フランスのオランド大統領が就任して半年になります。この半年を振り返って、フランス経済を検証する特集がNHKが2012年11月16日付『ワールドWave トゥナイト』で組まれていました。フランス経済が一向に良くなる兆しがみられない中、労働者側、企業側双方からの不満が噴出し、はやくも同大統領は経済政策の修正を迫られる事態に陥っています。
オランド仏大統領は、約3兆円の財政赤字の削減を目指しており、3分の1を歳出削減、3分の2を主に大企業・富裕層への課税強化で賄うとしていました。具体的には、企業に対しては最低賃金の引き上げ、税制上の優遇策の廃止など負担の拡大を求めています。富裕層に対しては所得のうち100万ユーロを超える部分に75%という高い税率を課す政策を打ち出しています。そして、特に若者の雇用難が深刻化する中で、若者の雇用対策を最優先課題としています。この中で、地方公共団体や公益性の高い企業が、一定の条件を満たす若者を雇用した場合、最長で3年間、給与の大部分を国が助成する新たな支援制度を創設しました。厳しい財政状況のなか、総額で5,300億円もの予算を2年間で支出し、若者15万人の雇用創出を目指しています。実際に、この雇用制度の対象となった若者からは「就職難で困っている若い世代が、この政策の恩恵を受けることを期待しています」とコメントするなど、歓迎されているようです。一方、企業の経営者たちからは、歳出削減の努力が不十分であるまま、企業や富裕層に対してさらなる負担を求めるオランド政権に対して反発の声が高まっています。番組では、ある自動車部品メーカーの経営者が紹介されていました。この経営者は、フランス国内で400人規模の工場新設を計画していたものの、企業に対する優遇策がなくなり、逆に負担増の懸念から、それを断念、北アフリカのモロッコに工場を建設することを決めました。
オランド仏大統領の支持率は、就任時58%あったものが、期近では39%にまで急落しています。当初は、フランス経済を立て直し、雇用状況の改善に全力を尽くすと主張していました。しかし、ヨーロッパ全体を襲っている金融危機による景気後退は、当初の政策の修正という方向へと動き始めました。それは、競争力を高めるため、企業に対する減税を段階的に進めることと、付加価値税を引き上げて広く国民に負担を求めるというものでした。消費を鈍らせるということで、付加価値税の引き上げには、同大統領は反対の姿勢をとっていたため、この政策転換には身内の議員からも否定的な意見が出ています。この二つの政策は、社会党らしからぬ政策ともいえます。厳しい雇用情勢は、ヨーロッパ諸国全体に共通する悩みですが、企業によるリストラ策は受け入れることはできないと発言するなど、同大統領は、労働者に対して最後は政府がなんとかしてくれるなどといった期待を抱かせてきました。NHKの解説者は、それだけに失業率の上昇に歯止めがかからず、経済が一向に改善しない今、国民の失望感がフランス国内で広がっていると説明しています。
もっとも、オランド政権発足時は、成長戦略を打ち出し、緊縮策一辺倒の政策に批判的な姿勢をとっていたことから、財政支出の削減が思うように進まないことが危惧されていました。今のところ、財政支出の削減に対する政策にはブレがないようです。これを受けてフランスの国債利回りは低い水準にとどまっているのが、唯一の救いともいえます。しかし、金融不安で景気は落ち込み、財政支出の削減がこれに重なれば、さらに成長率が低下する恐れがあます。その結果は、税収が減少するとともに、失業手当などの支出が増加、財政はさらに悪化することを意味しています。こうした事態となれば、オランド仏大統領が取りうる選択肢は狭まることが示唆されており、雇用問題を中心とする構造改革など本来優先すべき課題が後手に回る可能性があります。そして、フランスが構造改革に失敗し、ドイツとの経済力に開きが出る結果ともなれば、ヨーロッパの債務危機がフランスへと向かいかねません。フランス経済が危機となれば、ユーロ崩壊は確実です。雇用の確保、財政再建、企業の競争力回復など深刻な問題を抱えたフランス経済には、早急な対応が求められているのです。
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