日本では、衆議院選挙の最中、日本銀行による金融緩和の強化を訴えている政党があります。日銀による、これ以上の金融緩和にはやや無理である感があるとともに、その効果は小さいという判断でいました。ところが、円相場が円安方向へと進み、選挙後をにらんだ投機的な動きなのか、貿易赤字の定着、経常収支の黒字幅の縮小を反映して、実需の円売りが進んでいるのかは、現段階では不明ですが、少なくともアナウンスメント効果はあったようです。
一方で、高止まりする失業率に悩まされている米国でも、米連邦公開市場委員会(FOMC)よる一層の量的緩和の強化が決定されました。今回のサプライズは、金融緩和に、失業率を6.5%程度まで低下させるという政策目標が設定され、低下した時点で緩和政策を縮小するとしたことです。米国でも、リーマン・ショック後の財政赤字の拡大は、問題視されており、債務残高が急増した結果、金融政策に過度に頼った政策しか打ち出すことができないのが現状です。いわゆる「財政の崖」を回避するため、民主党と共和党の協議が行われているものの、対立が根深く減税措置の期限が切れる年末に間に合わない可能性が高まっており、この一連の決定は、危機回避に向けた金融緩和の強化であると考えられます。
FRBによる量的緩和策の効果的な手法として、短期の国債を売却し、長期の国債を購入するツイスト・オペが実施されていましたが、今月をもって終了します。これにかわって導入される新たな手法は、短期国債の売却を停止する一方で、引き続き長期の国債は購入し続けるとしており、FRBの資産の膨張が懸念されています。右図は、FRBホームページ掲載の"Flow of Funds"から作成したFRB(Monetary Authority)の資産残高の推移を示しています。リーマン・ショック直後から急増、期近の2012年第3四半期では、危機発生直前のほぼ3倍に当たる2兆5,000億ドルにまで達しています。この水準が適正かどうかを判断する国際的な指標はありませんが、米国の名目GDPは15兆ドル超ですので、FRBの資産規模は名目GDPの15%前後に当たることになります。日本の名目GDPが500兆円弱であるのに対して、日銀の資産残高が156兆円ですから、米国の量的緩和は、日本ほどではありません。しかし、基軸通貨国である米国の過度な金融緩和は、商品市場へと資金が流入し、過去にもインフレ懸念を生じさせる結果となっています。インフレ懸念は、長期金利を上昇させる原因になります。従って、今回のFRBの課題は、長期金利は上昇させない程度の規模まで国債を如何に購入するかであるといえます。
2012年12月13日付日本経済新聞夕刊に、米国の量的緩和に関する記事が掲載されていましたので紹介します。この量的緩和には、1〜2年先の物価上昇期待が2.5%を超えないということが前提条件に入っています。日本とは違って、ただ単に緩和すればいいのではなく、インフレ率の加速を回避しながらの金融緩和ですので、難しい舵取りが必要となるのです。そして、大切なのは、バランスシートの拡大は一時的であるとし、政府の財政を助けることではないことを明記している点でしょう。記事の題目は、『米、量的緩和を強化。失業率に政策目標。6.5%程度まで』です。以下引用文。
『【ワシントン=矢沢俊樹】米連邦公開市場委員会(FOMC)は12日の会合で、失業率が6.5%程度(11月は7.7%)に落ち着くまで事実上のゼロ金利政策を続けることを決めた。米連邦準備理事会(FRB)が失業率の水準を政策の目安にするのは初めて。毎月450億ドル(約3兆7000億円)ずつ期間の長い国債を買い入れる量的緩和の強化策も表明。矢継ぎ早の緩和策で景気と雇用を刺激する。(中略)バーナンキFRB議長は会合後の会見で、新たな失業率目標を導入した理由を「政策がどう発展していくかを知らせる意味で役立つ」と説明。失業率が6.5%を下回るのは15年半ばごろと見込んでおり、解除の目標時期は実質的に変わっていないと強調した。さらに「その水準に到達したら緩和的な政策を縮小し始めるという目安のようなもの」と述べた。6.5%に近づいたらすぐにゼロ金利を解除するのではなく、景気や物価を総合的に判断して決める姿勢を示した。また、FOMCは同日の会合で今月末にツイスト(ねじれ)・オペが終了するのに伴い、その後も米長期国債を現在と同じ額の毎月450億ドルずつ買い入れることを決めた。議長は「緩和状態を著しく拡大したとは考えていない」と語り、従来の量的緩和策を補強するとの認識を示した』
短期の国債を売却しないことで、これまで以上に市場へと多額の資金が流れ込むことになります。この結果、目標とした15年半ば頃までに、FRBの資産がどの程度まで膨張するかが分からなくなってきました。また、住宅ローン支援のカギとなっている住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドルずつ購入、国債買い入れ策と合わせると、毎月850億ドル規模の量的緩和となります。米国での金融緩和は、穀物、金、原油などの商品市場へと資金が流入し、物価が高騰したことは記憶に新しいです。結果、米国の長期金利が上昇し、それに引っ張られる形で、ドル高傾向になりました。ドル高は、国際な展開をしている米国企業の業績の足を引っ張ることとなります。その影響を考慮した場合、過度な金融緩和は望ましくない施策であるのです。
私は、金融政策に過度に依存した政策運営には否定的な見解でいます。それは、金融政策は、緩和の時ではなく、引き締めの時こそ効果を発揮するからです。金融緩和主導で景気回復を目論んでいた日本経済は、危機から20年たった今でも未だに明るい兆しが見えてきません。その点も参考しにした上で、米国は別の政策を選択した方が望ましいと考えています。
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