一方で、キャノンは、株主を間接的に支援する自社株買いを実施しており、確認できる範囲では、2012年12月期第3四半期のバランスシートで221億円もの自己株式を保有しています。この自己株式は、企業買収を株式交換でする際に活用できるようで、株価の上昇は、この点においてプラスであるといえます。従って、株主だけにとってプラスであるように思われがちな配当金の増額は、内部留保の浪費というデメリットだけではありません。それが、株価上昇という結果をもたらせば、企業買収によって、業務分野の拡大を目指す企業にとってメリットは大きいといえます。
そうした中で、政府系ファンド(SWF、Sovereign Wealth Fund)が、資源高を背景に存在感を増しています。政府系ファンドを積極的に活用し、資金を効率的に取り込むには、株主を重視した企業経営が求められます。やはり外国人保有比率が高いキャノンにとって配当政策は、死活問題であり、在庫を極度に圧縮してまで、キャッシュ確保をしようとする姿勢には正当性があるといえます。上図は、政府系ファンドの資産規模の推移を示しています。2008年9月のリーマン・ショック後にやや減少しているものの、その後は右肩上がりに増加していることが分かります。2012年9月末時点では、5兆ドル(約420兆円)を上回っており、東証1部の時価総額が270兆円にまで落ち込んでいる日本の株式市場にとって、これら政府系ファンドを如何に取り込むかが、今後のカギを握っているといえます。『政府系ファンド(SWF)の資産増加が続いている。資源収入の拡大による経済成長を背景に、アジアやアフリカ諸国でファンドの設立が相次いでいるためだ。世界の政府系ファンドの資産残高は9月末時点で5兆1350億ドル(約420兆円)となった。ファンドの資金は先進国の株式や不動産市場などに流入し、相場の下支え役として存在感を増している。
米ソブリン・ウエルス・ファンド研究所の調査によると、9月末時点の残高は直近の4年間で約3割増えた。リーマン・ショックを受け一時減少したが、それ以降、増加基調が続く。民間の投資マネーである世界のヘッジファンドの残高が2兆ドルといわれる中、急増ぶりが目立つ。
オイルマネーに潤う中東や貿易黒字の中国などに加え、アジアやアフリカの資源国でも余剰資金の運用手段として新たなファンドが立ち上がり始めた。短期売買を中心とするヘッジファンドに対し、政府系ファンドは中長期の視点で投資する傾向が強く、相場の安定や長期的な上昇に寄与するとの期待がある』
確かに、11月に入ってから米株式市場がやや軟調気味です。その背景の一つに、米企業の本決算を前に、ヘッジファンドの決算があり、確定売りが発生しやすいことがあります。政府系ファンドは、中長期の視点で投資をすることから、それら資金の呼び込みは株価安定に寄与します。一方で、中長期的に成長余力がないと判断された場合、企業の株式は売られることを意味しています。従って、安定して増加する配当の原資を確保するため、成長分野への投資は不可欠であるとともに、業績を上げることが常に求めら続けるのです。最近、インテルの株価がやや低迷しています。同社の株価は、大体20ドル前後で推移、配当利回りは4.5%前後とになっています。配当すら出さないIT企業が多い中で、まずまずの配当利回りといえます。しかし、パソコン市場が成熟化し、成長性が見込めないと判断したウォーレン・バフェット氏のファンドが、最近、インテル株を売却しました。その後、30ドル近くまで上昇していた株が20ドルを切るまで下落、結果として配当利回りが上昇しました。
政府系ファンドの資金を呼び込むためには、今の日本企業の業績は悪すぎます。トヨタの配当金も一時は、1株当たり140円にも達していました。2012年度は50円です。減配続きに、配当利回りが1〜2%程度では、政府系ファンドを呼び込むには力不足といえるでしょう。


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