2012年10月20日土曜日

IBMにみる米IT企業の業績

 IBMといえば、IT企業のさきがけであるとともに、米国を代表する企業です。もっとも、90年代には、パーソナルコンピューターの流れへの対応の遅れから、急速に業績が悪化、ナビスコから引き抜かれたルイス・ガースナーCEOの元で大規模なリストラが行われました。その結果、ハードウェアを主体とする業態から、ソフトウェア、サービス主体の企業へと大きく転換、今のIBMがあるといえます。

 今では、当たり前の存在となっているパソコンでは、当初はマイクロソフトと組み、ハードウェアを提供する一方で、OSはマイクロソフトのMS-DOSを使うことで、パソコン市場で主導権を握ったかにみえました。しかし、マイクロソフトとの関係では、共同で開発を進めていたMS-DOSの後継であるOS/2が普及せず、マイクロソフトがウィンドウズの発売を開始したことで、IBMとマイクロソフトが対立する事態が発生しました。その後は、ウィンドウズがパソコンの市場を席巻し、ほとんどのパソコンに搭載されているOSがウィンドウズという状況となり、現在に至っています。最近では、パソコン用のOSとしては、IBMはLinuxなどに力を入れているようです。私もIBMが関わっていたLinuxの一種であるFedra coreをパソコンにインストールし、ホームページの管理に使っています。上図は、IBMの株価の推移を示しています。日本企業の株価がリーマン・ショック後に半分以下にまで下落しているのに対して、ドル安を背景にした好業績が出しているIBMの株価は08年9月の水準を大きく上回っています。

 ここのところのユーロ安や欧州景気後退の影響もあって、やや息切れ感のある米IT企業の業績です。iPhoneを製造販売する米アップル社は例外として、半導体製造で世界最大手のインテルも3年ぶりの減収を記録しており、IT企業の業績が総じて停滞していることが伺えます。もっとも、10月26日はマイクロソフトのウィンドウズ8が発売開始となります。企業ユーザーが投資を抑制していたこともあり、伸び悩んでいたパソコン市場も、新OSを軸に元気を取り戻す可能性があります。こうした中で、IBMの2012年7〜9月期の決算が発表されました。この決算に関する記事が、2012年10月17日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『米IT、業績息切れ。IBM減収減益、企業が投資抑制』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=小川達也】米IT(情報技術)業界で有力企業の業績息切れが目立ってきた。米IBMが16日発表した2012年7〜9月期決算は、売上高が前年同期比5%減の247億4700万ドル(約1兆9500億円)だった。純利益は0.4%減の38億2400万ドル。四半期ベースでの減収減益は09年1〜3月期以来3年半ぶり。ドル高に加え、景気減速などを背景にした企業のIT投資抑制の広がりが響いた。(中略)
 主力のITサービス部門のうち、システム構築の売上高は4%減、コンサルティングも6%減だった。ソフトウェア部門は1%の減収。ハード部門が13%の減収となり、全体の足を引っ張った。利益率はサービス部門では改善したが、ソフト部門は横ばい、ハード部門は悪化した』
 IBMの地域別の売上高は、米国が4%減、欧州・中東・アフリカ(EMEA)が9%減となり、景気後退と企業のIT投資抑制の影響が大きかったといえます。右図は、2012年4〜6月期ですが、地域別の売上高のシェアを示しています。世界の成長セクターであるアジア地域の売上高は、IBMの4分の1に相当過ぎません。一方で、アメリカが40%強、EMEAが30%強となっており、売上高の中心は、米国、欧州であることが分かります。今後は、IT化が急速に進んでいる中国やインドなど新興国でIBMが活躍する場が確実に増えてきます。ドル安を武器にした今までの戦略には限界がみえてきており、成長維持のためには、新たなサービス事業の育成や粗利益率の高い製品の提供などが求められるところです。しかし、驚きなのは、IBMの純利益(net income)は着実に年々増加しており、日本企業が羨む業績であることは変わりません。適宜、集中と選択を行うというスタイルは、日本企業には、確固としたビジネスモデルがないことから業績の差につながっています。90年代のIBMの劇的な事業転換には、依然として日本企業は学ぶ点が多くあるといえるでしょう。

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