度は売買プログラムの更新が必要になるわけだ。優秀な自動売買プログラムを利用すれば、高いリターンが得られる可能性があるが、どれほど優秀なプログラムでも永遠に勝ち続けることはできない。相場の流れが変わるからだ。そのときの相場の流れに合わない売買プログラムを利用し続ければ、損失がどんどん積み上がってしまう可能性がある』
また、FXには提示した価格で外貨や円の購入ができないという弊害もあるそうです。FXの取引業者が提示しているレートが、実際の反対側にいる金融機関が提示しているレートと乖離している可能性を指摘しています。その結果、高いレバレッジをかけていると約定が成立して1秒でロスカットに抵触することもあると、の別の記事(注1)で危険性を説明しています。これ以外にも思わぬ損失を出してしまうスリッページについても記述していますので、引用(注2)します。
『スリッページ(slippage)とは、英語で「すべる」を意味する。価格を指定せずに「ここだ」と思うタイミングで売買注文を出す成行注文で、注文発注時に表示されていたレートと、実際に取引が約定(成立)したレートが異なることをいう。また、あらかじめ売買したいレートを指定する指値注文や、指定した価格より高く(安く)なったら買う(売る)逆指値注文でも、指定したレートと異なるレートで約定してしまう場合に、そう呼ぶ』
 FXは、基本的には相対取引だということに注意しなければならないことです。提示レートの性格について熟知した上で取引を進める必要があると思います。それでは、FXの実際の取引状況と為替レートを参照することにします。対象は豪ドルで、右図はそれを示したものです。残念ながら、「くりっく365」で入手できるデータが5月2日までとなっているため、FXの「売り」、「買い」のデータは途中でなくなっています。しかし、同様の水準をたどったとすると、「買い」が「売り」を上回るという状況には概ね変化がないと思われます。そして、ここに暴落した豪ドル相場があります。豪ドル相場は、当局により政策金利が随時引き下げられていたこともあり、4月の1豪ドル=85円超から6月1日には75円台まで急落しています。この状態で、豪ドルのFXの取引で利益が出るのかどうか甚だ疑問があります。
6月1日の日本時間午後9〜10時の間に円・米ドル相場に大きな変動があり、ニュース番組を観ていて、一部の市場関係者から介入があったのではないかということが報じられました。しかし、その後の円・米ドルは元の水準に戻っており、介入はなかったのではないかと私は個人的に考えています。もっとも、市場は荒れています。危機の連鎖は止まってません。月曜日の朝に日銀による介入がないとはいえません。為替動向については、しばらくは注視が必要でしょう。
(注1)記事の題目は『FXの罠』
(注2)記事の題目は『「すべる」レートに気をつけろ』

2012年6月2日土曜日

円高のメリット還元のため付加価値税の導入を

ユーロ安が進んでいます。2012年6月1日午後11時32分(日本時間)現在1ユーロ=96円80銭まで下落しています。こうした中、ユーロ圏に依存する輸出企業の株価が大きく下落しています。6月1日の株式市場では、終値ベースで、前日比トヨタ自動車が▲0.99%、キャノンが▲3.17%、ソニーが▲3.52%、パナソニックが▲2.31%と軒並み大きな下落となっています。日経平均株価も前日比で102円48銭安(▲1.20%)と下落、6月1日の開始直後のNYの株式市場も大きく下げていることから、週明けの市場は荒れることが予想されます。これは、ユーロ債務危機の連鎖に、米労働省発表の非農業部門の雇用者数が前月比で6万9,000人増の小幅の増加にとどまったことで、米経済回復の鈍化という要素が加わり、先行きに対する不透明感がさらに増しているからです。
こうした中で、輸出に対する打撃ばかりが強調されるばかりで、円高還元が広がる様子は全くみられません。ヨーロッパからの輸入品は限られているかもしれませんが、自動車、ブランド品、酒類などに円高還元の動きがもう少しあってもいいのではないでしょうか。私は、外車やブランド品には全く縁がないですが、酒類の需要はある程度あります。特にワインはよく飲みますので、これらの価格が下がれば家計にプラスへと寄与することになります。そういえばオリーブオイルは、全てがヨーロッパ産ですね。今日は、2012年6月1日付読売新聞朝刊からの引用です。記事の題目は『ユーロ安、輸出に打撃、円高還元は広がらず』です。以下引用文。
『欧州の財政・金融危機を背景に円高・ユーロ安が進んでいる。電機や自動車など輸出企業は、これまでの対ドルでの円高打撃に加え、対ユーロでも円高が業績に与える悪影響に懸念が広がっている。一方、国内で円高メリットを感じられる機会は限られているのが現状だ。(中略)
■輸入企業 一方、国内消費者にメリットとなる円高差益の還元はあまり広がっていない。
理由の一つは、自動車や宝飾品などでは「安易な値下げがブランドイメージを損なう恐れがある」(百貨店関係者)と慎重な見方が多いことだ。輸入車販売会社の多くは「短期的な為替変動による価格改定はしない」(メルセデス・ベンツ日本)などとして、値下げに否定的だ。昨年8月、原料高を理由に時計や宝飾品の国内小売価格を値上げした仏ルイ・ヴィトンの日本法人「LVJグループ」も「当面は値下げの予定はない」としている』
 輸入企業に的を絞った記事の引用になっていますのでご了承下さい。因に、主な輸出企業のユーロ安による営業利益の減少は右表で示しています。日産自動車の影響が「ゼロ」というのは面白いです。同社では、欧州での現地生産体制が進み、部品の現地調達比率も高いことが理由にあるそうです。読売新聞の記事には掲載されていませんでしたが、デジタルカメラ等の輸出でキャノンやニコンがユーロ圏で儲かっているという話を聞いたことがありましので、ホームページで調べて表に付け加えました。両社ともに1円の円高で営業利益が50億円前後減少するという予想が出ています。もっとも、6月1日の株式市場では、キャノンが大幅下落なのに対して、ニコンはプラス0.18%の上昇と小幅ながら上げています。両社の収益源にやや差があるのでしょうか。株価が全く反対の動きをするのは面白いですね。
そして、本論に戻ります。今、消費税率の引き上げに関して国会等にて活発な議論がなされています。私は、総論として消費税率の引き上げには賛成しています。しかし、円高のメリットが幅広く還元されるように、消費税ではなく、付加価値税の導入に着手するべきであると主張します。輸入業者や輸入品を取り扱う業者が暴利を貪るならば、その付加価値へと課税するというシステムをつくれば、円高のメリットが十分に還元されるのではないかと考えているからです。円高のデメリットが強調される株式市場ですが、大量の化石燃料を輸入している電力会社にもメリットはありますし、外食産業にとってもプラスでしょう。でも、このメリットが国民全体に広がるシステムをつくらなければなりません。その切り札になるのが、消費税の廃止と、その代わりとなる付加価値税を導入であると信じています。付加価値税についてはやや勉強不足の感は否めませんが、今後、付加価値税について詳細に追っていくつもりです。

2012年6月1日金曜日

EUの新条約の批准とアイルランドの国民投票

私は、25年くらい前にアイルランドに行ったことがあります。記憶は定かではないのですが、リバプールには行っていませんので、グーグルマップから推測して、イギリス・ウェールズのホリーヘッドからダブリンへの航路を使って入国しました。ダブリンは、当時は余りぱっとしない町だったという印象を受けましたが、その後、低い法人税率をテコに外国企業の誘致に成功し、欧州債務危機までは躍進を続けていました。私が観た当時の町並みと現在では様変わりしていると思います。ダブリンではユースホテルに一泊して、その後鉄道で南へと下り、曖昧な記憶ですが、ロスレアハーバーにまで移動し、その日もアイルランドに宿泊する予定でした。しかし、何とその町にあるユースホテルが営業をしていなくて、どうにもならなくなり、イギリスへと航路を使って戻りました。アイルランドから直接、フランスへと入国する航路もあったようですが、当時フランスは、テロ防止を目的にビザの取得を義務づけていたため、やむを得ず、ロンドンへと移動、フランス大使館でビザを取得するという経験をしました。現在では国内旅行ばかりしている私にとって信じがたい行動ですね。ユーロ安が進んでいますので、来年くらいにはヨーロッパ旅行でもとは考えています。
 そのアイルランドで、EUの新条約批准の賛否を問う国民投票が31日に行われました。結果次第では、同国は、7月に設立されるヨーロッパ版のIMF「欧州安定メカニズム(ESM)」からの金融支援が受けられなくなる可能性もあり、そうなればギリシャに続く危機の発生といえます。もっとも、2012年5月31日のNHK「ワールドWave トゥナイト」では、事前の世論調査では50%余りが批准を賛成、反対は30%程度と賛成が優勢となっています。しかし、決めかねている人も20%程度もいることから予断を許さないと、NHKでは解説していますが、私は大丈夫ではないかと予想しています(ブログ作成時には結果が発表されていませんのでご了承下さい)。
 新条約とは、2012年1月に合意され、2013年1月の発効を目指しています。この条約の目的は、EUが信用不安の再発を防ぐために、各国の憲法などに財政規律強化のための規定を明記するよう義務づけるもので、守れない国に対しては厳しい制裁措置をとるとしています。条約は、ユーロ加盟17カ国のうち12カ国の批准があれば発効するため、アイルランドで反対票が上回ったとしても、新条約の発効そのものには影響はないそうです。他の16カ国では議会の多数決で決定されますが、何故かアイルランドだけが国民投票を選択しています。過去にも同国では国民投票でEUの基本条約を否決したこともあり、このタイミングでの国民投票は、結果、ユーロの不安定化をもたらす要因ともなっており、同国の指導者や議会関係者の能力に対して疑問が残る対応だと感じています。
 ここで、2012年5月31日付朝日新聞朝刊の記事を引用します。記事の題目は『反緊縮連鎖止まるか、アイルランド、きょう国民投票、EU財政協定賛否』です。以下引用文。
 『2008年のリーマン・ショックに苦しんだアイルランド。不動産バブルの崩壊で巨額の不良債権を抱えた銀行を政府が支援し、財政は急速に悪化した。10年11月、EUや国際通貨基金(IMF)から総額850億ユーロ(約8兆5千億円)の支援が決まった。
 その支援は、来年で終わる。立て直しは、道半ばだ。ケニー首相は「経済回復に必要な安定と確実さをもたらす」として国民投票で賛成を呼びかけている』
右図は、アイルランドの名目GDPと財政赤字の推移を示しています。名目GDPが凄まじい勢いて減少していることに特徴があります。また、2010年の大幅な財政赤字の拡大は、政府による銀行支援の結果でしょう。ギリシャ議会に続き、財政規律の厳格化に否定的なオランド・フランス大統領の当選、反緊縮の流れはドイツ国内でも生じています。そこまで、欧州危機は深化しているといえます。ユーロ加盟国や世界各国は、とにかく条約の発効に期待しているところですが、ユーロ相場が下落を続けています。日本企業にも直接的な影響があり、トヨタ自動車、キャノンなどユーロ相場の下落により営業利益の減少が予想されている企業の株価が軒並み大幅に下落しています。ドルに対しても円相場は上昇しており、もういい加減にしてほしていのが、私の本音です。