2012年2月13日月曜日

レアアースとは何

金属には色々な種類があります。最も身近な存在は「鉄」でしょう。ですが、歴史上でもっとも早くから普及した金属は、銅を主成分とし、錫を混ぜた合金である「青銅」でした。青銅の後に鉄が現れ、文明の発展には不可欠な金属となりました。私の記憶では確か、鉄器を持ったヒッタイトがエジプトを征服したということを、歴史の教科書で学んだ気がします。鉄が文明の中心となり、今でも鉄なくして現代の工業社会は考えらないでしょう。こうした中で、最近気になる新たな金属、レアアースという言葉が新聞、雑誌のみならずニュース番組でも特集が組まれています。ここで、レアアースとは何かという疑問が生じましたので、ちょっと調べてみました。
 まず、金属は大まかにコモンメタル(ベースメタル)とレアメタルに分かれるそうです。コモンメタルには、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、水銀、鉛、アルミニウムの9種類があり、資源量が豊富であり、採掘・精錬が容易で産業のベースをなす金属です。一方、レアメタルには47種類(文献によれば48種類)の金属が該当し、以下の3つの特徴のうち一つでも合致すればレアメタルに該当するとのことです。

  1. 地殻中での存在量が少ない。
  2. 産出箇所が特定の地域に集中している。
  3. 分離・精錬が困難である。

 代表的なレアメタルには、マンガン、クロム、タングステン、モリブデン、アンチモン、コバルト、バナジウムなどの金属があります。以下は、上記レアメタルの生産量、埋蔵量のシェアと用途を表した表です。
中国と南アフリカ共和国が多いのと、政情不安定なコンゴ民主共和国が生産量、埋蔵量で大きなシェアを占めているのが特徴で、少なくとも上記の2.の条件を満たしているといえるでしょう。これ以外のレアメタルで、3族元素(注1)のうち最下部のアクチノイド元素を除いたもの、17種類の金属をレアアース又は希土類金属と呼びます。レアアースの一覧と用途は以下の表の通りです。
この表にある金属の中で、ネオジム、ジスプロシウムなどが磁石、磁性材料の材料に使用され、ハイブッリドカーや電気自動車のモーターやハードディスクドライブ(注2)などの重要な部品に使用されています。特に、最近では磁力が強いということでネオジム磁石(注3)がよく知られるようになってきました。レアアースは、世界各地に存在するものの、中国のレアアースが最も生産に適している状態で存在することから、価格競争力を背景に、、米国、オーストラリアなどの鉱山が相次ぎ閉山に追い込まれ、中国がほぼ独占する事態となっています。つまり、レアメタルの条件である2.と3.に該当する金属こそレアアースなのです。
右図はレアアース生産量の国別シェアを表したものです。中国のシェアが96.7%にも達しています。この状況で、環境破壊を理由(注4)に、中国はレアアースの輸出を制限、日本の製造業が慌てているのです。
2012年1月24日付日本経済新聞朝刊にレアアースに関する記事がありましたので引用します。タイトルは『信越化学、ベトナムに拠点、レアアース加工、初の海外工場』です。以下引用文。
『信越化学工業はハイブリッド車(HV)のモーターなどに使うレアアース(希土類)の加工拠点をベトナムに新設する。2013年2月に稼働し、使用済み磁石や鉱石からレアアースを分離・精錬する。レアアース磁石で世界シェア2位の同社は原料となるレアアースの大半を中国に依存しているが、自前の加工拠点を増やして調達リスクの軽減や磁石の安定供給を目指す』
以上の通り、レアアース磁石の生産をする企業が中国の輸出制限に対応する努力を進めているようです。一方で、レアアースを使用しないモーターの開発も進んでいます。2012年1月11日付日本経済新聞朝刊に『レアアース不要の車モーター、日本電産が量産へ』という記事が掲載されていました。以下引用文。
『日本電産は10日、レアアース(希土類)を使わない次世代モーター「SRモーター」を、電気自動車(EV)やハイブリッド車の駆動用として量産する方針を明らかにした。2013年にも国内外の自動車メーカーに供給する。レアアースの価格高騰に対応し、代替技術の投入で自動車市場の開拓を加速する。(中略)
SRモーターはレアアースを使った永久磁石を使わず、軸の周囲の電気の流れを切り替えて回転させる仕組み。構造が単純で発熱が少ないうえ、低コストで量産できるのが特徴。ただ電流の制御が難しく、振動や騒音が大きい欠点があり、自動車向けの実用化が難しかった』
トヨタ自動車でも、レアアースを使用しないハイブッリドカーもしくは電気自動車の開発をしているようです。自動車の国内生産が低迷する中で、今こそ日本の自動車メーカーの技術力が試されるところです。この技術が開発されれば、バイブリッド車のみならず、電気自動車の分野でも主導権を握ることができるでしょう。
(参考文献)齋藤勝裕『レアメタルのふしぎ』、SoftBank Creative、2009年。
(注1)元素の周期表の左から3列目にある元素。
(注2)ハードディスクの記録メディアを回転するためのスピンドルモーター、磁気ヘッド駆動用VCM(ボイスコイルモーター)などに希土類磁石が使用されている。
(注3)ネオジム磁石とは、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類(レアアース)磁石で、ジスプロシウムを添加すると保磁力が向上する。
(注4)レアアースの副産物として放射性物質であるトリウムが産出されるためなど。

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