2012年9月28日金曜日

厳しさを増すインド経済、外資導入促進と国内での抵抗

 BRICsの一角であるインド経済が脱落の危機にあります。先進国の成長が鈍化している中で、比較的堅調に推移してきた新興国の中核であるBRICs諸国であるインド経済が本当に失速する可能性が出てきました。インドは、現在は中国に次ぐ世界第2位の人口大国ですが、近年中に中国を追い抜き、第1位の座に付くことが確実視されています。その経済が立ち行かなくなれば、大量の経済難民が発生する事態を生み、国際経済にとって不安定要素となりかねないのが実情でしょう。
 それでは、インド経済が、危機である最大の原因は何でしょうか。それは、国内の貯蓄不足から生じる経常収支の慢性的な赤字です。途上国が高い成長率を維持するには、潤沢な国内貯蓄により経常収支が黒字である必要があるからです。かつての日本もそうですし、中国経済が成功した背景には、国内に潤沢な貯蓄があり、経常収支が定常的に黒字であったことがあります。経常収支の赤字で、かつ成長率が高い国は、常に海外からの赤字のファイナンスを受ける必要があるのです。日本、中国ともに所得が順調に伸び、消費が所得の伸びに追いつかず、国内貯蓄だけで国内投資の原資を賄うことができたのです。一方、経常収支の赤字の国は、何らかな原因に端を発して海外へと資金が流出し始めれば、通貨安をもたらすでしょうし、通貨安が外資の流出を加速させるのです。そればかりでなく、通貨安が引き起こす国内物価の上昇という事態を招き、国内経済・社会は不安定化するのです。どうして、インドが貯蓄不足なのかは詳しく調べたことがないため、詳細は分かりませんが、一部の裕福な人たちを除き、大多数の国民が低所得にもとに置かれ、日々の生活に追われ、貯蓄どころではないことに起因すると思います。下図は、私が作ったインド経済の取り巻く環境を示したものです。
 つまり、インド経済は、慢性化する経常収支の赤字と通貨ルピー安、そしてこの2つの要因に伴う外資の流出に苦しんでいると考えています。こうした中で、インド政府は外資の規制緩和という政策手段を選択しました。この外資規制緩和に伴い国外の大型小売店が進出する懸念から、インド全土で商店の経営者などが抵抗活動を展開、緊張が高まっています。インドの外資規制緩和に関する記事が2012年9月22日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『インド、総合小売業開放。外資規制緩和、日本勢など進出急ぐ』です。以下引用文。
 『【ニューデリー=岩城聡】インドでコンビニエンスストアやスーパーなどの小売業に、地元企業との合弁方式での外資参入を許可することが決まった。日本を含む海外企業は12億人規模の手つかずの市場での事業展開が可能になる。ただ、シン首相の国内の反対を押し切っての強引な決断は政権の弱体化を招く可能性をはらむ。
 20日夜に公示された内容は、これまで禁止していた複数ブランドを扱う小売業に対し、海外企業の出資比率を51%まで認めるというもので即日実施した。①100万人以上の大都市での展開②商品の30%以上を地場の中小企業から購入する-などの条件も付けた。
 シン首相は「これは改革の『ビックバン』。政策の行き詰まりを打開するには勇気とリスクが必要だ」と「市場開放」の意義を強調する』

 規制緩和をにらみ、米ウォールマートは即座に行動、12〜18ヵ月以内にインドで第1号店を開くとのコメントを出しています。しかし、インド国内では、これに反発して、シン首相(右の写真)率いる国民会議派に次ぐ議席を下院で有する「草の根会議派」は早々に連立離脱を表明しました。また、野党側が、全国一斉の抗議行動を呼びかけ、インド各地で商店主らがデモ行進を行う事態に陥っています。もっとも、経常収支の赤字で苦しんでいる、今のインドが、のどから手が出るほど欲しい外国資本からの資金導入は、この方法しかないという印象を受けています。因に、規制緩和の対象となっているのは、総合小売業(複数ブランド)、専門小売業(単一ブランド)、航空業、放送業などで、特に、零細な小売業が多いインドにとって、小売業での外資の導入は「諸刃の刃」ともいえる政策であるといえます。そして、関連する経済的な事項としては、中国、ロシアは経常黒字の国でですが、ブラジルの経常収支は赤字です。ブラジル政府は、輸入した工業製品に高率の関税を課し、国内の製造業を育成する政策を導入したばかりです。このことを踏まえれば、中国、ロシアの経済が順調なのに対して、インド、そしてブラジルの経済はやや不透明感があるといえるでしょう。

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