2012年6月10日日曜日

深化する欧州債務危機とTARGET2の機能不全

ユーロ圏における統一決済システムであるTARGET2に異変が起こっているようです。つまり、欧州債務危機後、各国中央銀行の決済残高で大幅な不均衡が発生しており、ドイツ中央銀行が保有しているTARGET2向けの債権は期近では6,000億ユーロを突破、増加の一途をたどっています。この背景には、ドイツの銀行が、ギリシャのみならず、南欧向けの貸出金を圧縮、つまり貸しはがしを行っている現実があると推測されます。そして、ロールオーバー(償還期限が来ても再貸し出しにと応じること)しないドイツの銀行に代わって、ECBが、ギリシャ等南欧諸国の銀行への流動性を供給、欧州の銀行の連鎖倒産を防止している姿が浮かび上がってきます。
 このTARGET2について詳述している記事が、『週刊エコノミスト』2012年6月12日号に掲載されていましたので紹介します。民間の銀行同士が直接取引に応じず、中央銀行を介してのみ、資金過剰の銀行から資金不足の銀行へと流動性の提供がなされないという状況は、金融危機を経験した日本の金融事情と近似しています。今、欧州諸国では、同様の事態に陥っているのです。記事の題目は『TARGET2が隠す南欧流動性危機』です。以下記事引用。
『TARGETとは、汎欧州自動即時決済システムのことである。加盟国の中央銀行のネットワークをユーロ圏で繋ぎ、域内送金などの単一通貨ユーロでの決済をクロスボーダーで行うためユーロ導入の1999年に起動した。
ユーロ導入当初は、個々の中央銀行のTARGET2に対する債権債務残高に差異はほとんどなく、残高も小さかった。しかし2008年にリーマン・ショックが起きると、特に09年以降ユーロ加盟国の間の乖離が激しくなっている。アイルランド中央銀行、ポルトガル中央銀行、スペイン中央銀行、およびギリシャ中央銀行のTARGET2に対する純債務が増大している一方、ドイツのブンデスバンク(中央銀行)の純債権が劇的に増大している。12年2月末では、ブンデスバンクのTARGET2純債権残高は5596億ユーロと、前4中央銀行の純債務残高の総計とほぼ同じ規模であり、危機の深化とともに不均衡は一層拡大した』
右図は、ドイツ中央銀行のホームページ掲載のデータから作成したグラフです。99年のユーロ発足時以降、しばらくの間は、プラスとマイナスを行ったり来たりしていました。しかし、07年当たりから増加傾向に入り、12年3月末には、ついに6,000億ユーロを突破、現在に至っています。スペインの銀行が危機に陥っていることから、今後は、この残高はさらに増加することが予想されます。決済システムとは、銀行間における日々の資金余剰・不足を瞬時に消し合い、円滑な資金の流れをつくり出すというの本来の目的です。しかし、これでは、決済システムを通じて、ECBによって貸し付けを行っているのと事実上同じことであり、決済システムの意義をなくしているといえます。結果、この状況を放置すれば、ECBへの信認低下、そしてユーロ債務危機の深化へと結びつきます。抜本的な対応が求められるところです。
今日は、決済システムにおける債権・債務残高が如何にして膨張しているのかをフローチャートで説明してみます。右図がそれです。危機前は、ドイツの銀行が直接、ギリシャの銀行へと貸出を行っていました。しかし、危機が深化するとともに、ドイツの銀行が貸出金のロールオーバーに応じない事態が発生しました。このままですと通常ならば、ギリシャの銀行は破綻し、ドイツの銀行も多額の不良債権を抱え込むこととなります。しかし、右図が示すように、資金の流れは変化しています。資金は、ドイツの預金者→ドイツの銀行→ドイツ中央銀行→TARGET2→ギリシャ中央銀行→ギリシャの銀行→ギリシャの債務者という経路を通っています。結果、資金は余剰主体から不足主体へと円滑に融通されているのです。もっとも、ギリシャが倒れれば、ドイツは無傷ではおれないという実態は明白です。ユーロの根幹に関わる決済システムに爆弾を抱え込むという結果となっているからです。これにスペインの金融危機が加わった現在、欧州の危機は、債務危機というレベルからユーロというシステムそのものの危機へとより深刻化しているといえるでしょう。

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