2012年4月9日月曜日

止まらない企業の海外進出

日本企業による対外直接投資が止まらないようです。昨今、企業による国内投資が減価償却費を下回り、国内での資本ストックが減少に転じたことがよく指摘されており、今後、日本国の潜在成長率がさらに低下する恐れがあることが予想されています。もっとも、企業は、日本国内の停滞感にとらわれることなく自由な投資活動を海外にて展開し続けており、成長に向けた努力を怠っていないというのが実情です。それを表したのが、財務省発表の対外直接投資であり、対外直接投資のネットの流出額は、1985年で約1兆5千億円であったものが、2008年には約13兆2千億円にも達し、その分、国内での投資が抑制され、投資額が減価償却費を下回る事態を生み出したことは否定できないでしょう。
 右のグラフは、財務省発表の対外直接投資の推移を表したものです。流出とは、日本企業による海外企業に対する直接投資を示し、いわゆる対外直接投資を指します。一方、流入とは、海外企業による日本企業に対する直接投資を示し、対日直接投資といわれるケースが多いようです。
流出である対外直接投資に注目すると、グラフから2008年にピークを迎え、その後、2009年、2010年と連続減少していることがわかります。これは、海外の需要減少に起因するものです。一方、2011年に大幅に増加しているのは、過度な円高による日本企業の海外進出の拡大を意味していると思われます。なぜなら、2011年には欧州欧州債務危機が顕在化、米国、欧州といった主要な市場における需要が減退しているからです。これ以上の円高は、日本企業の国内生産での採算性を悪化させ、企業の海外進出が加速、国内の空洞化の危機が日本経済の潜在成長率をさらに低下される可能性あるといえます。
もっとも、企業が生き残る上で、投資活動の停止は望ましくないことです。部品や素材など付加価値の高い産業を国内にとどめた上で、付加価値の低い汎用品の最終生産などは積極的に海外へ移転することが望ましいといえます。このことは、今後予想される国内の労働人口の減少に対応できるだけでなく、汎用品を海外で生産することで、進出国やその周辺国の需要の掘り起こしにも寄与する可能性があり、対外直接投資の増加はむしろ歓迎するべきだことだと私は考えています。そして、この対外直接投資には、2つの流れがあるようです。
1つは、FTAです。日本はFTAの締結は、競争相手である韓国と比べてやや出遅れています。そうした中で、欧州への輸出拠点としてタイやインドが注目されています。2012年4月2日付日本経済新聞朝刊に『FTA活用へアジア強化、欧州などへの輸出拠点に、関税負担を軽減』という題目の記事が掲載されていました。記事の大まかな内容は、タイを中心としたASEAN諸国に、製造コストの低下を狙って日本の自動車メーカーが積極的に進出、これに伴い自動車の部品を供給する企業も同地域やインドへの進出が加速しているとのことです。この背景には、自由貿易協定(FTA)を生かし、東南アジア諸国連合(ASEAN)や欧州への輸出拠点として活用する狙いがあるそうです。
もう1つは、世界の低所得者の市場を開拓するという流れです。上記の流れは、年間所得2万ドルを超える欧州や3,000ドルを超えるASEANなどをターゲットとしたものです。一方、年間所得が3,000ドルを下回る人口は約40億人にも上り、これらの人々をターゲットをしたビジネスが注目されているようです。同日の日本経済新聞朝刊に『世界の低所得者、開拓、40億人、将来の成長市場』という題目の記事が掲載されていました。記事によると、ホンダが5万円を切る低価格二輪車をタンザニアで、第一三共はマラリア治療薬をインドで、ファーストリテーリングはバングラディッシュで生産や販売を拡大されるそうです。また、低所得者層は所得ピラミッドの底部を構成することから、「ベース・オブ・ピラミッド(BOP)」と呼ばれ、新興国市場に続く購買層になるとみて、欧米の企業がBOPビジネスに積極的に展開しており、日本企業が出遅れていた分野であると指摘されています。これらの人々へ製品を供給するため、日本企業による先進国や新興国以外での直接投資が活発化することが予想されます。
上述した2つの流れは、対外直接投資につながることで、国内の空洞化を招く恐れがあります。しかし、日本企業が投資活動をストップすれば、日本そのもののダメージはむしろ加速すると思います。これら海外での低価格の消費財や汎用品を生産する企業の国際的な展開が、むしろ付加価値の高い日本国内で製造された部品や素材の輸出に結びつくからです。日本の製造業は海外へ進出するためのノウハウをかなり蓄積しています。これら企業が先陣を切り、この円高でも耐えうる日本国内に温存された企業の輸出へとつながれば、その意義は大きいと感じます。

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