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2012年8月2日木曜日

ススギ、インド暴動での教訓

製造業が海外生産へとシフトを拡大させる中で、海外特有の問題に悩まされている企業は多くなってきている思われます。一方で、労働コストの安い海外への進出は、企業の競争力維持で不可欠な戦略ともいえます。しかし、昨年、タイでの大洪水の被害により生産が滞り、同国内の生産ばかりか、世界的なサプライチェーン(注)が寸断され、世界各地での生産が遅延する事態が発生しました。ホンダやキャノンの工場が水没している衝撃的な映像が幾度となく映し出され、鮮烈な記憶として今も残っています。昨年は、私も、ハードディスクの価格が高騰し、特に容量の大きいの製品の品不足に悩まされました。もっとも、これは、日本企業が特定の地域へと集中立地した結果もたらされた混乱であり、製造業の海外進出に一つの教訓をもたらしました。
 そして、今度は、インドでの暴動事件です。暴動が発生したのは、ススギが54.2%出資するインドの現地法人、マルチ・ススギインディア社で、1人が死亡、100人以上が負傷するという大惨事となりました。同社は、1981年に設立されたインド政府との合弁会社『マルチ・ウドヨグ』を前身に、出資比率の上昇に伴い社名を変更、現在に至った会社です。四輪車における南アジア最大の生産規模を有し、インドでのススギの躍進に貢献しました。このほか、ススギは、インドに二輪車を生産するススギモーターサイクルインディア社(2006年設立、100%出資)、エンジンを生産するススギパワートレインインディア社(2006年設立、100%出資)などの現地法人があります。この暴動は、進出して30年以上も経ち、現地での経験を積んでいるはずの企業でのトラブルであり、インドでの生産の難しさを物語っています。これは、進出相手国の文化・宗教・政治に関わる教訓であり、タイでの大洪水より、海外進出において直面しやすく、かつ解決には時間を要する問題であるといえます。
 今回のインドでの暴動には、カースト制度特有の問題があるとの指摘が多いものの、『日経ビジネス』2012年7月30日号の記事は、様々な要因が背景にあると示唆しています。記事の題目は『ススギ、インド暴動の波紋』です。以下引用文。
 『労働者の給与への不満が今回の暴動の一因だろう。ほかの新興国と同様、インドでも格差が広がっている。もともと農村だった場所に工場が建ち、商業が発展して物価が上がると、賃金が追いつかなくなるケースもある。
 インド進出企業にとって、人件費は頭の痛い問題だ。インフレだけでなく、目下、インド・ルピーは歴史的な安値圏にある。輸入依存度が高まっているガソリンなどが高騰し、国民の不満は小さくない。企業にとっても部材の輸入コストが上昇しており、どんどん賃上げできる状況ではない』
同記事は、給与の問題のほか、政治色の強い労働組合の存在、労働組合間の勢力争い、経営陣のマネジメントミス、従業員の過度の権利意識があるとしています。今後、有望な市場であるインドなくして、アジアの市場の開拓はありません。ススギの今後の対応が注目されるところです。
今日は、初めてススギについて取り上げましたので、ススギの世界における生産・販売のデータを追ってみます。まずは、四輪車・二輪車の国内生産・海外生産の推移をみてみます。上図は、ススギのホームページに掲載されたデータをもとに作成したグラフです。四輪車の世界生産が比較的順調なのに対して、二輪車は2007年度をピークに減少傾向にあることが読み取れます。また、海外生産比率では、二輪車が9割を超えるまでになっているのに対して、急速に伸びているとはいえ四輪車は7割にとどまっています。四輪車に軽四が含まれている可能性があり、国内生産の比率が高い一因となったことが推測されます。
次のデータは、ススギの世界販売の地域別シェア(2010年度)です。これもススギのホームページ記載のデータから作成したものです。図からは四輪車が西アジアでの販売が圧倒的に多いにの対して、二輪車は東アジアが主力市場であることが分かります。四輪車に関しては、西アジア、つまりインドでの販売が影響しているものと考えられ、二輪車に関しては、競争相手であるホンダやヤマハなどの販売シェアと比べて考察する必要があります。しかし、二輪車の販売が好調なインドネシアがどちらのアジアに属するのかが重要であり、東アジアが圧倒していることから、インドネシアは東アジアに分類されていることが推測されます。
 自動車を取り上げるとしたら、まずトヨタ自動車、次にホンダになりがちです。しかし、ススギという競争力のある日系の自動車メーカーがあることを忘れてはなりません。奇しくも、インドでの暴動がススギの注目度アップにつながりました。同社は競争力のある日本の会社であり、今後は継続的にレビューしていきたいと思っています。
(注)製造した商品が、消費者まで届くまでの一連の工程(プロセス)を指す。

2012年6月9日土曜日

円高による投資の海外比率の上昇と空洞化

設備投資に関して、昨年あたりから危惧されていることがあります。それは、民間の設備投資である民間固定資本形成が、資本減耗である減価償却を下回っていることです。国民経済の成長の要素には、労働者数の増加、技術革新、そして資本ストックの蓄積があります。技術革新が進んでいるものの、技術者の高齢化という問題もあり、今までのようなペースで革新的な技術の開発はできないかもしれません。そして、15歳以上65歳未満の生産年齢人口も減少し、それに追い討ちをかけるように資本ストックが減少へと転じています。長期金利は将来の潜在成長率を反映しているともいわれています。期近では長期金利の利回りが0.82%まで低下していることは、わが国の成長率が、今後一層低下することを予見しているのかもしれません。
民間企業の資本減耗に関する適当なデータが見つかりませんでしたので、内閣府発表の『国民経済計算』ストック編、制度部門別勘定の民間非金融法人企業の期末貸借対照表を追ってみました。このデータのうち、非金融資産のうち生産資産(在庫を除く)が民間の資本ストックに近いと考え、グラフを作成したのが右図です。適当なデータが見つからなかったものの、イメージに近いグラフが作成できた気がします。この図から貸借対照表上の在庫を除く生産資産は、2008年をピークに減少していることがわかります。
 2012年6月3日付日本経済新聞朝刊に、この減少を裏付ける記事が掲載されていましたので引用します。円高が定着する中で、製造業を中心に設備投資の海外比率が高まっており、国内の資本ストックの減少の一因となっていることがわかります。記事のタイトルは『設備投資2ケタ増、円高、新興国シフト一段と』です。以下引用文。
 『日本経済新聞社がまとめた2012年度の設備投資動向調査によると、全産業の当初計画は11年度実績比16.8%増になる。増加は3年連続で、新興国投資が活発な製造業が20.9%増とけん引する。国内外の内訳がわかる6割の企業でみると、海外比率は4割弱に達する。円高が続くなか、各社は投資の海外シフトを一段と進めるが、世界経済の減速懸念が投資戦略に影響する可能性もある』
海外投資比率が50%を上回っているのはトヨタ自動車で、インドネシアやタイでの増産を維持することが目的のようです。また、東レも韓国に炭素繊維関係の新設備を設けることで50%超となっています。まさしく、国内空洞化の進行ですね。右表は、同日の別の記事に掲載されていた、2012年の設備投資ランキングです。NTTドコモ、東京電力、ソフトバンク、JR東日本の設備投資は国内向けがメインであるものの、それ以外の企業についてはどちらともいえないという結果です。タイトルだけですと、設備投資が2ケタ増と明るい話題にみえるのですが、よく読んでいると、日本経済にとって決して安心できない要素が含まれていることがわかります。確かに、企業にとって設備投資を続けることは、成長力を維持する上では不可欠なことです。しかし、このまま企業の海外進出が進んでいけば、国内空洞化は必至です。米国のように企業や企業経営者ばかりが儲かって、一般大衆は疲弊するという経済の将来像が見えてきます。一般の労働者が従事できるのは、所得水準の低いサービス産業ばかりになって、海外へと進出した企業の株式などを保有している資産のある者は配当金などを得て利益を手にするという、格差社会が本格的に到来するかもしれません。