『マクロ経済学では、貯蓄は投資の源泉です。高齢者が死ぬまで貯蓄を抱え続けても、よしんばそれが株価下落や為替変動で目減りしたとしても、貯蓄は債券、株券などの購入を通じて投資側に回るので、その投資を受けて経済は拡大する。だから問題はないか・・・・というわけですね。この引用は、ここ数日悩んでいた問題を解決してくれる糸口となります。これは企業のトップにより決断された設備投資が上手く機能していないことを意味しています。加えて、貯蓄性向が高い中で、投資を行った場合、それから得られる乗数効果は低下することとなる。消費性向をc(0<c<1)、投資をI、所得の増加をΔYとすれば、乗数効果は以下の式により示される。
実際問題、日本の投資は海外、特にアジアで現地の経済を急拡大させました。シンガポールの一人当たりGDPが日本と同等となったのも日本の投資なしでは考えられません。ですが国内への投資は同じようなペースで日本の経済を拡大させたでしょうか。いいえ、この10年以上、名目値で日本のGDPはほとんど変わっていないのです。つまり総じて、投資に見合ったリターンが上がっていない(投資収益率が極めて低い)ということになります。
何故でしょうか。すでに何度も触れたように、生産年齢人口=旺盛に消費する人口の頭打ちが、多くの商品の供給過剰を生み、価格競争を激化させて、売上を停滞ないし減少させてきたからです。そういう局面では、生産能力増強投資はもちろん、新製品開発投資であっても価格転嫁が困難です。つまり投資収益率が低くなります』
ΔY=I/(1-c)

最後に、藻谷(2010)の同じパラグラフの最後の部分を引用します。
『投資があれば経済が拡大するというマクロ経済学の定式?は、この「投資が腐る」という、市場経済の現場では当たり前に起きている現象を勘案していないです。投資額が永遠不滅に目減りしないのであればよかったのですが、現実には投資の時価は売上の状況によって柔軟に上下します。そして投資の時価の減少は、その分だけ経済を縮小させることとなります。投資がなければ経済が拡大しない(投資は成長の必要条件)というのは事実です。ですが、投資さえあれば経済は拡大する(投資は成長の十分条件)というのはとんでもない間違いです』私は、この意見に賛同します。世界経済と比して相対的に小さくなった日本市場で、重複した部分での競争は投資収益率の低下を招きます。つまり、「腐った投資」です。例えば国内のテレビメーカーは、パナソニック、ソニー、シャープ、東芝、三菱電機などがあります。自動車でも少なくともトヨタ自動車、ホンダ、日産、マツダ、スズキなどがシェアを争い行ってます。このような状況が続けば、韓国の現代自動車やユーロ安の恩恵を受けている独フォルクス・ワーゲンに負けてしまいます。合併・統合を進める必要があると思います。
(注)藻谷浩介『デフレの正体-経済は「人口の波」で動く』、角川書店、2010年。
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