2012年9月8日土曜日

追いつめられるシャープと借り入れ構造の変化

 経営危機が叫ばれるシャープが追いつめられてきました。アップル製品の生産委託先であり、電子機器受託生産(EMS)で世界最大手の台湾・鴻海グループから出資の合意が取り付けたときは、峠は越えたと思われました。しかし、その後、シャープの株価が急落したことをきっかけに、出資比率の調整などに関するニュース報道が度々話題になるなど、まだ危機は去っていないことが徐々に分かってきました。
 ネット上の情報では、iPhone5の重要な部品であるインセル型の液晶ディスプレイの生産は、ジャパンディスプレイ、シャープ、LGが受託しているそうですが、ジャパンディスプレイのみ順調な生産体制が確立している一方で、LGは遅延気味、シャープに至っては歩留まり率から手に負えない状況になっていることが語られています。シャープのディスプレイ生産次第では、iPhone5の初期ロットが大きく削減され、品薄感が出る恐れがあります。会社がおかしくなると、社員の士気も落ちるのかもしれません。ここへきて、鴻海グループとの提携がもめている背景には、経営への直接関与が第一の理由が挙げられていますが、そもそもの企業体質の劣化に問題であると考えた判断かもしれません。通常、新製品が発売された場合、少し待ってから購入するのがベストです。初期ロットには不良品が多く、回収の対象となるケースもあるからです。しかし、極端な品薄感が予想されている中で、アップルのiPhone5は、ユーザーが待ちに待った新製品です。今回は、ソフトバンクが予約を開始した時点で、購入を決断しようと考えています。
 今、シャープは巨額な有利子負債が問題となっています。特に、信用力が求められるコマーシャルペーパー発行には、今後支障がでることが予想されており、資金繰り、特に短期の資金繰りに窮することが考えられます。そこで、主力銀行は、シャープに融資をすることを決断したようですが、今回の融資では担保の差し入れが求められています。この担保差し入れに関する記事が2012年9月4日付朝日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『シャープ、初の担保。主力2行に株60億円超』です。以下引用文。
 『1兆円の有利子負債を抱えるシャープが資金繰りにあえいでいる。これまで銀行からは無担保で融資を受けていたが、急激な経営の悪化を受け、3日には時価で約60億円を超える保有株式を担保に差し入れることが明らかになった。銀行への依存度は今後もますます高まる見通しだ。
 シャープはこれまで主に社債やコマーシャルペーパー(CP)などを発行して市場から直接資金を調達し、銀行から融資を受ける場合も信用力を背景に基本的に担保を差し入れていなかった』
 同記事によると、銀行に差し入れた担保となる保有株式は、合弁で光ディスク事業を展開するパイオニアの株3千万株(取得額415億円、時価で64億円)と、携帯電話事業で協業するソフト開発のネオス株3600株(取得額6千億円、時価で約1億7千万円)だそうです。この担保差し入れを機に、両社の株式が大きく変動することが予想されましたが、パイオニアはやや上昇する一方で、ネオスは流動性がほとんどないような株のようです。こうして、改めてデータをみていると、パイオニアの株式取得による損失額が300億円超ということが分かります。低調な日本の株式相場の中で、企業同士が株式を互いに持ち合うことで、双方の財務体質が著しく毀損していることが現実になっていることを知らしめてくれます。日本の株式相場が上がらない理由に、株式の持ち合いがあるともいえます。株主総会も安定株主により、いつも活発な議論なく終わってしまいます。シャープの行き詰まりだけの問題ではなく、日本的なビジネスモデルそのものに、限界にきていることを痛感されてくる事実でもあります。
 上図は、シャープのホームページ掲載の決算短信から作成したシャープの主な借入金を示したグラフです。注目すべきは、2011年3月末を底に借入金総額が急増していること、主な借入金のうち短期の借入金であるコマーシャルペーパー、短期借入金、1年以内償還予定の社債の割合が高まっていることです。この割合は、2012年6月末では57.8%と、2012年3月末と比べて4.3ポイントも急上昇しており、同社の資金繰りの厳しさが伺えるデータとなっています。シャープの今後は、銀行側の資金提供はともかく、提携予定先である鴻海グループの動き次第になってきています。しかし、シャープの脱落は、マイナス面ばかりではありません。テレビ事業で競争相手が少なくなることが期待されることです。シャープの存在は一体何だっただろうかという疑問には陥りますが、ソニー、パナソニックにとってはプラスかもしれません。

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