2012年8月4日付のブログ『インド経済のボトルネック、電力供給と農業生産』で、インドでの干ばつ被害について書きました。これにより、同国の経常収支の赤字を拡大させ、インド経済に打撃を与える可能性を示唆しました。そして、この状況をさらに悪化される要因として考えられるのが、米国における干ばつ被害の拡大です。6月に入ってから穀物相場が急騰しており、米国内ばかりでなく、世界経済へと影響が波及する恐れが出てきました。さらに米国では、8月1日にFOMC(米連邦公開市場委員会)で、「必要ならば追加緩和措置を行う」と表明、このまま緩和措置を継続するならば、商品市況に資金が流入し、さらなる穀物価格急騰をもたらすこととなります。欧州でも、ECBによる南欧諸国の国債の買い入れを再開する方針を固めました。インフレ懸念が発生すれば、国債利回りが上昇することを意味します。穀物価格に引っ張られる形でエネルギー価格も上昇すれば、ECBの目論みを無にすることになるでしょう。
そして、世界的な金余り現象が進めば、穀物相場の急騰を通じて、通貨安、物価安に悩む新興国や途上国の経済に打撃を与えることとなります。日米欧の中央銀行は難しい舵取りを強いられることとなります。『週刊ダイヤモンド』2012年8月4日号に、米国の干ばつ被害に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『穀物価格急騰、最高値更新で2008年の悪夢再来の恐れ』です。以下引用文。
『米国の穀物価格が急騰している。相場は6月以降に急変、7月20日には大豆17.6ドル、トウモロコシ8.2ドルに達し(いずれもシカゴ先物期近価格、1ブッシェル当たり)、2008年に記録した過去最高値を更新した。年初来からの上昇率は、大豆が28%、トウモロコシが48%に及ぶ。原因は、25年ぶりという米国穀倉地帯の干ばつだ。高騰の要因には投機資金の流入もあるものの、何よりも需給の逼迫懸念が大きい。生育状況は悪化の一途をたどっている。7月22日時点の米国農務省調査で、作柄が「良・優」とされる割合は、大豆が31%、トウモロコシが26%。通常この比率は60%前後で、惨状と言う他ない。これらの収穫期は通常10〜11月だが、今後天候が好転しても、作柄の改善は期待できない。穀物の生育に最も大きな影響を与えるのは、開花・受粉期の天候だからだ。通常ならばこれは7〜8月なのだが、今年は生育が1カ月ほど早く、6〜7月の干ばつが直撃する格好となった』
今日のデータは、シカゴの先物の価格を準備したかったのですが、いいデータが見つかりませんでしたので、FAO(国際連合食糧農業機関)のホームページから引用したデータに基づきグラフを作成しまた。右図がそれです。図はFood Price IndexとCereals Price(穀物価格)Indexの推移を示したものです。期近の2012年6月までのデータがそろっていますが、ともに総合指数ですので、価格上昇の兆候はみられません。しかし、1990年代前半からは大きく上昇していることが分かります。
もう一つのデータは、同じく、FAOのホームページから引用したデータです。上記の記事では、トウモロコシ、大豆ともに2008年の最高値を上回った旨記述がありました。右図は、米国におけるトウモロコシと大豆の1トン当たりの価格の推移を示しています。単位はブッシェルでなく、1トン当たりの価格ですので、価格の直接的な比較はできませんが、2008年の再来ならば、トウモロコシ、大豆とも、この価格を上回っていることとなります。因みに、1990年代初頭から大きく上昇しているのは、穀物の需給逼迫だけではなく、米ドル相場の下落が要因の一つにあると考えられます。
そして、今年が厳しくなっているのは、米国、インドの干ばつに続き、ロシアやウクライナで干ばつ被害が拡大していることが判明しましたことです。2012年8月3日付日本経済新聞朝刊にロシアの干ばつ被害に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『ロシア干ばつ、穀物急騰。「年産15〜20%減」、輸出規制の可能性』です。以下引用文。
『【モスクワ=石川陽平】半世紀ぶりとされる干ばつに見舞われた米国に続き、主要な穀物生産国であるロシアやウクライナでも干ばつの被害が広がっている。ロシアの2012年穀物年度(7月〜翌年6月)の小麦を中心とする穀物生産量は、前年度に比べ約15%減の8千万トン以下にとどまる見通し。穀物価格の急騰で、国民のプーチン政権への不満も強まる懸念がある。穀物の不作が深刻になれば輸出規制など対策を迫られる可能性がある』
ウクライナ、ロシアによる輸出規制は十分に考えられます。そして、食料品価格の高騰に不満を抱いた民衆が、暴動を起こすまでになったエジプトでの惨状が今でも記憶にあります。インドでの暴動も食料品を中心とした物価の高騰です。今年は、世界経済にとって、災難続きです。政策運営に失敗すれば、インフレの再燃と失業率の高止まりというスタグフレーションの状態に陥る可能性も否定できません。過度な金融緩和は危険です。何故なら、日本の経験からいって、金融政策は、引き締めの時に効力を発揮するだけで、過度な緩和は有効ではありません。先進諸国で政府の債務残高が増加している中、一歩間違えれば、世界経済は同時不況という最悪の事態を招く恐れがあります。
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