2012年8月22日水曜日

用途が広がるネオジム磁石と代替品の開発に向けた試み

 レアアースのほとんどを生産する中国が輸出規制をかけたことから、近年、日本の製造業に暗雲が立ち込めていす。特に、その中で、私が非常に興味を持っているのが、ネオジム磁石であり、磁石の用途が自動車、風力発電、MRIなどに広がる中で、この代替品の開発が注視されているところです。ネオジム磁石は、鉄、ネオジムを主成分として作られる磁石で、ジスプロシウムを添加することで耐熱性を高めることができます。
 ネオジム磁石の組成は、右図(注1)の通りです。約60%を鉄で占めることが特徴であり、ネオジムは約30%、ジスプロシウムは3%ですが、耐熱用途の場合はジスプロシウムの6〜8%に高めるそうです。このジスプロシウムが、中国の輸出規制により影響を受けているのです。このため、ネオジム磁石に替わる大体製品の開発が求められているのです。もっとも、ネオジム磁石には鉄が主成分であるという優位性があり、この点が代替品の開発が進まない原因となっているといえます。
 2012年8月17日付日本経済新聞朝刊に東芝が中国産レアアースを使わない産業用の磁石を開発したことについての記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『東芝、産業用の強力磁石、中国産レアアース使わず。モーター向け』です。以下引用文。

 『東芝は16日、中国に偏在するレアアース(希土類)であるジスプロシウムを使わないモーター用磁石を開発したと発表した。豪州や米国に豊富にあるサマリウムを主体としており、一般的に利用されている強力なネオジム磁石と同等の磁力を実現した。電気自動車や産業機器向けの用途として、2012年度末までに販売を始める計画だ。(中略)
 東芝はジスプロシウムを必要としないサマリウム・コバルト磁石の磁力をネオジム磁石と同等まで高める技術を開発した。磁力を高める鉄の配合量を15%から20〜25%まで増やしたうえで、焼結時の温度、時間、圧力などの熱処理条件を工夫し、磁力の阻害要因となっていた酸化物を低減した』


 従来のサマリウム・コバルト磁石の組成は、上図です(注)。コバルト、サマリウム、鉄、銅を主成分として、東芝の試みは、この鉄の比率を高めることにあるといえます。一方で、この磁石の問題点はコバルトの組成比率が高いことにあります。コバルトはやや高価であると知られていますが、やや問題があるのは、レアメタルには該当しないものの、埋蔵量の半分近くがコンゴ民主共和国が占めていることです。この地域は政治的にも不安定であり、別のレアメタルの採掘で児童労働など違法行為が横行、NHKのBSドキュメントでも報じられました。その金属と、コバルトの採掘方法は異なると思われますが、倫理的に反するようならば、サマリウム・コバルト磁石には未来がないといえます。東芝には、この点に注意した資源確保に努めていただきたいと思っています。


 ところで、ネオジム磁石は用途は広がっているそうです。実際の使用について詳しく調べたのが右表です。コンピューターに使われているハードティスクでは、読み取り装置のヘッドにあるボイス・コイル・モーターでネオジム磁石が使われています。私は、この分野ではSSDに移行することで、需要が少なくなると考えていました。しかし、クラウドコンピュータの核になるのは、まさしくハードティスクですので、クラウドの普及が一般化すれば、逆に幾何級数的にハードティスクの需要の拡大が見込まれると予想されます。思った以上にネオジム磁石の用途は広がっており、自動車分野では、今後需要が拡大するHV、EV車のモーターは当然として、車載搭載のエアコンのモーター、パワーステアリングのモーター(従来は油圧式)などにも使われていることには驚きました。このほか、産業用ロボットの関節部分に多様されているモーターから、医療用のMRI、風力発電にも広がっています。これを見る限り、ネオジムやジスプロシウムの供給不足という根本的な問題ではなく、用途拡大による需要そのものが急速に増加、需給逼迫の主因であると考えられます。東芝以外にも、三菱電機が電磁石の原理を応用した車載用モーターを、日立製作所がアモルファス金属を使う独自開発の産業用モーターを開発しています。ネオジム、ジスプロシウムの価格が高い間は、これら代替物の研究開発が飛躍期に進むのは皮肉なことです。

(注)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構『希土類磁石から見たレアメタルと磁石応用の今後』。

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