金融は「経済の血液」とも呼ばれ、個々の主体が円滑な経済活動をする上で大切な働きをしています。その中核にあるのは、銀行であり、銀行の健全性は、経済の健全性を指す指標であるのです。日本の銀行は、金融危機を脱する過程の中で、徐々に回復傾向を示す一方で、2008年9月に発生した金融危機をきっかけに欧米の銀行が業況を悪化させたことで、大手銀行の格付けでは逆転現象が起こっています。
こうした中で、日本の銀行(邦銀)の活躍の場が国際金融市場で広がっています。イスラム金融、資源開発、貿易金融などの分野で、邦銀がプレゼンスを高めており、新聞紙上でも、邦銀の活発な活動を示す記事が賑わしています。2012年12月11日付日本経済新聞夕刊にも、トルコの海峡トンネル事業で、融資の主導をとって三井住友銀行が、欧州や韓国の公的金融、トルコの地場銀行と組み、総額10億ドルのプロジェクト融資を実施する旨の記事が掲載されていました。それでは、この華々しい邦銀の活動は、日本国内ではどうなっているのでしょうか。リーマン・ショック後、大きなマイナスを記録した後、ややマイナス幅が縮小、2011年下半期は何とかプラスへと転じました。物価下落が進行している日本国内では、資金の借り入れ手は、実質的な負担額は大きくなります。この状況下で、銀行にとって貸出金は伸ばすどころか、借り入れ側から常に一定額が返済されているのです。従って、景気後退に入った現在、邦銀が国内で貸出金を継続的に伸ばすことは困難な状況下にあるといえます。この点においても、デフレ経済から脱却できない、わが国経済の実情があります。
一方、世界最大の経済規模の米国ではどうなっているのでしょうか。米国経済は、失業率が高止まっており、「財政の崖」の影響で景気後退局面へと突入することが危惧されています。しかし、人口が着実に増加している米国は、月間15万人程度(注)の雇用の場が提供されない限りは、失業率はどうしても上昇してしまいます。一方で、この人口増加は、米国経済の最大の強みでもあり、世界経済のリーダーであり続ける原動力となっています。そして、米銀の融資の増加傾向が鮮明になっており、日本とは異なった方向へと動き始めました。人口が増加していることは、持ち家や自動車への持続的な需要拡大が見込まれるため、融資残高がある一定水準にまで低落した段階で、どうしても揺り戻しがあるのでしょう。米銀の融資に関する記事が、2012年12月11日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。以下引用文。
『【ニューヨーク=蔭山道子】米国で銀行融資の増加傾向が鮮明になってきた。米銀の9月末時点の融資残高は前年同期比3.7%増の7兆4106億ドル(約610兆円)だった。2009年6月末以来3年3ヵ月ぶりの高水準。企業向けの順調な伸びに加えて、家計向け融資も2四半期連続でプラスとなった。金融危機後の貸し渋りが収束し始めた可能性もあり、米景気が底堅い一因にもなっている。(中略)家計の借り入れ需要が伸びている様子は、米連邦準備理事会(FRB)が7日発表した10月の消費者信用残高からもうかがえる。同残高は前年同月比6%増の2.75兆ドルとなった。銀行が徐々に融資基準を緩め始めた結果、自動車やクレジットカードのローンが借りやすくなり、個人消費を下支えしている可能性がある。ただ、銀行の審査基準の緩和が遅れる住宅融資は伸び悩む。住宅の新規購入ローンや借り換え、持ち家の含み益を担保とするローンなどを合わせた残高は2.45兆ドルで0.3%減った』
日本では、消費者金融に対する規制が強化されています。借り入れ残高は、年収の3分の1以下に抑えることが義務付けられました。これは多重債務者問題を解決することを目的としていますが、そうでなくても消費が弱い日本経済にとってプラスかどうかは甚だ疑問であるといえます。私は、日本経済にとって最大のネックは政府の債務残高であると考えています。国債の発行残高が急増する中で、この消費者金融に対する規制は、私にとっては、銀行に集まった資金が円滑に国債へと振り向けるための施策にしかみえません。一方、米国では、消費者によるダイナミックな消費が続いています。借金ばかりする米国の消費者が決してベストとは考えていません。環境のことを完全に無視し、派手にプレゼントやパーティーをやっている姿が、テレビ画面から映し出され、「米国人=過剰消費」というイメージをどうしても持ってしまいます。格差社会が進んでおり、全ての国民が、豊かな状態とはいえないのが今の米国ですが、日本と比べて根本的に違っているところがあります。それは、米国人は、将来に対する見方が楽観的であること、国の代表者である大統領を自らが選んでいることです。わが国では政治の混乱が長年叫ばれ、将来に対する希望を失いかけている若者も多い気がします。日本にとって、米国から学ぶことはまだまだあるのです。
(注)ベビーブーマーの高齢化により減少が示唆されている。
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