2012年8月17日金曜日

進まぬ国際化、日本での投資銀行業務の地位低下

 2012年8月8日ブログ『疑われるイランとの不正取引、不正が続く英金融機関の失墜』の中で不正の続く英金融機関について書きました。同ブログの中では、英国への金融制裁という記述もあり、やや感情的になった感はあります。一方で、外銀の撤退が進み、萎縮傾向のある東京市場は一体何なんだろうかという疑問もあります。金融の国際化は、いまや陳腐化した言葉です。不正は不正として適切に裁かれる必要があるものの、英国の金融街シティが凄く、国際市場から比して、東京市場はやはり落ち目であることは否めな事実があります。1996年に、橋本内閣により金融ビッグバンが提唱されました。それから15年程経った今、フリー(市場原理が機能する自由な市場)、フェアー(透明で公正な市場)、グローバル(国際的で時代を先取りする市場)の3つの原則はどの程度実現できたのでしょうか。
 フリーについては、垣根を超えた参入が相次ぎ、セブン&アイホールディングス傘下のセブン銀行の躍進、それに対抗するかのようにイオングループも銀行業務に参入するなど自由な市場形成はある程度実現できたような気がします。一方、透明で公正な市場の実現においては、先の3大証券会社によるインサイダー取引に対する違反などの不祥事が相次いでおり、実現にはほど遠いという気がします。それでは、グローバル化はどうなっているのでしょうか。これを説明した記事が、2012年8月13日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『投資銀、進まぬ外資参入。国内大手シェア65%。今年上半期』です。以下引用文。
 『企業の増資引き受けといった投資銀行業務で国内金融機関のシェアが高まっている。2012年上半期(1〜6月)は国内の銀行・証券大手5社が日本市場の約3分の2を握り、世界の主要市場の中で現地金融機関のシェアが最も高かった。日本では外資の参入はなかなか進まず、逆に日本事業を縮小する動きも出ている。(中略)
 日本での現地金融機関の寡占度はアジア市場でも際立つ。アジアの金融センターの座を争う香港、シンガポールとも上位5社は40%弱。外資に対する規制が厳しい参入規制がある中国でも、上位5社のシェアは26%にすぎず、5位にはスイスのUBSが顔を出している。(中略)
 外資の日本離れに伴う市場全体の縮小を懸念する声もある。日本市場の投資銀行手数料が世界に占めるシェアは1〜6月は5.03%。直近のピークだった09年の7.08%から約2ポイント下がった』
 そして、同記事では、かつては東京市場に真っ先に向かっていた幹部の向かう先が、香港、中国、シンガポールに替わっている旨示唆しています。株式市場が大きく低迷し、復活の兆しがない日本の株式市場は、資本市場としては機能不全に陥っており、海外の金融機関からみて魅力のないものになっていると思われます。つまり、金融ビックバンで叫ばれたグローバル化は完全に失敗しており、加えて寡占化が進んでいることから、少なくとも投資銀行業務に限っては「自由な市場」も確立していないことが伺えます。

 右図は、上記記事に掲載されていたデータに基づき作成した投資銀行業務の分野における英国と日本の金融機関別のシェアを示したものです。日本では、上位5社が全て日本の金融機関であり、それらで6割以上のシェアを占めています。一方、ウィンブルドン現象と揶揄されながらも、英国では上位5社のうち3社が外国籍になっている上、それらのシェアは3割弱の水準にとどまっています。外国籍の金融機関にとって、英国は魅力ある市場なのかもしれません。奇しくも、日本の金融ビックバンは、英国における金融ビックバンを参考にしたものです。不正行為に揺れているのは、英国も、日本も同じです。英国の金融市場は、国際化が進み、逆に影響力が大きいという意味で、LIBORにおける金利の不正操作が世界的に注目される問題となっているともいえます。事実、TIBORでも不正が行われているものの、世界が注目する問題とはなっていないことから分かります。

 ところで、LIBORに金利を申告する金融機関のリストが、2012年8月13日付日本経済新聞夕刊に掲載されていましたので紹介します。右表がそれです。英国の金融機関がバークレイズ、HSBC、ロイズ・バンキング・グループ、ロイヤル・バンク・オブスコットランドの4社に留まっているのに対して、英国にとっての外銀の数は、米、日本、仏がともに3社、ドイツ、スイスが2社、オランダ、カナダが1社となっています。英国の金融市場がいかに国際化が進んだ市場であることが象徴されるリストです。この表をみて、LIBOR問題で、米国の地銀に告発された金融機関に、三菱UFJと農林中央金庫が入っている理由がよく理解できました。邦銀の海外での活躍は、欧米の金融機関の経営体力が落ちている中を、やや目立っている感があります。しかし、日本の経済力の沈下もあり、東京市場自身の国際化は十分ではないのは明白です。英国は例外として、やはり経済力あっての金融市場ですので、日本の金融市場は、日本経済の持ち直し次第だといえます。

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