2012年12月11日火曜日

拡大が期待される自動車向け炭素繊維

 今年の9月、ボーイング787に初めて利用し、東京へ行きました。787は、機内に聞こえてくるエンジン音が小さく、座席にハイテク機器を装備、光量の調整機能が窓に付いているなど驚くことばかりでした。それまで、私が乗ったことがある機種がボーイング767やエアバス320などやや世代の古いものしかなかったため、いきなり最新機種であったことからビックリしたのでしょう。
 ボーイング787に乗った後、同機種にやや興味が持ったため、調べてみると、この機体には50%もの炭素繊維が使用されていることが分かりました。右図は、ボーイング社提供の資料で、787の素材別の部品を示したものです。炭素繊維が50%であるのに対して、アルミ20%、チタン15%、鉄10%にとどまっており、これからの航空機製造では、炭素繊維が主役になることが予感される事実です。当然、競争相手であるエアバスでも同様に炭素繊維を使った部品を中心とした機体が設計・製造されることが予想され、炭素繊維の分野で圧倒的なシェアを持つ日本企業の活躍する場が増えることが期待されています。
 とろこで、炭素繊維といっても色々とあるようです。原材料別ではPAN系、ピッチ系及びレーヨン系などがあり、1980年代からは異方性ピッチ系炭素繊維が加わり、日本の炭素繊維生産は、品質・生産量ともに世界一の実績を上げています。そして、炭素繊維は単独で使われることなく、セラミックス、金属などを母材として複合材料の強化及び機能性付与材として使用されるそうです。高化強度、高化弾性率など優れた機械的性能と低密度、低熱膨張率、耐熱性、化学的安定性、自己循環性など炭素を原料とした特徴を併せ持つことから、幅広い用途に使われます(注)。上図は、炭素繊維協会ホームページ掲載データから作成した炭素繊維の出荷状況を示すグラフです。リーマン・ショック後に大きく減少しているものの、2010年、2011年には成長軌道へと回復、今後は順調な拡大が期待されています。

 こうした中で、炭素繊維の使用でも、本命中の本命である自動車向けの炭素繊維製造に関する記事が、2012年12月2日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。炭素繊維への需要は、鉄などと比べてコストが高いことから、航空機など付加価値の高い最終製品に限定されると思っていました。自動車向けで用途が広がれば、今の炭素繊維市場とは比べることができない巨大な市場が目前に迫っていることを意味しています。記事の題目は『車向け炭素繊維量産。帝人、米でGMに供給。300億円投資』です。以下引用文。

 『帝人は鉄より軽くて強度の高い炭素繊維を世界で初めて自動車向けに量産する。米国に約300億円を投資し、2015年までに生産能力を4割拡大する。米ゼネラル・モータース(GM)が量販車種に採用する計画で、帝人はGMへの主力取引企業として契約を結ぶ。車体を軽くできる炭素繊維の採用は日欧勢も検討中だが、本格的に導入するのはGMが初めて。車の主要素材の座を巡り、鉄鋼、化学大手の競争に拍車をかけそうだ。
 炭素繊維は鉄と比べて強度が10倍、重さも大幅に軽い。米ボーイングの新型旅客機「787」の機体に東レ製の炭素繊維が採用され注目されたが、中長期的には自動車産業が最大の需要家になると予測されていた。
 GMと帝人は昨年提携し、量産技術の確立を目指していた。今回、GMが炭素繊維を使用するのは15年以降に発売する一般向けの主力車種。強度が必要な骨組みの「構造材」といわれる部品の一部を鉄と置き換える。車の見栄えに影響する車の外側部分についても採用を検討していくという』
 自動車に炭素繊維を導入することは、懐疑的に思っていた私にとって寝耳に水です。そして、炭素繊維といえば、東レという印象が強く、この記事で帝人も東レに肉薄する規模であることを初めて知りました。因に、東レの炭素繊維の生産能力は年間1万8千トンで、2位の帝人が1万3,900トンです。億トン単位の鉄とは規模が全然違い、自動車の分野で、どの程度が鉄から炭素繊維へと移行できるかのは不明です。鉄にも、事故を起こした際には板金塗装で簡単に修復できること、また、柔軟さという性質から、潰れることで人の命を救うというプラスの性質があります。一部にとどまるというのが、私の考えですが、GM、帝人の成功次第では、流れが大きく変わる可能性があるといえます。
(注)炭素繊維協会ホームページを参考。

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