2012年6月19日火曜日

通貨高に悩むスイスと日本

ギリシャの再選挙が財政緊縮派の勝利に終わり、円相場が再び円安方向へと転じることが期待されました。しかし、予想に反し、ユーロ相場は1ユーロ=99円59銭(日本時間2012年6月19日午後9時現在)と対円で100円割れの状態となっており、ややがっかりとした感があります。対ドルでも1ドル=78円88銭と円相場の上昇が止まらなくなっています。適正の円相場はどの程度かは分かりませんが、IMFが発表した日本経済に関する報告書では、円相場は中期的な観点からして「幾分過大評価」という認識を示したようです。こうした自国通貨の継続的な上昇に悩まされている国が、もう2つあります。身近な国では中国です。中国は、急速な人民元高が輸出産業に与えるマイナスの影響に配慮、対ドル相場の急激な上昇を回避するため、人民元に対して市場介入を行っています。
そして、もう一つの国は、危機を迎えているヨーロッパ諸国に囲まれる中、自国通貨の存続を選択したスイスです。スイスには、機械製造や時計などに代表される輸出産業があり、日本と同様、経済成長にとって自国通貨高はマイナスに作用すると考えられます。右図は、対円ユーロ、対円スイスフラン、スイスフラン/ユーロの相場を示したものです。2011年9月に、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は1ユーロ=1.20スイスフラン以上のスイスフラン高を阻止するため、無制限の自国通貨売り、ユーロ買いの介入を実施すると宣言しました。その後、スイスフランは、対ユーロでやや下落、1ユーロ=1.20スイスフランのボーダーラインを辛うじて維持しています。しかし、ここへ来て、再びスイスフラン相場に緊張感が出てきているようです。ロイターのWeb版にスイスフランに関する記事が掲載されていましたので紹介します。スイスも自国通貨高に悩まされており、総裁が辞任するなど、そこには同国の中央銀行が四苦八苦している姿が見えてきます。以下引用文。
 『[ベルン 14日 ロイター]スイス国立銀行(中央銀行)は14日、スイスフランの上限として昨年9月6日に設定した1ユーロ=1.20スイスフランの水準を維持することを決めた。外貨を「無制限に」買い入れる準備ができるているとしている。
 中銀は声明で「現在でも依然としてスイスフランは高水準にある。一段の上昇は国内の物価と経済に深刻な影響を与える可能性がある」と指摘。「中銀はこれを容認しない。必要ならば、いつでもさらなる行動に出る準備がある」とした。
 中銀は具体的な行動内容には触れていないが、ジョルダン総裁は最近、ギリシャがユーロを離脱すれば、資本規制などを検討すると明らかにしている』
断固たる態度で徹底的に行動するスイス国立銀行の姿勢は評価できるものの、この無制限の介入はスイス国内で過剰流動性を生み、不動産投機、ひいてはインフレをもたらすなどの弊害が考えられます。また、結果として通貨高を防止できず、さらなる自国通貨高になれば、中央銀行が評価損を抱え、政治問題化することも指摘されています。マイナス面はあるものの、スイスに習って、わが国でも同様に、日本銀行が断固たる決意でもって、円高を抑制する政策が求められるところです。しかし、スイスフランと円では置かれている状況が違います。それは、外貨準備による保有など円は既に国際的な通貨となっており、無用な介入は他国から批判されること、そもそもスイスフランとは市場規模が異なり、介入による影響が限定的であることなどがあります。また、スイスと同様に資本規制をちらつかせるなどは、日本にとってあり得ないことです。
 円高はしばらく続くと予想されます。つまり、避難先を失った投機的な資金は、日本やスイスなど金融システムが安定している国や経常収支の黒字国へと確実に流入します。その結果の通貨高ですので、ユーロ圏や米国の経常収支の黒字化は半永久的に無理としても、金融システムが正常化するまでは止まりません。スイス国立銀行の今後の政策が注目されるところです。

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