私は、国の第一の目標にエネルギー戦略があるということは望ましいと考えています。幸い、解散総選挙の争点には、今後の原発依存度について議論が活発にされており、選挙結果後には、わが国の今後のエネルギー戦略の骨格が速やかに策定されることを期待しています。原発依存度については、国民が選んだ代表者が十分に議論した結果に基づき出来上がったのならば、それに従うだけであり、私が求めているのは迅速な対応だけです。
こうした中で、わが国の貿易赤字が定着しつつあります。その背景には、震災後、急増するLNG(液化天然ガス)の輸入があり、日本の発電に占めるLNGの割合は32%→43%へと上昇しています。それに伴い、LNGの輸入金額は、2010年度に3.5兆円だったものが、2011年度には5.4兆円となり、1年で1.9兆円も増加したことになります。原発稼働が完全に停止している中部電力などでも、60%の発電をLNG火力発電に頼っており、2011年度の燃料費は3,000億円も増加、2年連続の営業赤字決算が見込まれています。
このため、LNGを如何に安く仕入れるかがキーポイントとなっています。日本の場合、元々、原油の代替品としてLNGを輸入されていたという経緯もあり、原油価格が高止まりする中で、引き続き高い価格のLNGを輸入せざるを得なくなっています。特に、長期的に安定した供給を目指するため、LNGを取り扱う企業のほとんどは20年以上の長期契約を結んでいます。数年ごとにLNGの輸入価格を交渉しているようですが、カタールなどのLNG輸出国は価格引き下げに対して消極的な態度をとっています。しかし、LNG輸入企業は、価格交渉力を強める必要があり、米国のシェールガスに目を付け始めました。米国では、シェールガスの順調な生産もあり、天然ガスの価格が大幅に下落、日本向けのLNG価格の5分の1にまでなっています。この価格下落に対応し、中部電力は、日本のガス会社と手を組み、米国での天然ガス生産に乗り出し、カタールなどとの交渉を有利に進める考えを示しています。
原発を再稼働するならする、全て廃炉にするならするで、それは問題ではないでしょう。しかし、国のエネルギー戦略をどのようにするかという、長期的なビジョンがなければ、LNGの輸入にしても上手くいくとは思えません。つまり、LNGの大量輸入が原発再稼働までの一時的なことならば、高い価格のLNGを買っても問題はありませんが、最終的に原発を全て廃炉にするのならば、LNGの輸入交渉も長期的な視点で立つ必要があり、政府の施策を遅れが、企業現場の混乱の元凶ともなっています。
電力会社、ガス会社、商社など日本企業の努力は大切であると思いますが、やや疑問が残る点があります。特に電力会社では、安定供給を第一に考え過ぎ、消費者へと価格転嫁すればいいという安易な考えがあり、地域独占を許した結果、このような事態になったと考えてもいいでしょう。そして、海外のエネルギー企業の統合が進んでいる中で、引き続き企業努力は必要であるものの、購入する側の企業も価格交渉力を高める上で、窓口を個別の企業とするのではなく、政府、又は政府系企業、または民間企業の統合などにより一本化し、交渉力を高める必要があると感じました。
こうした中で、海外の大手エネルギー企業の統合が発表されました。日本は世界最大のLNGの輸入国であるのに、大手エネルギー企業の中には、日本企業がランキングしていません。時代遅れかもしれませんが、国策会社を設立し、原油・天然ガスに加え、石炭、鉄鉱石など鉱物資源全般において価格交渉力を強める必要があると思います。ロシア石油企業に関する記事が、2012年12月1日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「資源」で影響力拡大狙う。ロシア石油企業、世界最大に。プーチン大統領、国家管理を強める』です。以下引用文。
『ロシア最大の政府系石油企業ロスネフチと英国の国際石油企業(メジャー)BPが11月22日、ロシア3位の石油企業「TNK-BP」(BPとロシア投資家集団の合併)をロスネフチが買収する合意書に調印した。買収手続きは来年前半に完了する見通しで、ロスネフチは生産・埋蔵量で欧米メジャーを上回り、上場石油企業としては世界最大の「ロシア版メジャー」となる。【モスクワ田中洋之、ロンドン坂井隆之】(中略)今回の取引ではロスネフチがTNK-BPの株を買収する一方、BPがロスネフチ株の約2割を保有することでも合意。北極圏や東シベリアの資源開発でBPの優れた技術力を導入し、さらに欧米からの投資の呼び水にしたい思惑がある。ロシアのエネルギー専門誌「ロスエネルギー」のクルチーヒン編集長によると、ロシアの国家予算収入に占める石油・ガスの比率は、プーチン氏が大統領になった00年の9%から現在では52%に増えている。クルチーヒン氏は「プーチン大統領の政策は石油・ガス部門からいかに多く稼ぎ出すかに向けられており、資源の国家管理をさらに強めようとしている」と指摘する一方で、「ロシアで政府系企業の巨大化は不正や汚職の温床となる。競争力や効率性を失い、ロシア経済にとってメリットはない」と批判している』
こうして上記記事を読んでいると、大規模な国策会社の設立は時代遅れという感は否めません。一方で、地域独占があり、安易な価格転嫁が可能となっている日本の電力行政も時代遅れでしょう。ロシアの場合は腐敗を生み、日本の場合は取り戻しの付かない原発事故です。ところで、シェールガスの発掘は大手石油会社で実現されたものではありません。小さな企業家の努力の結晶が、シェールガス、シェールオイル革命を起こしたことが今では知られています。小さな企業でも大企業と台頭にやっていき、常に企業の新陳代謝が進むというのが米国です。シェールガス・オイルの環境に与える負荷が問題となっていますが、新陳代謝が最も少ない分野ともいえる日本の電力会社は、この米国産のシェールガスへの依存度を高める必要があり、これは皮肉な結果といえるでしょう。私は、日本の電力会社で統合した窓口を設立するべきだとは考えていません。お役所仕事に徹している硬直化した企業が出資し、設立された企業が台頭すれば、市場に混乱を生むだけです。従って、期待すべきは、国内の商社や石油会社などの業務提携だと思っています。
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