2012年6月16日土曜日

米国、生産拠点としての復活なるか

高止まりする失業率が続く、米国経済は決して順調とはいえません。しかし、高い失業率を背景に、賃金水準が伸び悩む上、ここのとろこのドル安によって、制度の差を考慮した場合、米国の賃金は、中国との格差に差がほとんどないまでになっています。これを低い賃金を武器に、生産拠点としての米国が再び注目されようとしています。このことは、2012年2月10日付『米国の賃金は高いのか』のブログでも詳しく書きました。賃上げが続き、政治リスクも高い中国の状況を考えれば、米国へと生産拠点が回帰してもいいのではと感じています。
それでは、現実のデータはそれを裏付けているでしょうか。右図は、米国の輸出と輸入の伸び率の推移示しています。伸び率は対前年同月比増減で、リーマン・ショックで大幅に減少した反動で、2010年前半に、伸び率ベースでピークに達した後、輸出、輸入ともに増加率が徐々に縮小していることが読み取れます。この図をみる限りでは輸出が、米国経済を引っ張っているという印象を読み取ることはできません。ユーロの下落が激しく、かつ同地域での需要減退によって輸出にドライブがかからないのが現実です。しかし、ここへきて、シェールガスの開発が、米国内への工場新設へと結びついているようです。もっとも、この工場新設がすぐに米国の輸出にプラスに寄与するのではなく、数年かけて徐々にですが、輸出の増加に結びつくことが期待されています。
 2012年3月1日付日本経済新聞Web刊に『「シェールガス」革命は本物、(ダウ・ケミカル)大型投資決断』という記事が掲載されていましたので紹介します。やはり、国土が広いということはいいですね。資源にせよ、土地にせよ、現在はなくても、将来的には色々な可能性を秘めているという点でメリットがあります。以下引用文。
 『米製造業の復活を支える新型天然ガス「シェールガス」。その恩恵を最も受けている産業の1つが、ガスを燃料や原料として使う石油産業だ。昨年、米国内にエチレン生産設備などに約50億ドル(約4000億円)を投資する計画を発表した米石化大手ダウ・ケミカルのジム・フィタリング副社長に、投資の狙いやガス市場の見通しなどを聞いた。
 --米国で久々の大型投資を決めた理由は。
 「米国の競争力が高まっているためだ。ほんの数年前まで、我々が米国でこれだけの大型投資を再びすることになるとは、社内の誰も想像していなかったし、将来、米国から製品を輸出することになるとも思っていなかった。21世紀に入ってから最初の10年間はむしろ、業界全体が米国内の設備の合理化にまい進していたぐらいだ」。
 「だが、シェールガスの登場によって状況は変わった。(エチレンの原料になる天然ガス由来の)エタンのコストは中東ほどではないが、コスト競争力という意味で、いまや米国は中東の次に高い。ドル安や金利安も、大きな投資を決断をする上で背中を押した」』
米国で、エチレンの設備増強が進められている一方で、わが国では設備廃止の方向へと動いています。2012年6月10日付日本経済新聞朝刊に『エチレン設備廃止、三菱ケミカル、鹿島の1基』の題目の記事が掲載されていました。これはやむを得ないことです。日本国内では、汎用品分野では、国際競争力がなく、付加価値の高い製品へと生産をシフトしなければなりません。炭素繊維大手の東レですら、欧州や韓国の設備を増強するのが、わが国の厳しい投資環境です。米国では、製造業復権することで、雇用環境が安定し、景気回復へと結びつけばと思っています。そして、米国経済が再び世界経済にとっての機関車の役割となってくれればプラスでしょう。

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