2012年10月2日火曜日

海外進出と情報漏洩のリスク、日本企業が抱えるジレンマ

 2012年9月30日付『新日本製鉄と住友金属工業の経営統合と厳しい現実』を書いていて、旧新日本製鉄の電磁鋼板の技術がOBを通じて漏洩した事実を知りました。2012年4月に、旧新日本製鉄が1,000億円の損害賠償訴訟を起こしたものの、現時点では損害賠償が確定したわけではありせんので、韓国ポスコによる不正行為が事実であったと断定されていません。自動車用の鋼板の技術に関しても、もめたという事実があります。旧新日本製鉄が、現アルセロール・ミタルがアルセロールであった時期に自動車用鋼板の技術を供与、その後、ミタルがアルセロールを買収した際に、アルセロール以外の工場での技術の利用を、旧新日鉄に要求した際、旧新日鉄が拒否したという事実があります。古くはなりますが、東芝のDRAM製造の技術に関連して、ヘッドハンティングを通じて、韓国サムスン電子などへと流出するといったニュース報道を観たことがあります。韓国企業などによる度重なる不正な技術情報の漏洩には、辟易していますが、実態はもっと複雑なようです。
 それは、日本人社員や日本人退職者からの情報が少なからず含まれているからです。業績が悪化している中で、大規模なリストラが実施されており、この流れを防ぐ手だてがないのも事実です。右図は、経済産業省作成の『ものづくり白書』(2011年版)に掲載されているデータから作成したグラフです。最大の情報漏洩元は、現地採用の従業員からの流出です。国際化が進み、この円高が定着する中では、企業の海外進出はやむを得ない選択であり、情報漏洩のリスクはあるものの、海外進出への流れは止めることができないというジレンマを抱えているのが、今の日本企業です。
 この技術情報流出に関する記事が、2012年9月26日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。この記事でも、ポスコに流出した技術情報に関する記事が掲載されており、この事実の深刻さが伺えます。記事の題目は『日本の技術で攻められ。シェア奪われ悪循環。政府やっと実態調査』です。以下引用文。
 『「産業立国」を支えてきた日本の高い技術力が、海外に流出し続けている。業績不振の大手メーカーがリストラを繰り返し、ベテラン技術者が職を失い、技術を求める海外メーカーに転出する。技術を身につけた海外企業にシェアを奪われ、日本企業はさらなるリストラに迫られるという悪循環が続く。政府は、技術流出に関する実態調査に着手し、対策強化に乗り出したが、技術流出に特効薬は存在しないのが実態だ。【赤間清広、小倉祥徳】(中略)
 日本の不正競争防止法では、社員が在職中に他社から依頼を受けて技術を流出させれば刑事罰の対象となる。しかし、前の職場で得た知識やノウハウを次の就職先で生かすまでは制限しない。技術を流出したかさえ、企業には把握できないのが実態なのだ。
 経産省は、技術流失の実態調査の結果も踏まえ、法改正など対策強化に向けた具体策の検討に入る。10月にも調査結果を分析する民間有識者による委員会を設置する方針だ。ただ、経産省幹部は「現実的には技術流出を完全に防ぐのは不可能」と打ち明ける』
 右図は、情報漏洩で苦しんでいる日本企業の実態を表しています。 図によれば、コア技術を海外生産拠点に移管している49.8%のうち、「情報漏洩の事実があった」と回答した企業が15.0%、「あったとみられる」と回答した企業が29.5%にも上り、両者を合わた割合は44.5%にも達することが分かります。これは、689社を対象としたサンプル調査で、調査対象となった企業の22%強、約150社もの企業が情報漏洩を経験したことになります。刑罰の厳格化とともに、量刑を高めるなどの法整備が必要であり、諸官庁には早急な対応が求められているところです。

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