2012年6月15日金曜日

減少する新規工場立地と変化する雇用

日本の空洞化を裏付けるデータが見つかりましたので紹介します。2012年6月9日付『円高による投資の海外比率の上昇と空洞化』のブログでも記述したように、大手企業の設備投資に占める海外比率は4割に達しています。特に、円高という厳しい状況下といっても、日本の中でも優良企業といわれているトヨタ自動車と東レの海外投資比率が50%を超えたというのには、ややショックを受けました。空洞化は着実に進んでいるということを強く認識したところです。
今日の図表は、経済産業省発表の『工場立地動向調査』です。これは産業別にも集計されているデータで、新規工場立地の敷地面積と立地件数を示したものです。驚いたのは、2007年に敷地面積、件数ともピークを迎えていることです。空洞化が叫ばれて久しいのですが、リーマン・ショック直前の円安の水準は、日本での工場立地にとって有利であったことは事実といえるでしょう。当時の円相場は、1ドル=120円前後だと思いますが、その水準にまで円相場が戻れば国内へと工場が回帰する可能性は十分にありますが、物価水準から考慮した円相場は1ドル=90円前後という意見もあり、一足飛びに1ドル=120円という円安はほぼあり得ないという気がします。
そして、工場立地の減少に伴って雇用情勢が変化していることが推測されます。ここでは産業別の常用雇用指数を追ってみることにします。常用雇用者とは、厚生労働省の定義で、「期間を決めず又は1か月を超える期間を決めて雇われている人」または「日々又は1か月以内の期間を定めて雇われている人のうち、直近2か月間にそれぞれ18日以上雇われた人」とされます。常用雇用という言葉を使っていますので、今まではパートやアルバイトの人々は含まれないと思っていましたが、上記定義に従えば、それらの人々も含まれることが分かります。赤色で示したのが、製造業の常用雇用指数で、2003年からの範囲では、2008年をピークに低下傾向にあります。新規工場立地と関係があり、2007年にピークを迎えた新規工場立地とやや1年だけ遅れていることが面白いといえます。
常用雇用指数だけで考えた場合、常用雇用が他の産業を圧倒して伸びているのが、医療・福祉の分野です。このまま円高が進めば、国内では製造業に従事する人々が減少、特に賃金水準が低いと言われている福祉関係に勤めている雇用者が大幅な増加が見込まれます。低い賃金水準と過酷な労働環境を敬遠して、慢性的な人手不足となっている福祉の現場への雇用増を促すため、国でも報酬の引き上げなどの施策を実施することが検討されているようです。このままの状態を続ければ、賃金水準の低い人々の割合が多くなり、国民全体の所得水準の低下がさらに進むことが懸念されるからです。
また、雇用を求めて日本に訪れたブラジル人の存在が社会問題となっています。中には、やむを得ず帰国する人、失業して孤立化する人などいるそうです。人手不足の件は外国人労働者により解決することはできます。リーマン・ショック後、わが国は製造業を中心に、正規雇用と非正規雇用という雇用の二重構造の存在が問題視されました。日本から離れていくブラジル人の件も、この問題と同根であり、ひどい事態であると感じています。人手不足の問題はいつでも解決できると思います。しかし、過度な円高を回避し、製造業の工場の国内立地を進めていく方法に関しては、政府・日銀もお手上げなのが現在のわが国の置かれた状況です。

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