2012年8月19日日曜日

海運大国、ギリシャの抱えるジレンマ

 ここ数年、世界経済は、ギリシャに引っ掻き回されている感が否めないという印象を受けています。しかし、先のギリシャ総選挙の再選の結果、債務問題について財政緊縮派が勝利、ギリシャのユーロ離脱の危機は一段落ついてた感があります。もっとも、今後、財政緊縮政策の実行により年金生活者や失業者、低所得者などが生活に困窮することが予想され、ギリシャ国民の大多数は生活費を切り詰めるなどの厳しい現実が待っています。一部メディアは、悲嘆して自殺に至った人などをクローズアップしたニュース報道を流すなど、やや同情するところもあります。ギリシャの公務員比率の高さなど構造的な問題ばかり指摘されている一方で、南欧諸国への輸出で儲けたドイツなどギリシャを支援する側のエゴも感じとられる面もあります。情報が少なく、ギリシャ国民の実態は一体どうなっているのか疑問が残るところです。
 ギリシャ国民の多数が苦しんでいる中での総選挙の結果ですので、今後はエールを送りたいと思っていますが、一方で、ギリシャは世界最大の海運国でもあり、かなりの富裕層も存在するのも事実です。これは、いわばギリシャにおける二重構造の問題であり、これら海運業に富を得た人々への課税できないことが、同国が財政再建できない原因の一つであるともいえます。『週刊エコノミスト』2012年8月7日号にギリシャの海運業についての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『国家の危機も投資の好機、したてかなギリシャ海運業者』です。以下引用文。

 『ギリシャは世界最大の海運国だ。この国の「船主」と呼ばれる人々は、船舶を建造、または中古で購入して保有し、運行会社に貸し出すことで賃料(用船料)を得る商売を行っている。これに加えて、船舶の売買で利益を得る投資家としての側面も持つ。国内には、およそ800社の船主がいるといわれ、大半が非上場のファミリー企業だ。ギリシャ船主協会統計によれば、今年1月時点でギリシャ船主が実質的に保有している船は3325隻、2億2629万重量トン数では世界最大の15%のシェアを持つ。(中略)
 彼らの競争力の源泉は、この国独特の税制にある。ギリシャでは、海運によって得られる全ての事業収入は非課税。海運業は好不況が繰り返す典型的な市況産業で、用船料や船の価格が激しく変動するが、ギリシャ船主は好況期に稼いだ利益をそのまま留保できるので、その後の不況期をしのぎつつ、安く船を手に入れるタイミングを待つことができる。海運界には昔から、「ギリシャが買うときが底値」という相場の格言があるが、彼らはこの有利な税制とマーケットへの嗅覚を武器に、「安いときに船を買い、好況で稼ぐ」という必勝パターンで世界一の海運国の座に君臨している』
 ギリシャでは、産業といえば観光業です。そして、第2の産業がこの海運業で、2,000億ユーロのギリシャのGDPに対して、海運業による外貨収入は141億ユーロにのぼります。また、海運会社の船員や事務職員、関連企業の職員なども多く、海運業の雇用効果は20万人とされています。総選挙で破れた急進左派連合(SYRIZA)は、「船主も国民と同じ負担を」と主張、海運業への優遇税制を撤廃する考えを表明し、物議を醸しました。これに対して、船主は優遇税制撤廃ならば国を出ると主張、政府が慌てるという局面もあったそうです。国から出ることができない国民の負担が増大する中で、海外へ自由に出ることができる企業の法人税率だけは引き下げられる、もしくは非課税とするということはどの国にもある問題だと痛感しました。
 右図は、UNCTADの"Review of Maritime Transport 2011"に掲載されているデータから作成した、船舶の中古価格の推移を示したものです。2008年をピークに大きく下落、2010年までのデータしかありませんが、2010年にはやや持ち直している感があります。特に、Dry bulkという種類の船舶は2007年の8,300万ドルから2,500万ドルへと下落、上げ下げの激しい産業であることが分かります。そして、この相場変動では内部留保を蓄えたギリシャの海運業が有利であることも明白です。因に、Dry bulkとは、石炭、鉄鉱石、穀物などを輸送する船舶のことを指します。
 米国、欧州、日本など先進諸国での財政赤字が問題となっています。どの国も企業誘致をする目的で法人税は優遇さているのが実情です。しかし、これら一連の債務危機を回避するには、法人に対して積極的に課税する必要があります。しかし、企業が国外に出て行くという懸念があることから、各国協調で国際ルールを制定し、不公平がないシステムづくりが求められるところです。

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