2012年8月12日日曜日

消費税率引き上げと国債の利回りの推移

  私は、価格変動のあるリスク資産のポートフォリオに日本国債を一切組み込んでいません。理由は、利回りが低すぎて長期の国債を保有するには、リスクが大きすぎるからです。しかし、利回りが1.5%前後で推移している時に、一度組み込むかどうかを検討したことがありました。結果は、2%前後まで上昇してからの購入という姿勢を堅持、今までに一度も日本国債を購入せずにここまできました。後から考えれば、1.5%前後で10年物の国債を購入していれば、安定したインカムゲインを得ることができたという点でやや後悔しているところです。ところで、その時、私が国債を購入しなかった理由には、大学時代の経済学の勉強によるとろこがあります。それはマクロ経済学で学ぶ「流動性のわな」です。マクロ経済学の入門書(注)に「流動性のわな」について簡単に説明している部分がありますので紹介します。
 『利子率に対する貨幣需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%程度減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合、「流動性のわな(Liquidity Trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき、人々は誰も債券を新たに買おうとしないため(買っても決して値上がりしないし、下手をするとキャピタル・ロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーサプライが増加したとしても利子率はそれ以上に下がらなくなります』
 つまり、私は、10年物の国債の利回りは1.5%が底であり、これ以上の下落はないと判断した結果、購入を避けたのです。そして、もう一つの理由に、わが国の債務残高が余りに増大し、10年以内にそれが円安をもたらし、物価の高騰の時代を迎えると考えたからです。物価の高騰が起これば、名目利子率は必然的に上昇し、途中売却ならばキャピタル・ロスを、バイ・アンド・ホールドならば、物価上昇分、償還時の資産の実質額が目減りするからです。奇しくも、消費税率引き上げが参院で可決されました。これで実質的に資産が3%、もしくは5%目減りしたことになりますので、物価上昇と同じ結果となります。
 ところで、債券価格と債券利回りの関係はどうなっているのでしょうか。債券価格をP0、クーポンレートc、額面F、利回りR、残存期間nとすれば、以下の式で表すことができます。
 分子のc及びFは国債購入時には決定されており、c×Fは一定となります。一方で、利回りRは分母側にありますので、Rが大きくなれば、P0は小さくなり、逆がRが小さくなればP0は大きくなることが分かります。つまり、利回りの上昇は債券価格の下落、逆に利回りの低下は債券価格の上昇をそれぞれ意味します。特に、利回りの水準が低いほど、単位当たりの利回り変動率に対する債券価格の変動率は大きくなります。従って、低い利回りの債券で、かつ長期のものは価格変動の幅が大きく、リスクが大きいのです。これを回避する手段として購入する債券を短期のものに限定する投資方法があります。事実、外国の投資家は、短期国債に集中的に投資、結果として国債のデュレーションは短くなっているという現実があります。
 2012年8月9日付日本経済新聞朝刊に国債の利回りに関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『市場、政局警戒続く。金利の動き、不安定』です。以下引用文。
 『8日夜民主、自民、公明の3党が社会保障と税の一体改革法案の早期成立で一致したことを受け、市場の緊張はいったんは和らぐ見通しだ。だが、市場が抱いた財政再建への懸念を拭うのは容易はでない。
 3党が法案の早期成立で改めて一致する前の8日の取引時間中、国債が売られた。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時前日比0.035%高い0.810%に上昇。7月10日以来約1ヵ月ぶりに0.8%台に乗せた。自民党が3党合意を破棄する可能性が急浮上し、市場関係者は「想定外の事態」(国内証券)と慌てた』
 右図は、国債利回りの推移を示したものです。7月20日当たりに底である0.72%で推移していたところが、政局が不安定化する中で7月末に0.78%にまで利回りは上昇しました。その後、3党合意がなされ再び利回りが低下するものの、自民党が野田首相に解散の期限を明確にするよう迫り、法案の参院での可決が危ぶまれました。その結果、国債の利回りは急上昇し、一時的にせよ0.8%台を乗せたのです。今後、引き続き議員定数や赤字国債に関する法案も可決する必要があり、しばらくは政局がらみで国債利回りが大きく変動するという相場状況が続くと考えれます。
(注)中谷巌、『入門マクロ経済学』(第5版)、p143、日本評論社、2007年。

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