ラベル 購買力平価 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 購買力平価 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2012年8月26日日曜日

根本的な経済格差に起因する欧州債務危機の根深さ

 欧州債務危機が長引いているものの、政策当局の積極的な関与からひと段落つき、やや落ち着いた感はあります。ここのところ、ユーロ相場はやや持ち直していることからも、そのことが伺えます。この債務危機の背景にあるとされているのが、政府の財政赤字や債務残高であるとことがよく指摘されており、ヨーロッパ諸国は財政規律の回復に向けた施策を打っています。確かに、ギリシャの総選挙で財政緊縮派が勝利したのに加え、イタリアはプライマーバランスがプラスへと転じました。そして、財政再建に目処がついたアイルランド政府は市中での国債発行を再開するなど財政規律に関していえば、当局の懸命な対応もあり、総じて信頼できる水準になってきました。
 それでは、欧州債務危機は回避できたのかといえば、決して楽観できないと私は思っています。それは、ユーロ導入国での間で経済格差が依然として大きく、その格差の縮小がない限りは、根本的な解決できないと考えているからです。そもそも、ユーロ導入を契機に、当初は人、モノ、資本(又はカネ)が域内を自由に行き交い、人、モノ、資本の価格が一定の水準に収斂すると予想されました。現実は、ドイツなど勝ち組と言われる国々に、人、モノ、カネの全てが吸い込まれていき、豊かな国がさらに豊かになり、貧しい国がさらに貧しくなるという格差拡大の方向へと動いています。
 右図は、OECD加盟のユーロ導入国の1人当たり名目GDPの比較を示しています。マルタ、キプロスはOECDに加盟していないこと、ルクセンブルクは他の国々と比べて圧倒的に高い水準であることからデータに加えていません。ユーロ導入17カ国の平均は、3万5,371ドルであるのに対して、域内最大の経済力を誇るドイツは、3万9,186ドルに達しています。一方で、ポルトガル(2万5,351ドル)、ギリシャ(2万6,934ドル)、スペイン(3万2,500ドル)、イタリア(3万2,938ドル)は、いずれもユーロ導入17カ国の平均値を下回っていることが分かります。通常ならば、安い賃金を求めて、これら諸国へと工場を移す動きがあって、経済的に貧しい国々で新しい雇用を産み出すことが考えられます。しかし、現実は、高い賃金を求めて、経済的に貧しい国々の労働者、特に若い人々がドイツへと流入しようとしています。ギリシャやスペインでは、ドイツ語の語学教室がはやっており、労働者が職を求めてドイツへと向かおうとする動きがあります。この流れが本格化すれば、南欧諸国の経済はさらに疲弊し、さらに経済格差が拡大することになるでしょう。
 もう一つの格差は、物価水準です。同じ通貨を使用し、モノが自由に移動できるのならば、ユーロ導入国の物価水準も一定になるばずです。しかし、OECDが発表している購買力平価に基づく為替相場から物価水準に依然として開きがあることが読み取れます。OECD発表の購買力平価について、説明文が少しですが掲載されていました紹介します。以下引用文(注)。
 『OECDはEUと共同で「GDPを構成する商品・サービス」を対象とした価格調査を3年ごとに実施し、これに基づいて購買力平価を算定している。直近の2008年を基準年とするOECD購買力平価の算定プロジェクトでは、約3,000の商品・サービスが比較対象となった』
 上図は、直感的に理解しにくいのですが、OECDのホームページ掲載のデータから作成した、主なユーロ導入国の購買力平価から示したユーロ相場の推移を示したものです。通常、ユーロ相場は、1ユーロ=1.23ドル(2012年8月20日21:00現在)といった具合に外国通貨建て表記します。このOECDのデータは、1米ドルに対して何ユーロという表示になっていますので注意が必要です。上図の見方ですが、実際のユーロ相場よりも高いところに位置する国々は、国内物価が相対的に高く、下に位置する国ほど相対的に低いことを意味します。このことは、急速な経済悪化を背景に、アイルランドが、大幅な下落傾向を示していることから大まかにイメージと合致すると思います。ここで示す購買力平価から算出された為替レートがほぼ合致する時こそが、各国における物価水準に格差がなくなったことになります。ドイツ、フランス、イタリアが、実際のユーロ相場に近づいている一方で、ポトルガル、ギリシャ、スペインなどはほとんど変動なく、依然として開きは大きいとことが分かります。最近の成長率から考えて、南欧諸国では物価が下落傾向を示し、乖離幅が大きくなっていることが予想されます。
 確かに、国家間の経済統合には、財政規律が守られていることが大切であると思います。これは、違う言葉を話し、違う文化を持つ国家間での信頼へとつながるはずです。しかし、忘れてはならないのは、経済統合には経済格差があってはダメです。所得や物価水準は、経済統合にとって財政規律よりもさらに重要な要素であるといえます。
(注)総務省統計局『世界の統計』、p74、財団法人日本統計協会発行、2012年。

2012年4月15日日曜日

ビッグマック指数と消費税

2012年4月14日の『週刊ダイヤモンド』に「ビックマック指数」に関する記述がありました。記事(注)によると、英国の経済誌「エコノミスト」が「ビックマック指数」を毎年発表しており、各国のマクドナルドでより販売されているビッグマックの価格を比較することで各国の通貨が割高なのか、割安なのかがわかるとしています。私も各国の物価水準を把握するため、新聞やニュース報道をくまなくチェック、あげくの果ては海外ドラマからも入手するまでにもなっています。この「ビックマック指数」が有用ならば、この苦労を省くことができ投資判断をする際にも参考になると思い、早々にマクドナルドに行き、ビックマックの単品価格をチェックして行きました。

その時、私は、ビックマック、サラダ、アイスコーヒーのセットメニューを注文、ビックマックの単品価格は、メニュー表で確認しました。写真はその時のものです。写真では読み取りにくいのですが、ビッグマックの単品価格は確かに320円となっており、上記の記事のデータと合致することがわかりました。そして、マクドナルドに行った最大の理由は、この320円の価格が消費税を加えたものか、そうではないかということを確かめるためでした。
つまり、消費税や付加価値税が日本では5%であるのに対して、デンマークなどヨーロッパ諸国には25%にも達する国もあることです。ならば、直接データを比べるのは、意味がないことになります。2012年2月22日付『国別製品別の価格差』のブログでも記述したように、この付加価値税が高いことが影響し、ヨーロッパでのAppleの製品が、米国や日本と比べて割高になっていることが判明しました。ビックマックでも同様のことがいえるのではないてしょうか。
右図は、上記で挙げた「ビッグマック指数」の主要国別にグラフにしたものです。スイスとブラジルが突出して高いこと、英国が付加価値税が高い割に、日本より安いということがわかります。スイスにおいてビックマックが高いのは、当然のことながら、一人当たりのGDPが7万ドル程度まで達しており、この所得が水準により人件費が占める割合が総じて高いことに起因したものと考えられます。一方、ブラジルは、所得格差が非常に大きく、ビッグマックを日常的に購入することのできる人々の数が限られていることが原因ではないかと思っています。一方、英国のビッグマックが安いのは、課税・非課税の対象が非常に煩雑であり、以前はテイクアウトに対して非課税であったことが起因しているのはないかと推測しています(現時点では課税・非課税は不明であり、課税対象としたことから、イギリス国民の間で論争が起こっているという記述を読んだことがあります)。
 以上のことから、「ビックマック指数」を参考にするに当たっては、対象の国の付加価値税(もしくし消費税)の水準と所得水準を考慮に入れる必要があることがわかります。
(注)記事の題目は「ビックマック指数、ビックマックの価格を比較すると、その国の通貨が割高か割安かがよかる」。

2012年2月1日水曜日

対内証券投資は円高の要因か

私は、各国の為替相場は、長期的にはそれぞれの国の物価水準に帰すると考えています。これは、物価上昇の高い国は通貨安になりやすく、逆に物価が安定している国は通貨高になることを意味します。デフレの日本と違って、米国では年間1〜3%程度、消費者物価が上昇しています。戦後、1米ドル=360円から始まった円ドル相場は、この物価上昇の差が主因であり、円高、ドル安のトレンドは続いてるといえます。これは、購買力平価説に基づく為替相場の考え方です(注)。
 もっとも、短期・中期的には金利水準の差などが影響することになります。1981年に就任したレーガン大統領は、慢性的なインフレを退治するため、徹底した金融引き締めを実施、大幅なドル高をもたらしました。ドル高により国内産業の弱体化を招きましたが、インフレを収束させることには成功しました。これは長期的なトレンドとは異なり、内外の金利差による為替変動であり、短期・中期的にはよくあることだと認識しています。私自身も、外国の債券を保有しており、その保有動機は高い利回り水準にひかれたからです。同時に、米国は慢性的に経常収支の赤字を抱えており、国内貯蓄だけでは、政府の財政赤字や投資を維持することができず、海外からの資金流入を常に必要とします。結果として海外から資金を呼び込むためには、どうしても他国と比べて高い金利水準を維持しなければならないのは当然の帰結です。
 この短期・中期的な要因と長期的な要因が混ざり合ったのが、現在の円相場と考えると、1米ドル=76円台という戦後最高値圏で推移しているのは、物価上昇の差、金利の差で説明できるはずです。2011年12月24日付けのブログ(タイトル『外貨建て資産の投資タイミング』)で語ったように、米国と日本の物価を現在の為替レートで比較した場合、米国の物価の方が安いのではないかということを示唆しました。ならば、金利差を考えてみましょう。米国の長期国債の利回りは10年物で2%弱、一方、わが国は1%弱の水準でにとどまっています。単純に金利差を考えれば、米ドル高になっても不思議ではありません。しかし、実質金利(=名目金利-物価上昇率)を考えた場合、物価が引き続き上昇している米国とデフレの日本を比べた場合、金利差は逆転することとなります。
つまり、今の円高の水準は、長期的なトレンドである両国の物価水準の差に加えて、実質金利の差が逆転もしくは縮小したことによる要因が重なり、円相場のオーバーシュートをもたらしていることが推測されます。
上記のことを踏まえて、2012年1月13日付日本経済新聞朝刊に『短期債の買越額最大、海外投資家、日本に資金逃避、昨年16.7兆円』の見出しの記事を引用します。以下引用文。
『財務省が12日発表した2011年の対内・対外証券投資によると、外国人投資家の短期債買越額が前年の2.5倍の16兆7395億円に上り、比較可能な05年以降で最大となった。中長期債の買越額も7.4倍に増えた。欧州債務危機や米国の景気低迷への懸念が高まり、海外の投資マネーが日本へ逃避したためだ。海外勢の円建て債への需要の強さは、外国為替市場で円高圧力がくすぶる一因との指摘もある』
私個人としては、わが国の政府の債務残高の推移を考慮した場合、日本国債への投資は敬遠したくなります。特に、今のように利回りが極端に低い場合、国債の価格変動リスクが大きくなるからです。そして、詳しく調べた訳ではありませんが、この円相場のオーバーシュートの原因は、円キャリートレードの巻き戻しの過程で発生していると考えていました。しかし、データが示しているように、確かに対内証券投資は短期債を中心に大きく増加しています。でも、安全資産として円が買われているという表現は不適切だと思います。世界の債務残高に占める日本国債の割合は非常に大きいものになっています。世界の金融資産の中で日本国債のプレゼンスは大きく、投資対象として円建ての日本国債は避けて通れないから、外国人投資家はやむを得ず購入しているのだという表現が適切ではないでしょうか。
(注)中谷巌『入門マクロ経済学(第5版)』、pp200-201、日本評論社、2007年。