私は、元々、国内銀行による過剰な国債保有は否定的な見解でいます。第1の理由は明確であり、金融機関などにより国債が集中投資された結果、国債の利回りが極端に低下することで、国の財政規律を失わせることです。利払い費が減少することで財政秩序がなくなっており、政府による財政赤字の垂れ流しに歯止めが掛からなくなっています。
第2の理由は、国債利回りが低い水準にとどまっている中で、何らかの外的なショックが発生、市場参加者のスタンスの変化によりなどにより国債利回りが急上昇すれば、国債保有者は多額の損失を出す可能性があることです。そして、利回りが低ければ低いほど、その損失は比例的増大するのです。これは、いわゆる「流動性の罠」といわれる現象に関連するもので、国債利回りが一定水準にまで低下すれば、通常ならば国債の価格変動リスクを嫌い、投資家は流動性の高い資産を選好し、一定水準以下には国債利回りは低下しないことになります。もっとも、わが国の場合、中央銀行である日本銀行が国債を積極的に購入することにより、さらなる低下をもたらし、現在の10年物の国債利回りは0.7%台で推移しています。
こうした国債の利回りの低下は、国債の大口保有者である銀行などのリスク許容度を低下されるばかりでなく、年金基金などの運用利回りを低下させることで、昨今起こっている年金詐欺事件を誘発する原因ともなっています。そして、今でも、金融の知識が乏しい一般の人々が、投資詐欺事件に巻き込まれるケースが多発しています。これらの人々は、本来は安定した運用先である国債等で運用することが望まれますが、余りに低い国債の利回りはやはり危険を伴うこととなります。円高をどうしも阻止したという政府・中央銀行の思惑もありますが、国内外で様々な歪みを生じさせる原因ともなっており、過度な利回りの低下をもたらすであろう要因を一つ一つ排除する時期が訪れている気がします。
この流れの中で、国際通貨基金(IMF)が10日に発表した「国際金融安定性報告書」で、邦銀による国債保有残高の増大に対して懸念が示されました。これに関する記事が2012年10月11日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『邦銀の国債大量保有、懸念。IMF報告、地銀再編など要求』です。以下引用文。『国際通貨基金(IMF)は10日発表した世界の金融システムに関する報告書で、日本の銀行が日本国債を大量保有していることに懸念を示した。国債の金利が上昇(国債価格が下落)すれば、銀行の損失が膨らみ、経済危機を招きかねない。欧州危機では、財政悪化と金融システム不安が連鎖的に拡大した経緯があり、日本でも対策が求められそうだ。報告書は、日本の銀行の保有資産に占める日本国債の割合が2011年は24%で、17年には30%まで高まると予測する。長引く景気低迷の影響で企業側に資金需要が乏しく、銀行による貸し出しは伸び悩んでいる。リスクが高い資産を持つと不利になる厳しい資本規制もあって、銀行は手持ちの資金を、安全資金とされる日本国債に振り向けざるを得ないのが実情だ。日本の国と地方の債務(借金)残高は、13年末には対国内総生産(GDP)比で245%に達する見通しで、借金依存度は先進国の中でも最も深刻だ。それでも、金利が安定的に低いのは、大量発行される国債の多くを日本国内の投資家が引き受けているためだ。ただ、「国内頼み」の状態がいつまで維持できるかは分からない。日本銀行によると、6月末の海外投資家による日本国債保有比率は8.7%で、1年前より1ポイント上昇し、過去最高を更新した。日本の財政状況を不安視する海外投資家が国債を売却し、金利が急上昇するという可能性が少しずつ高まっている』
上図は、スペインなど南欧諸国で、現在進行形で起こっている事態です。幸い、日本では国内に潤沢な資金があり、日本国債のほとんどが国内投資家により保有されており、負の循環には陥ってません。しかし、いつ外的ショックが発生するとも限りません。例えば、格付け機関による日本国債の格付けの引き下げが実施された場合です。度重なる格下げを嫌気した海外投資家が保有する日本国債のほとんどを一挙に売却するなどのケースなどが考えられます。特に、海外投資家が保有する国債は、短期の国債が中心であり、利回り上昇による価格下落幅は小さいのです。この小ささから、むしろ売却が容易であることが推測され、逃げ足の速い資金ともいえます。備えあれば憂いなしです。政府、日銀、日本の金融機関の間で、真剣な協議を進めた上で、国内銀行による日本国債の過度な保有を是正する対策が早急に求められているのです。
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