2012年10月30日火曜日

国債保有リスクが増大する国内銀行

 先日、東京で開催された国際通貨基金(IMF)、世界銀行の年次総会では、邦銀の国債保有のリスクが高まっていることが言及されました。確かに、景気が冷え込んでいる上、内部留保が充実し、外部資金に依存しない企業が増え、企業による銀行に対する借り入れ需要が減少しています。この時点で、邦銀が余剰資金を安全とされる国債へと投じるのはやむを得ないことだと思います。しかし、今回のシャープの経営危機を支えているのは、銀行の資金であり、シャープは本社ビルまで担保に入れるという異例の事態となりました。パナソニックもいざというときに融資を引き出せる国内最大規模の6,000億円という融資枠契約を大手銀行と先日結んだばかりです。また、ソフトバンクによる米スプリント・ネクステルの買収では1.5兆円にものぼる買収資金を国内大手行を中心とした協調融資により賄うなど、銀行の存在感は増している気がします。

 欧米の金融機関が、資金を回収に向け縮小傾向にある中で、経営に安定感があり、格付けも相対的に高い邦銀は、貿易金融など国際金融の場でプレゼンスを高めており、今後の活躍が期待されています。しかし、これは「諸刃の剣」であることも認識する必要があります。海外からの資金需要が増大し、かつ国内景気が回復、民間企業からの資金需要も増加した場合、今まで国債市場へと投じていた資金を回収し、融資と振り向けなければなりません。この時、金融機関が一度に大量の国債を売却すれば、長期金利が急上昇し、評価損により自己資本が毀損する恐れがあります。


 日本銀行発行の『金融システムレポート』に、長期金利に対する市場関係者の見方が掲載されていました。0.7%台にまで低下した10年債の利回りが1%前後まで上昇するきっかけは、42%が「海外金利の急上昇」、19%が「景気回復・株価の急伸」としていました。米国の金融緩和は、2014年くらいまでは続くことが予想されている上、2014年4月に消費税率の引き上げが決まっています。つまり、2014年には海外金利が上昇しやすくなること、消費税率の引き上げまでは、先食いの消費需要が高まり国内景気が回復することが考えられ、2つの要因が重なることとなります。その結果、国債利回りが急上昇する可能性があります。日本銀行発表の国債の主体別保有残高は、預金取扱金融機関、つまり銀行・信金などが38.4%も占めています。保険・年金基金は、長期で資金を調達している上、長期で運用しているため、影響が限定されます。一方、銀行などは短期で資金を調達していることから、調達と運用で期間のミスマッチが生じており、長期金利の急上昇の影響が大きいといえます。

 金利上昇が与える影響に関する記事が、2012年10月20日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『金利が1%上昇したら、銀行・信金、損失8.3兆円。日銀資産』です。金利が1%だけ上昇した場合、貸出金利の上昇による収益改善と国債の評価損が相殺され、影響が限定的となるものの、2%以上上昇した場合は自己資本比率が低下することが予想されています。以下記事引用。
 『日銀は19日、金融システムの現状を分析した「金融システムレポート」を発表した。国内金利が一律1%上昇すると、3月末時点で大手銀行は3.7兆円、地域銀行は3兆円、信用金庫は1.6兆円の評価損が生じるとの試算を示した。国債の保有残高が増えたため、3業態合計の評価損は8.3兆円と、1年前に比べて約1兆円増えた。
 大手銀の評価損は3ヵ月前と比べても0.3兆円増えた。貸出先が乏しい地銀や信金は償還までの期間が長い国債への投資を増やしており、金利変動に伴うリスクの増大につながっている』
 バブル崩壊の痛手から立ち直った国内の金融機関ですが、過度な低金利政策を続け過ぎた弊害が、現実のものとなろうとしています。景気回復は、国債利回りの上昇をもたらす上、財政規律を失ったともいえる、わが国政府の国債に対する支出を増大させることを意味します。この結果、金利上昇と財政悪化を繰り返すという悪循環に陥る可能性は十分にあります。そして、国内銀行は、国債利回りの上昇による評価損の発生が不可避となるのです。この事態を回避するには、消費税率引き上げによる需要回復に応じて、政府支出の適宜削減し、民間の需要増と政府の需要減をシンクロさせることが求められます。景気回復は小さいものになりますが、国内銀行による国債の保有残高を考慮すれば、ソフトランディングさせなければ大変なことになるでしょう。

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