2012年8月28日火曜日

70億人を超える人口と食料の需給環境

 人口爆発とそれに伴う食料危機が叫ばれてから久しい。確かに、一部の貧困地域に食料品が行き渡らず、飢餓で多くの人々が苦しんでいる姿が映像が日々放映されており、その度に心が痛みます。一方で、再生可能エネルギーとしてバイオエタノールが注目され、生産が順調に進んでいるようです。私個人の意見としては、世界の全ての人々が安定して食料品を確保できるという環境になるまでは、トウモロコシなどを使ったバイオエタノールの生産はいかなるものかという印象を受けます。ここにも、高い価格提示できる需要者だけ穀物を手にすることができる、悪い意味での市場原理が働いているのだと痛感されてくれます。
 エタノールの存在により今年の食料事情が、例年とは違った動きになるのではないかいう見方が広がっています。この点について言及した記事が『週刊エコノミスト』2012年8月14・21日合併号に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『穀物高騰。史上最悪級の干ばつ襲来で食糧インフレが世界を覆う』です。以下引用文。

 『だが今年の不作と88年の不作の間には大きな違いがある。まず、中国はトウモロコシの輸出国(年間400万トン)であった。ところが12年、中国は600万トンを米国から輸入する見込みだ。次に大豆についても中国は輸入していなかった。加えて、88年当時、米国には、エタノール政策は存在しなかった。
 トウモロコシを原料とするバイオ燃料がエタノールである。11〜12年度(11年9月1日〜12年8月31日)の米国のエタノール向け需要は50億5000万ブッシェル(約1億2800万トン)。全生産高123億5800万ブッシェル(約3億1400万トン)の40.9%に達している。
 08年のリーマン・ショック直前にみられた穀物高騰時、飼料価格の上昇によって、牛肉や豚肉、鶏肉などの肉類に加え、卵や牛乳も値上がりした。この2次的な値上がりは草の根市民の台所を直撃し、米国のマスメディアは連日「食料危機」を取り上げた。その"犯人"にされたのがエタノールである。
 この時、牛肉の主要生産州であるテキサス州のリック・ペリー知事が時のブッシュ政権にエタノール政策の変更、すなわち法でエタノールの使用義務量を定めている再生可能燃料基準(RFS)の廃止を訴えたが、政府は耳を貸さなかった。このため米国ではトウモロコシが不作に終われば、トウモロコシは一方的、かつ不必要に値上がりするという構造的な欠陥を内包することになった。RFSによって、不作時でもエタノールの使用義務量は変わらないためだ』
 やはり、時のブッシュ政権は罪深いですね。エネルギーに固執した政策運営は、戦争を起こすばかりでなく、世界の人々を飢餓の危機に追いやろうとしているのです。加えて、中国での食料消費の構造変化が伺えます。近年、高まる所得水準を背景に、中国で豚肉の消費が大幅に増加、トウモロコシを飼料として肥育していることから、米国からのトウモロコシ輸入につながったと推測されます。中国以外の新興国も比較的順調な経済成長を続けている中、多くの人々の所得水準が高まっています。所得水準は食肉需要を確実に増加させる上、人口そのものも増加を続けていることから、飼料用の穀物需要は大きな増加が見込まれています。
 食肉の生産には、牛肉1kgには穀物7kg、豚肉1kgには穀物4kg、鶏肉1kgには穀物2kgがそれぞれ必要とさます。右図は、農林水産省の『2021年における世界の食料需給の見通し』に掲載されているデータから作成したグラフです。2009年から2021年にかけて、食料用の穀物消費が19.1%増加、飼料用の穀物が29.2%増加することが予想されています。食料用、飼料用ともに増加するものの、後者の増加ペースが大きいことが分かります。一方で、在庫率は、2009年の21%から16%へと低下、一歩誤れば世界的な食料危機を迎える可能性もあります。特に、2012年度は、米国ばかりでなく、ロシア、ウクライナ、インド、ブラジルでの不作の報が伝えられています。2009年の在庫率が一挙に低下し、今年度だけで2021年の16%を下回る可能性は十分にあると考えています。
 こうした中で、食料自給率が先進国最低の40%といわれる日本において、食料確保に向け、商社が積極的に動いているようです。長期的な問題はさておき、今年の消費分の穀物の確保は優先される課題です。穀物の輸入に関しての記事が2012年8月18日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『穀物輸入、価格変動を回避。伊藤忠、アフリカに調達網』です。以下引用文。
 『伊藤忠商事はアフリカで食用大豆の生産を現地農家などに委託、2014年にも日本に輸入する。数年で国内輸入量の1割強にあたる年間10万トンにまで調達量を増やす。丸紅などは南米で大豆、トウモロコシの調達を2〜3倍にする。日本の穀物調達は北米に偏ってきたが、今年のように干ばつによる相場高騰や調達難のリスクにさらされないよう、独自の調達網を構築する狙いだ。(中略)
 商社各社の調達先の中心はこれまで米国だった。生産効率の高さと安定した品質が需要家の食品メーカーなどに評価されていた。ただ今夏の深刻な干ばつではトウモロコシや大豆の収穫量が大幅に減少する見通しで、米国での取引価格は大幅に上昇している。
 商社各社は緊急措置として、東欧などからの調達も強化しているが、新興国を中心とした人口増加などで穀物相場の上昇傾向が続くと予想。安定的な調達先の確保を目指し現地での生産に踏み込む形でアフリカなどでの取り組みを強化する』
 今回の穀物価格の高騰は、食品価格をもたらすことが予想されます。インドにおけるスズキの工場での暴動も物価高騰に給与の引き上げが追いついていないことが背景にあります。前回の高騰時には、エジプトでもパンを求めて、暴動が起きるなど、途上国の人々の生活を圧迫する要因となりました。右図は、2021年における世界の地域別の穀物の生産と消費、そして輸出入の見通しを示しています。図からは、ほとんどの農産物にいえるのですが、自国での消費がほとんどで、輸出に回せるのは一部であることが分かります。原因ははっきりしませんが、気候変動が激しくなっている中で、穀物生産は不安定化しています。食料安保を考えた場合、自給率の回復は、エネルギー確保と同等に優先すべき政策課題であるといえます。

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