『実質実効レートの作成方法は、まず、物価水準と為替レートを使って、2国間の相対価格(実質レート)を求める。その後、各国に対する実質レートを、日本の貿易シェアで加重平均して(実効化)、総合的な為替レートに統合する。こうして作成された実質実効レートを使えば、様々な国との価格競争力をまとめてマクロ的に分析が可能になる。』実質実効レートは、貿易相手国との直接競合関係にあることを念頭において算出されるものであり、本文に『米国の自動車市場における日本企業と米ビック3の価格競争力、中国の工作機械市場における日本企業と中国地場企業との価格競争力、などの分析に適している』の例を挙げ、実質実効レートが有用であるとしている。
もっとも、実質実効レートの限界も指摘している。『日本企業が米国に液晶パネルを輸出する場合の価格競争力はどう考えればいいのだろうか。米国では液晶パネルはほとんど生産されていない。この場合、米国企業との競合は起こらないため、ドル・円相場は輸出競争力にあまり大きな意味をもたない。むしろ、液晶パネルの生産国である韓国・台湾に対する為替レートが重要になる。』と記述、この場合は、実質実効レートより、実際の為替レートをもって円高であると考える方が望ましいとしている。
それぞれのレートに特性があるものの、今、日本企業に影響を与えているのは、実質実効レートよりも、実際の為替レートでいう円高であるといえます。上記の液晶パネルばかりでなく、DRAM、フラッシュメモリー、携帯電話などハイテク製品なども該当し、日本企業は韓国、台湾メーカーと激しい価格競争を行っています。また、部品・完成車の本国からの輸入があるのならば、米国の自動車市場でのビック3との競合では実質実効レート、同市場における韓国メーカーとの競合では、対韓国ウォンの円相場でもって円高と考えるのが望ましいともいえます。為替相場の問題だけでなく、企業努力の面も否定できませんが、現代自動車の米国市場における躍進は、それを示している思われます。
図は、2009年からの対ドル円相場と実質実効レートの推移を表しています(ともに特定の月=100とした指数値で、グラフが上向けば円高を意味する)。グラフから2010年はとも上昇傾向にあったものの、2011年に入ってからは、対ドル円相場が急上昇していることがわかります。先日のブログでも綴ったように、現在の円相場は、日本経済の実情から乖離していると考えられます。しかし、驚くべきは、この円高の中でも、我が国は貿易黒字を出し続けていることです。日本企業の潜在力は素晴らしいですね。
(注)筆者は、松村秀樹、日本総合研究所主任研究員。
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