私は、25年ほど前に欧州を列車で旅行をしたことがあります。当時は、東西冷戦のまっただ中で、いわゆる東側諸国へ行くには、入国審査及びビザの取得などやっかいなものがありました。それでも、興味があったため、他の東欧諸国と比べて比較的自由化が進んでいたハンガリーへ入国し、3週間もブダペストに滞在しました。ハンガリーに入国した理由は、もう一つありました。実は手持ちのお金が少なくなったからで、滞在費をケチるというのが最大の目的でした。当時、ハンガリーでは自由化が進み、実勢の為替レートと外国人向けの為替レートの間に大きな差がなく、いわゆる西側の旅行者にとって物価が非常に安く感じられる国でした。因に隣国のチェコスロバキア(現チェコとスロバキア)では、実勢のレートと外国人を対象としたレートに5倍の開きがあったそうです。
3週間もの時間を費やして何かしたかとえば、何もせず、明るいうちはマーケットへ行き食事をとったり、散策をするという日々を送っていました。最近、ハンガリーを特集する報道番組がありました。その番組によれば、ハンガリーはヨーロッパの中でも指折りのグルメ大国でそうです。ハンガリーでの滞在時間を無駄に費やしたことを考えれば、とても残念でなりません。次に、ヨーロッパへ行く機会があれば、是非ともハンガリーに行ってみたいと思っています。
列車で旅行をした時のヨーロッパの印象は、国によって文化が全く異なるということです。国境を越えるとしばらくは同じ景色が続くものの、少したったら別の景色へと移り変わっていき、国境を越えて最初の駅に着くと乗降客の言葉が別の言葉になっています。これこそがヨーロッパ旅行の醍醐味でしょう。日本では船や航空機を利用し、国境を越えるというイメージが強いですが、ヨーロッパの場合、簡単な入国審査(EU加盟国間の越境ではないと思われます)を受けるだけで他国への入国が可能なのです。
ヨーロッパは、経済統合に向け、チャレンジしている最中です。今現在、最大の試練を迎えているところで、それに対処するため様々な会議や話合いが連日行われています。経済統合をスムーズにする前提には、経済的な格差が余りないことがあります。一般的に、格差が大きいと、物価の安い地域へと工場などが移転、物価の高い地域の雇用問題が発生することになります。
図は、ヨーロッパの国別の失業率を示したものです。経済統合へ向けた努力は、ベネルクス関税同盟が調印された1948年から始まっています。失業率のデータをみるがきりでは、60年以上経過した現在でも、経済格差は縮まっていないようです。全ての国でデータが揃っている2011年9月時点で、失業率が最も高かったのがスペインの22.4%であるのに対して、最も低かったのがノルウェーの3.3%で、その開きは19.1%もあります。因に、ヨーロッパの4大国は、ドイツ5.8%、フランス9.7%、イタリア8.6%、イギリス8.3%となっており、ドイツの一人勝ちという印象が強いです。また、スペインの他にも失業率が著しく高い国には、ポルトガル12.8%、ギリシャ18.8%、リトアニア15.3%、ラトビア14.8%、アイルランド14.4%があります。スペインを含めた6カ国に共通しているのは、債務残高が大きく、債務危機の対処に追われていると思われがちですが、リトアニアとラトビアの名目GDPに対する債務残高の比率は、それぞれ37.6%、44.6%(2011年第3四半期)とどまっています。エストニアの失業率も11.3%とユーロエリアの10.3%を上回っていることから、バルト3国の失業率の高さは債務危機とは別の問題に起因しています。リトアニア、エストニア、ラトビア3国に共通しているのは、ロシアへの依存度が高いことで、同国からの脱却の過程でとてつもない構造改革を迫られていることが、失業率が高止まりしている理由だと考えています。
経済統合に向け、ヨーロッパ諸国は、乗り越えなければならない壁は、冷戦終結までは物理的な「壁」でした。今は、失業率や債務残高など経済格差こそが最大の「壁」となっています。
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