2012年9月17日月曜日

存在感を増すロシア、LNG供給の分散化とその危険性

 どの程度の原発依存とするかという合意形成がなかなか進んでません。原発ゼロという意見が大勢を占めるとてって過言ではありませんが、産業界からは電力料金の上昇を懸念し、反対意見を述べる方々もいるようです。ニュース報道でみたのですが、電炉メーカーは、大量の電力を使用することから、鉄の生産は夜間に行い、補修作業を日中、一部の照明を切り、薄暗い中でやっています。中小企業でも電気料金の引き上げに悲鳴を上げています。既に「原発ゼロ」ではなくなっていることから、電気料金の引き下げと代わりに、原発再稼働への積極的な議論があってもいいと思います。2012年9月9日付読売新聞朝刊には、「地球を読む」というコラムで、葛西敬之JR東海会長が『国益に背く「原発ゼロ」』というタイトルで、かなり強い論調で「原発ゼロ」の非現実性を訴えています。以下引用文。
 『「民意に従う」と政治家は言う。一方、民意を啓発し、先導すべき時に政治家が大衆迎合し、専門家が沈黙したために滅びた愚行の先例に人類の歴史は満ちている。大衆は自分が求めるものの代償が何かを必ずしも自覚せず、現実を見て初めて「そうだったのか」と気付く。商品の生産計画をアンケート結果に依存する経営者は、会社を倒産させる。今般のエネルギー・ミックス議論のやり方は、こうした経営者と酷似する。賛否を問われる国民の多くは、原子力エネルギーを捨てた場合、どんな代償を払わねばならないかを知らさせていないか、あるいは、十分に自覚していない。今までと同じ生活水準を維持しつつ、原子力だけを捨てることが出来ると思い込んでいるとすれば誤りだ。
 先導すべき民意に追従して「原発ゼロ」を口にする政治家、沈黙する経済人やテクノクラートたち。今目覚めなければ、日本は亡国の世界史に新たな1ページを加えるだろう』
 私の「原発」に関する意見は、まず急にゼロにすることは現実的ではないことです。そして、公正な立場から実施された原発のストレステストをしっかりした上で、稼働できる原発は速やかに再稼働させるとともに、廃炉も着実に進めるということです。そして、新たな原発は建設しないこと、その間の20〜30年の間に再生可能エネルギーへと転換していくことだと考えています。財政危機が叫ばれている中で、既存のエネルギー資源は最大限有効することが大切です。30年もしくは40年の寿命のマックスとした場合、稼働させていない間にも、原子炉は着実に劣化していくのです。残された時間は少ないです。早急な対応が求められるところです。
 原子力発電所の稼働率が劇的に下がっている中で、注目されているのが天然ガスです。温暖化ガスが、石油・石炭と比べて少ない上、地政学的なリスクも少ないのが天然ガスです。右図は、天然ガスの国別埋蔵量を示しています。日本の天然ガスの輸入先は、マレーシア、オーストラリア、カタール、インドネシア、ブルネイが上位5位を占めています。カタールは豊富な埋蔵量があり、紛争などのリスクがない限りでは、長期の安定供給先としての有望であると思われます。一方で、マレーシア、オーストラリア、インドネシアの埋蔵量は限られていることから、今後の輸入量拡大には期待が持てないのが実情でしょう。特に、インドネシアでは、国内消費量の増加が見込まれており、輸出どころではなくなる可能性があります。
 こうした中で、近隣かつ、紛争地域でないエリアからの天然ガスの安定供給が求められています。今般、APEC首脳会議の際、日露の首脳会議が行われ、天然ガスの供給に関する覚書が取り交わされたようです。2012年9月9日付毎日新聞朝刊に、この首脳会議に関する記事が掲載されていましたので紹介します。以下引用文。
 『ロシア・ウラジオストクで8日行われた日露首脳会議で、当地の液化天然ガス(LNG)基地の建設計画を促進する覚書が交わされた。6日には、マツダとロシアの自動車大手ソラーズの合弁工場開所式にプーチン大統領が飛び入り参加し、日本からの投資を支援する姿勢を演出。LNGの生産・輸出と日本企業の進出を軸に、極東開発が活発になるとの期待が高まっている。
 首脳会談では、高原一郎・経済産業省資源エネルギー庁長官とロシア国営ガス会社のミレル社長が覚書にサインし、野田佳彦首相とプーチン大統領に報告した。
 サハリンで産出する天然ガスをパイプラインでウラジオストクまで運び、海外輸出用にこのLNG基地で液化する。覚書は▽ガスプロムが今年末までに基地建設に投資するかを決定▽日本企業の出資参加に期待・・すると明記。建設が決まった場合、LNGを円滑に輸入できるよう、ガスプロムと日本企業との協議を経産省が支援することも盛り込んだ。事業総額は1兆円規模とされ、18〜20年ごろから年間1000万トンの生産を目指す』 
 天然ガスの埋蔵量最大のロシアからの輸入増加を支援する動きには、賛成したい気持ちがあります。しかし、ロシアは、政治的に抵抗するウクライナに対して、パイプラインによる天然ガスの供給を停止するといった強行手段をかつてとりました。その余波を受ける形で、西欧諸国にガスが行き渡らないという事態が発生するなど、過度な依存は危険であると考えています。しかし、埋蔵量を考えれば、ロシアへの一部依存はやむを得ないことでしょう。
 もっとも、供給を開始する時期に問題があります。上記記事によれば、ロシアからの天然ガスの供給は、2018〜20年ごろからの開始としています。原発停止により、天然ガスは、今まさに必要としている資源であって、10年程度先は取り巻く環境が大きく変動していることが予想されます。それは、輸入先の大きな変動であって、特に、米国からシェールガスの本格輸出が開始される時期と合致している点です。現時点では、国内需要を賄うだけで手一杯である感は否めませんが、ロシアからの供給が本格化する2010年当たりには、米国は天然ガスの純輸出国となっている可能性はあります。日本のLNGの長期契約であるため、割高な価格で輸入していることが指摘されています。ロシアとの契約に際しても、米国からの輸入を駆け引きに入れた、価格交渉ができればと考えています。

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