2012年1月10日火曜日

日本銀行による金融緩和

リマーショック、東日本大震災以降、日本銀行は継続的に金融緩和を行っている。毎日新聞2011年10月13日付記事では、以下の引用がありました。
『日本銀行は13日、9月6、7日に開催した金融政策決定会合の記事要旨を公表した。同会合では追加緩和を見送ったが、欧州債務危機への懸念から複数の委員が「事態の展開により先行き金融緩和が必要となる可能性がある」との認識を示し、追加緩和に言及していることが分かった』
日本銀行が金融緩和を実施し、マネーサプライを供給、経済を刺激する方法はいくつかある。そのうち、代表的なのが、基準割引率および基準貸付利率(2006年8月までは「公定歩合」と呼ばれていた)の引き下げ、預金準備率の引き下げ、そして公開市場操作による買いオペです。このうち基準割引率および基準貸付利率、預金準備率の引き下げは、これ以上の引き下げは不可能であることから、金融緩和へと結びつかない。従って、日本銀行が行うさらなる金融緩和とは、事実上公開市場操作による買いオペしかないこととなります。
 そこで、日本銀行は、2010年10月28日に資産買入基金を設置、総額35兆円の枠で、銀行から国債や社債などを購入し、日本銀行券を市中に供給、マネーサプライを増加させる施策を実施しています。その後、総枠は、東日本大震災を受け、11年3月に5兆円増、同年8月にさらに10兆円増やし、現在は50兆円となっている。そこで、この政策により、貨幣供給が実際に大きく増加しているのかどうかの疑問が残ります。
上図は、マネタリーベース、M3の伸び率を示したグラフです。マネタリーベースとは、日本銀行が直接供給することのできる貨幣のことで、現金、日銀当座預金の合計に当たる。一方、代表的な貨幣流通量を示すM3(以前はM2+CDであったが、郵便貯金の民営化に伴いM3となった)とは、M1(現金通貨+預金通貨)、準通貨(定期預金+据置貯金+定期積金+外貨預金)にCD(譲渡性預金)を加えたものです。M3の伸び率は2%前後の伸びを維持する一方で、マネタリーベースの伸び率が大きく変動しているため、結果として貨幣乗数の変動も大きくなっている。貨幣乗数とは、貨幣供給がマネタリーベースの何倍になっているかを示す値で、すなわち中央銀行が1単位、マネタリーベースを増加させた場合の貨幣供給の増加量を示したものです(注)
 このグラフで注目すべきは、2010年後半当たりから、マネタリーベースの伸び率が大幅に増加している一方で、M3の伸びに変動が小さかったため、貨幣乗数が大きく低下していることです。景気後退に伴って、民間の資金需要が減少、日本銀行がいくら資金供給を実施しても、M3は増加しないという状態になっています。つまり、日本銀行はマネタリーベースを制御できるものの、民間の資金需要がなかれば、信用創造の過程が機能せず、貨幣供給全体を増加させることはできないことを示しています。
累積する債務残高に伴い、積極的な財政政策を打てないなか、どうしても日本銀行の金融政策に期待するところがあります。しかし、日本銀行による金融政策にも限界があることをグラフは端的に表しています。
(注)二神孝一・堀敬一著『マクロ経済学』、有斐閣、2009年。

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