2012年8月30日木曜日

米大統領選と米議会の対立により懸念される政府支出の大幅カット

 米大統領選の11月を前にして、オバマ大統領側とロムニー共和党大統領選候補側の中傷合戦が繰り広げられています。両者の支持率は、ほぼ拮抗していることから、どちらの側にも当選の可能性はあります。投票の結果、どちらかの候補者が当選するにものの、今問題となっているのは、米国議会における与野党の対立です。大統領選の結果をにらみ民主党、共和党がともに歩み寄らないという状況になっており、来年からは政府支出の大幅なカットにより、米経済の失速に対する懸念が出ています。
 2012年8月23日のNHKの報道番組『ワールドWave トゥナイト』は、米国の政府予算の実態とその影響に関する報道をしました。報道によると、米議会予算局(CBO、Congressional Budget Office)は、財政運営を巡る与野党の予算運営の対立が解消されない場合、今年の年末で所得税などの減税措置が打ち切られ、さらに来年初めからは予算の強制的な削減を控えているいるため、来年はマイナス成長に転落し、不況に陥る予測をまとめました。
 8月22日に米議会予算局の公表では、減税の打ち切りと連邦予算の強制削減の全てが実施された場合、連邦政府の財政赤字は、2012年度の1兆1,280億ドルから2013年度には6,410億ドルへと大幅な減少となります。そして、この影響で、2013年10〜12月期のGDPの成長率は前年同期比でマイナス0.5%となり、同時期の失業率も現在の8%前半から9.1%まで悪化するとみられています。この事態を回避するため、民主党・共和党ともそれぞれ法案を提出しているものの、11月の米大統領選を控えて歩み寄りがみられないそうです。こうした急激な財政の引き締めで、景気が崖から転落するように悪化することを「財政の崖」とも呼ばれ、欧州リスクとともに、今後の世界経済にとっての最大のリスクとされています。
 右図は、『週刊エコノミスト』2012年5月21日増刊号『米国経済白書』(2012)掲載のデータから作成したものです。2001年(会計年度)からの連邦政府の財政赤字額と債務残高のGDP比率を表しています。リーマン・ショック直後の2009年に連邦政府の財政赤字は1兆5,550億ドル、名目GDP比率で11.1%にも達しています。2012年も1兆ドルを上回っていることから、4年連続1兆ドルを上回ることとなります。この結果、連邦政府が抱える債務残高は、急速に悪化、対GDP比率では、2011年には100%に近づいており、2012年には100%を上回ることが確実視されています。この状況を受けて、先行き懸念から米の国債が米格付け会社ムーディーズによりAaaの最上位からAa1へと格下げとなりました。財政赤字の削減は急務といえますが、景気への配慮は常に必要だといえます。
 それでは、政府支出削減の景気への影響を考えるため、実質GDPの成長に対する項目別の寄与度を調べてみます。2009年に実質GDPの成長率がマイナス3.5%の大幅なマイナスととなったものの、むしろこの程度の水準にとどまったともとらえることができます。同年の政府支出の寄与度はプラスの3.4%にものぼり、米経済の底割れを回避する要因となったともいえます。失業率が高止まりする中で、個人消費支出の早急な回復はありません。また、純輸出も欧州債務危機から経済全体を引っ張るほどにはなりません。景気に敏感な設備投資は、2011年にはプラスでしたが、今後の見通し次第ではマイナスへと転じる恐れがあります。そうした中で、財政支出の削減が実施された場合、米国経済は失速する恐れがあり、米議会関係者に早急な対応が求められるところです。

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