2012年7月4日水曜日

全日空の公募増資、株主を軽視する日本企業

全日空が再び増資を決定しました。規模は10億株の増資で、これで同社の発行済株式数は25億株から35億株へと増加、株式の希薄化率は28%にも達することとなります。これを受けて同社の株価は、2012年7月3日に前日比31円の下落を記録、13.84%のマイナスとなりました。希薄化率から考慮して、翌日の相場も引き続き下落する恐れがあります。確かに、定款に定められた発行可能な株式数以内であれば、取締役会での決議で新株発行は可能であり、会社法上、同社が違法なことをしたわけではありません。合法的な増資であり、法的には特段問題はないといえます。しかし、調べてみると、全日空は、09年にも大規模な増資を実施したばかりであり、株価が未だに前回の増資時点の水準にまで回復していない状況下での相次ぐ増資は企業サイドの株主軽視の姿勢の現れであり、日本の株価全般が回復しない原因の一つであるといえます。
ここで、売り出しに際して、全日空側のコメントがホームページに『本資金調達の目的』という内容で掲載されていましたので紹介します。以下引用文。
『日本の航空業界を取り巻く環境は、羽田空港や成田空港をはじめとした首都圏空港容量の拡大や航空自由化の更なる進展、LCCの相次ぐ就航等、大きな転換期を迎えています。
このような環境下において「アジアを代表するエアライングループを目指す」という経営ビジョンの達成に向け、本年2月に2012-12年度ANA経営戦略を策定し、さらに今後のグループ経営体制として競争を勝ち抜くことが出来る経営基盤の構築を目的に持株会社制への移行(2013年4月)を決定しました
 上述の前置きをした上で、アジア域内への事業展開の拡大や最新鋭機ボーイング787などの経済効率の高い戦略的機材への投資促進などを目的に増資をする旨声明しています。日本航空のように倒産してしまえば、元も子もなく、やむを得ないという感はありますが、株価が右肩下がりで下落している中での相次ぐ増資は株主軽視に他ならないと思います。以前は、再び増資をする場合は、株価が増資する前の水準にまで戻ってからだという暗黙のルールがあったそうです。しかし、大手金融グループである三菱UFJ、みずほ、三井住友がたて続けに、このルールを破った経緯があり、日本の株式市場は無法地帯といっても過言ではない状況に陥っています。また、全日空が増配に次ぐ、増配を続けている企業ならば許されるでしょう。10年度に無配だったのが、11年度に2円へと復配、12年度には4円へと増配するものの、9年度の5円配当を下回っているのが現状です。
 この全日空の惨状の一因に、最新鋭機ボーイング787の納期の大幅な遅れがあります。2012年7月3日付日本経済新聞夕刊に、米ボーイング社のライバルであるエアバス社に関する記事が掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『エアバス、米に工場。480億円投資、年40〜50機』です。以下引用文。
 『【パリ=竹内康雄】欧州航空機製造大手エアバスは2日、米南部のアラバマ州モービルに新工場を建設すると発表した。欧州に本社を置くエアバスが米国に工場を設けるのは初めて。世界の航空機需要は格安航空会社(LCC)などがけん引する形で今後も伸びる見込みで、世界最大の市場である米国で足場を固める構えだ。 エアバスにとって今回のモービルでの工場建設は、欧州外では中国の天津に続いて2ヵ所目となる。 新工場では2015年に航空機の組み立てを始め、18年までには年間40〜50機を製造する計画。製造するのは座席数が約150の「A320」など中型機が中心となる』
 私は、これはエアバスの政治的な戦略に起因するものであると考えています。米国で雇用を生み出している企業の製品は米軍でも使用される可能性が高くなるでしょう。米空軍の次期空中給油機の入札で米社とエアバスが組んだグループが敗退したことなども一因ではないかと考えています。エアバスの新鋭機の開発が順調なのに対して、米ボーイング社の新鋭機ボーイング787の完成にはかなり手間取り、最初の納入機を受けることになっていた全日空の経営に何らかの影響を与えたことは確かでしょう。しかも、787開発途上にある中で、何度か、ボーイング社ではストライキが発生、問題のある企業であるという認識でいます。そこで、ボーイング社の株価の気になるので調べてみました。上図が2007年からの同社の株価の推移です。リーマン・ショック前の90ドル超は下回るものの、期近では70ドル強にまで回復しており、米国の株式市場が日本の株式市場よりも戻りがはやいことを反映してか、右肩下がりの全日空の株価とは大違いです。しかし、米国の航空業界でも破綻が相次いでいることから、同業界の中では全日空はまだまだうまくやっている方だとも捉えることができます。因に、ボーイング社の年間の配当金も調べてみました。伸びは小さいものの、2000年より減配ということはなく、増配を続けていることが分かります。米金融機関などは減配を行っていたり、株価の低迷から脱していない感はありますが、問題があると思われるボーイング社でも増配を続けているのが、米国の株式市場です。
 日本の株価は、東証株価指数TOPIXが2012年6月にバブル後最安値を更新しました。日本企業のビジネスモデルの中で、いつも割を食っているのは株主です。株式投資をしている人々の中には、バブル以降の売買で儲けた人も一部います。しかし、国民経済の視点に立った場合、誰一人として勝者がいないが日本の株式市場です。株主をもっとも重視した経営方針をとることが、日本企業復活の手だてになるではと思っています。

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