2012年8月16日木曜日

ジニ係数が上昇する米国、格差是正への対策

 米国の経済情勢がしっくりきていません。それは失業率に代表される雇用統計に現れています。米労働省発表の7月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数が16万3千人増と過去5ヵ月でもっとも大きい伸びとなったものの、逆に失業率は8.2%と6月から0.1ポイント悪化しました。米国では、財政赤字が拡大し、米格付け会社による格付けが引き下げられたばかりです。従って、財政政策に頼った景気回復には限界が出てきており、財政赤字の拡大がむしろ大統領選の争点となっています。このため、どうしても金融政策に過度に依存した政策運営になっていまい、危険な状態であるといえます。特に、今年は、干ばつ被害により米国でトウモロコシ、大豆が歴史的な不作となっています。これを受けて穀物価格が急騰、金融緩和から発せられた過剰な流動性が商品市況へと流れ込んでいます。さらにこの事態に追い打ちをかけるように、ロシア、ウクライナ、インドで干ばつ深刻な被害、そして期待されたブラジルでは多雨による被害が拡大、今年の穀物相場は荒れそうな予感があります。
 この穀物相場の高騰に引っ張られる形で石油などの資源価格が上昇すれば、本格的なインフレが発生することとなります。インフレ懸念のため、金融を引き締めへと転じる可能性も十分にあります。しかし、市場はそれを察して、当局が引き締め政策を転換する前に、インフレ懸念から長期金利が先に上昇するのが米国です。そして、インフレ傾向が現実のものとなれば、食料品やガソリンなどの支出割合が大きい低所得者にとって負担の増加を意味します。格差拡大が米国で社会問題となっている現在、物価の上昇が顕著となれば、大統領選の争点となりかねません。今後、注意を要すると考えています。
 米国の財政問題は、富裕層への課税強化で解決すると言われています。そして、得られた税金で、低所得者層や中間所得者層に所得を再配分すれば、格差是正はある程度進むのではないかと期待されます。右図は、主要7カ国のジニ係数を示したものです。OECD発表のデータから作成したグラフで、もともと高かった米国のジニ係数が、この40年間でさらに上昇していることが分かります。特に、2位以下の国々が余り上昇していないことから、米国が突出するという形となっています。昨年、学生ローンに苦しんでいる若者が、全米各地でデモを決行するなど、格差是正の機運は高まっているといえます。
 また、米国の所得階層別の資産の保有状況を示した表が内閣府の『世界経済の潮流』(2012年Ⅰ)掲載されていましたので紹介します。第2章第3節のアメリカ経済に関するもので、『加速する所得格差の拡大』という題目の記述がありましたので引用します。以下引用文。
 『世帯所得について分配の不平等度を表すジニ係数をみると、1970年代半ば以降、上昇基調を辿っており、センサス局、OECDの推計のいずれでみても、ジニ係数は、60〜70年代の最も低かった時と比較して2割程度上昇している。
 また、平均所得と中位所得の動向をみると、2000年以降いずれの所得も伸びが横ばいになっている。一方、中位所得と平均所得のかい離をみると、90年代半ばから2000年代半ばにかけて特に拡大し、その後も縮小がみられない。こうしたことは、中位所得に比べて平均所得の増加率が高く、上位層の所得が不均衡に拡大したことを意味していると考えら、 格差が拡大していることがうかがわれる』
 資産を持っているものは、何かと有利です。上表は格差の拡大となっている所得階層別の資産・負債の保有率を示しています。上位10%の人々が金融資産の72%を、実物資産の61%を保有しており、加えて、これらから得られるであろう収入が莫大であることが推測されます。一方で、下位50%の人々は金融資産の3%、実物資産の8%しか持っておらず、何らかの資産に関する課税強化を進めなければ、米国における格差是正は不可能であるといえまます。オバマ大統領が推し進めた、医療改革は中間層にとってプラスであり格差是正につながったと思います。このような政策を打つには、税収が必要です。ならばとれるところから取るという施策が求められると思われます。
 今年11月は米大統領選です。米国民の6人に1人の所得が貧困ラインである2万ドル以下なっているという事実から目をそらせることはできません。オバマ大統領は「増税で富の再分配」「より公平な社会」を主張しているのに対して、共和党候補ロムニー氏は「規制撤廃と減税」「自由競争」を訴えています。今の米国社会の解決すべき最大の問題は格差是正です。一見、オバマ大統領の主張に好感が持てますが、無節操な財政支出の拡大はやり過ぎた感はあります。財政支出を削減しつつ、富裕層への増税と所得の再分配が求められる政策であり、オバマ大統領とロムニー氏の主張の中間に妥当と思われる施策があるような気がします。

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