2012年10月8日月曜日

化石水の枯渇による現代農業の限界

 人口が爆発的に増加した背景には、食料生産が技術革新により大きく増加したことが背景にある。もっとも、技術革新による農産物の持続的な増産には限界が見えてきており、その第一の理由は、太古の時代から蓄積された化石水などに枯渇の危機が迫っているからです。植物にとって光合成に最も必要とされる物質は、「水」です。特に水分子に含まれる水素の役割が重要な役割を果たすことが知られており、光合成の仕組みが解明されたのは最近のことです。そして、この「水」をなくして農業生産はあり得ないのです。
 化石水を利用した農業生産で有名なのは米国です。カンザス州などの穀倉地域は、地下深くに眠る化石水をポンプ等により汲み上げ、360°回る散水機によって農作物に水を与えるシステムを作っています。これは、農業の労働生産性を高める上で、非常に合理的システムであるものの、土地を有効利用していないこと、化石水が存在し続けることを前提しているため、持続可能な農業とはいえません。この農法により、カンザス州には円形の農地が広がる独特の地表面ができ上げっており、異様さを感じさせてくれます。
 右図は、米国で行われている化石水を使った農業生産を簡単に図示したものです。特に、この農法で生産されるのが、バイオエタノールで人気のトウモロコシです。トウモロコシの生産は、小麦などと比べて水の消費量が多く、この地域で持続可能な農業生産は、小麦や放牧だけかもしれません。最近では、枯渇している井戸が多数確認されており、農業生産を断念せざるを得ない米国の農家が続出しています。そして、今年は、米国では過去にない規模の干ばつの被害です。将来の農業生産は、「水」がキーポイントであり、最も希少性なのは、労働力ではなく、循環する水資源で潤った「土地」であるといえます。つまり、今の農業にとって必要なのは、労働生産性を高めることではなく、上記の希少な土地を確保して上で、如何にして土地生産性を高めるかです。日本の農業生産は、労働生産性の面で国際競争力がないと指摘されています。一方で、土地生産性は米国などと比べて圧倒しており、加えて日本の農業は持続可能であることから、市場原理により消滅するのではなく、残すべき農法の一つでしょう。
 世界の地下水(又は化石水)に関する記事が2012年10月3日付朝日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『世界の地下水、枯渇の恐れ。研究グループ調査、たまる量の3.5倍利用』です。以下引用文。

 『世界の地下水について調べたところ、農業など使われている量は、雨水がしみ込むなどしてたまる量の約3.5倍に上り、過剰に利用されている実態がわかった。インド・パキスタン両国のガンジス川上流は54倍、今夏に記録的な干ばつが問題となった米国中央部では約9倍の水をくみあげていた。調査したカナダや日本の研究者らは「枯渇の懸念が高まっている」と警告している。(中略)
 各地域の降水量や気温、河川への流出量、蒸発量などをもとに地下への補給量を計算。農作物別に灌漑などに必要な水量を推計、経済指標や国別の1人当たりの水利用量なども考慮して工業用水や生活用水も加え、消費量を調べた。
 783カ所のうち、20倍以上使うとろこが39カ所、10倍以上20倍未満も帯水層も21カ所。取水の過剰ぶりが目立つのは、人口増加などで食料需要が増えて灌漑農業が拡大していたり、中東など雨が少なくて地下水の回復力が低かったりする地域だった』
 気になるのは、人口増加が著しいインド、パキスタンに関わる地下水の利用です。この地域は、地球温暖化の影響もあってか、ヒマラヤ山脈にある氷河が解けていることが確認されています。氷河が解けることで、現在は流水量にプラスとなっているものの、氷河が解けきれば、ガンジス川やインダス川への流水量は確実に減少することとなります。つまり、地下水の枯渇に加え、両川への流水量低下といったダブルパンチを受けることになります。これが、人口増加が止まらないインドとパキスタンの実情です。これに、米国での農業生産の停滞が加わった場合、世界の人々が食料確保で奔走する時代が訪れる恐れがあります。水の消費と降水量の組み合わせで、最も適切な作物の選択し、個々の地域にあった農業生産に傾注するべきでしょう。そして、栽培に適さない作物は、他国からの輸入でまかなうといった方法が考え、互いに補うという世界全体をターゲットとしたプラン策定が求められます。

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