2012年1月9日月曜日

設備投資に変調

設備投資の増加は、総需要の増加に直接寄与するのに加えて、資本ストックの蓄積に結びつき、将来の生産活動にプラスへと寄与する。確かに、設備投資は国民経済にとって不可欠な存在です。一方で、過当競争ばかりに明け暮れ、収益性の低い資本ストックの蓄積は、減価償却費の増加を通じて企業収益を圧迫するなど、決してプラスの面だけではないです。わが国は、現在、設備投資<減価償却費の状況に陥っており、設備投資のあり方、つまり設備投資の質が疑問視されているところです。製造業の設備投資ばかりでなく、電力業界の設備投資は、電力供給を通じて生産活動そのものや生活に直結する問題です。このうち、現在の原子力発電所の稼働率を考えれば、原子力発電に対する過去の設備投資が完全に無駄になっていることを示しています。これは日本経済の成長にとってマイナスであり、減価償却費の増加→電力会社の収益減少→電気料金の引き上げ→生産活動の停滞という経路をたどって長期的に影響を与える可能性があります。原子力発電所の稼働率の低下は、国の原子力行政そのものの失敗であり、結果として、その負担を国民が負うことになるでしょう。
今日の引用は、『日本経済新聞』2012年1月7日朝刊からです。紙面トップに掲載された記事で『携帯3社、1.6兆円投資、スマートフォン通信急増』という見出しです。収益性の低い資本ストックの蓄積は、将来の負担となる旨、上で記述しましたが、設備投資の増加は、現在需要不足に陥っている日本経済にとって景気回復の足がかりになる要素であり(直接的な需要拡大と乗数効果によるもの)、注目したいところです。以下引用文です。
『携帯電話大手が2012年度の設備投資を拡大する。NTTドコモは当初計画に300億円を上積みし、ソフトバンクは前年度比5割増やす見通し。KDDI(au)を加えた大手3社の携帯関連事業向けの合計は1兆6000億円超と、3年連続で1割前後増える。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の普及に伴う通信量の急増で回線不足への懸念が高まっており、高速基地局や基幹通信網の増強を急ぐ。』
以上の通り、スマホ普及に伴う激増する通信量に対応する設備を整えるための継続的な設備投資は不可欠です。米大手通信会社AT&Tが料金プランを定額制から従量制へと移行しましたが、現在、わが国で最も普及している料金プランである定額制を維持した上で良質な通信環境が得られるならば、消費者にとってプラスです。さらに、この記事には、設備投資の現状を簡潔に説明している部分がありますので、そのまま引用します。以下引用文です。
『通信業界は電力会社と並ぶ民間設備投資のけん引役で、設備投資全体の1割弱を占める。10年度の設備投資は2兆4000億円。携帯3社の投資が約6割を占め、今後も拡大が見込まれる。企業の生産拠点の海外移転加速に加え、10年度で同じく2兆4000億円の電力業界の設備投資は先行き不透明感が強まっている。ほとんどを国内に投じる携帯向け投資の拡大基調は民間設備投資を下支えしそうだ。』
 メーカー間で激戦を続けている韓国の高速ネットの普及率は、わが国を上回っています。国際競争力を維持する上でも、国民一人一人が高速ネットにつながれば、コミュニケーションの場を幅広く提供できるばかりでなく、ビジネスへの応用も十分可能です。通信インフラへの積極的な設備投資は、未来の日本経済とっても不可欠であり、後の人々があれは無駄な投資であったと言うことはないと思っています。右図は、2005年からの民間設備投資を製造業、非製造業別に表したものです。超円高の中、製造業が生産拠点の海外への移転が加速しており、来年度の設備投資は不透明感が高まっています。製造業の設備投資には景気の波の影響を受けやすいという性格を内在している一方で、比較的安定して推移してきたのが、非製造業の設備投資です。景気が失速する中でも、安定して投資をすることで、ビルトインスタビライザーの役目をきっちりと果たし、国内経済の下支えをしてきたといえます。電力業界という、もう一方の軸が揺らいでいる中、携帯各社の投資意欲は、日本経済にとってプラスとなるでしょう。また、電力業界が脱原発を唱え、再生可能エネルギーへの投資を拡大させることとなれば、やはり経済にとってプラスです。電力供給及び通信網は、国民にとって不可欠なインフラであり、国が「コンクリート」から「人」を重視した財政政策へと転換したと主張するならば、通信・電力等への支援を強化しても矛盾はないと思っています。

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