2012年11月30日金曜日

リーマン・ショック前後からの倒産件数と負債総額

 2008年9月に大手投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産、これを機に世界経済は、景気後退へと向かい、現在もその影響から回復できないでいます。米国では、失業率が高止まりするとともに、今年の年末商戦は決して好調ではないことが一部で伝えられています。欧州経済は、債務問題が4年目へと突入し、EUも予算決定の会合でも、各国の利害が衝突、予算が決定できないでいます。絶好調だった中国も、対欧州向けの輸出が減少するなどで、減速傾向が顕著になっています。そして、デフレ経済から脱却できないでいる日本経済は、回復感がないまま、すでに景気後退局面に入ったことが専門家等の間で指摘されています。
 今日は、リーマン・ショック直前からの負債総額及び倒産件数の推移を追ってみました。右図は、帝国データバンクのホームページ掲載のデータから作成したグラフです。グラフを改めて見ると、負債総額は、景気の上げ下げとは関係なく、突発的に発生する一方で、倒産件数は2009年をピークに減少傾向があり、景気との連動性があるという感じがします。それでも、景気動向指数には、企業倒産件数は係数として採用されておらず、やはり景気との連動性は低いと考えてもいいでしょう。

 そして、この中で、負債総額が1兆円を上回る月に限定して、その月にどんな企業が倒産したのか調べてみました。2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券が倒産、負債総額は3兆4,314億円にも達し、2000年に倒産した協栄生命保険の4兆5,296億円に次いで、戦後2位の規模となったそうです。その後は、日本航空が2兆3,221億円の負債を抱え、2010年1月に倒産、金融業を除く事業会社では、マイカルを抜き史上最大規模の倒産となりました。2010年9月には、日本振興銀行、武富士という規模の大きい金融関連2社が倒産しました。これは問題のある金融機関の淘汰であり、前者の倒産では、ついにペイオフが実施され、当時話題となりました。リーマン・ショック後の2008年9月以降からの倒産企業の累計負債総額は28兆円(このデータは1000万円以上の倒産のみを集計)にも及びます。銀行は、企業や個人に対して資金を貸し付けてして利ざやで稼いでいます。メガバンクの利益は、年間で多くても1兆円前後に過ぎません。企業倒産に加え、個人も破産をしているのですから、銀行が融資をして、利益を出すのは非常に難しい環境であるともいえます。IMF・世銀の総会で、日本の金融機関が多額の国債を保有している点に注文を付けられましたが、融資にせよ、預かり資産せよ、国債保有にせよ、今の金融機関にとって日本の経済状況は難しい局面にあるといえます。


 こうした中で、中小企業金融円滑化法が2012年3月末をもって期限切れとなります。金融円滑化法とは、2009年12月に施行された法案で、中小企業や住宅ローンの借り手から要請があった場合、金融機関は借金の元本や利子の支払いを停止、利子の軽減などにできるだけ応じることが求められるというものです。当初は11年3月を期限としていましたが、2回にわたり延長、2013年3月が最終期限となり、終了後は倒産の増加が懸念されています。この中小企業金融円滑化法に関する記事が、2012年11月24日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「中小」支援、要望強く。金融円滑化法、来年3月期限切れ。倒産増加懸念も論戦低調』です。以下引用文。

 『金融機関に対し中小企業からの貸し付け条件の変更の申し出に応じるよう努力義務を課した「中小企業金融円滑化法」が来年3月末に期限切れとなる。中小企業の倒産増加も懸念され、政府に対策を求める声は強い。ただ、衆院選に向けては、金融政策や環太平洋経済連携協定(TPP)、エネルギー政策などの諸課題に隠れて、中小企業対策の論戦は盛り上がりを欠いている。(戸塚光彦)
 民間調査会社の帝国データバンクによると、10月の企業倒産件数(負債総額1000万円以上)は前年同月比6.1%増の961件となり、2ヵ月連続で増えた。そのうち円滑化法に基づき、借り入れ条件の変更を受けたのに倒産となったのは1ヵ月間では過去最多の51件となった。
 政府が2009年に円滑化法を施行したのは、中小企業の資金繰りを助けているうちに本格的な経済の回復を待つことを期待したからだった。しかし、現在の国内景気は後退局面に入ったとみられており、厳しい経営環境に直面している中小企業へのしわ寄せが、今後一層広がる可能性もある』
 同記事によれば、金融円滑化法の施行によって、本来ならば市場から退出するべきであった企業が残ってしまったと示唆しています。金融庁の調査では全国で5〜6万社もの中小企業が転業や廃業などの抜本的な対策が必要とされています。やはり、政府等の指示による金融機関の融資に対する介入には問題があり、市場原理に任せた企業淘汰は、むしろ産業の新陳代謝を進める上で必要なことであるといえます。そして、政府がするべきことは、企業倒産によって失業率が上昇した場合、事後的に失業者に対して支援をする方が効率的であるということが、この法案の施行によってはっきりしたという印象を受けます。

2012年11月29日木曜日

電力会社の平均年収と疑問のある関西電力の言い分

 関西電力が電力料金の引き上げを表明しました。九州電力も、これに続く動きを示しています。一方で、電力各社の平均年収は、500万円をかなり下回っている一般の平均ばかりでなく、大企業平均の596万円をも上回っています。関西電力の言い分には、燃料費を除く経費での削減には限界が出でおり、原油など燃料費が高止まりする中では、電気料金の引き上げしか方法がないというものです。事実、電力各社は収益環境はかなり悪化しており、ほとんどの会社が赤字となっています。損失がこれ以上に積み上がるならば、会社としての存続が危ぶまれています。
 私の考えは、まず第一にするべきは、電力会社は配当金は出さないということです。わが国の原子力発電を間接的に支援してきたともいえる株主は、有限責任ではありますが、投資家として責任をとる必要があります。いまや赤字となっているのですから、普通の会社では配当金は出ないはずです。しかし、株主はこれで納得してはいけません。株主として、電力会社の経営努力を徹底的に追求するべきであり、その中には平均年収の引き下げは当然のごとく、視野に入ってくると思います。
 関西電力の電気料金の値上げに関する記事が、2012年10月30日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。安易な値上げは、電気料金の負担が大きい製造業などにとってもマイナスであり、円高で苦しむ製造業の輸出競争力を削ぎかねません。国民全てが関わる問題であり、電力各社に勤める関係者の事情だけで決めることではないといえます。記事の題目は『経費削減、焼け石に水。関電値上げ、原発稼働見通しなく』です。以下引用文。

 『関西電力が値上げの検討に踏み切るのは、原発停止に伴う燃料費負担が、人件費や修繕費のカットだけでは追いつかない水準に達しているからだ。関電は「原発さえ動けば値上げしないで済む」(幹部)として大飯原発2基に続く原発の早期再稼働を目指してきたが、見通しは全く立っていない。ただ、値上げに対する利用者の目は厳しい。関電など電力各社は今後、高額とされる社員の給与水準など、さらなる体質改善を求められる可能性がある。(中略)
 一方で、値上げ審査にあたる政府からは、同社の想定を超える厳しい給与削減策を求められる可能性がある。関電は既に従業員の給与削減も視野に入れて検討を始めているが、政府は利用者に理解を求めるためにも、少なくとも他の大企業並に年収削減を求めるなど厳しく査定する方針だ。東電から今年5月に値上げ申請を受けた際、政府は平均年収を大企業平均(596万円)以下の590万円に削るよう要求した。政府は他社の値上げ審査の際、東電ほど厳しく査定しない考えだが、年収は「大企業並み」削減方針は崩していない』
 赤字が続くと民間企業は存続できません。ただし資金ショートしなければ、しばらくの間は生き残ることもできます。電力会社といえども、東電でみたように国有化され、事実上破綻することはあります。逆に、破綻してからの処理の方が、受給権が発生している年金の支払いなどにも手を付けることができるなど、人件費の削減はさらに容易ともいえます。原発が事故を起こしてから、既に1年と半年が過ぎています。活断層の上に原発を建設したり、津波の直撃を受ける太平洋側に原発を集中立地をしてしまったことは、もう取り戻せない事実であり、わが国のエネルギー政策は破綻したと考えてもいいです。しかし、無駄をなくし、すぐさま対応しなければ、公共性が高い、安定した電力の供給を失うこととなり、このような事態は是が非でも回避するべきです。「原発さえ動かせば値上げしないで済む」などといった発言ではなく、電力各社には真摯な対応が求められるところでしょう。

2012年11月28日水曜日

驚くべきイングランド銀行の総裁人事

 私は、日本銀行の白川総裁を決して責めているわけではありません。安倍自民党総裁のように過度に金融緩和を日銀に求めるなどは、新しい日銀法が定めらている現在、違和感を感じているくらいです。第1党になり、自民党が政権与党になって、日銀法を改正してから、政府関係者が発言するのならば許される話です。現時点では、政府から日本銀行の独立性の確保は絶対に守らなければならないのです。

 こうした中で、英国では革新的なことが起こりました。それは、イングランド銀行の総裁人事です。今回のイングランド銀行の総裁選びでは、従来の方法から完全に脱却し、新しい人材を外国へと求めた英国のやり方は、画期的であると感じました。これは、白川総裁がダメで、ダメだから外国人にしたらどうかという意見では決してありません。白川総裁は、毅然とした対応で職務を遂行しており、日本銀行はデフレ脱却に向けて全力で努めているのです。従って、白川総裁の人事が云々ということでは決してありません。もっとも、私は、政治が機能不全に陥っている中で、わが国の官僚制度においても外国人を登用してもいいのではないかと考えていました。そして、この英国の中央銀行、イングランド銀行の総裁に、カナダの中央銀行、カナダ銀行総裁で、カナダ国籍を持つマーク・カーニー氏(右写真)の登用を決定したことです。やれば何でもできるということを印象を受ける出来事です。


 2012年11月27日付NHKの「ワールドWave モーニング」の報道では、カーニー氏は英国とは全く無縁ではなく、妻、子どもは英国とカナダの国籍を持っていること、同氏自身も英国に10年間住んでいたことがあり、金融街シティや英国の業界関係者に多くの知人がいるそうです。しかし、最近の金融街シティの暴走振りは凄まじく、バークレイズによるLIBORの不正操作、スタンダード・チャータードによるイランへの不正送金、HSBCのマネーロンダリングなど金融が主力産業である英国にとって致命的な不正事件が相次ぎました。そこで、英国人の中央銀行総裁で、国と金融機関が混乱を起こしたことを踏まえれば、英国の財務省が人材を外国に求めることは、ある程度納得のできることであると同番組では示唆しています。今まで、英国の財務省が、候補者リストを作成し、首相の助言のもと、総裁人事が決定していました。今回は、公募という形をとり、広く人材を求めた結果です。カーニー氏が選ばれた理由には、カナダ銀行総裁に就任した2008年以降、カナダでは金融危機は発生していないこと、金融機関の救済もしておらず、景気後退も米国や英国などと比べて軽微で済んでいるということなどがあるようです。


 今までの流れでは、副総裁を3年近く、イングランド銀行の上級政策立案者を10年努めたポール・タッカー氏が有力視されいましたが、今回の総裁人事は、シティの予想を覆すものとなりました。世界の中央銀行でも格式と伝統を重んじるイングランド銀行ですが、やはりLIBORの不正操作の疑惑が尾を引いたようです。金融の監督側は、この事実を知っていたのか、それとも見過ごしていたのかは分かりませんが、不信の声を払拭する必要があり、異例の人事となったようです。そして、その人選に当たっては、公平性と透明性が求められたのだと番組の解説者は説明しています。ヨーロッパ債務危機が長引く中で、英国も無傷ではありません。失業率の高止まりと成長率の鈍化という問題を抱えているのです。新たな総裁に求められることは多く、ゴールドマン・サックスなど民間などでも努めた経験のあるカーニー次期イングランド銀行総裁の手腕に注目が集まっています。

 それで、私の本音です。私の本音は日本銀行の総裁人事の件ではありません。つまり、日本の政治の不安定さが、これ以上増すならば、人材を海外へと求めてもいいのではないかということを普段から考えていることです。何でも外国人を登用すればいいとは思っていません。ソニーがストリンガー氏を登用したことは失敗です。話によれば、同氏はソニー製品を愛用していないそうです。まず、この点をクリアにした上で、日本通であり、かつ日本を愛してくれる外国人は、世界中に多くいるはずです。大震災後に日本へと永住を決めたドナルド・キーン氏のような人々が日本へと駆けつけてくれればと思っています。自己の利権を守ることばかりに熱心な官僚に、これ以上国を任せれば、国は確実に滅びます。こうした中で、イングランド銀行の英断には、私自身が勇気づけられるところがあります。

2012年11月27日火曜日

スマートフォン市場の拡大とその影響

 年末に近づき、ここ1年間、書き込んだブログを振り返った時、スマートフォン関連のものが多いという感覚があります。ブログのタイトルが『経済問題を考える』ですので、一つの事象にとらわれず、総花的かもしれませんが、当初は様々な方面について言及するはずでした。しかし、スマートフォンが、新聞紙面で話題とならない日はないほど、当たり前の存在となっている上、様々な産業分野へと影響を与えようとしています。その結果、スマホ関連の話題が多く、この一連のブログはやや偏ったという印象を受けます。
 現在、私は金融取引、ネット通販、音楽・映画のダウンロードをスマホを通じて行っています。また、以前は書店で購入していた経済財政白書など官公庁の各種資料もPDFファイルでスマホやタブレット端末へとダウンロードして読んでいます。そして、企業の決算発表、株価、新聞記事なども全てスマホでチェック、メールの送受信もスマホでやっています。パソコンは、このブログを作成する時に立ち上げる程度で、さすがにグラフの作成や長文の作成にはパソコンの方がまだまだ適していると思います。この点が改善されれば、パソコンいらずという時代は、着実に近づいているといえます。さすがに企業ユーザーは完全にパソコンを排除することはできず、企業ユーザーのみがパソコンを使用しているという時代の到来が予見されます。もっとも、ブログを作成している最中でも、パソコンのサブディスプレーとしてiPod TouchやiPadを積極的に利用しており、非常に重宝しています。これらのモバイルデバイスの存在があったからこそ、このブログを作成するに当たっては、ペーパーレスが実現できました。
 以前は、外へ出かける時は必ずレンズ交換式のカメラ(いわゆる一眼レフ)を持ち出し、交換レンズも6本程度準備しました。それを全てスマホに置き換えることは決してできません。野鳥の写真を撮る時は望遠レンズ、風景を撮る時は広角レンズ、花や昆虫を撮る時はマクロレンズといった具合にレンズを使い分けをしなけば、決していい写真を撮ることはできないのは変わらない事実です。もっとも、昨年の10月末に北海道の旭岳へ登山した時は、iPhone4をカメラ代わりに使い、まずまずの作品が撮れたという気がします。上の写真は、iPhoneではないのですが、キャノンのPowershotG9で使って、旭岳の頂上付近から撮影したトムラウシ山です。逆光ですが、雲海の上からのショットです。

 その後、iPhoneは、4S、5とバージョンアップし、カメラの性能は着実に高まっているのです。その結果、デジカメの世界販売に異変が生じています。レンズ交換式カメラがむしろ増加傾向を示している一方で、コンパクトカメラは出荷台数は減少へと転じています。デジカメの販売台数に関する記事が、2012年11月23日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『デジカメ販売1000万台減、大手6社、スマホ普及響く』です。韓国、中国、台湾などの海外勢に圧倒されている中、日本企業に唯一圧倒的なシェアを握っているのが、デジタルカメラです。この分野で、スマホ台頭によるラダイムシフトに対応できなかった場合、デジタルカメラ、特にコンデジというカテゴリー自体が消滅する可能性は否定できないでしょう。以下引用文。

 『キャノン、ソニー、ニコンなどデジタルカメラ国内大手6社が2012年度の販売計画を一斉に下方修正した。減少幅は合計で1050万台と前回計画比で1割減。11年度比でも4.5%減と、一転して2年連続の減少となる見通し。高度なデジカメ機能を搭載したスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の普及に加え、世界的な景気減速や中国での不買運動も逆風となっている。日本勢が強いデジカメの分野でも今後、高機能品へのシフトなど戦略再構築を迫られそうだ。
 デジカメはデジルタ家電が苦戦する中でも日本勢が世界で圧倒的な優位性を持ち、電機・精密業界の「最後の砦(とりで)」とされる。日本勢以外の大手は韓国サムスン電子ぐらいで、富士フィルム、パナソニック、オリンパスを加えた国内6社の世界販売シェアは11年度で73%を占める。
 日本勢の強みはレンズやファインダーの光学技術や撮像素子と呼ばれるセンサーの開発力などにある。各社は技術力を生かしたレンズ交換式デジカメなどを強化し、事業再構築を急ぐ考えだ』
 iPhone4S/5の撮像素子は、ソニー製の800万画素の裏面照射型CMOSセンサーを使用しています。このセンサーは、光があたる部分の面積が広いことから、ダイナミックレンジが広く、また、高感度時のノイズも少ないとされています。デジカメ分野の市場が縮小しても、フェースブックやYouTubeの関係で撮影するというニーズはむしろ増加していると考えられ、高機能のレンズと撮像素子の技術を持っている限りは、日本企業のプレゼンスは低くはならないでしょう。従って、絶え間ない技術開発が、デジカメ主要6社には求められるといえます。

 そして、スマホ時代の到来の中で、もう一つ影響を与えるているのは、全国に光回線を提供するNTTです。昨日、NTTからの電話セールスがあり、わが家も1GBと光回線の導入ができることが判明しました。利用料金も引き下げられるようです。これは、スマホやモバイルルーターで十分あると考える人々が増えており、既存の光回線を解約するケースが続出していることが背景にあります。しかし、モバイルルーター等には月間でのパケット使用制限があることから、私は既存の光回線の契約を解除する考えは全くありません。企業間の競争の結果、料金の引き下げと回線速度のアップという「果実」を得ることができるのです。素晴らしい時代の到来だと思います。光回線引き下げに関する記事が、2012年11月21日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『NTT光回線値下げ。戸建ては月額3000円台へ』です。以下引用文。

 『NTT東日本、西日本は光回線サービスの料金を大幅に下げる。戸建て向けの月額料金を現行基本料金より約3割安い3600〜3700円台にする。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)を通じてパソコンなどをインターネット接続する利用者が増え、光回線の契約者数は伸び悩んでいる。スマホと割安に併用できるようになれば、家庭のネット利用環境向上や通信料負担の軽減につながる。(中略)
 スマホ向けの高速携帯電話サービス「LTE」では光回線並の最大毎秒100メガビットのサービスも登場。通信の安定性は光回線が優れるがネット接続をスマホで済ます利用者が増えている。NTT東西の2012年度の純増数は約130万契約(11年度約150万契約)にとどまる見込み。
 NTT東は今回の値下げを新規顧客向けの2年限定の割引としている。ただ光回線の解約を防ぐには既存顧客対策が欠かせず、今後既存顧客向けの追加値下げに踏み切る可能性がある』
 モバイル向けの高速通信サービスである「Xi(クロッシィ)」側も、値下げに入りました。しかし、この料金引き下げは、同時に月間のパケット量の限度引き下げという制約がついています。月間の制限は、8割のユーザーは対象外になるパケット量だそうですが、スマホしか持っていない利用者にとっては死活問題です。やはり、家には安定した回線である光回線、屋外ではモバイルルーターを使うというネットライフがベストであるという印象を受けます。
 カテゴリーキラーであるスマホの普及は、今後、様々な分野へと影響を与える可能性があります。カメラメーカーやNTTは直撃を受けた恰好となりました。これ以外にも、電子書籍の普及により、新聞、雑誌、書籍を販売する業態が衰退する可能性があります。また、映画のレンタル、CDショップへの影響も大きいでしょう。パソコンメーカーや任天堂の業績も悪くなっています。来年には、新たなサービスがスマホで登場するはずです。ネット社会の主役へと躍り出たスマホが、今後のネットのあり方を形づくるという時代が到来したのです。

2012年11月26日月曜日

気になる韓国大統領選と日本との関係

 私は、国民の代表する直接選ぶことができる米国、韓国、フランスなどの国が羨ましていと思っています。わが国には元首がおり、議会内閣制であるからダメだという考えもありますが、イスラエルなどは首相を直接選挙で選ぶという選挙制度をとっています。首相を直接選挙で選ぶ最大のメリットは、議会選挙で大統領支持する与党が敗北しようとも、首相は任期中は職務を全うできることです。最低でも4年間という任期の間、国際会議に出席する国を代表する首相は、よっぽどのことがない限りは変わることがなく、他国の首脳も安心して会談に応じることができるのです。
 こうした中で、韓国の大統領選がついてに公示されました。日韓関係が冷え込む中で、新しく選ばれる韓国大統領には、対日政策を重視した人が選ばれてることを切に願っています。しかし、有力2候補ともに、対日政策は未来志向の関係を目指すとしているものの、「竹島」は韓国固有の領土であるとのこと主張、次期政権にも対日関係の改善は期待できないかもしれません。日本国民の韓国への親近感も、「竹島」問題が響き急低下、大統領選の結果は関係なく、冷え込んだ日韓関係が続く可能性が高いと可能性もあります。韓国大統領選に関する記事が、2012年11月26日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『財閥重視、見直し焦点。2012年韓国大統領選、公示、保革一騎打ち』です。以下引用文。
 『来月19日に投開票される韓国大統領選の候補者登録(公示)が25日に始まり、与党セヌリ党朴槿恵(パク・クンへ)候補と最大野党、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補らが立候補を届け出た。登録は26日に締め切られ、27日から選挙戦が始まる。無所属の安哲秀(アン・チョルス)氏の出馬辞退で、事実上の保革一騎打ちとなった大統領選。政策の違いも見え始めている。(中略)
 【ソウル=尾島島雄】韓国大統領選挙は世界市場で成長を続ける財閥の存在をどう位置づけるかが有力2候補に問われる展開となってきた。大企業優遇を進めた李明博(イ・ミョンバク)大統領への国民の失望もあり、過去の大統領選と比べても「財閥改革」が際立つ争点となっている。
 革新系の文在寅候補は25日の記者会見で「財閥と特権層を保護する勢力に対抗しよう」と訴えた。公約でも「循環出資構造の3年以内の解消」など、財閥に厳しい姿勢が鮮明だ。創業家一族が少ない持ち株でグループ経営を支配する出資関係にメスを入れるのが狙いで、サムスン、現代自動車の両グループが対象とされる。(中略)
 一方の保守系の朴槿恵氏。経済成長の果実を公平に分配することを意味する「経済民主化」を掲げる姿勢は文氏と同じ。だが循環出資については「新規を禁止する」という言い回しにとどめた。サムスンや現代自の創業家支配を事実上容認することで、財閥側の反発を抑える狙い。事業拡大を縛る出資総額制限もしない方針だ』
 GHQの指示のもと、日本の財閥は、速やかに解体され、戦後の経済発展を支えてきたといえます。民主的な市場経済の元、米国経済に立ち向かい、一時は米国を超えるのではないかと期待されました。その流れの中で、日本では、多くの企業が育ち、革新的な製品を世の中に数多く送り出した実績は高いとえるでしょう。一方、現在のサムスン電子、現代自動車などには、そういった独創的な製品がないのが問題です。サムスン電子のギャラクシーのOSは、そもそもグーグルが開発したアンドロイドです。スマホで躍進するサムスンですが、日本のガラケーなくして今のスマホは存在しなかったでしょう。日本メーカーは、自動車の分野でもハイブリッド車、CVT、ロータリーエンジンなどの技術を世に送り出す一方で、現代自動車は特に優れているという話は聞いたことがありません。
 韓国では格差社会が問題となっています。財閥に入っている人と、そうでない人の格差です。若者の就職難も社会問題となっています。財閥解体こそが、次にステップへと向かう唯一の術です。韓国企業には、もう日本企業という先生はいません。技術を盗むばかりでなく、韓国企業は既に独り立ちする段階に入っているのです。私は、先の戦争に一切かかわっていません。そして、日本企業からの技術移転など、これだけの恩恵を受ける中で、再び戦後補償の問題がクローズアップされています。この補償が実施されるのならば、その資金は、我々戦争に直接かかわっていない世代からの税金で賄われることを意味します。また、当時青年であった人を特定し、それらの人々の年金を減額し、戦後補償へと充てるならば納得できます。それができないのは、分かり切ったことであり、韓国の要求は、犯罪者の子どもが、犯罪被害者のために、永遠に償いをすることを求めているのと同じことです。戦後世代が経済の中核を担っている現在、この要求がある限りは、韓国は二流国であり、世界のリーダーになる資格はないでしょう。

2012年11月25日日曜日

COP18開催、二酸化炭素排出量25%削減は何だったのか

 2009年、国連総会の場で鳩山首相が二酸化炭素排出量の25%の削減を公約し、世界各国の総会参加者から拍手喝采を受けてから3年が経ちます。2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う原発事故の発生と、その後の原発再稼働の停止により、この公約は不可能になりました。かつて、景気回復が遅れ、デフレ経済が進むものの、環境に優しい日本経済を、私は誇りに思っていましたし、同首相は国の進むべき方向は明確に示していたと賛同をしていました。
 それでは、現在の日本経済に対して何を誇りに思うのかと問われると、返す言葉がないのが実情でしょう。財政赤字は世界に例をみない水準ですし、変な機能ばかりついたガラパゴス化した製品ばかり発売する日本企業にもかつての勢いはありません。政治は完全に機能不全に陥っています。そして、エコ先進国と呼ばれた日本は、天然ガスなど化石燃料を大量に輸入し、将来におけるエネルギー政策も策定できずにいます。国土が狭く、地震が頻発する日本にとって原発を推進することは、そもそも不可能であったのです。確かに、原発の再稼働に反対する人々の気持ちはある程度理解できます。しかし、即刻、原発ゼロという政策は現実的に不可能であること、そして原発のそば住む人にとってはマイナスであるものの、二酸化炭素の排出は確実に抑制できることから、原発再稼働へと向けた政策には一理あります。上図は、国別の二酸化炭素排出量を示しています。2009年時点で、中国が1位となっており、新興国の排出量規制なくして、地球温暖化の問題は解決できないのです。中国を排出量削減の枠組みに取り込むためにも、日本の排出量削減は不可欠です。

 こうした中で、COP18が11月26日から12月7日までカタールの首都ドーハで開催されます。25%といったほぼ不可能な目標を掲げて参加する予定の日本は、どのような扱いになるのでしょうか。環境省は年内をメドに新目標を掲げるとしていましたが、衆議院の解散、総選挙で頓挫する事態に陥っています。エネルギー政策の基本をどうするのかも問われるべき選挙となっているものの、2年近くたった今でも策定ができていないのは、政治の機能不全に他ならないと思います。COP18に関する記事が、2012年11月22日付朝日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『COP18、温室ガス25%削減、見直し作業遅れ。政府、目標変えぬ方針』です。以下引用文。

 『政府は、26日に開幕し地球温暖化対策を話し合う気候変動枠組み条約締約国会議(COP18)に向けた基本方針を固めた。脱原発路線への転換で事実上達成できなくなった今の温室効果ガスの排出削減目標を、取り下げずに交渉に望む。見直し作業が遅れたためだが、原発増設を前提とした従来目標を維持するあいまいな姿勢が、日本の発言力を低下させる恐れもある。
 今の目標は「排出量を2020年に90年比で25%削減」。主要国が意欲的な目標を掲げる条件つきで、09年に当時の鳩山由紀夫首相が国際公約として打ち出した。しかし、原発事故を受け政権が9月に「30年代に原発ゼロ」のエネルギー戦略を決め、原発頼みだった削減目標も行き詰まった。10月には野田佳彦首相も達成が厳しいと認めた。しかし、政府はCOP18には、「25%削減目標」を維持したまま臨む方針だ。月内に関係閣僚委員会で正式に決める。
 この目標をめぐっては、環境省は当初、エネルギー戦略決定後に見直しを急ぎ、COP18で新目標を示すことを検討。しかし戦略決定は9月にずれ込み、政権が原発再稼働の方針をあいまいにしたことで、20年時点で原発をどれだけ動かすかなどを検討する経済産業省の作業を遅れた』
 政策決定が後手に回っているため、このような状態で首相がCOP18に参加することになりました。何も決まっていない国の首脳に対して、他国の首脳はまともに相手をしてくれるのでしょうか。普通の商取引でも、相手がいくらで売るのか明確にしていない商品に対しては、買う側は購入の意志を示しにくいといえます。むしろ、会議への不参加もあり得るのではないでしょうか。東日本大震災の復興事業にも遅れが目立っています。何も決定できない状況で、かつ総選挙の結果次第では、消費税率の引き上げなど今まで決めてきた重要な法案も覆されかねません。何を決めるのかだけが政治ではありません。政治には、それ以上にスピードが求められるのです。

2012年11月24日土曜日

貿易赤字が定着、本格的に円安へと向かうか

 日本銀行の政策に対する政界からの注文が多くなっています。私は、このような行為は、国際的な通貨である円への信用失墜を生じさせ、最終的に円安、株安、債券安のトリプル安を招く恐れを抱いています。円高は、確かに国内に多くの工場を持っている製造業にとってマイナス面が大きく、国内経済の空洞化をもたらすというという結果となっています。
 しかし、高齢化社会が急速に進み、団塊の世代が本格的に年金を受給する年齢になっている中、これからも安定して労働力の確保することは国内では困難であり、国内に大規模な工場を構えること自体がナンセンスになると考えています。一方、福祉の現場には、1947〜49年に生まれの806万人もの65歳の高齢者が、たった3年間の間で流れ込んでくるのです。全ての人が福祉のやっかいになるわけではありませんが、多くなることは確かです。そうした現場で人材を確保する必要があり、製造業が国内で大規模な雇用を確保し、ものづくりを進めていく時代は既に終わっているといえます。ただ、付加価値が高く、円高の影響を受けにくい競争力の高い分野は国内にとどまるべきですし、それを失うことは、将来、引き続き国力維持をする上で是が非でも回避するべきです。労働力確保の面から付加価値の低い汎用品の生産は、海外の工場へと移転することはやむを得ないことであり、円高はそうした企業にとってプラスであるといえます。また、コンビニや外食チェーン店も海外へと進出する上においては円高のメリットはあります。
 私が、円安を誘因しようとする論者が好きではないのは、円高のデメリットばかりをことさら強調することです。原材料を調達する上で内需系の企業にとっては円高はプラスであり、エネルギーや食料の確保という安全保障の観点からも円高はメリットがあります。政財界には、円安を待望する人々がやや多い気がします。円高にもメリットはあり、そのメリットが国内へ波及するシステムを構築する必要があるのです。そうしているうちに、円安が急速に進んでいます。貿易赤字が定着する中での流れですが、減ってきているとはいえ経常収支はまだまだ黒字であることから、実需による円安ではないと考えています。
 しかし、円相場の今後の展開は気になるところです。貿易赤字に関連して円相場に関する記事が、2012年11月22日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『貿易赤字定着、円売り強まる。7ヵ月半ぶり82円台』です。市場関係者には、日銀の追加緩和の観測が強まる中で、貿易赤字の拡大の発表があり、市場が敏感に反応したという見方があるようです。まだ、投機的な円売りであり、これが実需の円売りならば、警戒する必要があると思います。以下引用文。
 『外国為替市場で円売りが勢いを増している。21日には7ヵ月半ぶりに1ドル=82円台まで、円安・ドル高が進んだ。衆院選を控え、自民党の安倍晋三総裁が大胆な金融緩和を掲げていることに加え、日本の貿易赤字の定着で実需の円売りも意識されている。
 21日朝方発表の10月の貿易収支で赤字額が10月として過去最大となったのをきっかけに円売りが加速。海外投資家の取引が増えた夕刻に4月6日以来の82円台をつけた。
 輸出は最大の輸出先である中国向けが沖縄県・尖閣諸島問題の影響で落ち込み、輸出企業が稼いだ外貨を円に換える勢いが弱まるとの見方が強まった。「日中関係の早期改善は見込めず、輸出回復は遅れる」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)とみる市場関係者が多い』
 やはり日中関係の悪化が貿易収支の悪化の主因であるようです。日中関係の早期の関係改善が期待されるところですが、そもそも尖閣諸島の問題が、ここまで先鋭化した原因は何であるか、考えてみる必要があると思います。どうして、東京都は、沖縄県の外れにある、この島を購入しようとしたのでしょうか。都民の保養所でも作ろうとしていたのでしょうか。また、都庁の支局でも作ろうとしたのでしょうか。地方に住む者にとっては意味不明の行動をしているように見えます。日本の首都である東京都は一体何を考えているのでしょうか。日本のブレインである東京は本当に大丈夫なのかという疑念も出てきます。

 この尖閣諸島は、日中間で問題が先鋭化するまでは、米国は日本との安全保障の対象範囲であるとしていました。しかし、最近の米国は、日中両国間での平和的解決を望むとコメントするなど、中国との関係を悪化させたくないと姿勢へと転じています。ごたごたしている日米関係、弱まる日本経済、中国経済の成長、韓国との良好な関係、そしてオバマ大統領の再選を踏まえた場合、米国にとって日本のプレゼンスは一層低くなってきています。そうした中で、唯一の日本の優位性は、米国債を大量に持っていることだけです。円安は、これから米国債を購入しようとする者にとって最大のネックです。円安だけにメリットがあるのではないです。円高にもメリットはあります。株式市場は円安にだけ一方的に反応し、大幅な株高となっています。これでいいのかという疑問を生じさせる市場の動きです。残念です。

2012年11月23日金曜日

信じられない日本銀行に対する政治関連者の発言

 戦中の戦費調達を目的とする1942年に成立した旧日本銀行法が、復活しそうな勢いです。旧日本銀行法は、1997年に改正、現在の日本銀行法に至っています。旧日本銀行法はの結果は、戦後経済の中で紙切れと化した国債の元凶ともなった悪法であり、わが国を戦争へと向かわせた原資ともなりました。

 それが戦後50年以上も残っていたこと自体信じ難かった事実ですが、施行された当時は話題になりました。この結果、日本銀行は政府からの独立性を確保、日本銀行の政策は日本銀行政策決定委員会で決定されることとなりました。政策決定委員会は日本銀行総裁、副総裁2名、そして審議委員会6名の計9名で構成され、金融政策決定会合は、原則として月1、2回定期的に行われます。政府の代表として財務大臣も参加できますが、議決権はないそうです。日本銀行もデフレ脱却に向けた強い意志を示したばかりで、年率1%のインフレを目標とするものでした。上図が示すように、日本経済はデフレからの脱却ができず、厳しい状況下にあるといえます。給与水準も低下するとともに、国内需要への依存から脱却するため、企業は海外へと続々と進出しています。

 ならば、日本経済は本当に深刻なのかといえば、失業率の面からはその点は伺えないといえるでしょう。右図は日本、米国、ドイツの失業率の推移を示しています。失業率の統計は、国によってかなり違っており、かつては日本は低めに出て、米国は高めに出るなどと言われていました。それでも、2012年9月の速報値では、日本が4.2%であるのに対して、改善傾向は示しているものの米国は依然として7.8%と高止まりしています。目覚ましいのは、ドイツです。かつては10%を上回る高い失業率によりドイツ病とも言われ、失業率の高さが構造的問題となっていました。しかし、ドイツは2005年の11.7%をピークに劇的に低下、期近では5.4%となっています。それでも、日本は、高くなってきているとはいえ、先進国の中でも低い水準にとどまっているといえます。
 ならば、日本経済にとって何が悲惨かといえば、それは政府の債務残高です。私が子どもの頃から、他の先進国と比べて高いという指摘があった財政赤字です。結果、他国に類をみない水準にまで上昇したのが、政府債務のGDPに対する比率です。これは、バブル経済崩壊以降、政府の財政支出による積極的な浮揚策があったものの、デフレが進行する中で名目GDPはほとんど上昇しなかった結果です。財政支出がなければ底割れしたという指摘もありましたが、現在は危険な水準にあるといえます。そして、財政規律を喪失させた原因となったのが、潤沢にあった家計による貯蓄残高であったといえます。もっとも、日本銀行もデフレからの脱却を目指し、国債を積極的な買い入れを実施、今では国債の買い入れで制限されている日本銀行券発行残高とほぼ同水準にまでになっています。それでも、不足であったことから、日本銀行の資産勘定とは簿外となる資産買入等基金を設立し、国債を継続的に購入しています。その結果、歳入の半分以上を国債発行で賄うという異常事態に陥り、無秩序ともいえる政府債務残高を増加の原因となりました。この「つけ」は、いずれは払わなければなりません。それは高いインフレ率か、ギリシャのようなデフォルトです。
 こうした中で、次の総選挙で第1党になる可能性が高まっている自民党の安倍総裁による日本銀行への強行な発言が注目されています。これに対して、日本銀行の白川総裁は、記者会見で反論するという事態となっています。この記者会見に関する記事が2012年11月21日付読売新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『安倍景気策に日銀反論』です。以下引用文。

 『日本銀行の金融政策が衆院選の争点に浮上する中、白川方明総裁は20日の記者会見で、政府に対する中央銀行の独立性の尊重を訴えた。だが、自民党は金融緩和の強化を衆院選の政権公約に盛り込んでおり、日銀への圧力は収まりそうにない。
 白川総裁は会見で、一般論との前提付きながらも、自民党の安倍総裁らが主張する金融政策の具体案にことごとく反論した。
 安倍総裁は、「2〜3%の安定的な物価目標を掲げることで、初めてインフレ期待が出て、デフレから脱却できる」と発言。日銀の政府からの独立を定める日銀法の改正も視野に、インフレ目標政策を導入する考えを示している。日本維新の会の松井一郎幹事長(大阪府知事)も、日銀法を改正し、インフレ目標政策を導入するべきだと主張している。
 これに対し、日銀は、望ましい物価上昇率について「2%以下のプラスの領域で、当面は1%」との認識を示してきた。白川総裁は会見で「当面は1%の物価上昇率を実現するまで、最大限の努力をする」と述べた上で、「3%は現実的でない。政府と十分な意思疎通を図り、自らの責任と判断で中央銀行としての責務を果たす」と、日銀の独立性を重視する立場を強調した』
 せっかく改正された日銀法を、また改悪の方向で動いています。新興国などの政府ならば許されることかもしれませんが、米ドル、ユーロ、ポンドなど国際通貨である円の番人である日本銀行への批判は自粛するべきです。今のデフレは、今となっては、家計が将来の税負担の増加を恐れ、生活防衛の方向へと一斉に向かっているからだともいえます。これは、合成の誤謬であり、合理的な判断のもと、家計が貯蓄増加に励んだ結果、マクロ経済的に所得が減少し、貯蓄自体も減少してしまうという問題です。デフレの根本は、合理的な家計が将来の政府による政策の不透明さを予見し、本能的に防衛策を講じているのかもしれません。私は、日銀の政策への過剰な発言は、不適切であり、そのような発言が、責任のある政界から相次いで出ること自体が既に破綻していると思います。政府は財政規律を速やかに回復させ、歳入増は決まったのですから、それまでに徹底した歳出の削減が求められているのです。
 私は、日本国債を直接的に保有していません。また、多額の国債を購入している日本の銀行への預金は極力少なくする姿勢でいます。格付けが低く、見通しもネガティブとされている国債に資金を投じる気は一切ないのです。事実、私のポートフォリオに組み込まれている債券は、トリプルA格ばかりです。為替リスクより、デフォルトリスクの影響の方が大きいと考えているからです。

2012年11月22日木曜日

フランスとドイツの経済格差とユーロの存亡

 ヨーロッパが債務危機を迎えて3年以上もなります。危機は緩やかになるどころか、より深化し、ユーロという新たな通貨創造は存亡の危機にあるといっても過言ではないでしょう。異なる言語を話し、文化も異なるヨーロッパ諸国における通貨統合は、経済問題に絡んだ争いごとを続けてきた人類の歴史にとって壮大なる夢でもあり、成功することを切に祈っています。

 ユーロ圏の形成により、人が自由に動き、資本が自由に動くことで、経済格差は一定の水準に収斂することが予想されました。もっとも、2011年の一人当たりGDPをみる限りでは、格差是正にまでは至っていないようです。右図は、ユーロ統計局掲載のデータより作成した各国の名目GDPと一人当たりGDPを示しています。特に、ルクセンブルクの所得水準は突出しており、金融、重工業、ITなどの産業分野で、競争力を維持しているからだそうです。そういえば、世界最大の鉄鋼メーカーのアルセロール・ミタルの生産拠点が、ルクセンブルクにありました。また、私が所有している外貨MMFの運用会社の所在地もルクセンブルクでした。スイスと同様に、金融の拠点であり続けることは、高い所得を維持する上でキーポイントになるのでしょう。


 もっとも、ルクセンブルクの経済規模は、ユーロ加盟17カ国中、13位にとどまっており、規模、影響力からいってカギを握っているのは、やはりドイツとフランスです。両国の経済が順調に成長するとともに、労働生産性、インフレ率、財政赤字などの点において格差が開かない方向で動けば、ユーロ圏は盤石であるといえます。上図は、ユーロが発足した1999年からのドイツとフランスの政府債務のGDP比率と失業率の推移を示しています。債務残高の比率は、ほぼ一致している一方で、気になるのが失業率での格差拡大です。2011年の失業率は、ドイツが6%を切る水準にまで低下する一方で、フランスでは10%弱の水準にまで高まっています。2012年には入ってからは、フランスの失業率はさらに上昇し、2012年9月は10.8%です。現在、フランスにおける失業問題の克服は最優先課題であり、多くの国民は不満を抱いており、政府に対する不信を増幅させているのです。しかし、雇用確保のため、安易に財政支出の拡大の方向へと政策転換した場合、債務残高の面でもドイツとの開きが拡大する恐れがあります。現在のフランス経済は、失業の克服と財政再建という相対する問題の同時克服であり、5月に発足したばかりのオランド政権にとって、難しい舵取りとなっているといえます。

 そして、失業率と同様に大切なのが経済成長率です。リーマン・ショック後にドイツが大きく成長率を落とす中で、その回復力には驚きを感じます。2009年に、ドイツは実質成長率のマイナス幅は5.1%に達しており、ユーロ圏のマイナス4.4%、フランスのマイナス3.1%を上回っています。しかし、2010年、2011年は逆にドイツのプラス幅は両者を大きく上回っており、ユーロ安の恩恵を全面に受けた形となり、ドイツ製造業の復活を感じさせる結果となっています。この成長率において、ドイツとフランスの間で格差が生じる事態が続けば、失業率において両国の差は拡大することが予想されます。ここで、自由な労働の移動があれば、失業率は一定の水準へと収斂することになりますが、フランス人がドイツの工場で働くなどは余り考えられないことでしょう。
 所得格差、財政、失業率、経済成長率は、共通通貨ユーロを維持する上で大切な要素です。しかし、通貨現象の結果であるインフレ率の一致こそが、共通通貨を維持する上で最も重要であると私は考えています。2011年の一人当たりGDPはドイツが30,300ドル、フランスが27,000ドルとほぼ拮抗しています。1999年以降、ドイツとフランスのインフレ率には大きな乖離はありません。しかし、フランスの失業問題が長引き、今後、インフレ率において差が出るという事態となれば、ユーロは最大の危機を迎えることとなります。ドイツ、フランスともにユーロという共通の通貨を採用している中で、インフレ率に格差が生じることは、両者の間で労働生産性に格差が生じていることを意味しています。それは、長期的には雇用問題に直結する問題となります。今後のユーロ圏内のインフレ率の動向に注目していきたいと思っています。

2012年11月21日水曜日

オランド政権発足6ヵ月後のフランス経済

 フランスのオランド大統領が就任して半年になります。この半年を振り返って、フランス経済を検証する特集がNHKが2012年11月16日付『ワールドWave トゥナイト』で組まれていました。フランス経済が一向に良くなる兆しがみられない中、労働者側、企業側双方からの不満が噴出し、はやくも同大統領は経済政策の修正を迫られる事態に陥っています。

 オランド仏大統領は、約3兆円の財政赤字の削減を目指しており、3分の1を歳出削減、3分の2を主に大企業・富裕層への課税強化で賄うとしていました。具体的には、企業に対しては最低賃金の引き上げ、税制上の優遇策の廃止など負担の拡大を求めています。富裕層に対しては所得のうち100万ユーロを超える部分に75%という高い税率を課す政策を打ち出しています。そして、特に若者の雇用難が深刻化する中で、若者の雇用対策を最優先課題としています。この中で、地方公共団体や公益性の高い企業が、一定の条件を満たす若者を雇用した場合、最長で3年間、給与の大部分を国が助成する新たな支援制度を創設しました。厳しい財政状況のなか、総額で5,300億円もの予算を2年間で支出し、若者15万人の雇用創出を目指しています。実際に、この雇用制度の対象となった若者からは「就職難で困っている若い世代が、この政策の恩恵を受けることを期待しています」とコメントするなど、歓迎されているようです。一方、企業の経営者たちからは、歳出削減の努力が不十分であるまま、企業や富裕層に対してさらなる負担を求めるオランド政権に対して反発の声が高まっています。番組では、ある自動車部品メーカーの経営者が紹介されていました。この経営者は、フランス国内で400人規模の工場新設を計画していたものの、企業に対する優遇策がなくなり、逆に負担増の懸念から、それを断念、北アフリカのモロッコに工場を建設することを決めました。
 オランド仏大統領の支持率は、就任時58%あったものが、期近では39%にまで急落しています。当初は、フランス経済を立て直し、雇用状況の改善に全力を尽くすと主張していました。しかし、ヨーロッパ全体を襲っている金融危機による景気後退は、当初の政策の修正という方向へと動き始めました。それは、競争力を高めるため、企業に対する減税を段階的に進めることと、付加価値税を引き上げて広く国民に負担を求めるというものでした。消費を鈍らせるということで、付加価値税の引き上げには、同大統領は反対の姿勢をとっていたため、この政策転換には身内の議員からも否定的な意見が出ています。この二つの政策は、社会党らしからぬ政策ともいえます。厳しい雇用情勢は、ヨーロッパ諸国全体に共通する悩みですが、企業によるリストラ策は受け入れることはできないと発言するなど、同大統領は、労働者に対して最後は政府がなんとかしてくれるなどといった期待を抱かせてきました。NHKの解説者は、それだけに失業率の上昇に歯止めがかからず、経済が一向に改善しない今、国民の失望感がフランス国内で広がっていると説明しています。

 もっとも、オランド政権発足時は、成長戦略を打ち出し、緊縮策一辺倒の政策に批判的な姿勢をとっていたことから、財政支出の削減が思うように進まないことが危惧されていました。今のところ、財政支出の削減に対する政策にはブレがないようです。これを受けてフランスの国債利回りは低い水準にとどまっているのが、唯一の救いともいえます。しかし、金融不安で景気は落ち込み、財政支出の削減がこれに重なれば、さらに成長率が低下する恐れがあます。その結果は、税収が減少するとともに、失業手当などの支出が増加、財政はさらに悪化することを意味しています。こうした事態となれば、オランド仏大統領が取りうる選択肢は狭まることが示唆されており、雇用問題を中心とする構造改革など本来優先すべき課題が後手に回る可能性があります。そして、フランスが構造改革に失敗し、ドイツとの経済力に開きが出る結果ともなれば、ヨーロッパの債務危機がフランスへと向かいかねません。フランス経済が危機となれば、ユーロ崩壊は確実です。雇用の確保、財政再建、企業の競争力回復など深刻な問題を抱えたフランス経済には、早急な対応が求められているのです。

2012年11月20日火曜日

上場に向けて動き始めた日本郵政と2012年度の中間決算

 日本の郵便局の事業が上場に向けて動き始めました。かつては財政投融資のシステムそのものの中心に位置し、本四架橋、関西空港など赤字まみれの事業の資金源となってきた郵便貯金、簡易保険が、財政の支援を受けず自立することはいいことでしょう。一般会計という国民の目に常にさらされるシステムから切り離すことで、日本の放漫財政の核心部であった特別会計は、これで民間企業からの資金に頼らざるを得なくなり、競争原理から予算そのものの圧縮へ向かえばという期待があります。つまり、日本郵政は、国に迎合するのですることなく、顧客と株主など、いわゆるステークホルダーに対して全力を尽くす必要があり、上場の意義はそこにあります。もっとも、財政支援により出来上がったシステムや店舗網を使ってのサービスであり、初期条件が異なることから、民営化を一挙に進めることで、銀行、証券など既存の金融機関の圧迫へとつながなければとは考えています。一方で、きっちりと競争原理の働いているのか、金融機関が民業の圧迫と抵抗しているのに対して、佐川急便やヤマト運輸など運輸業界は、郵便事業会社のシェアを奪い、逆に苦戦を強いられているのが日本郵政側であるのが面白いです。
 そうした中で、2012年9月の日本郵政の中間決算が11月14日に発表されました。事業別では、かんぽ生命保険が引き続き契約者の減少が響き、減収となったものの、加入時に約束する予定利回りが高い契約が減ったことから増益となりました。一方、ゆうちょ銀行は、郵便貯金の残高が175兆7,967億円と前年同期比で0.5%増加しましたが、低金利下で運用難に陥っており、ここにも過度の金融緩和による弊害が出てきています。そして、問題なのが、郵便事業会社で、郵便物の減少が響き、減収となった上、赤字が続いてるようです。郵便が電子メールへと切り替わり、宅配便などが民間企業にシェアを奪われているのが実情でしょう。今日もアマゾン・ドット・コムで注文したブルーレイが、わが家に到着しました。発注日は前日ですので、驚異的なスピードといえます。因に、運輸業者は佐川急便でした。
 日本郵政の上場に関する記事が、2012年10月26日付日本経済新聞Web刊に掲載されていましたので紹介します。日本郵政グループの連結純資産は11兆円であり、3分の2を売却すると最大で7兆円もの売却収入が見込まれています。しかし、株式相場が低迷する中での売却ですので、株主には恩恵があるものの、売却する側の国の収入は減少することになります。東日本大震災の復興財源へと充てられる予定ですが、タイミングがベストであるかはやや疑問が残ります。記事の題目は『日本郵政、2015秋に上場へ、来年にも融資参入。株売却収入、最大7兆円』です。以下引用文。
 『日本郵政の株式上場計画が(10月)25日、明らかになった。持ち株会社の日本郵政は2015年秋をメドに株式売却を始める。国の持ち株比率を3分の1まで下げる道筋を示す見返りに、来年4月にも住宅ローンなどに参入する。事業範囲拡大には民間が反発しそうだ。1997年の東海旅客会社(JR東海)以来の国有企業の大型上場で、売却収入は最大7兆円を見込む。
 日本郵政は26日に下地幹郎郵政民営化担当相や総務省など関係省庁に原案を提示。29日に開く政府の郵政民営化委員会で了承を得たい考えだ。年内に上場準備室を設け、作業に着手する。(中略)
 郵政株の上場にあたり、今後焦点となるのが赤字の続く郵便事業の立て直しだ。現在は金融2社の黒字で穴埋めしており、民間投資家に郵政株を売るためには郵便事業の収益改善が不可欠となる』
 衆院が解散となり、政治に不透明感が増しています。郵政民営化に反対していた議員が、現在、どの党に所属しているのか、さっぱり分からない状態にあります。急激に支持率が低下しているものの、現在、第1党になることが予想されている自民党が議席を伸ばせば、日本郵政は上場は順調に進むでしょう。しかし、国が3分の1の株式を保有する点でやや疑問があります。この保有株式により、ゆうちょ銀行を引き続き安定した国債消化機関にとどめようとする国側の思惑が感じられます。国が保有株式を全て売却した段階で、真の意味で郵政民営化といえます。まだまだ遠いという印象を受けます。

2012年11月19日月曜日

スマートフォン、タブレットの躍進による業界の変動

 スマートフォンやタブレット端末がいくら普及しようとも、企業ユーザーを中心にパソコンの需要はなくならないと考えていました。しかし、マイクロソフトのウィンドウズ8が発売されてから、考えを改めました。それは、同OSの発売により、タブレット端末とパソコンの区分が曖昧となったからです。タブレット端末にキーボードを付ければ、パソコンとなり、パソコンからキーボードを外せば、タブレット端末になるからです。アップルも同様のことを考えており、現在、Macに使用されているインテルのCPUを自社設計したチップに切り替え、スマホとタブレットとの親和性をより高めたパソコンの発売を目論んでいることがネット上の記事ですが掲載されていました。これは、アップルがA5、A6と新たなCPUを設計するなかで、自らの設計能力に自信を高めていること、やはりインテルが提供するCPUは高価であることなどが背景にあると思います。

 そうした中で、インテルの業績悪化と株価の低落が深刻となってきました。もっとも、パソコンの需要の低迷は、景気後退を背景に企業ユーザーで伸び悩んでいること、一般の消費者でウィンドウズ8の発売を待ってから購入という買い控えが生じたことによるものでしょう。ならば一時的な問題であるともいえます。しかし、クアルコムなどのスマホ関連の半導体を製造する企業の業績は好調であること、ウィンドウズ8がタブレット端末側から攻め込み、ならばCPUもインテル以外を採用という事態も現実味を帯びてきています。インテルにとっては予断を許さない状況にあるといえます。これからは、同社も真剣にスマホやタブレット端末用のチップを製造することも想定するべきであり、変化の激しいIT業界の負け組になることも十分にあります。


 2012年11月10日付日本経済新聞朝刊にインテル、クアルコムの業績に関する記事が掲載されていましたので紹介します。この記事を読んでいて驚いたのは、売上高、最終損益ベースでは、クアルコムは、世界最大の半導体メーカーであるインテルと遜色のない決算を出していることです。10分の1といった規模ではなく、3分の1程度まで肉薄しており、インテルが手を打たなければ、逆転も十分にあるといえるでしょう。記事の題目は、『米半導体、スマホで明暗。クアルコム、インテルに迫る時価総額』です。以下引用文。

 『【シリコンバレー=奥平和行】米半導体業界で、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)など携帯情報機器への取り組みが業績の明暗を分ける傾向が鮮明になってきた。7〜9月期はパソコンの頭脳に当たるMPU(超小型演算処理装置)で約8割の世界シェアを握るインテルが減収減益に陥る一方、クアルコムなど携帯向けに強いメーカーが業績を伸ばした。(中略)
 米調査会社IDCによると、7〜9月期の世界出荷台数はスマホが前年同期比46%増の1億8110万台、タブレットが同50%増の2780万台と大幅に増えた。パソコンは景気減速による買い控えに加えてスマホやタブレットとの競争激化が響き、同9%減の8779万台。パソコン陣営への逆風が強まっている』
 しばらくの間は、パソコンはなくならないでしょう。それは、スマホ市場を開拓したアップルのiPhoneですら、最終的なデータの管理にはパソコンが必要だからです。iTunesでの楽曲管理ばかりでなく、ある程度のデータはクラウド上に保存できるとはいえ、大切なバックアップデータを作成するにはどうしてもバソコンを使わなければなりません。それでも、メールやホームページのチェックだけですと、むしろパソコンよりもスマホの方が便利です。一台の端末で、音楽が聴けて、ビデオクリップを観ることができ、写真を撮ることもできるのは、スマホだけです。予想される未来は、肝心な作業はパソコンで、それ以外の作業はスマホといった具合に、棲み分けが進むか、それとも、OSの一体化が進み、カテゴリーの区分ができないくらい融合が進むかの2つでしょう。
 しかし、インテルにとってマイナスであるスマホやタブレット端末の興隆は、日本企業にとってプラスであることには間違いないでしょう。IGZOの液晶パネルに期待を寄せるシャープのみならず、スマホの部品は、微細加工を得意とする日本企業の独断上である上、ここにきて素材分野でも日本企業の活躍が期待されています。2012年11月11日付日本経済新聞朝刊に、スマホの素材で活躍する日本企業に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『スマホ素材、日本が攻勢。クラレや住友化学』です。以下引用文。

 『国内素材大手がスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などに使われる高機能材料を強化する。クラレは鮮明な動画の表示に必要なフィルム材を量産。住友化学は高速の無線通信などに使う半導体材料の生産能力を25%増やす。世界で3兆円市場とされる電子部品向け高機能材料では国内素材大手が高いシェアを持つ。米アップルをはじめスマホ端末では中国や韓国製が世界を席巻しているが、素材分野では技術力を持つ日本勢が国内で生産、輸出する構図が鮮明になってきた。(中略)
 (韓国や中国に)対して(日本企業は)素材分野では長年培った技術力を背景に世界で高いシェアを誇っており、アップルやサムスン電子などスマホやタブレットに広く採用されている。最近では端末の高機能化や軽量化のため素材に求められる性能も高まっており、素材大手は成長市場開拓の好機とみて事業拡充を急ぐ』

 スピードを速くするには、CPU、メモリー、HDD、SSDをスピードアップすれば問題は解決するのがパソコンです。一方、スマホには、スピードはもちろんのこと、省電力化、軽量化、頑強さなどを同時に満たすことができる部材が必要とされます。これを満たす部材には緻密さが求められるのでしょう。その結果、スマホやタブレットでは、日本企業が製造する、きめ細かな部品や素材が独壇場となっています。アップルのiPhoneを購入すれば、日本企業が潤うという状況は、iPhoneユーザーの私にとって嬉しいことです。

2012年11月18日日曜日

国内で運用できない銀行と大手5行の決算

 日本国内の銀行が運用難で喘いでいます。景気後退を背景に、企業の資金需要が低迷する中で、金融機関の間で貸出競争が激化した結果、貸出金利は大きく低下、収益環境は厳しさを増しています。そして、国債へと投資が集中する一方で、IMF、世銀の総会は、日本の金融機関による過剰な国債保有に対して警鐘を鳴らしています。ならば、株式の保有となるわけですが、日経平均株価は、他国の株式市場と比べても、著しくパフォーマンスに低く、今回、保有株式の減損処理の影響もあって、国内大手5行の2012年3月期中間連結決算が3割の減益となりました。
 もっとも、欧米の金融機関のプレゼンスを低下させている国際金融市場においては、国内の3メガ銀行の海外融資の合計は37兆円にも達し、前年から18%と大幅に伸ばしています。しかし、右図が示す通り、全国銀行の預金残高は600兆円近くに達しており、海外での活動は今ところ収益源となっているものの、(海外融資/実質預金)は6%に過ぎず、やはり国内でのしっかりとした運用が求められています。これ以上の国債への投資は、利回りの反転の危険性から、現在の水準からむしろ減少させる必要があるといえます。株式も景気に不透明感が増している中で、底割れのリスクはむしろ高まっています。ならば、しっかりとした貸し出しでの運用ということになりますが、国内での資金需要は、冷え込んでおり、全国銀行の貸出金の残高は2008年の434兆円から2011年には421兆円と減少しています(2011年は前年より増加)。
 2012年11月15日付日本経済新聞朝刊に5大銀行グループの決算に関する記事が掲載されていましたので紹介します。こうして、大手銀行グループの決算内容を比較してみると、業務純益ベースでは三菱UFJ、みずほ、三井住友への集中が進み、りそな、三井住友トラストはやや出遅れ気味となっていることが分かります。通期予想の税引き後利益でも同様な格差がみられます。しかし、私の記憶では、三菱UFJ、みずほ、三井住友ともに100兆円を上回る規模の資産を有しており、その割には利益が出ていない気がします。記事の題目は『5大銀、今期14%減益、株式減損、4〜9月期7000億円超』です。以下引用文。
 『14日に出そろった大手銀行5グループの2012年4〜9月期決算は最終利益が前年同期比31%減の約1兆400億円となった。保有株式の減損処理が7000億円を超え、国債売買による多額の利益計上を帳消しにした。5グループは下期に海外貸し出しを伸ばすなど業績改善を急ぐが、通期でも14%の減益になる見通しだ。
 3メガ銀行に三井トラスト・ホールディングス、りそなホールディングスを加えた5グループの4〜9月期決算が4年ぶりの減益となったのは、保有株式の価格下落が主因だ。
 上位株主となっているシャープやパナソニック、新日鉄住金、関西電力などの株価が3月末に比べ約3〜7割下落。時価に合わせて株式取得時の簿価を切り下げ、損失を出す減損処理を軒並み迫られた。合計の処理額は7110億円と、リーマン危機直後の08年度下期(約1兆700億円)以来の大きさとなった』
 日本の株式市場は、もうダメかもしれません。リーマンショック後、ダウ工業株30種平均が1万ドル、日経平均株価が1万円という時期がありました。その後、ダウ平均は、11月にヘッジファンドの決算などがあるため、ここのところやや軟調気味であるものの、1万2500ドル前後で推移している一方で、日経平均はやっとのことで9000円台になった程度です。今後、米国、欧州で同時に景気後退が進んだ場合、日本の株式は底割れするかもしれません。ならば、国内での貸し出しを増やす必要があります。しかし、貸出金残高はピーク時よりも減少している上、収益に直撃する貸し出し金利は、ここのところ急落しています。
 金融緩和をすれば、資金需要が生まれ、景気が回復するという認識があります。しかし、個々の経済主体の将来への期待心理が良くなくならない限りは、資金需要は拡大しませんし、設備投資へと結びつくこともありません。日本銀行は引き続き金融緩和を進めていく姿勢をとっていますが、金融政策は引き締め時に効果があるのであって、緩和時には余り効果はないと言われています。バブル発生がもたらした金融危機の影響が20年以上もたった今も残っているのです。そして、こうした中で、本来、効果を発揮するのが財政支出です。しかし、政府の債務残高が危機的な水準へと増加する中では、財政支出の拡大は将来の増税を予想して、家計などは貯蓄へと資金を向かわせることとなります。それが、所得の減少を続く中での預金増加であり、結果として需要の減退へと結びつき、需要減→所得減→需要減→所得減といった負の連鎖から抜け出せないのが日本経済であるのです。日本銀行に頼った政策には限界がきており、過度の金融緩和が、金融機関の収益悪化となる貸し出し金利の低下の一因となっているかもしれません。

2012年11月17日土曜日

解散総選挙の決定とその後の株価の変動

 今年は、バタバタの師走となりそうです。11月16日に「赤字国債法案」「選挙制度改革法案」などの法案が両院で可決・成立することなり、衆議院が解散、総選挙となりました。年内解散はある程度は予想されましたが、12月の総選挙は1983年以来の29年ぶりとのことです。
 民主党、自民党が主導する選挙となることが予想されますが、日本維新の会などを中心とした第3の勢力が台風の目となり、どのような結果となるのか現実点では予想は困難だといえます。小選挙区制度性格から少数派の政党は議席を獲得しにくく、自民党、民主党がある程度獲得議席を伸ばす予感はあります。民主党は大幅に議席を減らすことが確実であるものの、自民党・公明党だけで単独過半数の獲得は難しいと考えています。右表は、2012年11月16日付朝日新聞朝刊に掲載されていた民主党(野田佳彦政権)と自民党(安倍晋三総裁)の経済政策の違いです。

 こうして比較していると、自民党は旧来からの政治への回帰を主張している気がします。特に公共事業の推進、農業分野などに遠慮したTPPへの交渉姿勢、そして原発依存への復活などです。経済に主眼をおいて政治的に中立な立場で自民党の主張を評価します。私の考えは、赤字削減を進める必要から公共事業への回帰は論外ですし、経済・産業界から要望のあるTPPへの参加は無条件に進めるべきです。原発については、確かに30年後の原発依存率「ゼロ」はやや難しいことから、着実に依存度を減らす方向で進めるのならば、やや同感はできます。一方で、日本銀行への介入ともいえる無制限の金融緩和は、あきれた感があります。総じて、劇的な変動がないのが、自民党の主張であり、今の日本経済の復活には、よりドラスチックな政策を推し進めることが求められることから、やや残念な感があります。右表は、解散総選挙がほぼ決まった11月14日以降(つまり13日の終値からの比較)の業種別日経平均(500種)を示しています。証券がトップとなっているのは、政局の混乱状態が回避され、経済全般が立ち直る可能性から、株式市場が回復するとの思惑から買われたのでしょう。一方、電力の上昇は、非常に露骨な動きであるといえます。つまり、自民・公明党の政権が勝てば、原発の再稼働がスムーズに進み、電力会社の業績回復が見込まれるからでしょう。しかし、自動車、輸送用機器、窯業、電気機器など総じて製造業などが上位に占めているのが幸いです。公共事業の関連では、建設が3.12%上昇しています。

 民主から自民への政権交代を期待した株価の上昇が、一部にみられます。むしろ、政治的なゴタゴタが日本経済にとって最大のマイナス要因であり、それが解決したからこそ、ここ数日の株価の急回復であったと考えてもいいでしょう。衆院解散後の株価の動きに関する記事が、2012年11月17日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『金融や電力株、一段高。個人、海外勢に追随買い』です。記事によると、円安と円高の影響、原発再稼働、金融緩和が上げ下げの材料となっているようです。以下引用文。
 『株式市場で金融株や電力株が一段と上昇している。衆院解散を受け、自民党を中心とする新政権への期待から、強力な金融緩和や原発再稼働を見込んだ買いが続いているためだ。海外投資家の資金が流入しているほか、個人投資家の追随買いも目立つ。ただ、これまで堅調だった食品株や小売株が下落するなど、業種によっては逆風の例もある。選挙期間中はこうした流れが続く可能性がある。(中略)
 金融株の上昇も続いている。前日に5%高となった大和証券グループ本社の株価はこの日も7%高と急伸。業種別日経平均の「証券」は直近2日間で10%高と上昇率で首位だ。安倍氏が無期限の金融緩和を表明、緩和政策の恩恵を受けやすい銘柄として買われている。
 証券株にも海外勢の買いに続いて個人の買いが入っているという。「相場全体が上昇する局面では、証券株は銀行株などと比べて上昇率が大きくなりやすいので個人の物色意欲が高まりやすい」(外国証券)ためだ。
 一方で、衆院解散表明後に下落が目立っているのが食品株や小売株。味の素はこの日、3%安となり、セブン&アイ・ホールディングスも続落した。これまでは外部要因に左右されにくい銘柄として買われていたが、足元では売りが膨らんでいる。円安や株式相場の戻りを受け、輸出株へと資金が回帰している』
 私が、次の政権に求めること一つだけです。それは短命でないということだけです。官僚の大規模な移動がない限りは日本自体が根本的に変わることはありません。しかし、毎年行われているサミットなど国際会議に出席する首相の顔が毎年変わるという事態は、もう許されないことです。誰がなるにしても、十分な議論をした上で、首相を選出する必要があります。内部分裂、離合集散を繰り返すのではなく、一致団結とした同意の元で支持される首相が必要なのです。それができないのならば、今回の総選挙も結果として無駄となり、日本経済の復活も永遠にないことになるしょう。失われた30年に突入しようとしている中、許されている時間は少ないです。今回がラストチャンスともいえる選挙です。

2012年11月16日金曜日

今後の自動車産業に対する見解

 かつて、本田技研工業(現ホンダ)を創立した故本田宗一郎氏は、通産省の強い反対を押し切って自動車製造への参入を決断しました。いまや、ホンダの自動車生産台数は、世界でも有数の規模を誇り、日本の自動車産業に厚みをもたらすという結果となりました。同氏には、人間は常に移動する必要があり、代表する輸送手段である「自動車」という産業は繁栄し続けるという考えが背景にあったと言われています。しかし、産業としての規模、そして裾野の広さ故、日本経済にとって不可欠な自動車産業ですが、私は自動車の永続性に対して否定的な見解を持っています。それは、移動することによる時間的なロスが余りに大きいことに起因しています。
 それでは、今日の朝から午後3時までの私の行動を順に追っていきます。今朝は起床した後、読売新聞、朝日新聞、そして日本経済新聞を置いている喫茶店に行き、モーニングを食べました。この喫茶店は歩いて3分の距離にありますので、時間のロスは全くありません。その後、予約していた歯医者に行くため、20分ほど費やし、自動車で10kmも移動しました。受診後は、昼食の時間です。家の近くにある毎日新聞を置いている定食屋まで戻り、いつものメニー、チキンカツ定食500円を食べました。その場で、毎日新聞の記事をチェック、面白そうな記事が掲載されていましたので、定期購読している日本経済新聞朝刊以外の新聞を買いにコンビニへと買いに行くことにしました。朝日、読売、毎日新聞の全てが揃っているコンビニは近くになく、ここでも10km先にあるコンビニを目指して自動車を使って移動しました。そこで、毎日購入しているヘルシアウォーター(花王)、黒烏龍茶(サントリー)、シルキーブラック(サントリー)も手に入れようとしたのですが、シルキーブラックがなかったため、別のコンビニへ行くことにしました。全ての用事が終わり、家に戻れたのは午後3時過ぎとなり、多大な時間をロスするとともに、自動車で30kmも移動、ガソリンを2リットルも使うという結果となりました。これは、私が自動車を所有しているからこそできたものの、そもそも自動車がなければ、全ての用事が最寄りの駅付近で完結できるよう一日のプランを立てたはずです。
 無駄なエネルギーと時間を浪費させてしまうのが自動車社会の弊害です。また、警察関係者の努力、メーカーの安全対策などがあり、最近ではかなり減ってきましたが、かつては年間1万人前後の貴重な人材を交通事故で失っていることなどからも目を離してはいけないでしょう。これは、真の社会的な損失であるといえます。加えて、交通網を整備するために、多額の予算を公共事業などに投入、全国を結ぶ高速道路網ばかりでなく、近所にある普通の道路まで幅広く整備を進めています。この維持管理し、毎年補修する費用が財政を圧迫させる可能性が示唆されており、自動車という便利なツールがあったからこそ、発生した負担でもあります。

 私の今日の一日の前半を振り返ると、新聞を購入するための時間のロスが余りに大きく、これらをネット配信に切り替えた場合、節約できる時間とエネルギーはかなりのものになるでしょう。つまり、自動車は確かに便利であり、かつ生活に不可欠な道具ですが、それ以上の不必要な出費を伴うこと、時間のロスも大きいことなどのマイナス面もあります。今後は極力、ネットを使った生活パターンへと切り替えることが大切であると感じました。わが国の若者の自動車離れも進んでいます。かつては、ステータスを象徴するものとして、若者がこぞって自動車を購入しました。しかし、今の若者の関心は、自動車ではなくなっているのは確かでしょう。


 自動車メーカーの上半期の連結決算が発表されました。先日もマツダのメキシコの拠点で生産された小型車をトヨタのブランドで米国へと輸出することが発表されました。萎縮する国内市場を尻目に、海外市場での自動車メーカーの活躍のニュースが入ってきました。欧州市場の冷え込みや中国での反日デモの影響もありますが、中間期連結決算の趨勢としては売上高、営業利益、販売台数ともに大きく伸ばしています。日本では移動する手段としての自動車の存在感は小さくなっていますが、新興国を中心に自動車へのニーズはまだまだ拡大の様相を呈しています。自動車メーカーの決算に関する記事が、2012年11月10日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『日本車7社、中国販売2割減へ。純利益1300億円下押し、今期、北米・東南ア頼み』です。以下引用文。

 『自動車各社の2013年3月期連結業績予想が9日、出そろった。尖閣問題に端を発する中国での日系ブランド車の買い控えを受け、主要7社は年間の現地販売計画を合計71万台(約2割)下方修正した。最終的なもうけを示す純利益を1300億円程度押し下げる要因となりそうだ。比較的堅調な北米や東南アジアでどこまで挽回できるかが焦点となる。(中略)
 中国では9月半ばの反日デモを機に販売が急減速している。経営者から「いつ正常化するかは政治的な解決を待たないといけないので見えない」(日産自動車の志賀俊之最高執行責任者=CEO)など、長期化を懸念する声が上がる。7社すべてが今期の中国販売計画を下方修正した。
 修正幅が大きいのはトヨタ自動車の20万台。日産が17万5000台で続いた。収益への影響額は、日産が本業のもうけを示す営業利益段階で600億円、トヨタとホンダは純利益段階で300億円程度の見通し。純利益への影響額を公表していない企業については営業利益への影響額に実効税率などを考慮して試算すると、7社全体への影響額は1300億円規模になる』
 日本での自動車市場は萎縮しています。しかし、故本田宗一郎氏が示唆したように、移動する手段である自動車は、世界各地で需要が増加しています。自動車メーカーの主戦場は、日本ではなく、既に海外市場となっており、依然として高い競争力を維持していることが、収益の回復から読み取ることができます。

2012年11月15日木曜日

米国、「財政の崖」に向けて政策協調なるか

 米大統領選でオバマ大統領の再選が決まり、年末から年始にかけて急激に進む財政引き締めの回避が期待されています。ベイナー下院議長も「悪質な喧嘩は避けるべきである」と主張、共和党議員もこれまでのところ耳を傾ける姿勢をとっています。しかし、与党民主党と野党共和党の基本的な意見の違いは変わっておらず、このままいけば数々の減税案が失効するとともに、年明けには強制的な歳出のカットが行われます。この結果、米国経済は急速に悪化、大幅なマイナス成長に陥る懸念が出ています。
 米連邦議会の選挙結果は、上院、下院ともで民主党が獲得議席をやや伸ばしています。上院で引き続き、与党民主党が過半数を確保したものの、下院では野党共和党が過半数を抑えることで、ねじれ現象が続くことになりました。オバマ大統領は、選挙期間中、富裕層向けの減税廃止を強く訴えていました。これに対して、共和党の有力議員はこれに反対、あくまで税控除廃止などで歳入増を図っていくとしています。一方の民主党は、議席を伸ばした関係もあるのか、富裕層への増税案で勢いがついているようです。つまり、民主党、共和党の意見の対立をむしろ深めており、両党間での政策の調整は未だ結論が出ていません。
 こうした中で、11月16日には、ホワイトハウスに議会指導者が集まり、本格的な交渉が始まります。しかし、協議を急ぐ必要があり、結果次第では、減税措置が随時失効し、平均的な世帯は3,700ドルもの負担増を強いられることになります。先の選挙では、オバマ大統領支持とロムニー候補支持で真っ二つに割れた米国です。国民の間で広がった亀裂を速やかに修復し、融和を進めることが求められます。1期目の後半で「決められない政治」に陥った米国の政治は、大きな課題に向けて「決められる政治」へと変貌できるかが注目点です。「財政の崖(フィスカルクリフ)」に関する記事が、『日経ビジネス』2012年11月12号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『"宴"の後の米国に迫る現実』です。以下引用文。
 『これは2012年末から訪れる急激な財政緊縮を指す。12月31日をもって給与税減税やブッシュ減税と称される所得税減税など各種の減税措置が期限を迎える。一方、2011年に策定した予算管理法によって、2013年1月から国防費をはじめとする歳出削減措置が自動的に始まるなど、国民にとって負担増となる歳入増と歳出カットが同時期に発生する。
 これらは、課題である連邦債務の削減にはプラスに作用する。しかし、米国の景気回復が力強いとは言い難い中で一連の措置が発動されると、景気の足を引っ張りかねない。議会予算局は、このままだと2013年上半期の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス2.9%、通年でもマイナス0.5%になると試算。年末が景気急落の境目になりかねないことから、「財政の崖」と呼ばれるようになった』
 ユーロ圏財務相会議では、ギリシャ議会が厳しい緊縮策を可決したにもかかわらず、ギリシャ支援の先送りを決定するなど、ヨーロッパでは不穏な空気が漂っています。このままでは、ヨーロッパの経済はおかしくなることは必至です。これに加えて、米国が「財政の崖」を転がり落ちれば、世界経済はさらに先行き不透明感を増すことになります。右図は、米国連邦予算の歳出入と収支の推移を示したものです。図をみる限り、いくら経済再建のためだとはいえ、ここ3年の米国の財政赤字はひど過ぎる感があります。かつてレーガン政権時に、米国の財政赤字が世界各国から批判されていました。それから比べても、現在の財政赤字は常軌を逸しています。格差の是正から、失業者や若者など社会的な弱者に対する救済は継続する必要がありますが、企業、特に米金融業界への救済措置は制限する段階にきています。その中で、富裕層への減税措置の廃止及び増税は、米議会予算局の試算でも影響は限定的であるとしており(2012年11月10日付毎日新聞朝刊『富裕層増税、影響限定的。議会局試算、減税延長と比較』)、適切な政策であると考えられます。

2012年11月14日水曜日

ネット通販対応に遅れた「日本直販」と通販王者のアマゾンの業績不振

 私のライフスタイルは、通信販売の不可欠な存在となっています。その中心にあるのは、もちろんアマゾン・ドット・コムです。商品のラインナップはさることながら、注文してから商品が到着するまでの時間が短く、非常に重宝しています。私は、主にDVDやCD、書籍、デジタル製品の付属品を購入しています。ところが、スーパー等が充実していない地域に住んでいる人々が、アマゾンで食料品を購入していること姿を、テレビ中継でで観たことがあります。この番組は、アマゾンの特集をしたものではなく、自然に溢れる田舎生活を堪能している人々のライフスタイルにクローズアップしたものでした。今では、普通に生活をする上でなくてはならない存在にまでなっているのがアマゾンです。同社は高齢化が進み、都市部と過疎地域の生活環境の格差が問題となっている日本にとって重要な役割を果たす有力企業の一つになるかもしれません。

 このアマゾンが、タブレット端末であるキンドルを日本で販売することを正式に発表、日本の電子書籍市場へと参入することとなりました。アップルが市場シェアをほぼ同独占しているタブレット端末市場は、キンドルの発売によりグーグルのネクサス7とともに激変の予感が出てきました。電子書籍、食料品など広いカテゴリーの商品を扱うアマゾンは、売上高は右肩上がりで増加しています。しかし、収益面では、ITや物流など先行投資の負担が重く、伸び悩んでおり、2012年7〜9月期には赤字決算となりました。アマゾンの決算に関する記事が、2012年10月26日付日経新聞Web刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は、『米アマゾン、先行投資重く9年ぶり最終赤字』です。以下引用文。

 『【シリコンバレー=奥平和行】インターネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コムが25日に発表した7〜9月期決算は、売上高が前年同期比27%増の138億600万ドル(約1兆1070億円)、最終損益が2億7400万ドルの赤字(前年同期は6300万ドルの黒字)だった。経費拡大や投資先企業の減損処理などが響いて、約9年ぶりに最終赤字となった。
 アマゾンは物流やIT(情報技術)への先行投資が重く、比較的利益率の低い状況が続いているが、2003年7〜9月期以降は最終黒字を維持していた。今年7〜9月期の1株損益は0.60ドルの赤字(前年同期は0.14ドルの黒字)。売上高、1株損益ともに市場予想を下回り、25日の米株式市場の時間外取引で株価は一時、同日終値より8%強下落した。
 アマゾンは10年にクーポン共同購入サイトを運営する米リビングソーシャルに1億7500万ドルを出資したが、同社が過去の買収にまつわるのれん代などの減損を実施。これに伴い、アマゾンは1億6900万ドルの損失を計上した。物流拠点の整備などにまつわる経費も収益を圧迫した』

 アマゾンの赤字決算は前向きなものであり、売上高の増加を踏まえれば、特段の問題はないと考えています。一方で、同じ業態に属するものの、「日本直販」ブランドで知られる総通が破綻するという事態に陥りました。インターネットを軸とした通信販売の成長は著しいものの、総通は依然としてテレビCMによる商品紹介に依存していたため、業績が悪化したのです。通信販売というトレンドの中でも、舵取りを誤れば時代に乗り遅れ、経営破綻に追い込まれるのです。「日本直販」に関する記事が、2012年11月10日付毎日新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『「日本直販」破綻。ネット通販、対応遅れ。テレビ広告費重荷に』です。以下引用文。

 『「日本直販」ブランドのテレビショッピングで知られた総通が経営破綻したのは、成長を続けるインターネットを通じた市場への取り組みが遅れたことが大きい。通販業界自体は市場が拡大しているなか、広告費などのコストもかさむテレビだけでは限界があることを示した。
 総通は近年、低迷を続けており、90年代に500億円を超えた売上高が11年9月期に255億円に半減。業界紙「通販新聞」によると総通の売上高は業界40位、テレビ通販に限っても11位にとどまっていた。
 総通の不調と対照的に躍進したのが00年11月にウェブサイトを開設した米系ネット通販のアマゾンジャパンで、通販新聞によると今や業界最大手。11年度の売上高は5000億円台前後と推定される。書籍、音楽、家電など幅広く、商品点数は約5000万点。自社で物流センターを持って在庫を抱えることで宅配業者への大口委託が可能となり、物流コストを削減した』
 日本直販の失敗には、テレビ放送という媒体の衰退が背景にもあります。今、私のライフスタイルにおいても、テレビを観ている時間は着実に減っています。逆に、インターネットで、ネットサーフィンをしている時間が圧倒的に多くなっているのが実情です。テレビを観るとしたらBSの有料放送、インターネットを介したコンテンツのストリーミングサービス(Hulu)などです。それくらいに、インターネットにどっぷり漬かった生活をしているのです。放送だけではありません。金融サービスなど普段の生活にかかわることもインターネットなくして考えられなくなっています。アマゾンの成功と日本直販の失敗は、今後求められる企業のビジネスモデルは、ネットを主軸としたものでないとダメであることを痛感されてくれる事実です。

2012年11月13日火曜日

2012年7〜9月期の実質GDP、年率で3.5%の減少

 NHKが世論調査の結果を報道しました。調査の概要は、対象時期を11月9日〜11日とし、コンピューターによる無作為に番号を抽出するRDD(Random Digit Dialing)という方法で電話で行い実施したものです。これによると、野田内閣を支持するとした人は23%にとどまり、支持しないとした人の59%を大きく下回る結果となりました。また、いつ国会を解散すべきかという質問に対しては、「年内に」が45%、「来年の早い時期に」が24%と、「任期満了のころまで必要なし」の24%を大きく上回っており、国民の意志は、早期の解散総選挙であることが分かりました。
 国会の答弁で、野田首相は「定数削減の実現は、衆院解散時期を判断する条件とはないない」という考えを示しました。しかし、現在の定数では、違憲状態であると判断されています。従って、赤字国債法案とともに、定数是正案を速やかに国会の通過させる必要があります。それは、11月には財源が枯渇すること、首相の外交日程が詰まっていることからもいえ、政府関係者、議会関係者は合意に向けた努力を一層進める時期が近づいています。経済成長に不透明感を増している上、外交問題がネックになっている現在の日本にとって、残された時間は少なくなっているのです。
 こうした中で、10月12日に内閣府が2012年7〜9月期のGDPを発表しました。結果は実質GDPの成長率が年率換算で3.5%減の大幅な減少となりました。復興需要に関連して公的需要がややプラスであったものの、民間最終消費支出及び民間設備投資が大きくマイナスとなるとともに、純輸出が足を引っ張った形となりました。純輸出のマイナスは、欧州、米国、アジアといった主要国向けの輸出全般が振るわない一方、いまだに高水準である燃料などにより輸入の減少が小幅にとどまったからであり、一時的な要因ではないと考えています。GDPの速報値に関する記事が、2012年11月12日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。ねじれ国会の中で機能不全の状態に陥っていますが、政府は早急な経済対策を優先するべきであり、党派を超えた協力体制が求められています。記事の題目は『GDP実質年率3.5%減。7〜9月期、3期ぶりマイナス』です。以下引用文。
 『内閣府が12日発表した2012年7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.9%減、年率換算で3.5%減となった。マイナス成長は3四半期ぶり。海外経済の減速で輸出が細り、エコカー補助金の終了で内需も弱まった。景気がすでに後退局面に入ったとの見方を一段と強める結果となった。
 マイナス成長の主因となったのは外需の落ち込みで、成長率を0.7ポイント押し下げた。これまで景気を支えてきた内需も0.2ポイントの低下要因となり、東日本大震災が起きた11年1〜3月期以来で初めて内外需ともにマイナスとなった。(中略)
 景気の先行き不透明感が強まり、企業の設備投資は3.2%減と2四半期ぶりのマイナス。マイナス幅は08年のリーマン・ショックの影響がまだ残っていた09年4〜6月期以来の大きさとなった。
 輸出は5.0%減と3四半期ぶりのマイナス。米国や欧州、アジアと主要地域向けがすべて減少した。輸入も0.3%減と5四半期ぶりに減少した。原油や天然ガスが減り、内閣府は「国内生産が弱含みで推移して燃料輸入が減った」と分析している』
 同記事のGDPの説明を読んでいますと、よくないことばかりです。そして、GDPの発表でいつも私が注目しているのは、名目GDPの推移です。今回、名目GDPも前期比0.9%減、年率換算で3.6%減と大幅な減少となっています。日本銀行がデフレ脱却を目指し、年率1%の物価上昇を目標としています。しかし、デフレーターの推移をみる限りでは、デフレ脱却の兆しは一向に現れていません。右図は、季節調整済みのGDPデフレーター(2005年=100)を示したものです。リーマン・ショック直前に一時的にプラスへと転じたものの、それ以降は下落が進んでいます。期近の水準は91.4であり、2005年から10%近くも物価が下落していることになります。円高が定着する中で、年率1%の物価上昇は、厳しい目標であり、デフレ脱却が如何に難しい問題かがよく理解できます。そして、民間需要、輸出の回復が期待できない中、現政権は赤字国債法案を成立させ、公的部門がマイナスに転じるという事態は是が非とも回避したいところです。与野党がいがみ合う時期ではありません。一致協力し、総合的な経済対策を打ち出す必要があるのです。