2012年2月6日付日本経済新聞朝刊に『国際研究、中国が存在感、米国との共同論文10年で5倍超』の見出しの記事が掲載されていました。早々、引用元論文である『科学研究のベンチマーキング2011』を文部科学賞のホームページからダウンロード、内容をチェックしてみました。論文を読むと、内容はともかく、その労力は賞賛に値します。
この対象となっている論文には、残念ながら私が専門とする経済学が入っていません。対象の分野は、化学、材料化学、物理学、計算機・数学、工学、環境・地球科学、臨床医学、基礎生命科学で、いわゆる理系の分野カテゴリー(注)が該当、経済学、経営学、社会科学、一般を除く19分野だそうです。国の経済力があってこそ、論文作成のバックボーンができるわけで、経済学が対象に入っていないのは残念なことだと思います。中国が経済力をつけた結果、研究分野に人材を回す余裕ができたからこそ、科学分野の論文における米国との共著のランキングで英国に次ぐ、2位の地位に登りつめたのです。
もっとも、中国の躍進もさることながら、日本もまんざらではないです。そこで、(阪彩香、桑原輝隆)に掲載されている表を加工してみました。加工したのが右表です。論文数では、1998-2000年平均で、わが国は米国、英国に次ぐ、第3位だったのですが、2008-2010年平均では第5位へとランクダウンしています。しかし、人口が減少へと転じ、20年間という長期にわたるデフレを経験している最中、他国とはやや見劣りするものの、13.9%増加していることは褒められるべき論文数ではないでしょうか。ノーベル賞受賞者数は着実に増加していることを踏まえれば、逆に質は上がっており、悲観することはないと思います。確かに、現在の論文数が将来のノーベル賞受賞につながることは否定できませんが、働き盛りの人口が減少しているからこそ、闇雲に論文を書くのではなく、質の高い論文を生涯に一本書けたらというぐらいの気持ちで研究活動を進めるべきではないでしょうか。
この論文には、米国との共同研究で、中国の勢いを示している部分があります。特に、日本経済新聞の見出しや記事の冒頭部分は、そのような印象を与えています。しかし、記事の最後の当たりに日本の本質的な問題を記述している部分がありましたので引用します。以下引用文。
『科技政策研の桑原輝隆所長は「世界の研究は単独の国から複数国にまたがるスタイルに変わっている。日本は研究の国際化が遅れている」と指摘する。(中略)わが国は、直接的、間接的なものも含め、経済そのもののが米国依存度を低めることができない状況にあります。政治の場合、米国依存はさらに増します。科学の研究分野でも同様の傾向があることに、日本の本質的な問題があるといえます。この点において素晴らしいのがスペインの論文数です。失業者数が20%超にも達している国とは思えません。スペイン語という国際的な言語を使用できることが、背景にあるとあるととらえることができます。記事でも指摘していますが、言語の壁はあるかもしれませんが、研究分野でもアジア諸国などとの連携強化が求めらます。
日米の関係が稀薄になるなかで米国にこだわりすぎることが、他の先進国に比べて優れた成果を発信できない一因となっている可能性がある』
(参考文献)阪彩香、桑原輝隆『科学研究のベンチマーキング2011』、文部科学省、2011年。
(注)「分野カテゴリー」という言葉は、本文で使われている用語をそのまま使用したもの。
0 件のコメント:
コメントを投稿