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2012年11月22日木曜日

フランスとドイツの経済格差とユーロの存亡

 ヨーロッパが債務危機を迎えて3年以上もなります。危機は緩やかになるどころか、より深化し、ユーロという新たな通貨創造は存亡の危機にあるといっても過言ではないでしょう。異なる言語を話し、文化も異なるヨーロッパ諸国における通貨統合は、経済問題に絡んだ争いごとを続けてきた人類の歴史にとって壮大なる夢でもあり、成功することを切に祈っています。

 ユーロ圏の形成により、人が自由に動き、資本が自由に動くことで、経済格差は一定の水準に収斂することが予想されました。もっとも、2011年の一人当たりGDPをみる限りでは、格差是正にまでは至っていないようです。右図は、ユーロ統計局掲載のデータより作成した各国の名目GDPと一人当たりGDPを示しています。特に、ルクセンブルクの所得水準は突出しており、金融、重工業、ITなどの産業分野で、競争力を維持しているからだそうです。そういえば、世界最大の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルの生産拠点が、ルクセンブルクにありました。また、私が所有している外貨MMFの運用会社の所在地もルクセンブルクでした。スイスと同様に、金融の拠点であり続けることは、高い所得を維持する上でキーポイントになるのでしょう。


 もっとも、ルクセンブルクの経済規模は、ユーロ加盟17カ国中、13位にとどまっており、規模、影響力からいってカギを握っているのは、やはりドイツとフランスです。両国の経済が順調に成長するとともに、労働生産性、インフレ率、財政赤字などの点において格差が開かない方向で動けば、ユーロ圏は盤石であるといえます。上図は、ユーロが発足した1999年からのドイツとフランスの政府債務のGDP比率と失業率の推移を示しています。債務残高の比率は、ほぼ一致している一方で、気になるのが失業率での格差拡大です。2011年の失業率は、ドイツが6%を切る水準にまで低下する一方で、フランスでは10%弱の水準にまで高まっています。2012年には入ってからは、フランスの失業率はさらに上昇し、2012年9月は10.8%です。現在、フランスにおける失業問題の克服は最優先課題であり、多くの国民は不満を抱いており、政府に対する不信を増幅させているのです。しかし、雇用確保のため、安易に財政支出の拡大の方向へと政策転換した場合、債務残高の面でもドイツとの開きが拡大する恐れがあります。現在のフランス経済は、失業の克服と財政再建という相対する問題の同時克服であり、5月に発足したばかりのオランド政権にとって、難しい舵取りとなっているといえます。

 そして、失業率と同様に大切なのが経済成長率です。リーマン・ショック後にドイツが大きく成長率を落とす中で、その回復力には驚きを感じます。2009年に、ドイツは実質成長率のマイナス幅は5.1%に達しており、ユーロ圏のマイナス4.4%、フランスのマイナス3.1%を上回っています。しかし、2010年、2011年は逆にドイツのプラス幅は両者を大きく上回っており、ユーロ安の恩恵を全面に受けた形となり、ドイツ製造業の復活を感じさせる結果となっています。この成長率において、ドイツとフランスの間で格差が生じる事態が続けば、失業率において両国の差は拡大することが予想されます。ここで、自由な労働の移動があれば、失業率は一定の水準へと収斂することになりますが、フランス人がドイツの工場で働くなどは余り考えられないことでしょう。
 所得格差、財政、失業率、経済成長率は、共通通貨ユーロを維持する上で大切な要素です。しかし、通貨現象の結果であるインフレ率の一致こそが、共通通貨を維持する上で最も重要であると私は考えています。2011年の一人当たりGDPはドイツが30,300ドル、フランスが27,000ドルとほぼ拮抗しています。1999年以降、ドイツとフランスのインフレ率には大きな乖離はありません。しかし、フランスの失業問題が長引き、今後、インフレ率において差が出るという事態となれば、ユーロは最大の危機を迎えることとなります。ドイツ、フランスともにユーロという共通の通貨を採用している中で、インフレ率に格差が生じることは、両者の間で労働生産性に格差が生じていることを意味しています。それは、長期的には雇用問題に直結する問題となります。今後のユーロ圏内のインフレ率の動向に注目していきたいと思っています。

2012年11月21日水曜日

オランド政権発足6ヵ月後のフランス経済

 フランスのオランド大統領が就任して半年になります。この半年を振り返って、フランス経済を検証する特集がNHKが2012年11月16日付『ワールドWave トゥナイト』で組まれていました。フランス経済が一向に良くなる兆しがみられない中、労働者側、企業側双方からの不満が噴出し、はやくも同大統領は経済政策の修正を迫られる事態に陥っています。

 オランド仏大統領は、約3兆円の財政赤字の削減を目指しており、3分の1を歳出削減、3分の2を主に大企業・富裕層への課税強化で賄うとしていました。具体的には、企業に対しては最低賃金の引き上げ、税制上の優遇策の廃止など負担の拡大を求めています。富裕層に対しては所得のうち100万ユーロを超える部分に75%という高い税率を課す政策を打ち出しています。そして、特に若者の雇用難が深刻化する中で、若者の雇用対策を最優先課題としています。この中で、地方公共団体や公益性の高い企業が、一定の条件を満たす若者を雇用した場合、最長で3年間、給与の大部分を国が助成する新たな支援制度を創設しました。厳しい財政状況のなか、総額で5,300億円もの予算を2年間で支出し、若者15万人の雇用創出を目指しています。実際に、この雇用制度の対象となった若者からは「就職難で困っている若い世代が、この政策の恩恵を受けることを期待しています」とコメントするなど、歓迎されているようです。一方、企業の経営者たちからは、歳出削減の努力が不十分であるまま、企業や富裕層に対してさらなる負担を求めるオランド政権に対して反発の声が高まっています。番組では、ある自動車部品メーカーの経営者が紹介されていました。この経営者は、フランス国内で400人規模の工場新設を計画していたものの、企業に対する優遇策がなくなり、逆に負担増の懸念から、それを断念、北アフリカのモロッコに工場を建設することを決めました。
 オランド仏大統領の支持率は、就任時58%あったものが、期近では39%にまで急落しています。当初は、フランス経済を立て直し、雇用状況の改善に全力を尽くすと主張していました。しかし、ヨーロッパ全体を襲っている金融危機による景気後退は、当初の政策の修正という方向へと動き始めました。それは、競争力を高めるため、企業に対する減税を段階的に進めることと、付加価値税を引き上げて広く国民に負担を求めるというものでした。消費を鈍らせるということで、付加価値税の引き上げには、同大統領は反対の姿勢をとっていたため、この政策転換には身内の議員からも否定的な意見が出ています。この二つの政策は、社会党らしからぬ政策ともいえます。厳しい雇用情勢は、ヨーロッパ諸国全体に共通する悩みですが、企業によるリストラ策は受け入れることはできないと発言するなど、同大統領は、労働者に対して最後は政府がなんとかしてくれるなどといった期待を抱かせてきました。NHKの解説者は、それだけに失業率の上昇に歯止めがかからず、経済が一向に改善しない今、国民の失望感がフランス国内で広がっていると説明しています。

 もっとも、オランド政権発足時は、成長戦略を打ち出し、緊縮策一辺倒の政策に批判的な姿勢をとっていたことから、財政支出の削減が思うように進まないことが危惧されていました。今のところ、財政支出の削減に対する政策にはブレがないようです。これを受けてフランスの国債利回りは低い水準にとどまっているのが、唯一の救いともいえます。しかし、金融不安で景気は落ち込み、財政支出の削減がこれに重なれば、さらに成長率が低下する恐れがあます。その結果は、税収が減少するとともに、失業手当などの支出が増加、財政はさらに悪化することを意味しています。こうした事態となれば、オランド仏大統領が取りうる選択肢は狭まることが示唆されており、雇用問題を中心とする構造改革など本来優先すべき課題が後手に回る可能性があります。そして、フランスが構造改革に失敗し、ドイツとの経済力に開きが出る結果ともなれば、ヨーロッパの債務危機がフランスへと向かいかねません。フランス経済が危機となれば、ユーロ崩壊は確実です。雇用の確保、財政再建、企業の競争力回復など深刻な問題を抱えたフランス経済には、早急な対応が求められているのです。

2012年9月28日金曜日

厳しさを増すインド経済、外資導入促進と国内での抵抗

 BRICsの一角であるインド経済が脱落の危機にあります。先進国の成長が鈍化している中で、比較的堅調に推移してきた新興国の中核であるBRICs諸国であるインド経済が本当に失速する可能性が出てきました。インドは、現在は中国に次ぐ世界第2位の人口大国ですが、近年中に中国を追い抜き、第1位の座に付くことが確実視されています。その経済が立ち行かなくなれば、大量の経済難民が発生する事態を生み、国際経済にとって不安定要素となりかねないのが実情でしょう。
 それでは、インド経済が、危機である最大の原因は何でしょうか。それは、国内の貯蓄不足から生じる経常収支の慢性的な赤字です。途上国が高い成長率を維持するには、潤沢な国内貯蓄により経常収支が黒字である必要があるからです。かつての日本もそうですし、中国経済が成功した背景には、国内に潤沢な貯蓄があり、経常収支が定常的に黒字であったことがあります。経常収支の赤字で、かつ成長率が高い国は、常に海外からの赤字のファイナンスを受ける必要があるのです。日本、中国ともに所得が順調に伸び、消費が所得の伸びに追いつかず、国内貯蓄だけで国内投資の原資を賄うことができたのです。一方、経常収支の赤字の国は、何らかな原因に端を発して海外へと資金が流出し始めれば、通貨安をもたらすでしょうし、通貨安が外資の流出を加速させるのです。そればかりでなく、通貨安が引き起こす国内物価の上昇という事態を招き、国内経済・社会は不安定化するのです。どうして、インドが貯蓄不足なのかは詳しく調べたことがないため、詳細は分かりませんが、一部の裕福な人たちを除き、大多数の国民が低所得にもとに置かれ、日々の生活に追われ、貯蓄どころではないことに起因すると思います。下図は、私が作ったインド経済の取り巻く環境を示したものです。
 つまり、インド経済は、慢性化する経常収支の赤字と通貨ルピー安、そしてこの2つの要因に伴う外資の流出に苦しんでいると考えています。こうした中で、インド政府は外資の規制緩和という政策手段を選択しました。この外資規制緩和に伴い国外の大型小売店が進出する懸念から、インド全土で商店の経営者などが抵抗活動を展開、緊張が高まっています。インドの外資規制緩和に関する記事が2012年9月22日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『インド、総合小売業開放。外資規制緩和、日本勢など進出急ぐ』です。以下引用文。
 『【ニューデリー=岩城聡】インドでコンビニエンスストアやスーパーなどの小売業に、地元企業との合弁方式での外資参入を許可することが決まった。日本を含む海外企業は12億人規模の手つかずの市場での事業展開が可能になる。ただ、シン首相の国内の反対を押し切っての強引な決断は政権の弱体化を招く可能性をはらむ。
 20日夜に公示された内容は、これまで禁止していた複数ブランドを扱う小売業に対し、海外企業の出資比率を51%まで認めるというもので即日実施した。①100万人以上の大都市での展開②商品の30%以上を地場の中小企業から購入する-などの条件も付けた。
 シン首相は「これは改革の『ビックバン』。政策の行き詰まりを打開するには勇気とリスクが必要だ」と「市場開放」の意義を強調する』

 規制緩和をにらみ、米ウォールマートは即座に行動、12〜18ヵ月以内にインドで第1号店を開くとのコメントを出しています。しかし、インド国内では、これに反発して、シン首相(右の写真)率いる国民会議派に次ぐ議席を下院で有する「草の根会議派」は早々に連立離脱を表明しました。また、野党側が、全国一斉の抗議行動を呼びかけ、インド各地で商店主らがデモ行進を行う事態に陥っています。もっとも、経常収支の赤字で苦しんでいる、今のインドが、のどから手が出るほど欲しい外国資本からの資金導入は、この方法しかないという印象を受けています。因に、規制緩和の対象となっているのは、総合小売業(複数ブランド)、専門小売業(単一ブランド)、航空業、放送業などで、特に、零細な小売業が多いインドにとって、小売業での外資の導入は「諸刃の刃」ともいえる政策であるといえます。そして、関連する経済的な事項としては、中国、ロシアは経常黒字の国でですが、ブラジルの経常収支は赤字です。ブラジル政府は、輸入した工業製品に高率の関税を課し、国内の製造業を育成する政策を導入したばかりです。このことを踏まえれば、中国、ロシアの経済が順調なのに対して、インド、そしてブラジルの経済はやや不透明感があるといえるでしょう。