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2012年11月10日土曜日

減少傾向を示す経常収支の原因は

 1980年代、米国の莫大な貿易収支(経常収支)の赤字と財政収支の赤字をとらえて、「双子の赤字」と言われました。この解消のために、米国は、対日輸出拡大を狙って日本に対して内需拡大を求め、わが国政府はその要求を応える形で大規模な公共事業等財政支出を増大させていきました。1990年のブッシュ政権時には600兆円もの規模の公共事業を約束させられ、現在の日本における増加に歯止めが掛らない政府債務残高の原因ともなっています。
 もっとも、この米国による要求は、ナンセンスだという論者が、当時多くいました。それは、米国のISバランスに着目し、米国内における投資や消費が貯蓄に対して構造的に過剰となっているためで、その結果として必然的に経常収支は赤字となるいう主張でした。従って、直すべきは米国の貯蓄不足の解消という構造改革であり、要求は正当ではなく、わが国政府は毅然とした対応するべきだと私は考えていました。しかし、わが国は消費や投資の弱さから、結果として膨大な経常収支の黒字を抱えることになり、貯蓄過剰という意味で米国と同様に構造改革は必要でした。反省するべきは、当時、民間投資や消費を活発化させる施策が求められたのですが、政府の財政支出に依存する形で内需拡大を促したことです。

 こうした中で、わが国の経常収支の黒字幅の縮小が鮮明となってきました。ニュース報道では、景気後退の影響で欧州向けが、反日運動の影響で中国向け輸出が大幅に減る一方で、液化天然ガスの輸入増加による貿易収支が大幅な赤字になったことが、経常収支の減少の要因であると説明しています。2012年度上半期の経常黒字に関する記事が、2012年11月9日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『経常黒字、上期で最少。9月の季節調整値、31年半ぶりの赤字』です。以下引用文。

 『財務省が8日発表した2012年度上半期(4〜9月期)の国際収支速報によると、モノやサービス、配当、利子など海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆7214億円の黒字となった。年度上半期としては現行の統計を開始した1985年以来の最少だった。(中略)
 欧州債務問題の影響で欧州向け輸出が前年同期比16.2%、中国向けが8.2%減少。商品別では自動車や船舶が落ち込んだ。一方、火力発電所の稼働が拡大し、液化天然ガス(LNG)の海外調達が増えたため、輸入額は3.4%増えた』

 確かに、輸出が減少する一方で、輸入が増加したため、貿易収支は大幅な赤字となり、配当金など所得収支の黒字拡大にも拘らず、経常収支の黒字幅の縮小したという説明は事実のような気がします。右図は、財務省発表のデータに基づき作成した四半期ベースの経常収支の推移を示しています。ここのところ、趨勢的に経常収支の黒字幅が縮小しており、その主因が貿易収支の赤字であることが、図から読み取ることができます。ここで、経常収支の黒字幅の縮小は、欧州、中国経済、そしてLNGの輸入であると特定していいのでしょうか。今年から、団塊の世代が本格的に年金受給の年齢になっているそうです。つまり、この世代における貯蓄不足、消費過剰に起因する経常収支の黒字幅縮小が原因かもしれません。80年代以降の米国で起こったことと同様、貯蓄不足を起因とする経常収支の黒字幅縮小ならば、これは日本経済の構造的な問題となり、一次的な要因ではないと考えられます。ISバランスによる貯蓄不足ならば、政府は速やかにプライマリーバランスの黒字化を目指す必要があり、早急な対応が求めらるのです。そして、日本にとって悲劇なのは、米国は曲がりなりにも基軸通貨国です。自国通貨安により、借金を他国へと転換することは容易です。日本の場合は、それが困難な点に違いがあります。純債権国から純債務国への転落は早いかもしれません。第2次世界大戦後の英国がそうであったように、財政赤字をこのまま放置するなどした場合、日本経済は、通貨安、金利高、不況が同時に発生するトリエンマに苛まれる可能性は否めないでしょう。

2011年12月31日土曜日

貿易収支と経常収支

最近、私は貿易収支、経常収支の動向を気にしています。巨額の財政赤字を賄うには、家計部門、企業部門、そして海外部門による資金余剰であることが必要です。消費税の税率引き上げが、民主党内で14年4月に8%、15年10月に10%と決定され、ほっとしているところです。あくまで、これは民主党内での決定であること、やはり政府部門の増税だけでは不十分であることを考慮すれば、これからも国債の市中での円滑な消化には、上記いずれかの部門での資金余剰がどうしても必要でしょう。以下は国民経済計算における恒等式で、記号は、Iは民間投資(企業の設備投資や家計による住宅建設)、Sは家計、企業の貯蓄、いわゆる民間貯蓄、Gは財政支出、Tは税収、EXは輸出等、IMは輸入等をそれぞれ示しています。

               (I-S)+(G-T)+(EX-IM)=0

 国民経済計算において民間部門(I-S)、政府部門(G-T)、海外部門(EX-IM)の貯蓄の過不足の合計は、統計的な約束ごとをベースにして恒等関係になるということを示したものです。政府部門が大きな貯蓄不足に陥っていますので、どうしても民間部門、海外部門の貯蓄超過によって賄わなければないないことを意味します。そして、式のなかで、将来的に民間部門、政府部門を合計したものがプラスになれば(つまり貯蓄不足になれば)、恒等式が成り立つためには、海外部門がマイナスにならなければないないのです(輸入等の超過)。
 事実、高齢化が進んでいることで家計部門の貯蓄は期待できません。企業部門の貯蓄も投資機会さえあれば将来の成長を促す原資となるため、一時的な余剰に過ぎないでしょうし、本来企業部門は貯蓄不足であるべきです。また、消費税増税をしたからといって政府部門が簡単に貯蓄超過になるとは考えにくいことを考慮すれば、最後は海外部門に期待することとなります。これには、恒常的な貿易収支の赤字と、国債の消化が海外からの資金流入に依存することを意味します。
 それでは、実際の統計はどのような状況になっているのでしょうか。リーマンショック直後の2008年末に海外需要の減少に起因し、貿易収支が赤字となっています。2011年に入ってからは3.11による生産停止や円高の定着による輸出の減少に起因し、やはり貿易赤字となっています(正確には貿易赤字となっている月が多い、貿易黒字の程度が縮小している)。2011年からの貿易赤字は、リーマンショック後の貿易赤字とは本質的に異なります。2012年に入っても同様な傾向が定着するならば、いずれは経常収支も赤字化します。そうなれば、どうしも海外投資家による我が国の国債への投資が必要となることを意味します。来年がポイントになるかもしれませんね。