投資家それぞれに基準とする株価があるからこそ、株式の売買が成立するのであって、将来に不確実性があり、かつ個々の市場参加者の投資スタンスに相違があるからこそ市場での価格形成が安定するのである。これに、ポートフォリオで運用している年金基金などが加われば、ポートフォリオに起因する株式の売買が自動的に発生するため、市場はさらに安定する。市場参加者には、一般的に投資家(インベスター)、投機家(スペキュレーター)、裁定取引者(アビトラージャー)の3種類がいる。個々に抱いている市場感やポジションが確実に異なることで、市場の厚みが増し、さらに株式市場は安定するのである。
2012.1.13付報道の『ワールドビジネスサテライト』(東京テレビ系)で、米国市場の株価に関するコメントがありました。大まかな内容は、「米国の株式市場は1月に上昇すると通年で上昇する可能性が高い」とのことです。早速、調べてみたのが右の表です。2000年以降の11年のうち1月の騰落と通年の騰落が一致したのは、8年であり、かなり高い確率だと思いました。参照期間をより広くとれば、統計的な有意をチェックすることができるかもしれません。さらに、報道でも指摘していたのですが、米大統領選のある年は、一致する可能性が高いそうです。因に、2000年、2004年、2008年が米大統領選があった年です。なんと、全ての年で騰落が一致しています。驚きです。2011年末のNYダウ工業株30種の終値が12,217.56ドル、2012月1月12日(ブログ作成時の最新のデータ)の終値が12,422.06ドルで、今年は200ドルほど上昇しています。そして、今年は米大統領選ですので、このままのペースでいけば、通年でプラスとなるかもしれませんね。
これは株式のテクニカル分析の一種と考えてもいいです。株式市場で形成する価格でもって、将来の株式市場を予測するというもので、手法自体は数多いのですが、私の知っているのは限られています。知っているものを敢えて上げるとしたら、ゴールデンクロスとデッドクロスです。前者は短期の移動平均が長期の移動平均を上回ったポイント、後者は短期の移動平均が長期の移動平均を下回ったポイントをそれぞれ指します。前者が購入のタイミングで、前者は売却のタイミングになります。面白いのは、一部の市場参加者がこの指標を参考にして投資スタンスを決めていたのならば、有効かもしれませんが、全ての参加者がこのタイミングで売買したのならば、株価は不安定となり、やはりオーバーシュートすることとなり、指標自体の有用性はなくなります。
報道された時、これはケインズのいう「美人投票」に近いものだと感じました。美人投票は、ケインズの『一般理論』(注1)が参考になりますが、今は手元にないため、野村證券のホームページ(注2)に掲載されているものをそのまま引用させていただきます。以下引用文。
『有名な経済学者のケインズは、玄人筋の行う投資は、投票者が100枚の写真の中から最も容貌の美しい6枚を選び、その選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与えられるという新聞投票に見立てることができるとした。 各投票者は、自身が最も美しいと思う写真を選ぶのではなく、他の投票者の好みに最もよく合うと思う写真を選択しなければならないことを意味する。何が平均的な意見になるのかを期待して予測することになる。 株式投資に関しても、投票者(=市場参加者)の多くの人が、容貌が美しいであろうと判断する写真を選ぶことが有効な投資方法であるということ。』つまり、経済のファンダメンタルは度外視して、米国の1月の株価の騰落と通年の騰落が一致するということだけに注目し、それを市場参加者全員が知ったならば、株式を購入する投資家が増え、その結果、株価は上昇することになるをなるのです。とりあえず、今年は米大統領選挙に当たる年です。今月の米国株式市場の動向に注目したいと思います。
(注1)J.M.ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』、塩野谷祐一訳、東洋経済新報社、1983年。
(注2)野村證券ホームページ『証券用語解説集』の「美人投票」。
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