2012年7月24日火曜日

欧州銀に続き、米銀の収益率の低下と預貸率

欧州債務危機を背景に、欧州の金融機関の業績が悪化、通常業務どころではなく、存続自体を問われるまで追い込まれています。そして、一斉に格付の引き下げを受けるなど、厳しい業績が続いている上、このほどのLIBORの不正操作により欧州の金融機関に対して、世界各国から不信の目に向けられています。この上、米銀の業績も悪化しているようです。米銀は、欧州の金融機関に対して多額の保証債務やCDSを抱えています。欧州の金融機関に連動し、業績が悪化しやすいのに加え、国内での資金需要が低迷、収益機会そのものが少なくなっている上、貸出の減少がさらなる景気を下押しし、それが資金需要を悪化させる悪循環に陥っているという見方が出てきています。
この中で、大手米銀の業績の発表があり、事業会社の粗利に当たる純営業収益が5行中4行でマイナスとなり、利ざやなど収益の源泉そのものが縮小しているという実態が判明しました。右図は、2012年7月19日付日本経済新聞朝刊に掲載のデータから作成したグラフです。ウェルス・ファーゴを除く4行で純営業利益が減少、特にバンク・オブ・アメリカは前年同期比で66%の減少となり、厳しさが伺える結果となっています。背景には、欧州危機や規制強化の動きで市場取引の収入が落ち込んでいる上、中堅企業などでの資金需要発掘の動きがあるものの、需要は鈍く、大きな利益に結びつきにくい状況になっているなどの要因があるそうです。
 そして、リスクを嫌った企業や投資家が金融商品への投資を手控え、預金を増加された結果、FDICの対象金融機関の預貸率が大きく低下しています。右図は、米国の預金保険機構に当たるFDIC(Federal Deposit Insurance Corporation)のホームページのデータから作成したグラフです。2008年以降、急速に預貸率が低下、米国民や企業の預金志向が高まっていることが判明しました。因に、FDICが預金を保証する金融機関数は、2000年には1万を超えていたものが、継続的に減少、リーマン・ショック以降は減少ペースを高めており、2012年第1四半期現在で7304にまで減少しています。
 米国の預貸率減少に関する記事が2012年7月19日付日本経済新聞朝刊に掲載されていましたので紹介します。記事の題目は『米金融大手、陰る収益力。預貸率低下、安全志向の代償』です。以下引用文。
 『【ニューヨーク=西村博之】米金融大手の2012年4〜6月期決算がほぼ出そろい、08年の金融危機後に安全志向を強めてきた米金融機関大手が、成長力・収益力の低下などの"代償"に直面する様子が鮮明になってきた。融資低迷で預金と貸し出しの割合を示す「預貸率」の低下が際立ち、余剰資金が利益を圧迫する構図だ。欧州危機や雇用回復の遅れで米経済に影が差す中、現状が続けば企業の経営活動の停滞を招き、景気の下押し要因となる可能性がある』
私は、預貸率の低下は、景気を反映したものであり、これによってさらなる景気悪化をもたらすという原因とはならないと考えています。むしろ、欧州の金融機関が恒常的にオーバーローンであり、経営の維持には市場での資金調達が不可欠となっている状況とは異なり、金融機関としての健全性はむしろ高いといって過言ではありません。むしろ、米国、中国経済の先行きにも不透明感が高まっている最中、預貸率の低下は、金融機関のリスクに対する許容度を高めていることを意味しています。株式市場等のリスク市場へと資金が流れにくい状況であるとはいえ、今後の経済情勢を見極める必要がある段階であり、この時点で米銀が流動性を選好するということは当然の姿であるといえます。

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