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2012年9月14日金曜日

2016年に1000兆円を上回る公債残高とヨーロッパ経済

 内閣府から今後の経済財政に関する中長期の見通しが発表されました。発表された資料によると、成長シナリオでは2014年には4%もの名目成長率が期待され、公債等の残高は増え続けるものの、対名目GDP比率では2013年をピークに徐々に低下するものと試算されています。私は、この試算はやや甘いのではないかという印象を持っています。それはヨーロッパ情勢に不透明感が増しており、下手をすれば、世界同時不況という事態を招きかねないと考えているからです。その中心にあるのが、やはりスペインです。同国のカタルーニャ州が中央政府に対して救済を求める事態となっており、ヨーロッパ危機は深刻化しているようです。 

 スペインのカタルーニャ州は、バルセロナを州都とする同国の経済的な要であり、GDPの5分の1を占めています。人口規模も同国第2位の地位にある同州が、今般、中央政府に対して支援を求めましたことにより、ヨーロッパ情勢は見逃せない状況となっています。人口規模1千万人のギリシャ危機の解決でもかなりの出血を強いられる形となったヨーロッパです。5千万人近くの人口規模を有する国が破綻した場合、問題はヨーロッパのなかで収まらなくなることは必至であり、世界経済へと飛び火することが予想されます。ヨーロッパの経済規模はそれもど大きく、ユーロ相場の上げ下げはもちろん考慮しなければなりませんが、少なくともユーロ相場が高かった時期のEU諸国の経済規模は、世界最大を誇るまでになっていたからです。

 そして、世界経済を成長セクターであった中国も、そのヨーロッパに対して積極的に輸出することで、高い経済成長を持続できたという側面は否定できず、今後、さらなる経済成長の鈍化が予想されています。日本の輸出産業も、ヨーロッパへの直接的な輸出に加え、中国への輸出を通じてヨーロッパ経済にどっぷりと依存した形で実績を上げていたことが伺えます。スペインでは、歳出の削減がさらなる雇用減と歳入減を招く悪循環に陥っており、動きの鈍いECBに頼った救済策だけでは既に限界が見えてきています。スペインの問題は、いまや世界の問題となっており、IMFなどと速やかに協調体制を確立することが求められています。
 今後、わが国でも経済成長の鈍化懸念が指摘されている中で、甘いと印象は否めませんが、「経済財政の中長期試算」に関する記事が2012年9月1日付山陽新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『借金残高、16年度に1000兆円突破。国と地方、内閣府試算、消費税増でも拡大』です。以下引用文。

 『内閣府は31日の閣議に国と地方の財政の将来像を示す「経済財政の中長期試算」を提出し、国と地方を合わせた借金残高が2016年度に1千兆円の大台を突破するとの予測を示した。23年度には1297兆8千億円、国内総生産(GDP)比で220.8%に増えると見込んでいる。
 政府は財政再建に向け、21年度以降にGDP比の借金残高を低下される目標を掲げているが、達成は難しい状況だ。(中略)
 23年度の国と地方の借金残高は、12年度の887兆7千億円と比べて46%も増える。このため国債費は23年度に12年度の2倍強の47兆4千億円に達すると見込んだ。
 15年度の国と地方の基礎的財政収支の赤字をGDP比で10年度から半減させる目標は達成できるとした。ただ、20年度までに収支を黒字化する目標は難しく、20年度は15兆4千億円の赤字になると試算した』
 米国、中国、そして日本の経済は、ヨーロッパの問題解決が如何に進んでいくかにかかっています。基礎的財政収支、つまりプライマリーバランスの黒字化は、現時点でも達成不可能になっており、さらに世界経済の成長が鈍化した場合は、政府見通しを下回る可能性が十分にあると考えています。

2012年6月22日金曜日

消費税率10%でも不足、プライマリーバランスの赤字解消

消費税率の引き上げがなかなか決まりません。6月20日夜に民主、自民、公明3党で、修正合意した消費税関連法案を衆議院に共同提出するまでは良かったのですが、その後、小沢氏を中心としたグループが離党をほのめかすなどの民主党は分裂の様相を呈してきました。そして、民主党は、6月21日までの国会会期を9月8日まで79日間延長することを採択、参議院での審議を念頭に「一定の時間が必要」であると判断したようです(2012年6月21日付朝日新聞朝刊)。
 私は、抜本的な支出のカットできない状況で、国民の負担を一方的に増やす消費税率の引き上げには反対です。しかし、公務員の給与の年俸化や歳出の一律カットなどの削減策が順調に進んだのならば、消費税率の引き上げはやむを得ないと考えています。ところで、ここで問題となるのは、3党で合意された消費税率の引き上げで十分であるか、ということです。2012年6月12日付産経ニュースWeb版に、IMFは15%、軽減税率には否定しているという記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『IMF、日本の消費税15%を提言、軽減税率には否定的』です。以下引用文。
『国際通貨基金(IMF)は12日、日本経済に関する年1回の審査を終え、高齢化社会に対応する安定的な歳入を確保するためには、消費税率を少なくとも15%に引き上げることが望ましいとの声明を発表した。
 消費税増税に伴う低所得者の負担軽減策として、食料品などを対象に軽減税率を採用すれば「税収を効率的に増やすことは難しい」と指摘し、否定的な考えを示した。 また、消費税率を10%まで引き上げることを含む社会保障と税の一体改革の関連法案の成立が「財政再建の意志を示し、投資家の信頼を維持するために極めて重要」とも強調した』
確かに、IMFが指摘するように食品などに対する軽減税率は適用しない方がいいかもしれません。なぜなら、20年もの長期間、デフレ経済に苦しんできた日本国民にとって節約は慣れたことです。食品の消費税率が低ければ、一斉に外食を止め、自宅での料理へと切り替えることが目に見えています。
また、15%という消費税率には、内閣府発表の『経済財政の中長期試算』(2012年1月24日)にも、裏付けられるデータがありましたので紹介します。上図は、消費税率が2014年4月1日より8%へ、2015年10月1日より10%へと段階的に引き上げられた場合の名目GDPとプライマリーバランス(基礎的財政収支)の推移を示したものです。これには、成長シナリオと慎重シナリオがあって、前者は名目3%成長、実質2%を、後者は名目1%台半ば、実質1%強をそれぞれ想定して試算しています。過去の日本経済と昨今の世界経済の動向を考慮すれば、慎重シナリオを適応するのが無難であり、そうした場合、プライマーバランスの赤字は2023年でも解消せず、名目GDP比率で3%程度の赤字となることが予想されています。名目GDPが500兆円で、3%の赤字ですので、単純に考えて6%程度の消費税率の引き上げが求められるのです。つまり、プライマーバランスを黒字化するには、消費税率は10%ではなく、16%であるということです。私には、上記試算の慎重シナリオでもやや楽観的な感じがします。やや持ち直しているものの、名目GDPは前期比でマイナスになることが多く、継続的に名目GDPが1%半ばの水準で成長し続けるか疑問が残ります。円高は続いており、しかも消費抑制的な税制が強化されるのですから、デフレからの脱却は難しいのが実情です。もっとも、国会に消費税関連法案が提出されたことは大切な最初の一歩です。財政危機回避のためにも、だらだらと議論するのではなく、早急な対応、つまりあとは時間との勝負になってきました。