2012年12月17日月曜日

グーグルが提供するクラウドサービス

 このブログを書き始めてちょうど1年になりました。今年は閏年ですので、毎日、欠かさず書きましたので、このブログで366本目となります。このブログは、何を使っているかといえば、グーグルが提供するBloggerというブログサービスです。
 ブログを始めるまでは、検索以外には、グーグルドキュメント(現グーグルドライブ)をよく使っていました。それは、クラウドサービスというものが、どのようなものなのかを知るためのものでした。それと、もう一つも理由は、ウィンドウズとマックという2以上のシステムがある場合に、データをどうすれば効率的に扱うことができるかを確かめたかったからです。そうして、グーグルドキュメントを使って、検索した結果などを色々と文章へと綴っているうちに、書いたことはネット上で公開されてこそ、価値があるのだという考えが私の中で芽生えました。そして、ブログを始めるに至ったのです。
 このグーグルが提供するブログサービスは、非常に使い勝手がよく、安定性においても素晴らしいものでした。このようなデータを喪失せず、かつ安定的に操作するノウハウは、一体どこから生まれたのでしょうか。そして、私のブログを含めて他にも多く存在するブログの膨大なデータを世界規模で取り扱うことのできる日本企業は存在するのかという疑問も生じされるほど、1年を通じて非常に安定して作業を進めることができました。快適の一言です。決して全ての機能を使っているわけではありませんが、ブログ作成中は動画なども貼ったりして、非常に面白かったという感想ばかりです。最初は、使い始めたばかりのMacの操作に不明な点が数多くあったものの、現在ではブログを作成するに当たっては、iPad、iPhone、ウィンドウズパソコン、そしてMacを総動員しています。一番良かったのは、Google Cromeがインストールされていれば、マックであろうと、ウィンドウズであろうと、リナックスであろうと、自由にワープロ感覚でブログを作成できる点です。

 ブログのテーマは「経済問題を考える」でしたが、ややそれた感は否めません。そして、数はまずまずだと思うものの、やはり時間が限られているため、掘り下げた内容が少なく、浅く、広くという結果となりました。次ぎの1年も同じスタイルで書き続けるかどうか悩んでいました。すると、会社からの業務命令で、ある試験を受けるということになり、試験への準備を進める必要性から、このブログの書き続けるペースを落とさざるを得なくなりました。やや残念な感はありますが、休止はしないつもりではいます。ブログが完全に再開できるのは、3月末以降になります。しかし、復活するに当たっては、「広く、浅く」ではなく、「広く、深く」へとバージョンアップしたいと考えています。それと、いつも試験勉強をしている訳ではありません。試験も2月、3月と時間的にもやや余裕がありますので、ペースはやや落とす予定ではありますが、ブログは書き続けるつもりでいます。上図は、実際をブログを綴っている時のパソコン画面です。
 このような機会とツールを提供してくれたグーグルには感謝です。タダほど怖いものものはありませんが、同社には今後も素晴らしいツールの開発して頂きたいと思っています。グーグルのクラウドサービスには、このBloggerやグーグルドライブの他にも数多くあります。データベースを提供するGoogle App Engineなども有力なツールであり、以前チャレンジしたことがあります。しかし、日本語の参考文献が少ないことで挫折しました。時間ができれば、また、チャレンジに向けて準備をしたいとは思っています。クラウドサービスは、グーグルで初めてどのようなものか知りました。現在では、先駆けであるアマゾンに追随し、マイクロソフトやアップルも参入しています。
 他のブログ作成ツールは使ったことはありませんが、Bloggerは、ブラウザを使ってワープロ感覚でコンテンツを作成できます。これは、アカウントさえあれば、パソコンと場所を選ばないという利点があります。つまり、完全にクラウドサービスであり、Google Chromeなどのブラウザが、パソコンにインストールされていれば、どころでも、いつでもブログを綴ることができるのです。今後、Bloggerのサービスに期待するのは、現在よりもリッチなコンテンツを作成できるようになることです。数式エディタやグラフ作成ツールなどが追加されれば便利です。特に数式を利用できれば、ブログをより学術的な内容へとパワーアップできるでしょう。

2012年12月16日日曜日

わが国のエネルギー政策、カギを握る米国からの天然ガス輸入

 原発再稼働が、スムーズにいくかは、衆議院の選挙に左右されるといえます。もっとも、2012年12月7月に発生した地震により3月11日の悪夢がよみがえり、地震が多い日本にとって原発に依存したエネルギー体制には限界があることを思い知らされました。しかし、一方で地球温暖化の問題は待ったなしの状態にあり、二酸化炭素の排出量抑制に向けた施策も求められています。夏の北極圏の海氷面積は確実に小さくなっており、近年頻発する異常気象も地球温暖化による影響であると思われます。
 農業生産には、気候が安定していることが前提になります。気候が急変動した場合、作付けした農作物が、成長期、収穫期等に打撃を受けることで十分な収穫量が得られないことがあり、干ばつはもとより、多雨でも影響を受けるのです。人口が急増している中で、食料在庫も低水準にある今、気候変動にもっと注視する払う必要があるといえます。こうした中で、11月26日にカタールのドーハで国連の気候変動枠組み条約の第18回締約国会議(COP18)が開催されました。先進国だけが温暖化ガスの排出量削減義務を負った京都議定書から、全ての国が同じ枠組みの中で協力し合う新体制へと移行する転換点となる会議として注目されています。当初は、新体制の工程表づくりが主たる議題であるため、それほどの利害対立はないと予想されていました。しかし、温暖化対策などに使う資金支援の面で協議が難航しました。温暖化ガス排出での先進国と途上国の対立は厳しくなる一方で、景気後退が長引き、環境問題を無視した、経済効率重視へと各国政府が重点を置いている気がします。そうした中で、新エネルギー、シェールオイル、シェールガスなどの登場によりエネルギー政策は根本から考え直す時期が訪れているようです。
 米国では、近年開発されたシェールオイル・ガスにより化石燃料の輸入大国から輸出大国へと姿をかえようとしています。右図は、BPホームページ掲載されているデータより作成した天然ガスの生産量の推移を示しています。90年以降より5,000億㎥強で推移していた生産量は、2010年には6,041億㎥、2011年には6,513億㎥へと急増、2012年にはさらなる増加が予想されています。しかし、産出量の急増により、米国での天然ガスの価格は大幅に下落しており、日本が購入するLNGと比べて5分の1にとどまっています。このため、米国では、日本などへの天然ガス輸出を視野に入れたエネルギー政策の転換が注目されています。
 2012年12月7日付日本経済新聞朝刊には、米国産に天然ガス輸入に関する記事が掲載されていましたので紹介します。日本が輸入するLNGの購入価格は、100万BTU(英国熱量単位)あたり15.4ドルであるのに対して、米国では3ドル台後半だそうです。液化、輸送コストを踏まえても、米国からの輸入は10ドル前後で済むとのことで、商社、電力会社、ガス会社は、独自に輸入計画を策定、安い米国産の天然ガス輸入を実現とともに、カタールなど主要輸入国との価格交渉を優位に進めるという思惑があるようです。記事の題目は、『米産ガス輸入へ前進。エネ省、来春にも許可の見通し。火力コスト抑制、期待』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=小川達也】米国からの液化天然ガス(LNG) 輸入が実現に向けて前進した。米エネルギー省は5日、これまで制限してきたLNGの輸出拡大が「米国の利益にかなう」とする報告書を公表。来春にも同省が輸出を許可するとの見通しが出てきた。割安な米国産を輸入できれば、火力発電の燃料費負担増に歯止めをかけ、電気料金の上昇抑制につながる可能性がある。
 新型の「シェールガス」の採掘技術が確立した米国では、天然ガスの生産量が急拡大ししている。米政府は自由貿易協定(FTA)を結んでいない国への輸出を厳しく制限しているが、日本を含む「非FTA国」からの需要は強い。エネルギー省は昨年5月、当時はまだFTAが発効していなかった韓国などへの輸出計画を初めて許可した。
 だが「輸出が増えれば国内のガス価格上昇につながる」との不満が消費者や産業界から高まり、15件以上申請されていた輸出計画の審査をいったん凍結。中立の専門機関に委託して影響を分析してきた。
 5日の報告書は輸出の利点を強調しており、輸出拡大にお墨付きを与える内容だ。エネルギー省はこれを受け、凍結していた計画の審査を再開する方針を示した』

 1973年の第1次オイルショック発生当時、私は子どもながらエネルギー資源の枯渇に関して恐怖を抱きました。それは、30年後にはエネルギー資源はなくなり、経済的な打撃を受けるという内容のものでした。それから40年近くがたった今でも、石油、ガスなど化石燃料の埋蔵量は増え続けているのが実情です。技術進歩の凄さには敬意を表するものの、化石燃料の消費に歯止めが掛らなくなっています。上表でのシェールガスの米国での資源量は、750TCF(兆立方フィート)です。100立方フィート=2.8317㎥ですので、単純計算で21兆㎥です。2011年の米国における天然ガスの産出量が6,000億㎥であることから、予想量は意外と少なく約35年分となります。しかし、今後も技術開発の進歩、埋蔵地域の発見により増加することが予想されることから、既存の天然ガスの加えると、米国のエネルギー事情は当面は自給率が上昇することが期待されます。皮肉にも地球温暖化の結果、北極圏の海氷が解け、北極圏での石油・ガスの開発も視野に入ってきています。人類は永遠に化石燃料を掘り続ける勢いでようとしているのです。しかし、経済重視、環境軽視のエネルギー政策により、しっぺ返しを受ける可能性は十分にあり、今年の干ばつによる穀物受給の逼迫は、それを物語っている気がします。

2012年12月15日土曜日

銀行融資に回復の兆しがある米国と日本の現状

 金融は「経済の血液」とも呼ばれ、個々の主体が円滑な経済活動をする上で大切な働きをしています。その中核にあるのは、銀行であり、銀行の健全性は、経済の健全性を指す指標であるのです。日本の銀行は、金融危機を脱する過程の中で、徐々に回復傾向を示す一方で、2008年9月に発生した金融危機をきっかけに欧米の銀行が業況を悪化させたことで、大手銀行の格付けでは逆転現象が起こっています。

 こうした中で、日本の銀行(邦銀)の活躍の場が国際金融市場で広がっています。イスラム金融、資源開発、貿易金融などの分野で、邦銀がプレゼンスを高めており、新聞紙上でも、邦銀の活発な活動を示す記事が賑わしています。2012年12月11日付日本経済新聞夕刊にも、トルコの海峡トンネル事業で、融資の主導をとって三井住友銀行が、欧州や韓国の公的金融、トルコの地場銀行と組み、総額10億ドルのプロジェクト融資を実施する旨の記事が掲載されていました。それでは、この華々しい邦銀の活動は、日本国内ではどうなっているのでしょうか。リーマン・ショック後、大きなマイナスを記録した後、ややマイナス幅が縮小、2011年下半期は何とかプラスへと転じました。物価下落が進行している日本国内では、資金の借り入れ手は、実質的な負担額は大きくなります。この状況下で、銀行にとって貸出金は伸ばすどころか、借り入れ側から常に一定額が返済されているのです。従って、景気後退に入った現在、邦銀が国内で貸出金を継続的に伸ばすことは困難な状況下にあるといえます。この点においても、デフレ経済から脱却できない、わが国経済の実情があります。


 一方、世界最大の経済規模の米国ではどうなっているのでしょうか。米国経済は、失業率が高止まっており、「財政の崖」の影響で景気後退局面へと突入することが危惧されています。しかし、人口が着実に増加している米国は、月間15万人程度(注)の雇用の場が提供されない限りは、失業率はどうしても上昇してしまいます。一方で、この人口増加は、米国経済の最大の強みでもあり、世界経済のリーダーであり続ける原動力となっています。そして、米銀の融資の増加傾向が鮮明になっており、日本とは異なった方向へと動き始めました。人口が増加していることは、持ち家や自動車への持続的な需要拡大が見込まれるため、融資残高がある一定水準にまで低落した段階で、どうしても揺り戻しがあるのでしょう。米銀の融資に関する記事が、2012年12月11日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。以下引用文。

 『【ニューヨーク=蔭山道子】米国で銀行融資の増加傾向が鮮明になってきた。米銀の9月末時点の融資残高は前年同期比3.7%増の7兆4106億ドル(約610兆円)だった。2009年6月末以来3年3ヵ月ぶりの高水準。企業向けの順調な伸びに加えて、家計向け融資も2四半期連続でプラスとなった。金融危機後の貸し渋りが収束し始めた可能性もあり、米景気が底堅い一因にもなっている。(中略)
 家計の借り入れ需要が伸びている様子は、米連邦準備理事会(FRB)が7日発表した10月の消費者信用残高からもうかがえる。同残高は前年同月比6%増の2.75兆ドルとなった。銀行が徐々に融資基準を緩め始めた結果、自動車やクレジットカードのローンが借りやすくなり、個人消費を下支えしている可能性がある。
 ただ、銀行の審査基準の緩和が遅れる住宅融資は伸び悩む。住宅の新規購入ローンや借り換え、持ち家の含み益を担保とするローンなどを合わせた残高は2.45兆ドルで0.3%減った』
 日本では、消費者金融に対する規制が強化されています。借り入れ残高は、年収の3分の1以下に抑えることが義務付けられました。これは多重債務者問題を解決することを目的としていますが、そうでなくても消費が弱い日本経済にとってプラスかどうかは甚だ疑問であるといえます。私は、日本経済にとって最大のネックは政府の債務残高であると考えています。国債の発行残高が急増する中で、この消費者金融に対する規制は、私にとっては、銀行に集まった資金が円滑に国債へと振り向けるための施策にしかみえません。一方、米国では、消費者によるダイナミックな消費が続いています。借金ばかりする米国の消費者が決してベストとは考えていません。環境のことを完全に無視し、派手にプレゼントやパーティーをやっている姿が、テレビ画面から映し出され、「米国人=過剰消費」というイメージをどうしても持ってしまいます。格差社会が進んでおり、全ての国民が、豊かな状態とはいえないのが今の米国ですが、日本と比べて根本的に違っているところがあります。それは、米国人は、将来に対する見方が楽観的であること、国の代表者である大統領を自らが選んでいることです。わが国では政治の混乱が長年叫ばれ、将来に対する希望を失いかけている若者も多い気がします。日本にとって、米国から学ぶことはまだまだあるのです。
(注)ベビーブーマーの高齢化により減少が示唆されている。

2012年12月14日金曜日

米国の量的緩和の強化とFRBの資産規模の膨張

 日本では、衆議院選挙の最中、日本銀行による金融緩和の強化を訴えている政党があります。日銀による、これ以上の金融緩和にはやや無理である感があるとともに、その効果は小さいという判断でいました。ところが、円相場が円安方向へと進み、選挙後をにらんだ投機的な動きなのか、貿易赤字の定着、経常収支の黒字幅の縮小を反映して、実需の円売りが進んでいるのかは、現段階では不明ですが、少なくともアナウンスメント効果はあったようです。

 一方で、高止まりする失業率に悩まされている米国でも、米連邦公開市場委員会(FOMC)よる一層の量的緩和の強化が決定されました。今回のサプライズは、金融緩和に、失業率を6.5%程度まで低下させるという政策目標が設定され、低下した時点で緩和政策を縮小するとしたことです。米国でも、リーマン・ショック後の財政赤字の拡大は、問題視されており、債務残高が急増した結果、金融政策に過度に頼った政策しか打ち出すことができないのが現状です。いわゆる「財政の崖」を回避するため、民主党と共和党の協議が行われているものの、対立が根深く減税措置の期限が切れる年末に間に合わない可能性が高まっており、この一連の決定は、危機回避に向けた金融緩和の強化であると考えられます。

 FRBによる量的緩和策の効果的な手法として、短期の国債を売却し、長期の国債を購入するツイスト・オペが実施されていましたが、今月をもって終了します。これにかわって導入される新たな手法は、短期国債の売却を停止する一方で、引き続き長期の国債は購入し続けるとしており、FRBの資産の膨張が懸念されています。右図は、FRBホームページ掲載の"Flow of Funds"から作成したFRB(Monetary Authority)の資産残高の推移を示しています。リーマン・ショック直後から急増、期近の2012年第3四半期では、危機発生直前のほぼ3倍に当たる2兆5,000億ドルにまで達しています。この水準が適正かどうかを判断する国際的な指標はありませんが、米国の名目GDPは15兆ドル超ですので、FRBの資産規模は名目GDPの15%前後に当たることになります。日本の名目GDPが500兆円弱であるのに対して、日銀の資産残高が156兆円ですから、米国の量的緩和は、日本ほどではありません。しかし、基軸通貨国である米国の過度な金融緩和は、商品市場へと資金が流入し、過去にもインフレ懸念を生じさせる結果となっています。インフレ懸念は、長期金利を上昇させる原因になります。従って、今回のFRBの課題は、長期金利は上昇させない程度の規模まで国債を如何に購入するかであるといえます。
 2012年12月13日付日本経済新聞夕刊に、米国の量的緩和に関する記事が掲載されていましたので紹介します。この量的緩和には、1〜2年先の物価上昇期待が2.5%を超えないということが前提条件に入っています。日本とは違って、ただ単に緩和すればいいのではなく、インフレ率の加速を回避しながらの金融緩和ですので、難しい舵取りが必要となるのです。そして、大切なのは、バランスシートの拡大は一時的であるとし、政府の財政を助けることではないことを明記している点でしょう。記事の題目は、『米、量的緩和を強化。失業率に政策目標。6.5%程度まで』です。以下引用文。
 『【ワシントン=矢沢俊樹】米連邦公開市場委員会(FOMC)は12日の会合で、失業率が6.5%程度(11月は7.7%)に落ち着くまで事実上のゼロ金利政策を続けることを決めた。米連邦準備理事会(FRB)が失業率の水準を政策の目安にするのは初めて。毎月450億ドル(約3兆7000億円)ずつ期間の長い国債を買い入れる量的緩和の強化策も表明。矢継ぎ早の緩和策で景気と雇用を刺激する。(中略)
 バーナンキFRB議長は会合後の会見で、新たな失業率目標を導入した理由を「政策がどう発展していくかを知らせる意味で役立つ」と説明。失業率が6.5%を下回るのは15年半ばごろと見込んでおり、解除の目標時期は実質的に変わっていないと強調した。
 さらに「その水準に到達したら緩和的な政策を縮小し始めるという目安のようなもの」と述べた。6.5%に近づいたらすぐにゼロ金利を解除するのではなく、景気や物価を総合的に判断して決める姿勢を示した。
 また、FOMCは同日の会合で今月末にツイスト(ねじれ)・オペが終了するのに伴い、その後も米長期国債を現在と同じ額の毎月450億ドルずつ買い入れることを決めた。議長は「緩和状態を著しく拡大したとは考えていない」と語り、従来の量的緩和策を補強するとの認識を示した』

 短期の国債を売却しないことで、これまで以上に市場へと多額の資金が流れ込むことになります。この結果、目標とした15年半ば頃までに、FRBの資産がどの程度まで膨張するかが分からなくなってきました。また、住宅ローン支援のカギとなっている住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドルずつ購入、国債買い入れ策と合わせると、毎月850億ドル規模の量的緩和となります。米国での金融緩和は、穀物、金、原油などの商品市場へと資金が流入し、物価が高騰したことは記憶に新しいです。結果、米国の長期金利が上昇し、それに引っ張られる形で、ドル高傾向になりました。ドル高は、国際な展開をしている米国企業の業績の足を引っ張ることとなります。その影響を考慮した場合、過度な金融緩和は望ましくない施策であるのです。

 私は、金融政策に過度に依存した政策運営には否定的な見解でいます。それは、金融政策は、緩和の時ではなく、引き締めの時こそ効果を発揮するからです。金融緩和主導で景気回復を目論んでいた日本経済は、危機から20年たった今でも未だに明るい兆しが見えてきません。その点も参考しにした上で、米国は別の政策を選択した方が望ましいと考えています。

2012年12月13日木曜日

今後のカギを握るアジアの成長率の上方修正

 事実上、日本が景気後退へと突入したようです。ヨーロッパ経済もマイナス成長が続いており、「財政の崖」を迎える米国経済は、先行き不透明感が増しています。世界経済が景気後退に入るか、否かの崖っぷちにいる中で、期待されるのは、今や機関車役となっているアジア、特に中国、インド、ASEAN諸国の経済成長です。アジア諸国の特徴は、所得水準もまずまずの水準に達している上、人口規模も大きいことです。消費者の購買意欲が旺盛であり、自動車など耐久消費財などの需要拡大が予想されており、日本企業にとっても有望な市場となっています。
 右図は、アジア開発銀行ホームページ掲載のデータより作成した、アジアの主要国の一人当たりGDPを示しています。各国のデータの比較がしやすいように、シンガポールは除いていますが、同国は40,070米ドルに達しており、日本を凌ぐまでになっています。個別にデータみると、中国がタイを僅かに上回っていること、マレーシアが突出していることが読み取ることができます。しかし、人口規模も大きいパキスタンは1,050米ドル、バングラデシュは700米ドルと低い水準にとどまっており、成長著しいインドも1,270米ドルであることから、アジア諸国の中でも豊かな国とそう出ない国の二極化が進んでいるようです。

 こうした中で、東南アジアの経済成長率が上方修正されました。アジア開発銀行(ADB)発表によれば、10月時点の見通しと比べて、インドがやや下方修正、中国が変わらずとなる一方で、ASEAN主要5カ国であるシンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンの成長率が上方修正されました。やはり、この中の本命は、インドネシアと私は考えています。人口増加が著しいイスラム教国の中でも、民主化が進み、天然資源だけに依存しない経済構造へと脱皮しつつある同国は、日本企業の有望な市場であるともに、生産拠点としての地位を高めることが予想されるでしょう。アジア開発銀行の経済見通しに関する記事が、2012年12月7日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『東南ア成長率、上方修正。アジア開銀、今年5.9%予想。内需、輸出減を補う』です。以下引用文。

 『【マニラ=佐竹実】アジア開発銀行(ADB)は7日、2012年の東南アジア5カ国の実質国内総生産(GDP)成長率の予想を5.9%に上方修正したと発表した。欧州債務危機の影響で先進国の需要が低迷する中、強い内需が輸出の減少を補うフィリピンやインドネシアなどの底堅い経済がアジア全体の成長を下支えする構図だ。成長する内需を取り込むために進出する日本企業も増えている。(中略)
 東南アジア諸国連合(ASEAN)主要5カ国では、12年の成長率予想を10月の前回よりも0.3ポイント引き上げた。13年も5.8%へと0.1ポイント上方修正。欧州債務危機などを受けて輸出は減っているが、内需の強さがそれを補っている』
 記事を読んで驚いたのは、フィリピンの経済成長率が、中国と肩を並べていることです。先行するシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシアと比べて、政情が常に不安定さがあったことから、やや出遅れていたフィリピンも成長軌道へと突入したようです。以前は、ASEAN諸国とのやや対立感がありましたが、円高を契機に日本企業が、国内の工場をASEAN諸国へと一斉に移転、工業国への脱皮が進み、世界経済の成長セクターへと登りつめたのです。そして、中国や韓国と異なり、日本は、ASEAN諸国とは良好な関係維持するとともに、領土問題もありません。これら諸国の成長は、日本企業にとってプラスであり、所得水準がより一層高まれば、EUのような経済統合へ向けた合意形成もできるかもしれません。インフレ、経常赤字、財政赤字などがネックとなり、インド経済に失速感がある中、世界経済にとって東南アジア諸国の持続的な成長は、希望の星ともいえるでしょう。

2012年12月12日水曜日

持ち直しつつ欧州経済とユーロ、株価の相場

 この1年を振り返って、世界経済を揺さぶったの第一の要因は、ユーロ債務危機といえるでしょう。ギリシャ危機が深化し、結局は国債のデフォルトにまで至り、混乱はピークに達しました。その後、欧州委員会、ECBなども対応が後手に回り、資金を拠出する側であるドイツなど豊かな国々と南欧など資金を受ける側であるスペインなどと間で対立が激化、ユーロ圏で経済規模第4位のスペインに危機が広がって時は、ユーロという通貨そのものの存続の危機が叫ばれるようになりました。
 この間、ユーロ相場は大きく値を崩し、ヨーロッパ圏に輸出している日本企業にも収益面で影響を与える事態にまで陥りました。中国も成長率の鈍化傾向を示し、主因はヨーロッパ向けの輸出の減少である示唆されています。もっとも、このユーロ相場も、7月を底に回復傾向を示し、ヨーロッパ経済に対する見方がやや良くなっているようです。暫定的な基金であるEFSFから移行する形で、常設のESM(欧州安定メカニズム)が、2012年10月に正式発足し、危機回避に向けた対応が着実に進んでおり、これを好感した結果かもしれません。
 株価も上昇傾向にあり、欧州の主な株価指数であるDAX(ドイツ)、CAC40(フランス)、FTSE100(イギリス)も、5月、6月当たりを底に回復傾向にあります。欧州債務危機に世界経済が引っ掻き回された1年です。欧州経済の回復なくして、世界経済の本格的な復調はなく、今後の動向が気になるところです。欧州経済に関する記事が、2012年12月9日付日本経済朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『欧州、じわり資金回帰。株・通貨・国債、トリプル高。債務危機「最悪期脱す」』です。以下引用文。
 『【ロンドン=松崎雄典】欧州金融市場に投資資金がじわりと戻っている。南北の経済格差などユーロ危機の病巣は深いものの、当面は分裂などの大混乱を回避できるとの楽観論が広がっているためだ。ドイツなど主要国がユーロ圏を守る姿勢を鮮明にして、まとまらない政治への「信頼の危機」はひとまず収束。株式や通貨、国債は、そろって高値圏にある。
 今夏ごろに風向きは変わった。欧州中央銀行(ECB)が「期間も量も制限する」としていた南欧国債の購入姿勢を変更し、満期まで3年以下の国債を「無制限」に買うことを打ち出した。
 南欧に緊縮や財政規律を強く要求したドイツも、追加支援や救済条件の緩和に柔軟になった。ギリシャ離脱の影響を真剣に議論し「ユーロ分裂を招きかねないとの判断から支援に積極的になった」(独運用会社)との受け止めが多い。
 ここ2年間で、財政規律を高める財政協定や銀行の資本増強、銀行同盟への取り組み、欧州安定メカニズム(ESM)の創設など、徐々に危機対策が進んだことも安心感につながる。ギリシャの経常収支が9月まで3ヵ月連続で黒字になるなど、南北の競争格差に改善の兆しも見える。
 信用リスクを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS、5年物)の市場で、独国債の保証料率は0.3%強と、米国債(0.4%弱)を下回る。一時は南欧の危機がドイツの信用力を揺るがしかねないとして、1%を上回っていた』 
 ESM、EFSFの資金総額は、7,000億ユーロにも及び、このうちドイツの負担額は3,000億ユーロです。一時は、独憲法裁判所で、ユーロ諸国に対する支援が違憲か、どうかが審議された。審議の結果が発表されるまでの間、今後の欧州債務危機はどうなるのか、世界から注目されました。最終的には合憲と認められ、それを受けてESMが正式発足に至ったものの、その対応の遅さには、いら立ちを感じました。ギリシャの債務危機は、恒例行事です。来年の春先当たりから危機再燃という事態を回避するべく、EU、ECB、各国政府は事前の対応が迫られているのです。

2012年12月11日火曜日

拡大が期待される自動車向け炭素繊維

 今年の9月、ボーイング787に初めて利用し、東京へ行きました。787は、機内に聞こえてくるエンジン音が小さく、座席にハイテク機器を装備、光量の調整機能が窓に付いているなど驚くことばかりでした。それまで、私が乗ったことがある機種がボーイング767やエアバス320などやや世代の古いものしかなかったため、いきなり最新機種であったことからビックリしたのでしょう。
 ボーイング787に乗った後、同機種にやや興味が持ったため、調べてみると、この機体には50%もの炭素繊維が使用されていることが分かりました。右図は、ボーイング社提供の資料で、787の素材別の部品を示したものです。炭素繊維が50%であるのに対して、アルミ20%、チタン15%、鉄10%にとどまっており、これからの航空機製造では、炭素繊維が主役になることが予感される事実です。当然、競争相手であるエアバスでも同様に炭素繊維を使った部品を中心とした機体が設計・製造されることが予想され、炭素繊維の分野で圧倒的なシェアを持つ日本企業の活躍する場が増えることが期待されています。
 とろこで、炭素繊維といっても色々とあるようです。原材料別ではPAN系、ピッチ系及びレーヨン系などがあり、1980年代からは異方性ピッチ系炭素繊維が加わり、日本の炭素繊維生産は、品質・生産量ともに世界一の実績を上げています。そして、炭素繊維は単独で使われることなく、セラミックス、金属などを母材として複合材料の強化及び機能性付与材として使用されるそうです。高化強度、高化弾性率など優れた機械的性能と低密度、低熱膨張率、耐熱性、化学的安定性、自己循環性など炭素を原料とした特徴を併せ持つことから、幅広い用途に使われます(注)。上図は、炭素繊維協会ホームページ掲載データから作成した炭素繊維の出荷状況を示すグラフです。リーマン・ショック後に大きく減少しているものの、2010年、2011年には成長軌道へと回復、今後は順調な拡大が期待されています。

 こうした中で、炭素繊維の使用でも、本命中の本命である自動車向けの炭素繊維製造に関する記事が、2012年12月2日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。炭素繊維への需要は、鉄などと比べてコストが高いことから、航空機など付加価値の高い最終製品に限定されると思っていました。自動車向けで用途が広がれば、今の炭素繊維市場とは比べることができない巨大な市場が目前に迫っていることを意味しています。記事の題目は『車向け炭素繊維量産。帝人、米でGMに供給。300億円投資』です。以下引用文。

 『帝人は鉄より軽くて強度の高い炭素繊維を世界で初めて自動車向けに量産する。米国に約300億円を投資し、2015年までに生産能力を4割拡大する。米ゼネラル・モータース(GM)が量販車種に採用する計画で、帝人はGMへの主力取引企業として契約を結ぶ。車体を軽くできる炭素繊維の採用は日欧勢も検討中だが、本格的に導入するのはGMが初めて。車の主要素材の座を巡り、鉄鋼、化学大手の競争に拍車をかけそうだ。
 炭素繊維は鉄と比べて強度が10倍、重さも大幅に軽い。米ボーイングの新型旅客機「787」の機体に東レ製の炭素繊維が採用され注目されたが、中長期的には自動車産業が最大の需要家になると予測されていた。
 GMと帝人は昨年提携し、量産技術の確立を目指していた。今回、GMが炭素繊維を使用するのは15年以降に発売する一般向けの主力車種。強度が必要な骨組みの「構造材」といわれる部品の一部を鉄と置き換える。車の見栄えに影響する車の外側部分についても採用を検討していくという』
 自動車に炭素繊維を導入することは、懐疑的に思っていた私にとって寝耳に水です。そして、炭素繊維といえば、東レという印象が強く、この記事で帝人も東レに肉薄する規模であることを初めて知りました。因に、東レの炭素繊維の生産能力は年間1万8千トンで、2位の帝人が1万3,900トンです。億トン単位の鉄とは規模が全然違い、自動車の分野で、どの程度が鉄から炭素繊維へと移行できるかのは不明です。鉄にも、事故を起こした際には板金塗装で簡単に修復できること、また、柔軟さという性質から、潰れることで人の命を救うというプラスの性質があります。一部にとどまるというのが、私の考えですが、GM、帝人の成功次第では、流れが大きく変わる可能性があるといえます。
(注)炭素繊維協会ホームページを参考。

2012年12月10日月曜日

生命保険の比重が大きい家計の金融資産と台頭する損保系生命保険

 私は、生命保険は掛け捨てのものしか加入しておらず、生命保険が金融資産であるという認識は全くありません。ポートフォリオに占める割合が高いのは、債券、株式などリスク商品ばかりですが、日々の価格の上げ下げに一喜一憂するという感覚は全くありません。それは定期的に購入する累投をメインの投資手段としているからでしょう。つまり、長期投資にウェイトを置いたものであり、少しばかり株価が上昇しようとも、利益確定という行為は一切せず、得られる配当金や債券の利子を如何に大きくするかにだけに注視しています。
 株式、債券、投資信託といったリスク商品とは反対にあるのが、元本を保証した銀行預金(ペイオフが実施された場合は除く)や、契約時に確定した給付金を保証した生命保険(変額保険などは除く)です。わが国の家計の金融資産に占める現金・預金の割合が高いことは広く知られています。一方で、年金準備金を含めた保険の占める割合も高いことにも特徴があるといえます。日本銀行発表の資金循環統計における保険・年金準備金とは、積立型生命保険、積立型損害保険、企業年金、個人年金が該当します。私に限った場合、この項目の積み立て額はかなり低い水準であるといえ、標準的な家計とはかけ離れたポートフォリオで金融資産を運用していることが分かりました。日本銀行によれば、2012年6月末時点で、金融資産に占める保険・年金準備金は28.0%にも上っており、やはり、このうち企業年金の割合が高いとは思われるものの、生命保険のセールスの姿勢から考えて、生命保険の残高もある程度の水準に達していることが伺えます。

 リーマン・ショック以降、株式や投資信託を持っていた人々はかなりの損失を出していることが予想されます。しかし、金融資産に占める割合は、株式・出資金が6.0%、投資信託が3.8%といずれも低い水準にとどまっています。結果、リスク商品の下落の影響は限定的であることが推測されます。それで、調べたのが右図です。右図は、家計が保有する金融資産の項目別の伸び率を示しています。家計が株式、投資信託を売却した結果、株式や投資信託の残高が大きく減少しているとも捉えることができますが、株価や投資信託の基準価格の下落などにより投資金額そのものが目減りしたと考える方が自然でしょう。一方で、保険・年金準備金は2010年は減少したものの、それ以降は着実に増加していることが図から読み取ることができます。意外だったのが、債券の保有残高です。国による国債の発行残高の増加と、金融機関による販売促進の努力もあってか、2010年9月以降、対前年比でプラスの伸びを続けています。


 こうした中で、生命保険の分野で損保系が台頭してきている旨の記事が、2012年12月3日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。業際規制の緩和で、損害保険会社が生命保険を販売しており、保険料等収入は、依然として低い水準にとどまっているものの、伸び率自体は堅調に推移し、シェアを着実に伸ばしていることが伺えます。業際を超えた競争は、その便益を受ける家計にとってメリットは大きく、この分野における規制緩和は成功したと考えてもいいでしょう。記事の題目は『逆風下の生保、近く変動進む。損保系が台頭、東京海上、朝日を逆転』です。以下引用文。

 『株安・超低金利による運用難という逆風が吹くなかで、生命保険業界の地殻変動が進んでいる。思い切った販売網の再構築や海外進出など明確な成長戦略を掲げる生保の業績が改善し、身をかがめる生保との成長力に格差がつき始めた。
 業際規制の緩和を受けて、損害保険会社が生保事業に参入したのは1996年10月。それから16年、損保系生保は主要生保の一角を占め、本業の損保事業を上回る収益力を持つまでに成長した。
 規制緩和後の地殻変動を象徴する存在が、東京海上日動あんしん生命保険だ。同社の保険料等収入は、かつての大手5社の一つで、グループ会社が統合を模索した朝日生命保険を上回った』
 金融行政における行き過ぎた規制緩和は、欧米金融機関の業績低迷から学ぶことができます。かつて、日本でも金融危機が叫ばれている時期には、生命保険会社が倒産する事態に陥り、銀行、証券などもかなりの打撃を受けました。リーマン・ショック後は、日本の金融行政が過去の教訓を生かしたせいなのか、欧米の金融機関が業績や格付けを下げているのを尻目に、日本の金融機関の国際的なプレゼンスは上昇しています。欧米の独壇場であった貿易金融などの分野へも、日本の銀行は積極的に進出しています。同様に、生保の分野でも、海外進出などを積極的に進めた生保が業績を伸ばしています。野村證券など大手証券会社はやや苦戦を強いられている感は否めませんが、銀行、そしてこの生保が海外での台頭しているという事実は歓迎するべきことでしょう。

2012年12月9日日曜日

存在感を増す政府系ファンドと日本の株式市場

  2012年12月2日付『徹底した株主重視の姿勢を貫くキャノンに疑問あり』の中で、キャノンの株主重視の姿勢に対してやや批判的なことを書いたばかりです。しかし、増配などで、海外ファンドをうまく取り込み、株価を引き上げることは、株主だけでなく、企業自身の将来の成長力にとって決して悪くないはない面もあります。上記のブログでは、内部留保が減少する点だけに着目し、配当に回すよりは長期的な視点にたって投資活動を続けることの方が、同社には必要である旨強調しました。
 一方で、キャノンは、株主を間接的に支援する自社株買いを実施しており、確認できる範囲では、2012年12月期第3四半期のバランスシートで221億円もの自己株式を保有しています。この自己株式は、企業買収を株式交換でする際に活用できるようで、株価の上昇は、この点においてプラスであるといえます。従って、株主だけにとってプラスであるように思われがちな配当金の増額は、内部留保の浪費というデメリットだけではありません。それが、株価上昇という結果をもたらせば、企業買収によって、業務分野の拡大を目指す企業にとってメリットは大きいといえます。
 そうした中で、政府系ファンド(SWF、Sovereign Wealth Fund)が、資源高を背景に存在感を増しています。政府系ファンドを積極的に活用し、資金を効率的に取り込むには、株主を重視した企業経営が求められます。やはり外国人保有比率が高いキャノンにとって配当政策は、死活問題であり、在庫を極度に圧縮してまで、キャッシュ確保をしようとする姿勢には正当性があるといえます。上図は、政府系ファンドの資産規模の推移を示しています。2008年9月のリーマン・ショック後にやや減少しているものの、その後は右肩上がりに増加していることが分かります。2012年9月末時点では、5兆ドル(約420兆円)を上回っており、東証1部の時価総額が270兆円にまで落ち込んでいる日本の株式市場にとって、これら政府系ファンドを如何に取り込むかが、今後のカギを握っているといえます。
この政府系ファンドに関する記事が、2012年11月29日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。やはり、原油価格が高止まりする中で、潤沢な資金が産油国に蓄積されており、中東ばかりではなく、ロシア、アフリカ、アジアのファンドの資産規模が確実に大きくなっています。記事の題目は『政府系ファンド膨らむ。アジアなど設立相次ぐ。資産残高420兆円』です。以下引用文。
 『政府系ファンド(SWF)の資産増加が続いている。資源収入の拡大による経済成長を背景に、アジアやアフリカ諸国でファンドの設立が相次いでいるためだ。世界の政府系ファンドの資産残高は9月末時点で5兆1350億ドル(約420兆円)となった。ファンドの資金は先進国の株式や不動産市場などに流入し、相場の下支え役として存在感を増している。
 米ソブリン・ウエルス・ファンド研究所の調査によると、9月末時点の残高は直近の4年間で約3割増えた。リーマン・ショックを受け一時減少したが、それ以降、増加基調が続く。民間の投資マネーである世界のヘッジファンドの残高が2兆ドルといわれる中、急増ぶりが目立つ。
 オイルマネーに潤う中東や貿易黒字の中国などに加え、アジアやアフリカの資源国でも余剰資金の運用手段として新たなファンドが立ち上がり始めた。短期売買を中心とするヘッジファンドに対し、政府系ファンドは中長期の視点で投資する傾向が強く、相場の安定や長期的な上昇に寄与するとの期待がある』

 確かに、11月に入ってから米株式市場がやや軟調気味です。その背景の一つに、米企業の本決算を前に、ヘッジファンドの決算があり、確定売りが発生しやすいことがあります。政府系ファンドは、中長期の視点で投資をすることから、それら資金の呼び込みは株価安定に寄与します。一方で、中長期的に成長余力がないと判断された場合、企業の株式は売られることを意味しています。従って、安定して増加する配当の原資を確保するため、成長分野への投資は不可欠であるとともに、業績を上げることが常に求めら続けるのです。最近、インテルの株価がやや低迷しています。同社の株価は、大体20ドル前後で推移、配当利回りは4.5%前後とになっています。配当すら出さないIT企業が多い中で、まずまずの配当利回りといえます。しかし、パソコン市場が成熟化し、成長性が見込めないと判断したウォーレン・バフェット氏のファンドが、最近、インテル株を売却しました。その後、30ドル近くまで上昇していた株が20ドルを切るまで下落、結果として配当利回りが上昇しました。
 政府系ファンドの資金を呼び込むためには、今の日本企業の業績は悪すぎます。トヨタの配当金も一時は、1株当たり140円にも達していました。2012年度は50円です。減配続きに、配当利回りが1〜2%程度では、政府系ファンドを呼び込むには力不足といえるでしょう。

2012年12月8日土曜日

割高な天然ガスの輸入と海外エネルギー企業で進む経営統合

 私は、国の第一の目標にエネルギー戦略があるということは望ましいと考えています。幸い、解散総選挙の争点には、今後の原発依存度について議論が活発にされており、選挙結果後には、わが国の今後のエネルギー戦略の骨格が速やかに策定されることを期待しています。原発依存度については、国民が選んだ代表者が十分に議論した結果に基づき出来上がったのならば、それに従うだけであり、私が求めているのは迅速な対応だけです。
 こうした中で、わが国の貿易赤字が定着しつつあります。その背景には、震災後、急増するLNG(液化天然ガス)の輸入があり、日本の発電に占めるLNGの割合は32%→43%へと上昇しています。それに伴い、LNGの輸入金額は、2010年度に3.5兆円だったものが、2011年度には5.4兆円となり、1年で1.9兆円も増加したことになります。原発稼働が完全に停止している中部電力などでも、60%の発電をLNG火力発電に頼っており、2011年度の燃料費は3,000億円も増加、2年連続の営業赤字決算が見込まれています。
 このため、LNGを如何に安く仕入れるかがキーポイントとなっています。日本の場合、元々、原油の代替品としてLNGを輸入されていたという経緯もあり、原油価格が高止まりする中で、引き続き高い価格のLNGを輸入せざるを得なくなっています。特に、長期的に安定した供給を目指するため、LNGを取り扱う企業のほとんどは20年以上の長期契約を結んでいます。数年ごとにLNGの輸入価格を交渉しているようですが、カタールなどのLNG輸出国は価格引き下げに対して消極的な態度をとっています。しかし、LNG輸入企業は、価格交渉力を強める必要があり、米国のシェールガスに目を付け始めました。米国では、シェールガスの順調な生産もあり、天然ガスの価格が大幅に下落、日本向けのLNG価格の5分の1にまでなっています。この価格下落に対応し、中部電力は、日本のガス会社と手を組み、米国での天然ガス生産に乗り出し、カタールなどとの交渉を有利に進める考えを示しています。
 原発を再稼働するならする、全て廃炉にするならするで、それは問題ではないでしょう。しかし、国のエネルギー戦略をどのようにするかという、長期的なビジョンがなければ、LNGの輸入にしても上手くいくとは思えません。つまり、LNGの大量輸入が原発再稼働までの一時的なことならば、高い価格のLNGを買っても問題はありませんが、最終的に原発を全て廃炉にするのならば、LNGの輸入交渉も長期的な視点で立つ必要があり、政府の施策を遅れが、企業現場の混乱の元凶ともなっています。
 電力会社、ガス会社、商社など日本企業の努力は大切であると思いますが、やや疑問が残る点があります。特に電力会社では、安定供給を第一に考え過ぎ、消費者へと価格転嫁すればいいという安易な考えがあり、地域独占を許した結果、このような事態になったと考えてもいいでしょう。そして、海外のエネルギー企業の統合が進んでいる中で、引き続き企業努力は必要であるものの、購入する側の企業も価格交渉力を高める上で、窓口を個別の企業とするのではなく、政府、又は政府系企業、または民間企業の統合などにより一本化し、交渉力を高める必要があると感じました。
 こうした中で、海外の大手エネルギー企業の統合が発表されました。日本は世界最大のLNGの輸入国であるのに、大手エネルギー企業の中には、日本企業がランキングしていません。時代遅れかもしれませんが、国策会社を設立し、原油・天然ガスに加え、石炭、鉄鉱石など鉱物資源全般において価格交渉力を強める必要があると思います。ロシア石油企業に関する記事が、2012年12月1日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「資源」で影響力拡大狙う。ロシア石油企業、世界最大に。プーチン大統領、国家管理を強める』です。以下引用文。
 『ロシア最大の政府系石油企業ロスネフチと英国の国際石油企業(メジャー)BPが11月22日、ロシア3位の石油企業「TNK-BP」(BPとロシア投資家集団の合併)をロスネフチが買収する合意書に調印した。買収手続きは来年前半に完了する見通しで、ロスネフチは生産・埋蔵量で欧米メジャーを上回り、上場石油企業としては世界最大の「ロシア版メジャー」となる。【モスクワ田中洋之、ロンドン坂井隆之】(中略)
 今回の取引ではロスネフチがTNK-BPの株を買収する一方、BPがロスネフチ株の約2割を保有することでも合意。北極圏や東シベリアの資源開発でBPの優れた技術力を導入し、さらに欧米からの投資の呼び水にしたい思惑がある。
 ロシアのエネルギー専門誌「ロスエネルギー」のクルチーヒン編集長によると、ロシアの国家予算収入に占める石油・ガスの比率は、プーチン氏が大統領になった00年の9%から現在では52%に増えている。クルチーヒン氏は「プーチン大統領の政策は石油・ガス部門からいかに多く稼ぎ出すかに向けられており、資源の国家管理をさらに強めようとしている」と指摘する一方で、「ロシアで政府系企業の巨大化は不正や汚職の温床となる。競争力や効率性を失い、ロシア経済にとってメリットはない」と批判している』
 こうして上記記事を読んでいると、大規模な国策会社の設立は時代遅れという感は否めません。一方で、地域独占があり、安易な価格転嫁が可能となっている日本の電力行政も時代遅れでしょう。ロシアの場合は腐敗を生み、日本の場合は取り戻しの付かない原発事故です。ところで、シェールガスの発掘は大手石油会社で実現されたものではありません。小さな企業家の努力の結晶が、シェールガス、シェールオイル革命を起こしたことが今では知られています。小さな企業でも大企業と台頭にやっていき、常に企業の新陳代謝が進むというのが米国です。シェールガス・オイルの環境に与える負荷が問題となっていますが、新陳代謝が最も少ない分野ともいえる日本の電力会社は、この米国産のシェールガスへの依存度を高める必要があり、これは皮肉な結果といえるでしょう。私は、日本の電力会社で統合した窓口を設立するべきだとは考えていません。お役所仕事に徹している硬直化した企業が出資し、設立された企業が台頭すれば、市場に混乱を生むだけです。従って、期待すべきは、国内の商社や石油会社などの業務提携だと思っています。

2012年12月7日金曜日

呼び起こされる悪夢、無理のある原発再稼働

 このブログをほぼ書き終えた段階で、地震が発生、3月11日の悪夢がよみがえりました。タイトルも『原発再稼働にゴーサインか、電力会社の株価急回復』から急遽変更しました。やはり潜在的にリスクが大きい原発再稼働は難しいことを思い知らされることとなりました。この冒頭部分も急遽追加したものです。
 再稼働に至った大飯原発の活断層の判定でも時間が掛かっています。東日本大震災発生時、福島原発の状況をリアルタイムで見ていた人は多いでしょう。そして、当時のリアルタイムの解説と、事後検証の大きな差があり、今でもあの解説は何だったのだろうという疑問を持つ方々も多いと思います。原発再稼働に関わっている人々のことが信頼にたる人材なのかに対しても強い疑問があります。専門分野や学問の中での内部対立も感じさせらる点もあり、再稼働に当たっては、第三者の意見が求められています。特に、この第三者には、中立的な視点で検証ができる外国人の研究者の意見が必要です。地震が起こってから、専門家の間で想定外という言葉が連発していました。想定外は許されない言葉であり、政府はエネルギー政策の策定に当たっては信頼回復を得るため、外国人を主体として構成する検証委員会を設置するべきであり、今の体制で不十分です。

 私は、エネルギー確保の問題は国家の存続する上での根底をなすものであるという認識でいます。従って、今回の衆議院選挙において、原発依存度など今後のわが国のエネルギー政策のあり方が争点になっていることは望ましいことであると考えています。結果はともかく、民主主義の国家に所属する国民として、選挙結果を率直に受けて入れるつもりであり、そのもとで決定されたエネルギー戦略ならば、原発依存度がどうなろうと不満を言うことは決してないでしょう。私の要望はただ単に一つだけです。次に選出される首相に期待することは、4年の任期、職務を全うする人材が選出されることだけです。サミットに参加する国の代表者が毎年替わるという事態は、日本経済が没落している中では、もう許されないことでなのです。
 もっとも、争点となるべき課題はエネルギー政策だけではありません。エネルギー政策はもちろんのこと、今、私が一番気にしているのは、やはり国の財政赤字を如何に解消していくかです。消費税率の引き上げが2014年4月に現在の5%から8%に引き上げられることが決まって、やや安心している感はあります。しかし、次ぎの10%までの引き上げには景気条項が入っていることで、引き上げが頓挫することを最も懸念しているところです。加えて、最終的には消費税率を15%程度までの引き上げが必要であることがIMFなど国際機関により指摘されており、次期政権には、厳しい日本経済の現状が待ち構えているのです。
 こうした中で、選挙の趨勢が決まりかけているようです。右図は、2012年12月6日付毎日新聞朝刊に掲載データを元に作成した各党別の予想獲得議席数を示しています。毎日新聞に限らず、日本経済新聞、読売新聞、朝日新聞も同様に自民党が圧勝する旨報道しており、政権交代の可能性が高まっているのです。ならば、自民党のマニュフェストが気になるところです。2012年12月1日読売新聞朝刊記載の記事では、自民党は、原発については「ゼロ」に固執しないこと、日銀に強い金融緩和を求めること、TPP(環太平洋パートナーシップ)については原則同意するといった内容が記述されています。この記事には、肝心である財政に関する言及がありませんでしたが、NHK等のニュース報道から、同党は公共事業の復活を強く訴えているようです。この点については、せっかく成立した消費税率引き上げによる財政健全化の方向への道筋が消えかねない事態であり、憂慮しているところです。
 そして、自民党が原発「ゼロ」に固執していないことから、電力会社の株価が、11月に入ってから上昇傾向にあります。どういう形にせよ、総選挙により安定した政権が発足することは歓迎されることです。もっとも、電力会社の株価の急回復は、電力と政治とが密接につながっているという事実を示しています。今回の選挙は、大切なものです。GDPで中国に抜き去れ、オバマ政権の中でも日本の地位が低下していることが感じ取られます。安定した政権の確立に向けて、各党は協力し、次ぎの世代へと課題を残さない充実した4年間となってほしいと思っています。
 財政健全化の視点から判断した場合、公共事業の復活は現実離れした意見です。一方で、既存の施設を有効利用し、原発の再稼働がスムーズに進むことは財政赤字の拡大抑制する上ではプラスでしょう。助成金を使った再生可能エネルギーは、財政余力のある国だけで行える施策であり、残念ながら今の日本にはその余力はないといえます。原発の問題は、今後のエネルギー戦略を考える上で、最も重要といえますが、財政赤字を削減することも大切です。ベストミックスな電力・エネルギー政策だけに注視するのではなく、財政事情とエネルギーのベストミックスも必要があると考えています。

2012年12月6日木曜日

感覚を失わせる投資信託への投資の危険性とETF後進国の日本

 私は、基本的に投資信託は購入しないという姿勢で投資をしています。それは、投資信託の投資対象となっている企業の中に、軍需産業に従事したり、銃器を売却して儲けている企業が入り込む懸念があるからです。これ以外にも、バブルを発生させ、それを崩壊させた銀行、インサイダー取引を行った大手証券会社、オリンパスなど不正会計を行った企業、政治献金などでいつも問題となっているゼネコンなども投資対象外です。とにかく、株式投資は資金を出した範囲での有限責任あるものの、投資した企業が不正を行った場合、限定的ではありますが、その投資家にも倫理的な責任はあると思います。
 実は、私も若干の投資信託は持っており、リーマン・ショックの元凶ともなったファニーメイとフレディマックの債券を間接的に保有しています。また、外貨MMFには、日本で不正行為を行ったBNPパリバの債券もしっかりと組み入れられています。以下は、外貨MMFの目論見書に記載されているBNPパリバの部分で、記載によれば、ポートフォリオ全体の3.62%をパリバのコマーシャルペーパーで持っていることになります。
投資信託への投資が良くないのは、株式を直接持っている人々よりも無自覚に、かつ無感覚に不正を行った企業の株式や債券を購入している可能性が高くするからです。むしろ、投資信託への投資は、銘柄を指定して株式投資することよりも罪深い行為といえます。それは、直接株式を購入した場合、自らが反省する機会も与えてくれますし、株価が下がり損失を出れば、痛い目にあってさらに反省することになるからです。そういった感覚が投資信託には完全に欠如していることに問題があるのです。特に、紛争国からの輸入や児童労働によって産出された原材料を使った製品を製造・販売している企業にはかなり注意する必要があります。真の意味で、倫理的に問題のある投資となってしまう恐れがあるからです。
 先日、BS世界のドキュメンター『血塗られた携帯電話』は、フィンランドのノキアについて報じていました。番組は、携帯電話に使われている部品に、紛争で多くの人々が苦しんでいるコンゴ民主共和国で産出された希少金属が使われている可能性があることを示唆した内容です。最初のうちはノキア側は知らぬ存ぜぬという態度をとり続けていましたが、粘り強い取材と調査の結果、ノキア側はその事実を認めました。北欧の優良企業、ノキアですら、このような状況です。まして、それ以外の国々の企業は、どんな不正行為(又はモラルハザード)をやっているのか全く分かりません。とにかく、十分に調べた上で、投資をしなければ、まさしく「血塗られた投資」になってしまうのです。上の写真はノキアの携帯電話のラインナップのほんの一部です。ノキアばかりが悪者になってしまいましたが、携帯電話を製造・販売している他の多くの企業も同様のことがいえるのです。アップルのiPhoneの製造ラインでも、自殺者が多数出たということが一時期問題となったことを記憶しています。
 それならば、消費者として企業を選別することも大切であるともいえます。しかし、消費者の立場でもってここまで反応した場合、何も出来なくなってしまいます。あれも駄目、これも駄目です。従って、一部にフェアートレードとして販売されている商品・製品があるものの、そこまでの注意喚起を商品の表示には現状は行っておらず、事実を知らない限りはやむを得ないという気がします。それほど数多くの商品・製品に囲まれているのが、我々の生活なのです。しかし、投資は別物です。悪徳な事業をしている企業、モラルハザードを起こしている企業、環境を悪化させている企業への投資は控えるべきです。それは、投資家には、常に倫理的な責任があるからです。そして、投資信託への投資には、そういった企業の株式や債券が混入されている可能性はどうしても高まってしまい、無意識のうちに購入する危険があるのです。この無意識こそ、最も罪深い行為であるといえます。意識している投資をしている私ですら、BNPパリバ、フレディマック、ファニーメイの債券を間接的に保有しているからです。
 それでも、投資信託の本数は増加し続けており、特に証券取引所で取引される上場投資信託(ETF、Exchange Traded Fund)は手軽さから人気を博しているようです。もっとも、日本では、上場本数が米、英、独などと比べて極めて少なく、ETF後進国でもあります。特に、日経平均株価に連動するといった指数連動型の上場投資信託の取り扱いは非常に容易く、投資経験の浅い投資家にはお勧めのリスク商品であることは間違いないでしょう。しかし、素人といえども、投資家としての責任を考えた上で、目論見書などをじっくり読んでから投資することが大切です。ややズレている感はありますが、米国などでは投資に関する教育を子どもの頃からしているそうです。日本では、投資は敬遠、銀行預金に邁進している家計の姿があります。その資金の一部、例えば10%でも株式市場へと流れれば、株価は確実に回復します。投信の危険性を書きながら、投資を勧めるというやや矛盾する内容となってしまいましたが、つまり私が言いたいのは投資には色々な考えやスタンスがあるということです。私の投資スタンスは決して他の人の見本になるものではありません。しかし、多様なスタンスの人々が市場へと参入すれば、株式市場は安定化し、結果、リーマン・ショック以降の株価底割れと、その後の回復力の鈍さは回避できた可能性は高いといえるでしょう。

2012年12月5日水曜日

減速する企業の設備投資と限界が見えてきた公共事業によるインフラ整備

 また、痛ましい事故が起こってしまいました。それは、山梨県の中央自動車動の笹子トンネルの崩落事故で、死者9人出す大惨事となりました。この事故は、トンネル設備の老朽化による事故ともに捉えることもできますが、2012年12月4日付毎日新聞朝刊によると、東日本高速道と西日本高速道路は、打音による検査も実施、中日本高速道路は打音による検査を実施していなかった旨の記事が掲載されていました。これが事実ならば、今回の事故は起こるべくして起こった事故ともいえ、中日本高速道路は管理責任が問われることとなります。
 橋りょう、高速道路などといったインフラの老朽化は、わが国特有の問題でありません。世界各国の政府が対応に追われているのが実情でしょう。もっとも、わが国に特有の問題なのは、財政赤字が拡大する中で、新たなインフラ整備だけでなく、既存のインフラの補修費や更新費に回せる資金に限界が出始めていることです。このような事故の再発防止のために、最優先に予算を確保する必要がありますが、この事故の発生は、現場の予算不足という時代の本格的な到来を暗に告げている気がします。

 また、公共事業が景気の底支えをするということはなく、今後の資本ストックの蓄積を左右するのは、民間設備投資の動向です。右図は、内閣府発表の国民経済計算より作成したグラフです。四半期ベースの実質経済成長率(年率)、民間企業設備及び公共投資の寄与度を示しています。景気変動の流れをつくり出しているのは、民間企業設備であることが、図から読み取ることができます。つまり、政府は、規制緩和などにより企業の設備投資意欲を如何に高めるかにウェイトを置いた施策が求められるのであって、債務残高から考慮して、政府自らが公共投資を積極的に行うことは慎むべきです。2012年12月4日のNHKの報道で、2010年度の社会保障給付費が103兆4,879億円と初めて100兆円を上回ったことが明らかになりました(国立社会保障・人口問題研究所発表)。社会保障費など国の義務的支出は今後、幾何級数的に増加する恐れがあり、裁量的な支出である公共投資は極力を抑える必要があるのです。そして、仮に予算が確保できたとしても、インフラの補修費や更新費へと傾注し、事故防止や災害復旧へと備える必要があるのです。


 こうした中で、今後の日本経済を支える企業の設備投資の伸びが鈍化していることが財務省発表の法人企業統計から判明しました。経常利益の伸びも鈍化するとともに、売上高は減少幅を拡大させており、景気が後退局面に既に入っていることを裏付けることとなりました。しかし、衆院選でも、原発再稼働の問題が争点となっているように、今後、安定したエネルギーを如何に確保するかが、わが国経済の最優先課題となっています。そして、再生可能エネルギーなどの分野においては官主導ではなく、民間主導による新エネルギーの開発が期待されており、それには企業による積極的な設備投資や研究開発が不可欠であるといえるでしょう。2012年12月3日付日本経済新聞夕刊に、法人企業統計に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『設備投資2.2%増に鈍化。法人企業統計、7〜9月期世界経済の減速で』です。以下引用文。

 『財務省が3日発表した2012年7〜9月期の法人企業統計によると、金融機関を除く全産業の設備投資は前年同期比2.2%増の8兆8062億円となった。4四半期連続で増えたものの、世界経済の減速で先行きは見通しづらく、伸び率は4〜6月期(7.7%)から大きく鈍化した。製造業は減収減益となったが、全産業では経費削減により増益を確保した。
 財務省は「景気が世界経済の減速を背景に弱い動きとなっていることを確認する結果」との判断を示した。シティグループ証券の村嶋帰一エコノミストは「先行きの不透明感で設備投資が先送りされ、強めだった投資計画も今後下方修正される可能性が高い」と分析している』
 ここで、政府の役割は、有効需要創出を目的とした公共事業を推進することではありません。今や累積する政府債務こそが、民間経済主体の期待心理を悪化させる元凶であることを忘れてはいけません。その結果、将来の不安を反映して、家計は貯蓄へと邁進し、デフレ経済から脱することができないことは否定できないでしょう。民間企業も同様のことがいえるのです。明るい未来、開ける未来があってこそ、民間の経済主体が安心して設備投資や消費を積極的に行う素地ができるといえます。経済の軸である消費、そして設備投資の活性化の動向がカギを握るのであって、公共事業が引っ張るということは、財政状況が極度に悪化している今の日本にはあり得ない話です。

2012年12月4日火曜日

今後増加が予想される国民医療費とその要因

 わが国の医療費は、米国などと比べて低く抑えられていると言われます。それに対して、米国では、医療費の高騰し続け、移植医療など高度な医療が早くから定着しているほか、医療訴訟などを恐れ、過剰な検査が行われるということが背景にあることをよく耳にします。その一方で、医療保険に入れない多数の国民が存在するという矛盾がありました。しかし、オバマ大統領の続投により、共和党支持者などからオバマケアとも揶揄された国民全体を対象とした医療保険制度が維持されるとなるでしょう。財政負担の増加は不可避であるものの、格差是正を進める上では重要な施策であるといえます。
 日本では、厚生労働省による診療報酬や薬価などが厳しく抑制された成果もあり、現在のところ、GDPに占める国民医療費の割合は低く抑えられています。右図は、OECD作成の主要国の医療費の比較を示しています。図からは、米国の医療費が突出していること、日本の医療費がG7諸国の中で最も低い水準にとどまっていることを読み取ることができます。平均寿命も長く、高齢者の人口が多い上、所得水準が高い日本で、このような結果となっていることは驚きです。加えて、米国が国民皆保険でないことを踏まえれば、日本の医療制度は優れていると考えてもいいでしょう。もっとも、予防医療、移植医療、そして医薬品の認可のスピードなどでは後進国であり、まだまだ改善する余地はあります。
 しかし、将来人口の推計では、今後、2010〜2020年にかけて65歳以上の前期高齢者人口が大きく増加すること、2020〜2030年にかけては75歳以上の後期高齢者の対象となる人口が増加することが予想されています。従って、消費税率の引き上げを速やかに進めるともに、医療費を引き続き抑えるという施策が求められます。もっとも、極度な医療費の削減を進めた場合、医療や福祉の現場で人手不足が深刻化する懸念があり、メリハリを付ける為に、高齢者の医療費負担を増額するとともに、現場の人件費も増加させることも視野に入れるべきでしょう。
 右図は、わが国の国民医療費とGDPに占める割合の推移を示しています。対GDP比率に着目すると、1990年に4.5%であったものが、期近の2010年には7.8%へとほぼ倍となっていること、2007年以降から上昇率が上がっていることが伺えます。高齢化が進んでいるのですから、医療費の増加傾向はやむを得ないことですが、2010〜20年、2020〜30年の人口構成の急変に伴い、これまでにない変動が予想されます。震災の復興で手一杯なのが今の行政ですが、医療制度は全ての国民生活の根本でもあり、これからの20年間の支出増が3〜5%の消費税率の引き上げで賄えるかはやや疑問が残ります。
 こうした中で、高齢化に伴う医療費の増加以外に加え、医療技術の高度化に伴い高額療養費の増加が顕著になっているそうです。ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏が発見したiPS細胞による移植医療も現実的な治療法として視野に入っており、今後、医療の技術進歩は格段に進むことが予想されます。これに伴い医療費の高騰も不可避であり、医療分野におけるビジネスモデルの再構築が必要となるでしょう。患者にとっては切実な問題ですが、海外の需要を取り込むなど新たなビジネスを展開するなどして、国民医療費の抑制を引き続き進めなくてはならないのが、わが国財政事情です。高額療養費に関する記事が、2012年11月24日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「二重苦」呼ぶ高額医療、抑うつの割合上昇』です。以下引用文。
 『がんなど病気の治療のため経済負担に苦しむ患者は、抑うつなど精神的苦痛にも悩まされる傾向がある。医療の進歩で寿命が延びるなど治療の効果が期待できるようになった半面、経済負担が増し、心痛をももたらされることで、患者は二重苦に悩むというジレンマを抱えている。(中略)
 技術進歩によって医療費の高額化は年々進み、患者の自己負担も増している。
 例えば近年、がんでは増殖や転移に関係する特定の分子を狙う「分子標的薬」が登場。2000年以降、本格的に使われるようになったが、価格の高いものが多い。(中略)
 医療費の高額化と患者負担額は、がんに限ったものではない。関節リウマチの治療にも効果が高い生物学的製剤が03年に登場し、患者の負担が増えている。患者団体「日本リウマチ友の会」の調査では、月当たり自己負担が3万円を超える割合は10年が15.7%で、10年前と比べて14.9ポイントも増えた。長谷川三枝子会長は「医療費の負担増で生活を切り詰めている人も多い。経済負担は、精神的な落ち込みを招いている」と話す。
 不況で収入が落ち込んでいることも患者の負担感が増している要因だ。がん患者らを対象にした東京大の調査では医療費を負担に感じている患者は11年が70%で、09年の63%より7ポイント増えた。児玉研究員は「医療は利用することで進歩する面もある。まずは患者の視点に立って国は治療に憂いのない環境を早急に整備すべきだ」と、高額療養費見直しの必要性を指摘する』

 何よりも健康が第一です。しかし、誰もが将来の医療費の負担を懸念して、保険商品の購入や貯蓄に励んでしまいます。それでは、総需要を極度に萎縮させ、経済全体は一向に改善されません。そういった家計が抱える将来に対する不安を排除するのも、政府の役割といえるでしょう。明るい未来が予見された時、家計は積極的に支出し、消費性向の上昇により景気はきっと良くなります。しかし、政府の財政規律がないまま、消費税税率の引き上げといった負担増だけを家計に求めるのならば、不安心理が増すだけです。医療費にしてもそうですし、年金にしてもそうです。医療費、年金の問題は抜本的に改善しない限り、2014年4月に消費税率を8%へと引き下げた後、景気は失速は必至であり、10%への引き上げが頓挫する可能性は十分にあると思います。

2012年12月3日月曜日

Amazon cloud playerに驚愕、本格化するアマゾンのクラウドサービス

 米国のIT企業は、本当に凄いですね。残念ながら、日本にこれに代わるビジネスを展開できる企業はないといえるでしょう。

 iPhoneで躍進するアップルは、ついにはiTunesにソニーの楽曲を組み込むことに成功しました。グーグルは、Web検索は言うまでもなく、クラウドサービス、地図、YouTubeばかりでなく、ついにはタブレット端末Nuxus7の発売に至り、アップル追撃への準備を整えました。競争相手であるフェイスブックが、収益が上がらなくなっている中で、同社にはチャンスが広がっています。マイクロソフトのウィンドウズ8の評価はこれからとして、減益となっているアマゾンが、やや元気がないという印象でしたが、Kindle Fireなどの端末の販売が日本でも決定、日本語の電子書籍がついにKindleでも読めるようになりました。

 アマゾンのKindleには興味があり、私はKindle paperwhiteを購入したいと思っています。このKindle paperwhiteの3G版は、NTTの回線を利用し、キンドルのサイトにアクセスでき、電子書籍をダウンロードできるそうです。回線使用料は、ユーザーが負担しないことから、これで場所を選ばない読書生活が満喫できそうです。加えて、ここへきて、同社は、音楽のクラウドサービスを開始しました。このサービスは、Amazon cloud playerで、音楽データはMP3、DRMフリーで、パソコンに音楽データをダウンロードした後は、iTunesにも自動的に組み入れることができます。

 そして、この音楽のデータはアマゾンのサイトで購入履歴が記憶されており、万が一火災などでデバイス等が喪失したとしても修復が可能なのです。楽曲の購入は、さすがにモバイルのデバイスではできなく、パソコンでの作業となります。しかし、パソコンで購入した後は、cloud playerというiOS版のアプリを通じてiPod TouchやiPhoneで楽曲を楽しむことができます。ストリーミングとダウンロードともに対応しており、ダウンロード可能であることから常時回線につながっている必要はなく、iPod Touchを使って屋外で楽曲を楽しむことができます。2000万曲という楽曲数は、天文学的な数字であり、あらゆる楽曲をゲットすることができるでしょう。上の写真は、実際にiPod Touch 5thを使ってcloud Playerを試しているところです。

 Amazon MP3ダウンローダーを使用すれば、クラウドで保存されている音楽データをパソコンへとダウンロードでき、これがDRMフリーの音楽データの特徴だといえます。驚きは、ここからです。右の写真はダウンロードが完了した時に現れたポップアップメニューです。表示されているボタンには、右から、「OK」「ダウンロードフォルダを見る」、そして「iTunesを開く」です。ここで、「iTunesを開く」のボタンをクリックすると、iTunesへと自動的に組み込むことができました。MP3ですので、音質は、アップルが推奨するAACと比べてやや劣るかもしれませんが、iTunesに組み込めれば、最終的には音質を向上させるiOS版のアプリ、Fantabitなどのアプリを使えばいいのでしょう。
 右の写真は、今回購入したVan HalenのベストアルバムがiTunesのミュージックのライブラリに表示されているところです。ここからが、最も注目するところです。つまり、このデータがiPodなどに同期できるかです。今、パソコンにiPod Touchを接続し、同期を開始しました。同期は順調で、iPod Touchへとデータが転送されています。音質をアップするアプリ、Fantabitでのアクセスもできることを確認できました。嬉しいのは、iTunes以外で購入した楽曲は、アートワークの追加をしなければならないのですが、アマゾンから入手した音楽データには、最初からアートワークが貼付けられています。
 クラウドサービスの先駆者といえば、実はアマゾンとも言われています。それは、Amazon EC2/S3で、セカンドライフ、Twitter、Dropboxなども、このサービスを使用しているようです。そして、一般の利用者向けのサービス、Amazon cloud driveのサービスが開始されました。5GBまでは無料で使え、年間800円で20GB〜同4万円で1TBまでの有料のサービスも準備されています。Kindle、Amazon cloud player、Amazon cloud driveで最大の利点は、有料サービスの支払いが全て、普段から利用しているアマゾンのアカウントで使って、決済できる点です。やや低調なアマゾンの株価ですが、同社はさすが、アップル、グーグル、フェイスブックと並ぶIT4強と言われる企業です。