AIJの問題が冷めきらないなかで、再び厚生年金基金の運用に関連して不祥事が発生しました。具体的な基金名は、長野県内の370社の社員の加入する長野県建設業厚生年金基金で、AIJ投資顧問の巨額詐欺事件で預けていた65億円の大半を失ったばかりです。既に加入者に応分の負担が強いられることになり、基金は大幅な積み立て不足を陥っています。この基金が、さらに約60億円もの資金を、東京にあるソシエテジェネラル信託銀行、スタッツインベストメントマネジメント、ユナイテッド投信投資顧問に運用委託、企業の未公開株に投資するファンド運営会社に資金を預け入れした結果、約25億円しか戻ってこないという事態に陥っています。
金融庁・証券取引等監視委員会は、信託銀行など3社が投資先の企業の経営状況を調べるなど最低限の確認を怠たったとして、近く行政処分や処分勧告を行うとしています。一方、ファンドの運営会社は業者として登録する必要はなく、行政処分を行うことができないため、金融庁が警告を出すにとどまるようです。2012年10月6日のNHKのニュース報道では、未公開株に投資し、虚偽の運用報告を作成したファンド運営会社はともかく、運用のプロである信託銀行などの責任は大きいものとしています。専門家の意見としては、基金にも責任があるが、プロが本当の専門家責任を果たした上で出た損なかのか、やむを得ない損なのかを十分に検証する必要があるとコメントしています。
どうして、このような損失騒ぎが多発するのでしょうか。わが国の投資環境は、円高が趨勢的に進んでいる中で、外国への投資にもリスクがあるとともに、国内の株式は、先進国の中でももっともパフォーマンスが低くなっています。その上、確定給付という年金制度により、どうしも運用利回りの向上を図る必要が有り、基金の管理者には大きなプレッシャーが常にあります。それにつけ込んだのが、AIJ投資顧問であり、また今回の不祥事であると考えています。加えて、国債の運用利回りが0.8%台と低い水準にとどまっていることに問題があります。国内の金融機関が余った資金を集中的に国債へと投資した結果の利回りの低下です。国の財政規律を損なうばかりでなく、こうした基金の安定運用先をなくすという結果をもたらしているのです。
2012年10月4日付日本経済新聞朝刊に『成長力、金融テコに』という記事が掲載されていました。日本で発生した金融危機が、米国、欧州を襲いかかり、世界経済は金融危機を発端とした景気後退に陥っています。この記事は、日本経済新聞社が主催したシンポジウムに関する記事で、わが国を代表する金融機関のトップが講演しているという内容です。代表する金融機関とは、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、大和証券グループ本社、野村ホールディングスです。
ところで、上記の5つの金融グループの株価は、大幅な増資をした結果、散々たる結果となっています。経済を引っ張るどころか、投資家に多額の損失をもたらしていることは、常に頭に入れておく必要があります。わが国の金融機関は、欧米の金融機関の業績を悪化させている中で、経営状態は安定しています。この安定さを武器に、欧米の金融機関が独占していた国際金融の分野へと打って出ています。しかし、わが国の金融機関は常に忘れてはならないという事実があります。それは、金融危機を起こし、その後の失われた20年をもたらした元凶をつくったこと、国債などに集中投資し、国の財政規律を喪失させるばかりでなく、あらゆる年金基金や財団などの運用先を失くしていることなどです。金融がリードする経済はあり得ないことは、アイルランド、アイスランドの例でもよく分かります。金融セクターが肥大すれば、国が不安定化するばかりでなく、格差社会を生み出す原因ともなります。金融セクターは主役であってはならないのです。常に脇役に徹し、主役である製造業などが安定して事業が行えるよう、円滑な金融サービスを提供することが責務なのです。
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