2012年2月28日火曜日

わが国の危うい電力事情

2月20日に高浜原発3号機が、定期検査のため、発電を停止しました。これで、国内にある原発の54基のうち稼働しているのは、北海道電力の泊原発3号機(設備容量91.2万kW)と東京電力の柏崎刈羽原発6号機(同135.6万kW)の2基のみになりました。泊原発は2012年4月、柏崎刈羽原発は同年3月に定期検査に入ることから、日本の原発全ての稼働停止状態になるのは、時間の問題となっています。これを補完する形で、火力発電所の稼働率をアップ、特に天然ガスによる火力発電へと比重を高めています。
 図は、1990年からのわが国の液化天然ガスの輸入量の推移を示しています。クリーンなエネルギーという理由で、国内での使用量が増加、特に、2011年に限れば、前年比12.1%増、7,853万トンに達しています。1990年の3,457万トンの2倍以上にまで増加しており、図からも、わが国のエネルギー供給における天然ガスの比重が高まっていることがわかります。特に、2011年の貿易収支が31年ぶりの赤字になった一因には、天然ガスの輸入量の増加が一因にあるといわれています。因みに、2010年のデータですが、液化天然ガスの輸入額は3兆3,718億円で、輸入総額60兆7,650億円の5.5%にも及んでいます(財務省)。
 確かに、天然ガスへの依存は、従来型の天然ガスに加えて、近年の技術革新によりシェールガスが発掘が可能となり、両者を合わせた埋蔵量が膨大なこと、地理的に輸入先が分散していることなど、長期的な視点に立ったエネルギーの安定供給にはプラスであると考えれます。しかし、短期的には、中東という地理的リスクがあります。仮に、イランがホルムズ海峡封鎖を封鎖すれば、日本の液化天然ガスの輸入量のうちカタール(全輸入量に占める割合15%(注1))、UAE(同7%)から輸入がストップすることとなります。特に、怖いのが、液化天然ガスの備蓄量です。2012年2月22日日本経済新聞朝刊の記事(注2)によれば、原油の備蓄は官民で200日分確保されている一方で、液化天然ガスには備蓄義務がなく、電力各社の在庫は2〜3週間分しかないそうです。これは22%もの輸入を失えば、数週間中に天然ガスの在庫がなくなることを意味します。
 天然ガスは都市ガスにも使用されている部分もあります。そこで、電源別の電力供給の構成を調べてみました。わが国における天然ガスの電力供給に占める割合は26%であり、他国と比べて2010年時点でほぼ同水準であるといえます。逆に、2011年には、緊急避難的に天然ガスへの依存度を高めたことから、他国をかなり上回っていることが予想されます。特に、数字以上に日本の天然ガスの状況は厳しいといえます。米国は自国生産だけで国内需要を満たせるだけの天然ガスを生産しており、近年中には輸出国になるいわれています。欧州は、ロシアからのパイプラインを通じて供給されており、政治的なリスクはあるものの、ロシアからの供給で国内需要を賄うことができます。加えて、原子力発電は安定的に稼働していること、再生可能エネルギーの開発が順調であることなどもあり、中東からの供給が停止しても影響は軽微でしょう。これに対して、日本の場合、天然ガスの全量が輸入であり、緊急の輸入もあって割高な水準で輸入しているなどの問題を抱えています。今後、液化天然ガスを備蓄する施設を増設したとしてもかなりの時間を要すること、電力会社に資金的な余裕がないことなどから察し、天然ガスへの依存には限界があります。2008年時点で、わが国は、液化天然ガスの世界の輸入量の41%を占める天然ガス輸入大国です。過度の依存は、足下をみられることを意味しており、高い代金を要求される可能性は高いといえます。
 安定した電力供給は、経済活動には不可欠な要素です。中国では電力の供給が慢性的に不足していることを聞いたことがあります。日本企業が、円高という逆風の中でも、国内での生産にこだわった理由の一つに、品質が高く、安定した電力供給を受けられることがあったといえます。この点においてもイニシアチブが失われれば、国内の空洞は避けられません。官民一体となった電力供給のあり方を早急にまとめ上げる必要があるでしょう。
(注1)データは通関統計。
(注2)記事タイトルは、『「エネルギーを問う」、LNGの死角、発電、ガス頼みの危うさ』。

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