2012年8月20日月曜日

消費税率引き上げと潜在成長率の低下

 消費税率の引き上げが国会で採決され、2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へと引き上げられることが決定しました。引き上げに伴い、住宅や自動車など金額額が大きいものへの需要増加が期待される一方で、需要の先食いという現象をもたらし、その後の経済が不安定化する恐れもあります。特に、2014年の引き上げ後、マイナス成長を予想する見方が広がっており、今回の法案には、経済の急変時には増税を見合わせるという「景気条項」も含まれていることから、2015年に10%への引き上げに踏み切ることができないことも十分に考えらます。

 先日のIMFの副総裁のコメントでは、財政の健全化のためには、軽減税率を導入しないという前提で15%が望ましいとしています。つまり、わが国は、10%への引き上げにつまずいた場合、プライマリーバランスの黒字化という政府が掲げる目標は到底達成できず、急速に財政が悪化することが予想されます。このためにも、駆け込み需要による景気回復ではなく、2014年までには潜在成長率そのものを引き上げる必要があるといえます。上図は、OECD発表の主要7カ国の潜在成長率の推移を表しています。わが国の潜在成長率は、1987-96年の平均で2.5%であったものが、2012年には0.7%にまで下がっています。米国の潜在成長率が依然として2%を上回っているのとは対照的に、日本経済は体力が弱まっているという現実があります。因に、主要7カ国で日本を下回っているのはイタリアだけで、日本とともに、GDPに対する政府の債務残高が大きいことに共通点があります。やはり、このデータをみる限りでは規律ある財政政策こそが、長期的な成長率を高めることにつながると痛感させてくれます。

 2014年4月までには、潜在成長率そのものを高めなければ、消費税率を10%、そして最終目標の15%へ引き上げることはできません。時間が限られていますが、人口減少が既に始まっていること、民間の資本ストックが増加から減少へと転じたことから、労働、資本の増加から成長率を高めることはやや困難であるといえます。ならば、労働人口の増加や資本ストックの蓄積ではなく、TFP(全要素生産性)を高めることにより潜在成長率を高めることが考えられます。TFPとは、労働や資本の増加では説明できない生産性の増加を示し、通常は「技術進歩の進捗率」のことを指します。つまり、技術進歩により、労働や資本の生産性そのものを引き上げることで成長率を高めることを目指すのです。このことは、今後は効率的な人材育成、そして無駄がなく、確実に利益を上げることに絞った投資判断が求められることを意味しており、日本企業の経営者の能力にかかっているともいえます。シャープやパナソニックにおける投資判断のミスは、今後は許されないのです。
 わが国では、投資の最終需要の面ばかりが注目されており、将来的に実施された投資が、どの程度の付加価値を産み出すのかがないがしろにされている面があります。右図は、OECD発表の主要7カ国の需給ギャップの推移を示してます。需給ギャップは、実際のGDPと潜在成長率の差で表されます。90年代後半から2000年前半までの突出した需給ギャップを埋めるべく、莫大な額の公共事業が実施されました。そして、今存在するインフラを考えれば、政府による一連の公共投資が闇雲に行われきたという事実を読み取れることができます。例えば、空港です。ほぼ各都道府県に1つの空港があります。長細いとはいえ、狭い国土の日本に必要とは思えないほどの空港が乱立しているのです。また、継続的な人材育成のためには、本四架橋は3本同時に建設するのではなく、一本目が完成すれば、次を建設するという姿勢が求められたのです。つまり、投資の需要の面が意識された結果であるといえます。これでは、社会インフラが過剰となり、資本の生産性は徐々に低下することとなります。確かに、上記時期に政府による公共事業がなければ、日本経済は底割れになっていた可能性も否定はできませんが、無意味な公共投資を続けることにはマイナス面が多いといえます。
 消費税率の8%への引き上げはほぼ決まっています。つまり、時間は限られているのです。そして、技術進歩を軸においた潜在成長率の引き上げしか選択肢がないのがわが国経済の実情です。知恵をしぼった政府による政策はともかく、民間部門の奮起に期待されところです。

0 件のコメント:

コメントを投稿