ヨーロッパが債務危機を迎えて3年以上もなります。危機は緩やかになるどころか、より深化し、ユーロという新たな通貨創造は存亡の危機にあるといっても過言ではないでしょう。異なる言語を話し、文化も異なるヨーロッパ諸国における通貨統合は、経済問題に絡んだ争いごとを続けてきた人類の歴史にとって壮大なる夢でもあり、成功することを切に祈っています。
ユーロ圏の形成により、人が自由に動き、資本が自由に動くことで、経済格差は一定の水準に収斂することが予想されました。もっとも、2011年の一人当たりGDPをみる限りでは、格差是正にまでは至っていないようです。右図は、ユーロ統計局掲載のデータより作成した各国の名目GDPと一人当たりGDPを示しています。特に、ルクセンブルクの所得水準は突出しており、金融、重工業、ITなどの産業分野で、競争力を維持しているからだそうです。そういえば、世界最大の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルの生産拠点が、ルクセンブルクにありました。また、私が所有している外貨MMFの運用会社の所在地もルクセンブルクでした。スイスと同様に、金融の拠点であり続けることは、高い所得を維持する上でキーポイントになるのでしょう。
もっとも、ルクセンブルクの経済規模は、ユーロ加盟17カ国中、13位にとどまっており、規模、影響力からいってカギを握っているのは、やはりドイツとフランスです。両国の経済が順調に成長するとともに、労働生産性、インフレ率、財政赤字などの点において格差が開かない方向で動けば、ユーロ圏は盤石であるといえます。上図は、ユーロが発足した1999年からのドイツとフランスの政府債務のGDP比率と失業率の推移を示しています。債務残高の比率は、ほぼ一致している一方で、気になるのが失業率での格差拡大です。2011年の失業率は、ドイツが6%を切る水準にまで低下する一方で、フランスでは10%弱の水準にまで高まっています。2012年には入ってからは、フランスの失業率はさらに上昇し、2012年9月は10.8%です。現在、フランスにおける失業問題の克服は最優先課題であり、多くの国民は不満を抱いており、政府に対する不信を増幅させているのです。しかし、雇用確保のため、安易に財政支出の拡大の方向へと政策転換した場合、債務残高の面でもドイツとの開きが拡大する恐れがあります。現在のフランス経済は、失業の克服と財政再建という相対する問題の同時克服であり、5月に発足したばかりのオランド政権にとって、難しい舵取りとなっているといえます。
そして、失業率と同様に大切なのが経済成長率です。リーマン・ショック後にドイツが大きく成長率を落とす中で、その回復力には驚きを感じます。2009年に、ドイツは実質成長率のマイナス幅は5.1%に達しており、ユーロ圏のマイナス4.4%、フランスのマイナス3.1%を上回っています。しかし、2010年、2011年は逆にドイツのプラス幅は両者を大きく上回っており、ユーロ安の恩恵を全面に受けた形となり、ドイツ製造業の復活を感じさせる結果となっています。この成長率において、ドイツとフランスの間で格差が生じる事態が続けば、失業率において両国の差は拡大することが予想されます。ここで、自由な労働の移動があれば、失業率は一定の水準へと収斂することになりますが、フランス人がドイツの工場で働くなどは余り考えられないことでしょう。
所得格差、財政、失業率、経済成長率は、共通通貨ユーロを維持する上で大切な要素です。しかし、通貨現象の結果であるインフレ率の一致こそが、共通通貨を維持する上で最も重要であると私は考えています。2011年の一人当たりGDPはドイツが30,300ドル、フランスが27,000ドルとほぼ拮抗しています。1999年以降、ドイツとフランスのインフレ率には大きな乖離はありません。しかし、フランスの失業問題が長引き、今後、インフレ率において差が出るという事態となれば、ユーロは最大の危機を迎えることとなります。ドイツ、フランスともにユーロという共通の通貨を採用している中で、インフレ率に格差が生じることは、両者の間で労働生産性に格差が生じていることを意味しています。それは、長期的には雇用問題に直結する問題となります。今後のユーロ圏内のインフレ率の動向に注目していきたいと思っています。
0 件のコメント:
コメントを投稿